マジでこの会社やめてやろうかな   作:ナイン

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死者に想いを馳せては

「うへぇ……既に出来上がってらぁ……」

 

 ペンギン急便が所有する酒場、大地の果て。自分たちの店だからいつまで居ても問題はないが……。それにしたって酒瓶は転がってるわヨダレ垂らしながら寝てるヤツは居るわで……散らかしすぎだ。

 

 その中で一人、バーチェアに腰かけて酒を飲んでいる。

 

 それだけ確認して、酒を置いてあるバーカウンターの奥に行こうとする。

 

「……へぇ、私のことは無視するの?」

「出来れば無視させてくれねぇか?」

「酷いなぁ。私だって傷付くことはあるんだよ?」

「ははは、面白いジョークだな」

 

 こいつが傷付くとか冗談だろ。そんなヤワだったら今頃生きてねぇよ。 

 

「ほれ、イースからの預かりものだ」

「……もしかして、わざわざ届けに来てくれたのかい?」

「いや酒飲みに来ただけだけどな」

 

 来たらたまたま居た。エクシア達がパーティーするっていうから、こっちに居るだろってのは少なからずあったが。

 

「んー……」

「なんだよ……いいから受け取れ」

「いや、ここで受け取らなかったらその鍵を大事に大事にしてくれるのかなー、って思ったら受け取るのが惜しくなってね」

「お前なぁ……」

 

 確かに人のものだから預かればきちんと保管はするが、ちゃんと自分で管理しやがれ。

 

「ふふ、冗談さ。届けてくれてありがとう」

「……俺、お前のことキライだわ。頼む、一回死んどかねぇか?」

「私もそうしようかと思ったんだけれど、なかなか悪運がね。そっちこそお墓の準備はした? ほら、ドンチャン騒ぎよくしてるみたいだし」

「生憎と死ぬ予定がなくてな。書類仕事で忙しい」

「それはなによりだね。身を危険にさらさないのはいいことだ。特に、タナトスみたいなせっかちさんはね」

「おいお前ェ……どういうことだ」

 

 誰が死に急ぎの大馬鹿野郎だ。身を危険に晒すことはないって言ったばかりだろうが。見ねぇ間に耳無くしちまったのかこの堕天使サマは。

 

「私はなにも言うつもりはないよ。ただ、過去の君を知っていると、どうしても思ってしまうんだ」

「あー……悪かった悪かった。やめてくれそういう話をするの。弱みを握られたみてぇだ」

 

 人の弱いところは簡単に把握するくせにこっちはコイツのことなんも分からねぇのは昔からだが、どうにも慣れねぇ。軽薄な笑みも、なにもかも。

 

 信用に足りねぇとは言うつもりはないが……。

 

「ん……モスティマぁ……」

「こいつ、人の太ももを枕にして寝てやがる……おいヨダレ垂らしてんぞ少しは気にしろよ」

 

 今まで全く気が付かなかったが、こいつ、モスティマの太ももを枕にしてやがる……。まあ、エクシアにとってモスティマは頼れる歳上、だからな。甘えたくなる気持ちも理解できないわけではない。

 

「こんなに気持ちよさそうに寝てるのに起こせって言うなんて、タナトスもサドだなぁ」

「……妙な意味に捉えるのは止してくれ。人聞きが悪い」

「え、まさかタナトス……自分がされたいの? しょーがないなぁ」

「いやいいっての……なんでそうなる。お前分かってて言ってんだろ」

「ワガママだなぁ……」

「どの口が言ってんだ」

 

 仕事もあるとはいえ、留まらずに世界放浪してるようなヤツに言われたくねぇ。生きる者はどこかに腰を下ろすモンだってのに。

 

「で、今回はいつまで滞在してんだ?」

「んー、ボス次第だけど明日か明後日までかな」

「相変わらず急だな……」

「ボスも人使いが荒いからねぇ」

「……断ればいいじゃねぇか」

 

 俺よりはその辺の自由が利くだろ。なんで言われたもの全部受けようとするんだ。

 

「断れないよ。私たちは」

「そうだな……」

 

 ボスには拾われた恩がある。返しても返しきれない恩が。だから俺は未だにあそこに居る。そこでノンキに眠ってるアホが気になるってのもあるけどな。

 

「……まさかタナトス、拗ねてるの?」

「人を子供みたいに言うんじゃねぇよ! 別に拗ねてねぇ!」

 

 驚いたみたいに表情を変えてるけど知ってるぞその表情! エクシアを揶揄ってる時と同じだろ!

 

「ふふ、そうだね。タナトスは私が居なくても平気だもんね」

「おめぇ、俺を揶揄うの楽しいか???」

「揶揄ってなんてないよ。ただ、反応が良いから話が進んでいるだけ」

「知らなかったかもしれないが、世の中の人間はそれを遊んでるって言うんだぜ?」

「それは知らなかったな。じゃあ私はタナトスで遊んでたってわけだ。喜んでいいよ?」

「遊ばれて喜ぶやつとかそこのバカだけだろ」

「妹分のことをバカって言うなんて、あんまりじゃないかな? 君だって可愛がってるし、この子のお姉さんだって──」

「おいモスティマ。安魂夜だからってその話題に触れるのは止せ。手慰みに触れていいようなことじゃねぇだろうが」

 

 お前の無神経なところは本当に嫌いだ。だからお前に会いたくなかった。そいつは、軽々しく触れていいことじゃない。特に、エクシアの前では。

 

 俺にとって、過去の後悔は呪いだ。いつまでも足に纏わりつく。今は逃げ続けているが、どうせ過去からは逃げられない。

 

 だから、今は止めろと睨め付ける。まだ向き合う覚悟が出来ていない。

 

「そうだね……うん。ごめん」

「……いや、俺の方こそすまねぇ。ダメだな。過去ってのはロクなことがなくて」

 

 仮にどれだけいい思い出があったところで、残るのは後悔と自責の過去ばかり。あの時こうしていれば、そういった後悔が拭えることはきっと一生ねぇんだ。

 

「あー、やめだやめだ。こんな空気じゃ酒がマズくなっちまう。モスティマ付き合え」

「大胆だねぇ。本気ならいいよ?」

「ちげぇわ!」

 

 そんな気があるわけないだろお前に対して!

 

「……もしかして、私に晩酌させる気?」

「そうに決まってんだろ。……嫌とは言わせねぇぞ」

「一緒に飲むのはいつぶりだろうねぇ」

「あー、多分お前が部隊を抜けたあたりからずっと飲んでない。こっちに来てからはお前が居なかったせいでな」

 

 嫌味ったらしく言ってやる。ずうっと居ないからエクシアが探し回っていたのはお前も知ってるだろうに。今は幸せそうに寝てるからいいけどよ。

 

「そこまで言うなら仕方ない。私の奢りでいいよ」

「いや、久しぶりに帰ってきた戦友に酒のひとつくらい奢らせろっての」

 

 過去には誰だって大なり小なり後悔がある。だが、それは皆一様に取り返しは効かない。時間跳躍(タイム・リープ)なんて存在しねぇんだから。

 

 だからこそ、本当に後悔していることは軽々しくは話せないモンだ。自分の罪業に溺れて──戻れなくなるのが分かっているから。

 

 モスティマ、お前は違うのか?

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばタナトス。今日の宿がないんだ」

「お前まさか泊めろとか言い出さねぇよな?」

「……襲ってもいいよ」

「襲わねぇわ!」

 

 自分の身体くらい大切にしてくれ頼むから!

 




 モスティマ……。

 はい。そんなわけで喧噪の掟編終了です。モスティマを出したかったのと、タナトスに胃を痛めてもらいたかった章でした。少しでもモスティマの空気を掴めていればいいかな……。いや、掴ませてくれないんですけど(拗らせ)

 感想で喧噪の掟のことを言われて天啓が降りてきた気分でした。おかげで楽しく書けてます。サンキューみんな。

特殊タグ導入してみたけど

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