マジでこの会社やめてやろうかな   作:ナイン

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通るとは思って

「おいボス、少し頼みがある」

「どうしたんだ。お前から頼みとは珍しい」

 

 ソラから助言をもらってから、ボスを探してみると珍しく出社してやがった。よく考えてみれば出社した時点で昼時を跨いでいたんだ。それなりの時間だとしても不思議はない。……丸一日顔を出さねぇこともザラにあるがな。うちの社長をしているから余裕だと思ってたが、プロデューサーサマってのは存外忙しいらしい。

 

 どうせ遊び歩いているだけだろうがな。そんなことを思いながら、ボスが座っている場所の反対側に腰かける。

 

「その態度は聞いてくれると考えちまってもいいのか?」

「内容によるな」

 

 これまた面倒な言い回しを。つまり、ボスの意にそぐわなきゃ通らねぇってこった。下手な取引より面倒かもしれねぇ。

 

「ま、でも面白れぇカオをしてるな。退屈はしなさそうだ」

「……そりゃどうも。じゃあ単刀直入に行こう」

 

 ため息を吐いて、真っ直ぐボスを見据える。ボスに頼み事をするのはいつぶりだったか。最後はテキサスをペンギン急便に招き入れたときだった気がする。

 

「テキサスの機嫌を損ねちまった。休ませろ」

「……マジかよお前」

「なんでドン引きされてんだよ」

 

 表情は分からねぇが、雰囲気で分かる。しっかし、なぜ。たしかにテキサスの機嫌を損ねさせるのは至難の業だ。なにしろ俺から見るテキサスはいつもご機嫌だ。尻尾まで振っていることも稀にある。そんなわけで、テキサスが機嫌を損ねているなら埋め合わせをしようというわけだった。正直、真っ直ぐ向き合うことは業務をしながら出来ることじゃない。

 

「テキサスの機嫌を損ねたってのは笑い話だが、それのために休みを取ろうとしてるオメェに驚いてる。なんだ、仕事バカじゃなかったんだな」

「いや笑うんじゃねぇ。あと、休めねぇのはアンタのせいだよ。さも俺が自分から働いているように言うんじゃねぇ」

 

 七日以上休みがないのはザラだろうが。それでも始末しきれねぇうちの業務どうなってんだ。どうにかしろよボス、仕事だろ。と、言いたいが、実際にどうにかしようとすると人員を補うしかないが、実際に即戦力として期待出来るはずはないわけで……。結局、俺の仕事が増える。世知辛いなこの世界。滅んだ方がいいと思うわ。

 

「そのセリフ、エクシアにでも言ってやるんだな。実際に損害を出してるのは俺じゃねぇわけだ。だったら原因を責めるのが筋ってもんだろ?」

「言って聞いてくれたら苦労しねぇんだよクソペンギン。鳥頭は何回死んでも治んねぇのか? なんなら一回殺してやってもいいぞ」

「あ? あんまりふざけてると休みやらねぇぞ」

「驚いた、休みくれる予定でもあったのか?」

 

 あ、しまったな……今回は喧嘩売ってる場合じゃねぇ。事後報告も辞さないが……最低限の筋は通しておくべきだ。特に、ボス(雇い主)に対しては。だからこうして話しているんだが……。

 

「……ま、お前が本気で休みを要求してくるなんて珍しい、理由(ワケ)も面白れぇ。通さねぇ理由はねぇな」

「じゃあ休ませてもらうぞ。あとで()()()()()()()()()……ってのは勘弁しろよ」

「男に二言はねぇ。いいから行ってこい、あんまり待たせるもんじゃねぇだろ」

 

 ボスが気を利かせてくれるとは珍しい。明日は始末書の山かもしれねぇな。まぁ、甘んじて受けよう。すんなり通るのはそうあることじゃない。特に、俺の要望はな。

 

「おいタナトス」

「……なんだよ。せっかくさっさと行こうとしたのに止めやがって……なんか重要なことでも?」

 

 立ち上がるために腰を浮かしてたってのに、ボスが声をかけてくる。さっさと行けって言ったのはアンタだろうが。

 

「テキサスをウチに受け入れたのはお前だ。……言いたいことは分かるだろ?」

「さぁ……分からねぇな」

 

 とぼけたなフリをしながら、扉に手をかける。……ボスの言いたいことは理解できる。なにをしろと言っているかも。

 

 だが、俺に他人の重荷は背負えねぇ。あの時だって、自分に利益があると思ったから招き入れたに過ぎねぇ。

 

「あの時、テキサスを招いたのは手元に置いておいた方が都合がいいっつう合理的判断のもとやったことだ。だから、その責任は取るつもりだ」

「そうかい。まっ、お前さんの好きにすりゃいい。俺はこうやってふんぞり返ってる。だがタナトス、忘れるなよ。捨て犬の末路は決まってんだ。幸せにしてやっか、それとも捨てちまうか。……お前はどうすんだ?」

「……責任は取ると言った。そいつが答えだよ、ボス」

 

 昼間から酒瓶を取り出すいい御身分のクソペンギンに後ろ手で手を振って扉を開く。

 

 少しばかり、テキサスと出会ったばかりのころを思い出しながら。

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