マジでこの会社やめてやろうかな 作:ナイン
お待たせして申し訳ない。
「まー、なんだ。誘っておいてなんだが、断ってくれてもいいぜ?」
「……は?」
心底以外と言いたいのか、呆けたような視線を向けられる。
「いや、拒否権がなかったら脅迫だろうがよ。実質的に拒否権がないように思えるのは……まあ、しょうがないと思ってくれ」
別にその一件、俺のせいじゃねぇからな。と一言付け足して、この言い方だとやったのはお前だと言っているようにも受け取れることに気が付いて溜息を吐く。
「一つの組織に与するというのは、他の組織に喧嘩を売っているようなものだと誰かが言った」
「……急に、そんな話を?」
「まあ聞け。そう考えられるのも当然の話で、仕事を受けていけばどこかと繋がりが出来る」
当然、その繋がりを良く思わない連中も。
「この話は、どの仕事にも当てはまる。俺たちトランスポーターも……マフィアも」
「……!」
そこまで話して、テキサスの目が見開かれる。ただの交渉のカード程度に思われていたのかもしれない。こいつは……もう少しポーカーフェイスが出来ないと交渉出来ないだろうな。
「だが、俺はそう思わない。組織と自分の考えの齟齬が生まれるものだ」
組織と、所属する個人は別だ。一括りにまとめたくなるが……そうでないことも、往々にしてある。
「無理に居ようとしなくていい。ここでとりあえず首を縦に振っておいて、ソリが合わなければ抜ければいい」
「……なぜ」
「そこまでして引き抜こうとしているのか、か?」
これはまぁ、話しても構わないだろう。
「お前から血の匂いがしないから」
「いや……私は……」
「別に殺したことがない、って言ってるわけじゃねぇよ。それは別にどうでもいい」
こんな世界だ。人を殺さずに生き残っている人間の方が大多数かもしれないが、殺したことがある人間が少ないわけではない。
「龍門では殺してない、だな」
言いながら、押収品の中から
「おそらく源石剣……であってるか?」
「……あぁ、うん」
「源石剣ってのは特殊だ。アーツで刃を生成するが……」
基本的に、柄から離れてもその場に残る。
「……っと。この辺の説明は持ち主には不要だわな」
笑って指先で弄びながら説明を続ける。
「あとは……そうだな……お前が疑われたのは現場の近くに居て、服が汚れてたから疑われた。ってところだろうな。この件、進捗を出せていなかったらしいから近衛局としてはそれっぽいのを捕まえておきたかったんだろうよ」
ケラケラと頭の悪そうな笑い声を意図して出す。この予想が事実なら、言い当てたことに警戒されても仕方がないからだ。現状証拠の中でテキサスを犯人だと言わないことは……無理だ。
「他には?」
「うん?」
「他には、信じる理由は?」
理由、か。大層なものはないが、強いて言うなら……。
「いや、なに。お前が欲しいからそうだったらいいなぁ、と」
「……は?」
今度こそ、目を大きく開いて表情を変える。呆れ、のように思えるその顔からそれ以上伺うことは出来ない。
「……ふ」
「あん?」
「ふふ……」
急に笑われて、少し表情を引き締める。間違っていただろうか。
「タナトスは、楽観的すぎる」
「かもな」
楽観的……確かに、その通りかもしれない。テキサスをこのまま引き入れたあと、この予想が間違っていたとしたら組織ごと壊滅するわけだ。分の悪い賭け、という表現が可愛く思える。
「……で?」
「うん?」
「返事」
「あぁ」
テキサスはふむ、と右手を口の前に寄せて一瞬考えたような仕草をして、少し微笑んだ──ように見えた。
「……よろしく」
出された右手を包み込むように握り返す。
「あぁ、こちらこそ」
この契約が、何年も続くことになるだなんて、思いもしなかった。
「……ああ、そうだった」
市街をあてもなく
エクシアと合うのも、あの時一瞬見せたタナトスの純粋さの一端を感じるからかもしれない。
「……む」
そう思うと、少し胸のあたりがモヤつく。それに首を傾げながら、タナトスの顔がふと脳裏を横切って笑う。
「……帰ろう」
勝手に出て行ったことを謝らないといけないのに、不思議と足が軽かった。
1.テキサスはファミリーを自分で壊滅させたと思っている、という当作品独自の設定があります。それが勘違いによるものか、なにかに絶望してしまったことによるものかは……誰にもわかりませんが。
2.通り魔の犯人はラップランドです。テキサスを探す最中、聞いた相手が情報を持っていなかったらアーツを剣に纏わせ、殺しまわっていたようです。一定間隔で現場があったことから、情報を見つけようとしていたのでは、とタナトスは睨んでいました。わざわざ殺したのは……テキサスなら気が付いてくれるというラップランドの愛ですよ、読者の皆様。