マジでこの会社やめてやろうかな   作:ナイン

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車を降りて

 車を降りて大通りから脇道へ入る。スラムというほど荒れくれていないが、繁華街というほど人通りはない。

 

 目的の場所は、大通りほど人目につかない場所にある。もちろん、テキサスを殺すなどといった後暗い理由ではなく、店主が大通りを好まないからだ。

 

「邪魔するぞ」

「邪魔するなら帰って〜」

 

 中々ひねた返しをしながら奥から出てきたのは、金髪にサファイアのような透き通る瞳を自信ありげに携えた若い女性。なによりも目立つのは、頭上に浮いているリング。十代というには大人びており、三十と見るには若い彼女は、ここの店主であり、ちょっとした知り合いだ。

 

 無視して店の奥の方へ向かう。周囲を見渡しても、人の入りは悪い。お世辞にも店としての体裁を保っているとすら言えない現状にため息こそ出るが、どうせ他人の事情だ。せめて態度には出さないように椅子に腰かける。

 

「テキサス、お前も来い」

「……わかった」

 

 店の惨状が気になるのか、席に着くように促したあとも、落ち着きがない。テキサスの立場ならこの状況に警戒するなというのが無理な話だと理解はしているが、そう露骨だと少し思うところがある。

 

「ふふ、警戒されちゃってるわね」

「誰のせいだよ……」

 

 少なくとも俺のせいじゃないぞ。

 

「それで、今日はなんの用事かしら」

「ここ飲食店じゃねぇのかよ……お前の自信作をこいつに食わせてやってくれ」

「……ふーん?」

 

 いたずらを思いついた子供のような笑みを浮かべているヤツを見て、身震いする。そう長い付き合いではねぇが、経験上妙なことを口走る。そんな予感がする。

 

「つまり、恋人の胃袋をゲットしておこうって寸法ね。分かったわ、とびきりのやつを用意してあげる!」

「いや、そういうわけじゃないんだが……」

「照れなくていいわよ。じゃあ、準備してくるからちょっと待っててちょうだい」

「聞けよ人の話を!」

 

 それだけ言い残してこちらの話も聞かずに店の裏に行ってしまう。本当に違うってのに、人の話を聞かないやつだ。

 

「なんというか……すまねぇな……」

「気にしてない」

 

 バッサリと言い放つと、外を眺め始める。なんとなく気まずくなって、俺もそれに倣うように外を眺める。スラムから遠くない位置にあるせいで景色がいいとはとても言えないが、スラムの中よりはマシだ。

 

「……ん?」

 

 ほんの一瞬、妙な気配があった。気のせい……ではないだろう。

 

「どうした?」

「なんでもねぇよ」

 

 かぶりを振って、窓の外を見続ける……が、いつまで経っても顔を見せる様子がない。気付かれたのかもしれない。殺気ではなかったが、念頭には入れておいた方がよさそうだ。

 

 それに……()()()って可能性もある。このまま様子見を続けるのがいいかもしれない。

 

 

 

 

 

 運ばれてきたスイーツに舌鼓を打ちながら、淹れてくれた紅茶を楽しむ。……美味い。鬱陶しいくらいの甘さを苦味で一度リセットしてくれるこの味は合わせて楽しむに限る。ほぅ、と感嘆のため息を吐く。テキサスの方を見ると表情こそ動いていないが、尻尾が揺れている。時折、その尻尾が腰掛けている背の部分に当たっているが当人は気にしている様子はない。痛くはないのだろうかと、ぼんやりと考える。

 

 ループスの尻尾は敏感という話だったはずなんだが……痛覚に対してだけ鈍いというわけでもないだろう。

 

「なぁ、テキサス」

「……なんだ?」

()()()()()()()()()()()()?」

 

 表情が固まる。これに対しては驚くことはなにもない。

 

 テラという惑星は、殺人云々で騒ぎ立てられるほど余裕などない。鉱石病、天災は言うに及ばず、それらに付随する差別など。……これほど殺人に敏感になっているのは龍門のような余裕のあるひと握りしかいない。皆、自分のことでいっぱいいっぱいなのが普通なんだ。他人のことなんて気にしてられない。

 

「……」

 

 どうやら、腹芸が得意でないらしい彼女は、ケーキを運ぶ手が止まり、ゆっくりとこちらを見つめる。その双眸には、焦りや警戒ではなく、諦観のような色が宿っていた。

 

「一応言っておくが、別に尋問をしようってわけじゃねぇんだ」

「なんだ」

「あー……そうだな……」

 

 自分の中にある考えに近い言葉を探す。

 

「少しだけ思うところがあった。確認を兼ねた世間話だ。実際、俺はお前のことを知らねぇ。これまでなにをしてきたのかをな」

「……私は」

「人を殺したなんて言っていない、か?」

 

 図星だったのか、目を伏せて押し黙ってしまう。……言い方を工夫した方がいいんだろうが、どうにも慣れねぇ。

 

「確かに殺してねぇんだろうな」

「……」

()()ではな」

 

 顔を上げてこちらを真っ直ぐ見てはいるが、動揺を隠しきれていない。脅すつもりはないが……その方が都合がいい。

 

「ある程度は調べさせてもらった。元々、お前の名前には覚えがあったからな」

「どこまで……」

「……生来の名前によほど思い入れがある理由と、その後の行動についてはある程度」

「……」

 

 どうやら、予想通りに目の前のループスが当たりで間違いないらしい。不都合としては、交渉のテーブルは思っていた以上に早まってしまったことだ。もう少し時間をかけていく予定だったが……先ほどの人影で気が急いてしまった。

 

 気付かれないように溜息を吐きながら、思考を巡らせる。ここからが正念場だ。

 

 カップに入っていた最後のひと口を口の中に放り込む。

 

 クソ苦ぇ。




 ここ二か月で公開されたイベントとアンソロジーで衝撃を受けてまともに書けなかった。

 その結果二か月も間隔が空くことになりました。アホでしょ。

 この章もそろそろ終わらせたい。
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