トルメキアの第五皇女   作:デュアン

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映画館で見てたら書きたくなった


プロローグ(原作開始前)
お願いしますっ! クロトワ教官!


「お願いしますっ!! クロトワさん!! 私に飛空艇の操縦を教えて下さい!!」

 

 世界東部にその広大な領域を持つ巨大国家、トルメキア王国。その王都トラス郊外に位置する訓練場の一角にて、1人の少女が1人の青年へと頭を下げていた。

 少女は美しく長い金髪を後ろでくくり、その10歳にも満たないであろう幼い顔には、2つの深い藍色の瞳が輝いている。

 一方の青年は、歳は10代後半であろうか、茶色い短髪に、顎には薄く髭が伸びており、その実年齢よりも老けて見せている。

 

 そんな彼は、つい先程までここで飛行訓練を行っていたのだ。訓練用のケッチを操り、そして着陸する。

 それが一段落つき、休憩をしようと飛行場の隅へ来た所で、この少女に出会ったのだ。そして、間髪入れずにこの頼み事をされてしまったという訳だった。

 

 

「(何だこのガキ……)」

 

 

 そんな彼女に、彼ーークロトワは困惑していた。当然であろう。

 

「ガキンチョ、ここは子供の遊び場じゃねえぞ。妙な事言ってないでさっさと帰「私は本気です!!」れ……」

 

 彼の言葉を遮るように、彼女が顔を上げて言う。

 

「私、飛空艇に乗って空を自由に飛びたいんです。でも、私みたいな子供がそんな事を言っても、馬鹿にされるばかりで……」

「そりゃそうだろ」

「それで、諦めかけてた時にクロトワさんの操縦するケッチを見て、また憧れが復活したんです!」

「(めんどくせぇ)」

 

 何故よりにもよって自分なのか。彼は運命を呪った。

 

「はァー……ガキに付き合ってる暇はねぇんだ。帰れ帰れ」

「嫌です!! 首を縦に振るまで帰りません!!」

 

 ガッ、と彼の裾を掴む。

 

「お前な、これまでも断られてきたんだろ? なんで俺がいけると思った」

「だって顔を見て、『あ、この人面倒見良さそうだな』って思ったから」

「お前の感性狂ってねぇか?」

 

 どうやったらこの濃い老け顔を見てそう思えるのか、彼はそれをその言葉に込めた。

 

 ……が、彼自身は気付いていないが、実を言うと彼女のその予想は当たっている。実は1年下の後輩達から『面倒見の良い先輩』という認識を持たれている事を彼は知らなかった。

 

 

「も〜、どうやったら教えてくれるんですか!! クロトワさん!!」

「だから教えねぇって言ってんだろ!! っていうかさっきからクロトワクロトワって、一体何処で俺の名前を知った!!?」

「あっちで立ってる人に聞きました」

「個人情報の管理ガバガバ過ぎんだろ!!」

 

 心から叫ぶ。

 しかし、彼はここまでで気付くべきだったのだ。そもそもこの訓練場は関係者以外立ち入り禁止である事を。

 そして、彼女の言う"あっちで立っている人"とは警備兵であり、彼女が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であるという事を。

 

 ただし、確かに彼にそれを気付けと言うのは酷なのかもしれない。

 彼女自身はそれを隠していた。身分を示す物は全て外し、顔を知らない者が見ればただの町娘にしか見えないのだから。

 まあ、それを加味しても鈍感と言わざるを得ないが。

 

 

 そして次の瞬間、彼はとんでもない悪手に出てしまう。

 

 

「あー、なら金を払え」

「金?」

「ああそうだ。なんだ? タダで教えて貰えるとでも思ったのか?」

 

 彼は、首を傾げる少女を見て勝ち誇った様な顔をする。何事にも金銭が発生する社会の常識を知らない幼い娘、そう思ったのだ。そして、これをすれば逃げられると思ったのだ。

 

「1000グレインだ。そんだけ持ってきたら考えてやる」

「1000グレイン!?」

 

 1000グレイン、彼の月給の約3倍である。少女の有り得ない、といった顔を見て彼は勝ちを確信した。

 

 ……最も、彼女は『高過ぎる』という意味で驚いたのではなく、『たったのそれだけで教えてくれるんですか?』という意味だったのだが。

 

 

「なら、明日からよろしくお願いします!!」

 

 

「……は?」

 

 そう言って、彼女が満面の笑みで何かを懐から取り出し、彼の掌に乗せる。

 それは青い半透明の石であり、光を受けて輝いていたーーーそれは、滅多に市場に出回らず、極稀に旅人が通貨を得る為に売りに出す、腐海を貫く長大な川の石。

 

 タリア川の石、その物であった。

 

 

「!!!!!??????」

 

 彼は声にならない叫びを上げた。

 

「これを売れば1000グレインに足りると思います!! あ、足りないですか? ならもう1粒」

「ちょっと待てちょっと待てちょっと待て」

 

 そんな貴重な物を更に取り出そうとする少女を慌てて止める。

 

 彼の手に乗せられたのはグレイン金貨と同じ程の直径の、それも美しくカットされた物だ。こんな物、売れば5000グレインはくだらないであろうし、そもそも普通は平民の手には渡らない。

 持っているとするならば、その者は盗人かそれとも貴族の隠し子か……?

 

 

「……ガキ、名前は何だ?」

 

 彼は背中に悪寒が走るのを感じ、震える声でそう尋ねた。思い当たる者が1人だけいたのだ。

 だが、そんな者がこんな所に1人で居るはずがない。そう自分に言い聞かせながら、彼は少女の返答を待った。

 

 しかし、現実は非情である。

 

 

「私は、トルメキア王国第五皇女、ナサニアですっ! よろしくお願いします! クロトワ教官!」

 

 

 彼は本日二度目となる、声にならない叫びを上げたのだった。




ナウシカで一番好きなキャラはクロトワさんです
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