トルメキアの第五皇女   作:デュアン

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お願いしますっ! タメ口で!

「……かぁーーっ!!」

「飲み過ぎだぞ、ロリコン」

「ロリコンじゃねぇ!!」

 

 王都トラス、その一角にある酒場で、2人の青年が酒を飲んでいた。

 時間は夜。歓楽街が最も賑わう時間である。それはここトラスでも例外ではなく、多くの酒場などが集まったこの通りは、今日も多くのの人々が集まっていた。

 

 

「クソッタレ、何で俺がこんな目に遭わなきゃいけねぇんだ。チクショウ……」

 

 その2人の片方、クロトワは既に顔を赤く染めている。そんな彼が嘆きながら再びジョッキを口元で逆さにして中に入っていたエールを飲み干した。

 そして空になったジョッキをウェイトレスに突き出し、6杯目を要求する。

 

「まさかお前がなぁ。普通その顔で子供なんて寄り付かないだろ。やっぱり何かしたんじゃないのか?」

「してねェよ!! 何で好き好んで王族の相手なんてしねェといけねぇんだ!!」

「ははは、ま、そうだよな」

「代わってくれェ、ソリアぁ……」

「ははは、断る」

 

 友人の懇願をキッパリと断りながら、ソリアと呼ばれた青年はトリウマの唐揚げを口へと運ぶ。

 

「そもそも敬語疲れるんだよォ……慣れねぇし……」

「なら」

「だったら使わなきゃいいのに。ししょー、最初は使ってなかったじゃないですか」

「しょうがねぇだろォ? 最初は分からなかったんだからよォ……」

「お、おいクロトワ」

「あ? 何だ……」

「うぇっ、苦っ」

 

 ソリアの声で、クロトワが()()()()を向くと、そこには先程ウェイトレスが持ってきて、たった今まで彼が飲んでいたエールを少し口に含み、渋い顔をする幼女ーーーナサニアの姿があった。

 当然の如く、その背後にはセルカが立っている。

 

「あ、ししょー。これ苦いですね。何でそんなに飲めるんですか?」

 

 

 

「う"わ"あ"あ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!!!!!!!?????」

 

 

 

「ひっ、い、いきなり大声出さないで下さいよ!!」

「そうだ、うるさいぞ平民」

「お、お、おま、で、殿下、な、何故ここに」

 

 明らかに店で出すべきではない叫び声を上げ、椅子から転げ落ちるクロトワ。そんな彼に、ナサニアとセルカの非難する様な視線が突き刺さる。

 そして、その声で周囲の客までもがその騒音の主、つまり彼の方を向き、次の瞬間にはその前に居る彼女(皇女)に気付き、目が飛び出る程驚いた後に視線を外す。

 好き好んで王族と関わりたい者などいないのだ。

 

 一方のクロトワは、何故かこの様な場所にいる彼女を、何か信じられないでも見るような目で見、震えながら指さす。

 

「何故って……昼間のししょーの言葉遣いが気に入らなくて、だから追いかけてきたんです!」

「お、お、お、」

「やっぱりししょーに敬語は合いませんよ! タメ口でお願いします! タメ口で!!」

「出来るかっ!!! で、出来る訳ねぇだろです!!!」

「お、おい、敬語おかしくなってるぞ」

 

 ソリアが言うが、そもそも最初にタメ口で言っていたという事に彼は気付いていない。彼も混乱しているのだ。

 

「今更取り繕っても遅いですよ! ししょー、これは皇女命令ですっ!!」

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!!!」

 

 彼の叫びが、再び酒場の中に響き渡ったのだった。

 

 

 

 それから10数分後、嵐の様な皇女とその付き人は宮殿へと帰った。あまりにも遅くなると姉に怒られるから、だという。

 

「クソっ、酔いが覚めちまいやがった」

「ははは、でも良い子じゃないか」

「お前の目狂ってんじゃねぇのか?」

 

 わざわざこんな所まで来て、自分の平穏を脅かす様な奴が"良い子"な訳が無い、と彼は訴える。

 

「何というか、王族っぽくないというかな? 何処にでもいる町娘みたいな感じじゃないか」

「そりゃあ……俺も最初は気付かなかった位だしな」

「お前考えてみろよ。もしアレが傲慢で、平民を物くらいにしか考えてない様な奴だったらさ」

「……」

 

 だが、ソリアの言う事は確かに正しいのかもしれない。もし仮に彼女が()()第3皇子の様に平民の兵士を平然と戦場に置き去りにしていくような者であったならば。

 もしそうだったならば、きっと彼は今よりも胃を痛め、いや、そもそも最初にタメ口で話した時点で殺されていただろう。だが、

 

「そもそもそんな奴だったらまず俺みてぇな奴に声掛けねぇだろ」

「はは、確かにそうだ」

 

 2人が軽く笑い、残った料理に手をつける。

 

 

「でも、気を付けろよ」

「ん?」

 

 突然、ソリアが彼に顔を近付ける。

 

「王族に深く関わって長生き出来た平民はいない」

「……」

 

 彼は言う。

 それは、平民の間では有名な話だった。王族の秘密を知った平民は、必ず事故死か、毒死か、はたまたあらぬ疑いをかけられての銃殺か……とにかく、死んでいるのだ。

 そして今、彼自身がその立場に置かれているのは紛れもない事実であった。

 

「……分かってらァ。むざむざ殺されてたまるかよ」

「ああ、それでいい」

 

 そうして、彼は顔を離してジョッキを掲げる。

 

「老後も年金で、こうして2人で飲める事を祈ってるよ」

「ハッ、飲める程も年金貰えねぇだろ」

 

 2人はカツンとジョッキを軽くぶつけ、そして一気にエールを喉へと流し込んだのだった。

 

 

 

ーーーこの時の彼は、まだ少し甘く見ていたのかもしれない。

 

 トルメキア王家の、血と猜疑に塗れた歴史をーーー

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