マジでこの会社やめてやろうかな 作:ナイン
損得勘定より
「なあエクシア」
「なーにータナトス」
「……派手にやるのは構わんが、もう少し穏便に済ませる努力とか出来ねぇのかよ」
関係各所から飛んできた報告書に目を通し、返答を書きながら分かり切った返しを待つ。言って聞くなら苦労はないが、それでも小言を挟まずにいられるほど、後処理が簡単なわけではない。
「無理!」
「……そうだよな!」
ヤケクソ気味に笑顔を浮かべて、書類の束でぶん殴る。抗議の視線を受けてもそれに対応してる暇はない。ここで手を止めると近衛局の方から手痛い制裁が飛んでくる。
制裁、とは言ったが実際のところそこまでの権力を持ち合わせているわけではない。確かに、近衛局は龍門の中でも特殊な立ち位置にある。しかし、近衛局が動けるのは対外的に見たときに事件性がない場合は動けない。どこぞの隊長殿の立ち位置にもなれば、龍門の存続が危ぶまれる場合のみだろう。
防げなければ非難を受け、未然に防ごうと動けば越権行為と揶揄される。ロドスとの協力関係による任務協力の頻度こそ高いが、本来はそういう立ち位置だ。
だからこそ、こちらの非のなさをアピールしておかなくてはならない。……実情がどうであれ、負けた方は文句など言えない。それが世の常で、この街の常識だから。
つまり、襲撃を受けた場合、自前で全て解決しなければならない。鼠王の手引きによってシラクーザが動いた一件は、鼠王が刺激した以上に、同業他社から恨みがあったからこそ起こったことだ。
「ドンパチしていい相手か考えてから交戦しろ」
「えー、向こうから絡んでくるのに?」
その余計な襲撃もこれまでの恨みのせいなんだがな、という言葉を飲み込んで、静かにため息を吐く。
「進んで騒ぎを大きくするな、ってことだ」
「んー、楽しければいいと思うけどなー」
「はぁ……いっつも言ってるだろうが。損得勘定よりそん時の感情を優先するのはやめろ」
「満更じゃないくせに〜」
「うるせぇわ」
正直なところ、こんなことを言ってもどうしようもないし、争いを未然に避けられるなら苦労しない。気が付ければ防げないこともないだろうが……それは、俺の仕事だろう。
まぁ、把握している中でペンギン急便にとって脅威となる敵はこの龍門には存在しない、という事実が慢心を生んでいるのかもしれないが。
「そうは言ってもさー、あたしたちが困ったことないじゃん」
事実として、ペンギン急便が発足してから負けた賭けは一度もなかった。
先鋒テキサス、盾役のクロワッサン、後衛のエクシア。スリーマンセルとして完成された構成は、ゴロツキ程度に負けるはずがない。
しかし、今は仕事も増えた。一部メンバーがロドスの要請によって遠方に赴く機会も少なくなくなってしまった。ビジネスとしては成功で、喜ばしくはあるんだが……。
龍門内の巨大勢力の一つが戦力半減していると知られて日が浅いわけでもない。だというのに、大きな動きがあったのは先日の一件のみ。その一件も3人はもちろんモスティマも居てのこと。そして、あの一件を仕組んだのは鼠王。
あの男は龍門を崩壊させたいわけではなく、事前に芽を摘み取ったに過ぎない。となると、長い間戦力相関図に動きがないことになる。変わらないものは存在しない。水面下で動いていて、俺たちが把握出来ていない、ということだけは防がないといけねぇ。
「それでも、だ。警戒しておいて損はないからな」
「ん、りょーかい!」
それは分かってない返事だろうがよ。また一つ、大きなため息を吐い
た。
これまでなんとかしてきたから、なんてのはなんの保険にもなりはしない。ウチのような方々に喧嘩を売るだけ売って暴れるような組織は特に。
それに……。いや、今は気にすることでもないか。
大して戦力にならない以上、考えすぎもよくない。この楽観的な考え方、少しエクシアに毒されちまったかもな。