マジでこの会社やめてやろうかな   作:ナイン

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仮釈放

「テキサス、仮釈放の許可が下りたぞ」

「……そうか」

「反応薄いな。もう少し喜んでもいいと思うが」

 

 確かに、あの狭い空間から出られるならそれに越したことはないと思うが。

 

「なぜ許可が下りたんだ?」

「俺とここの管理者は()()()なんだ」

「仲良し……か」

「ヤツの……龍門近衛局のほかの人間に知られたくない秘密が、俺の日記帳に書いてあるくらいのな」

「ブラックメール……」

「彼にとっては命より大切かもしれねぇな」

 

 ブラックメール……メールの一種、などではない。恐喝の類だ。お前の秘密を知っている、バラされたくなければ要求を通せ……そんな感じだろうか。

 

 口が悪いだけの人間だと思っていたが、とんでもないことをする。

 

「まあ、仮釈放と言っても条件がいくつかある。向こうにも体裁があるんでな、こればかりは外せなかった。……まず一つは、俺が常時監視していることだ」

 

脅しが通ったのはそれだけ本人が組織に信用されているということでもある。監視役になったのはそういう理由もあるんだろう。ただ、一人で取り押さえられるとは思えない。スラムで会った時は青髪の女に邪魔をされて、本人の力を見れなかった。なにかあるのか……?

 

「……破った場合は?」

「お前は近衛局に死ぬほど追い回され殺される。俺の方は頭に風穴が出来ることになる程度だな。試してみてもいいぞ」

 

 そう言って大声で笑っているが……死が、怖くないのか。この男からはなにも感じない。死という単語を口にするとき独特の揺らぎも、なにも。

 

 それよりも……タナトスは何故ここまでしてくれる。そんな恩を受ける理由はないはずだ。とはいえ、わざわざ何かをしたいわけでもない。黙って従っておくことにする。

 

「ま、時間はそう長くない。精々一日ってとこだな。テキサス、なんかやりたいことあるか?」

「やりたいこと……」

 

 私は、元居た組織を抜けて逃げ出してきた。きっと、これから先も各地を転々と渡り歩いて生きていくことになる。留まれる地のない生活を続けなければいけない。いつか、追いつかれるその日まで。もし、束の間の休息が許されるのであれば。

 

「甘いもの」

「甘いモンか……分かった」

 

 ふっ、と笑って席を立ち、手枷を外してくれる。……今、自由になった手を使って全力で殴れば、彼は怯んで私は逃げ出す機会が出来るだろうか。

 

「……逃げ出すんなら近衛局出てからにしろよ。囲まれて死にたくなけりゃな」

「……っ」

 

 読まれていた。驚いて見上げてみると、見透かしたような笑みを浮かべてた。……言われた通り、やめておこう。私はただ……この束の間の温もりに少しでも長く触れていたい。それだけなんだ。

 

「じゃあ、いいとこに連れて行ってやらないとな」

 

 伸ばされた手を私は掴む。……人の温もりは、こんなにも心地のいいものだっただろうか。両親が居た頃を思い出しても、少し違うような気がした。

 

 

 

 

 

 没収された源石剣の携行許可は下りなかった。容疑者ということもあり、逃がすわけにはいかないと考えられたのだろう。

 

 タナトスは悪いことをしたような顔をしていたが、当然だと他人ごとのように思っていた。近衛局に居る人間は……みんな彼に対して協力的だった。なぜなのかは分からないが。

 

 彼が運転する車の助手席に乗って一息吐くと、シートベルトをするように促される。個人的には、いつでも動けるように外しておきたかったのだが、体裁上だと彼は付け足す。彼の仕事は、なんというか適当だ。

 

 車を走らせて数分。ハイウェイに乗ると、左から右へ、前から後ろへ流れていく景色のなかには、以前訪れたことのあるどんな都市にも見覚えのない建造物が多くあった。田舎、という表現がよく似合うクルビアはもちろんだが、組織のアジトがある都市にもなかったはずだ。

 

「龍門の建造物は物珍しいか?」

「ああ。見たことがないな」

 

 知らないものを見続けるというのは子供っぽいだろうか。

 

「だろうな。……ここは色んなものを吸収して存在してる。俺も来たばっかのころは物珍しさにあたりを見回したのを覚えてる」

 

 運転のために前方を見続けているのに、こちらの機微にも反応してくれた。よく周りを見ている。いや、私が監視対象だから細心の注意を払っているだけだ。

 

 ……それほど、見入っていただろうか。

 

「ま、そのうち慣れちまう景色だ。今のうちに楽しんでおくといい」

「慣れる……か」

 

 そんな日が来るほど、ここに居られるのだろうか。そんな疑問が浮かんで頭が真っ白になる。……私は、ここに留まりたいのだろうか。

 

 最初は、組織から逃げた先の一都市でしかなかった。すぐに離れ、訪れたことも忘れてしまうような。……そのはずだったというのに。これは、タナトスのせいなのか。この男が私を捕縛しなければ、追われる前に別の都市へ移動に移動できたというのに。

 

「……そろそろ着くぞ。降りる準備しておけよ」

 

 言われて、はっとする。気付けばハイウェイではなく、普通の道路を走っていた。それほど、深い考えの中にいたようだ。




 祝! モスティマの新しい衣装追加!

 早速買った。推しの新しいお洋服が追加されるとウキウキしますね……。
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