マジでこの会社やめてやろうかな   作:ナイン

22 / 27
理由は知らない

 龍門大通り。タナトスとよく一緒に来る場所。東西、地方といった地域を選ばずに多くが集まる。その中でも一軒、気に入っている喫茶店がある。

 

 モダンな造りのその喫茶店は、大通りから少し外れたところにあるせいで、目立った客足はないが、常連がよく通っているため、潰れることはない。

 

 ここのメニューに美味しいものが多いからだ。

 

「いらっしゃいませ……ってテキサスちゃんじゃない! 元気にしてた?」

「……どうも」

「その愛想さも相変わらずね、ささっ、座ってちょうだい、いつものやつでいいかしら?」

「ああ」

 

 一応の確認だけ済ませると、彼女は裏に行ってしまう。おしゃべりではあるが、仕事はする人だ。

 

 少し前に、タナトスが紅茶の淹れ方を教わろうとしてバッサリ断られていた。曰く、紅茶は自家製のものと他のものをいくつかブレンドしているから企業秘密、と言っていた。あからさまにガッカリした様子のタナトスは、見ていて新鮮だった。

 

 頼んだものが運ばれるのを待っている間、なにをするわけでもなくぼんやりと窓に映る自分を見つめる。……想像していたよりずっと酷い顔をしている。

 

 少し経って、いい香りがこちらまで流れてくる。

 

「お待たせ。いつものやつよ」

 

 そう言って、目の前のテーブルに紅茶とケーキを置いてくれる。遠慮なく口に含むと、気分がいくらかよくなった。そのまま、ケーキを口にする。

 

 甘くて美味しいが……悩んでいるせいか、いつものような満足感がない。タナトスが居ないせいか、どうしても劣ってしまう。エクシアと居る時の背中を預けられるのとは少し違うなにかがある。……なにが違うんだ。

 

「テキサスちゃん、なんだかいつもより暗いけれど、タナトスさんとなにかあったの?」

「……」

 

 ピクっ、と自分の耳が跳ねる感覚がする。

 

「その反応だと当たりってところかしら。でも……そうね、続きは彼女と話すといいわ」

 

 彼女……? そう思って彼女の視線の先へ目を向けると、見知った顔が立っていた。

 

「おはよーさん! テキサスはん!」

「……おはよう」

 

 もうおはようという時間でもないが、朝一から会っていなかったからおはようでも問題ないだろう。

 

「今までどこに居た?」

「いや、うち今日休みやって。ずっと家でのんびりしてたわ」

 

 家、と言っても社員寮みたいなものだが、女ばかりだからとタナトスは自分の家を持っている。確かに倫理上の問題はあるかもしれないが……仲間はずれにしているようで、いい気はしない。

 

「あら、私への挨拶はなしかしら?」

「いやいや! 忘れてない! お姉さんもおはよーさん!」

「ええ、おはよう。……と言っても、もうお昼過ぎよ? おはようというには少し遅いんじゃないかしら」

「あはは……それを言われると痛いわぁ……」

 

 昨日は相当飲んでいた。ずっと寝ていたんだろう。

 

「ところでテキサスはん、そんな酷い顔して二日酔いでもしてるん?」

「いや……」

「タナトスさんとなにかあったんですって」

「私は別になにも……」

「タナトスはんと!? ほー、そりゃえらいおもしろ……いや、ニュースやなぁ」

 

 なにも言ってないのに。その通りだからなにも言えないが。

 

「あー、その反応をみると、それなりに真面目なやつやね?」

「……ああ」

 

 否定しても仕方がない。一通りのことを話すと、クロワッサンと喫茶店の人が揃って苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

「うーん、それは……」

「タナトスはんが悪いなぁ……」

 

 ここに居ないタナトスが悪者にされた。どちらが悪いとか、そういう話に持っていきたくなかったというのに。

 

「で、テキサスはんは具体的になにが嫌だったん?」

「具体的に……」

 

 なんだろうか。このモヤモヤを表現するには、私には出来そうもない。

 

 私はなんであの場を飛び出した。

 

「まぁ、確かにモスティマはんとはいえ、同じ屋根の下で一晩泊まった、なんて言われたらうちだって微妙な反応になってまうと思う。ただ、それだけなん?」

「……」

 

 どうだろうか。たしかに、それも原因かもしれないが……。

 

「んー、そうやなぁ。タナトスはんって、基本的に隠し事が多すぎると思うんよ」

「……そうだな」

 

 タナトスは自分の空間に入られることを極端に嫌う。それは、ペンギン急便の事務所に居る時もそうだ。今からだいぶ前、クロワッサンがタナトスの机を漁ろうとしたとき、案の定見つかっていた時は事務所どころか通りにもタナトスの声が響いていたらしい。たしかに、人の机を漁ろうとしたクロワッサンが悪いが、過剰な気がする。

 

「普段はそうでもないんよ。どんなに阿呆な絡み方をしても適当に受け流してくれる。でも、自分のテリトリーとなると話は別や。すごく神経質になる」

「……だが、モスティマとなると話が別になる」

「その通りや」

 

 うんうんと頷くクロワッサンだが、もしかしたら誘導してくれているのかもしれない。私が言いたいことに辿り着けるように。

 

「タナトスはんの壁があるとするならそこやね。ウチらにも見せてくれないなにかがある」

「私は……」

 

 見せてくれと頼むことで、受け入れてくれるかは分からない。だが。

 

「……知りたい」

「せやな。……ウチも知りたいわ」

 

 そうだ。私はタナトスを知りたい。龍門に来てからずっとサポートしてくれているのに、肝心のタナトスのことはなにも知らない。

 

 私をここに置いてくれた理由さえ、分からないままだ。

 

 この店も、私が来たばかりのころに連れてこられた店だった。




 モスティマの新衣装マジですか!?

 生放送見て心臓止まったかと思いましたよ。みんな買おうね(宣伝)

特殊タグ導入してみたけど

  • いいねぇ!
  • 普通の方がいいな! いいな!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。