トルメキアの第五皇女   作:デュアン

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投稿が遅れまくって申し訳ありません


この日が続きますように

 エフタル砂漠。かつてここに栄華を誇った巨大国家エフタルが存在していた事からそう呼ばれる砂漠の中に、工業都市ペジテはあった。そう、()()()のだ。

 今のペジテは、建物は崩れ落ち、死体こそ片付けられたものの未だに血痕が残り、ここで行われた惨劇を想起させる場所となっていた。

 

 そんなペジテ郊外に、今回攻略の為に派遣された第三軍所属のバカガラス五隻、及び風の谷より帰還した装甲コルベット一隻は居た。今は天幕を張り、兵達は皆休んでいる。

 

 そんな宿営地に、トルメキア本国から一隻の連絡艇が訪れ、一人の男を下ろして再び帰っていった。

 

 

 額に緑色の宝石を着け、口元と顎に髭を生やしたいかにも中年の様に見える男。

 

 本国の軍大学院より、今回の腐海南進作戦の参謀として派遣されてきたクロトワその人である。

 

 

「……なんだ、貴様か」

「ハッ。軍大学院より選任されました。この辺境作戦が終わるまで参謀としてお仕え致します……」

 

 気まずい雰囲気がその場に漂う。初対面ならば良かったのだが、生憎二人は初対面ではなく、寧ろナサニアを介してあの一件からも何度か会っていた。

 それが考慮されたのか、はたまた偶然か、兎も角二人はこの様な形で再会する事になったのだった。

 

 その後は現在の戦況を聞き、3皇子の華々しい活躍の数々を聞いて彼女がやや不機嫌になった所で、彼は最後に付け加えた。

 

「それと、今作戦では第四軍より援軍が派遣される事となっております」

「そうか。下がれ」

「ハッ……」

 

 少しだけ機嫌を直した様な声でそう言われ、困惑しつつも退出する。

 

 第四軍は彼女の妹であり、不本意ながらも彼の"弟子"であるナサニアが司令官を勤める軍である。

 新設されたばかりなのでまだ戦力には乏しいが、それでもペジテ攻略の為だけに編成された小支隊といつ反乱を起こすか分からない様な辺境諸国の軍達だけで作戦を行うよりかはマシだろう。

 

 しかし、それだけで機嫌を直す様な女でもない。まさか妹が率いる軍だから、というだけで直したのだろうか。本人が来る訳でもなかろうに。

 

 

「……お、来たか」

 

 と、そこで遠い空に複数の影が現れる。小さい物が三つと大きい物が一つだ。

 今回の艦隊には、高機動艇がガンシップを除けばコルベット一隻しか無いので小型艇が来るのは素直に有り難い。

 

 彼がぼんやりと見ている内にその影はどんどんと近付き、やがて五隻のバカガラスの隣に着陸した。内訳は軽戦闘艇バムケッチ二機、超大型輸送艦ギガントーーートルメキア王国最大の艦である大型タンデム翼機だーーーそしてケッチが一機である。

 

「こりゃ兵は100人も居ねぇな」

 

 実を言うと、この作戦は他の王族達による罠である。部隊が宿営地として途中で立ち寄る酸の湖の事は既に土鬼に知らされており、そこで何らかの襲撃を受ける事になるだろう。

 そこで部隊は壊滅に近い被害を受け、クシャナは撤退を余儀なくされる。そして帰ってきた暁には軍令違反、謀反の恐れありとして銃殺刑に処されるのだ。彼に課せられた任務はそんな彼女から秘石を持ち帰る事であった。

 

 そんな訳で、援軍は少なければ少ない程良い訳だ。寧ろこれでも多いくらいだろう。

 

 第四軍は今の所、現在の第三軍の様に部隊分割の憂き目にはあっていない。単純に規模が小さいというのもあるが、一番の理由は司令官であるナサニアだ。

 彼女は姉とは違い従順であった。ヴ王は未だに警戒している様だが、三皇子は既に興味を失い、その結果第四軍はそのままエフタル砂漠警備を任されている。

 

 ふと、胸元のペンダントに気が行く。彼が最後に彼女と会ったのは五年前、彼が軍大学院に入学する直前の、最後の飛行訓練の際である。泣きじゃくる彼女を宥めるのに苦労していた。このペンダントはその時に貰った物で、“災厄から身を護る”らしい。

 実の所、彼女自身も第四軍が新設される事になり多忙になっていたのだ。彼の入学が決まっていなくても殆ど会えなくなっていただろう。

 

 彼女が姉と違い従順だ、という話が聞こえ始めたのはそれから暫く経ってからだった。

 何があったのかは分からないが、まあそれで危険から遠ざかったのならば良いだろう、彼は柄にも合わずそう思っていた。

 

「さて、じゃあ巨神兵でも見に行くかね」

 

 そう呟くと、彼はペジテへと足を向けたのだった。馬は使わない。彼は平民上がりなのでそういう物には余り慣れていないのだった。

 

 

 

 その後、巨神兵に圧倒されたり蟲使いに落とされかけたりしながらもなんとか生還した彼は取り乱したふりでもしながら自分に割り当てられた天幕へと足を進めていた。

 クシャナとは(不本意ながら)古い付き合いであり彼の本性にも薄々気付いているだろうが、他の一般兵はそうではない。今日この時の行動で印象が決まる。今は旧世界を七日で滅ぼした兵器を見た帰り。ここで身体を震わせてでもおけば自分の事は小心者、位の印象しか持たないだろう。

 この任務を遂行するにはまず兵からの信頼を勝ち取らなければいかない。忠誠の厚い第三軍の事だ、一般兵に不信感を持たれては秘石を持ち帰るどころかクシャナに近づく事すら難しくなってしまう。それだけは避けなければならない。

 逆に言えば、それさえクリアすれば後は簡単だ。先ほども言った通り、彼と彼女は旧知の仲。少なくとも初対面よりかは印象はマシだろう。もしかすればそうだから選ばれたのかもしれない。

 

 そんな事を考えながら、彼は第四軍の飛空艇のもとへと向かっていた。経緯はどうであれ彼は参謀だ。援軍の面々とも会っておく必要がある。

 そうして現場へと近付いた頃、整備士達の声が聞こえてくる。

 

 その瞬間、彼の身体の震えは止まった。

 

 

「へえ、嬢ちゃんには師匠がいるのか。やけに着陸が上手い訳だ」

「ししょーはもっと上手いんですよ? 結局実戦形式の訓練では一度も勝てませんでしたし」

「ほぉ~、嬢ちゃんが。整備士としては一度会ってみたいものだ」

「多分こっちに来てると……あ」

 

 整備士の男と仲良く話していた金髪の少女の()()の瞳が彼の姿を捉える。

 すると、みるみるうちに彼女の顔が明るくなっていきーーー

 

 

「ししょーーーっ!!!」

「ーーーーーっ!!!??? ぐほぉっ!!」

 

 

 少女に勢いよく突撃された彼は反応することが出来ずにそれを受け、体内の空気を一気に吐き出しながら後ろに倒される。

 突然の事態に彼は状況を理解できずにいた。図らずもーーーもしかしたら図ったのかもしれないーーー押し倒すような体勢になった少女は、そんな彼の上から話しかける。

 

「ししょー、お久しぶりです! 元気にしてましたか?」

「お、おま、なんで」

今の私はアーシャです! ししょーに操縦を教わった、アーシャですよ!」

「ナ、ア、アーシャ」

「はい!!」

 

 困惑を押しのけ、小さく深呼吸をして何とか息を整える。

 

「……取り敢えず、退け」

「……あ」

 

 ここで、ようやく周囲の視線が生暖かい物に変わっていることに気が付いた彼女はそそくさと上から退く。彼も起き上がり、彼女の顔を見る。見慣れた面影を残し、四年分の成長を果たした顔がそこにはあった。

 ハア、とため息をつく。色々と問い詰めたいことはあるのだが、わざわざ偽名を伝えてきたのだ。つまり、ここにいる兵は彼女が“やんごとなきお方”であることを知らないのだろう。ならばここで話をするわけにはいかない。

 

「場所、変えるぞ」

 

 

 

「で、なんでお前がここにいるんだ?」

 

 宿営地から少し離れた場所にて、彼は彼女に尋ねる。やや強めの口調で。

 

「ししょーに会いたかったからですよ。言わせないでくださいよ、もう〜」

「トラスにいるのは影武者か?」

「何か反応して下さいよー……ええ、そうですよ。第四軍が設立されてエフタルに配備されてから、ずっと私はアーシャです」

「そういう事か……」

 

 道理で従順になったなどと言われる様になる訳だ。影武者を使う以上、あまり波風は立てない方がいいのだから。彼は理解した。

 

「……目は、まだ治らないのか」

 

 と、彼は彼女の顔を見て言う。

 彼女の顔の半分は、その金髪によって隠されていた。パイロットならば普通は邪魔な前髪など切る筈であるのにも関わらず、だ。

 

「ええ。特に不便は無いからいいんですけど、やっぱりバレると厄介ですからね」

 

 彼女はそう言いながら髪を上げ、その下の眼を彼の視界に晒す。

 そこには、()()()から少しも変わらない闇が広がっていた。

 

「……そうか」

「はい。ですから心配しなくても大丈夫ですよ。それに私には()もありますから!」

 

 髪を下ろし、演技がかった様子で力こぶを作ってみせる。服越しなので分かりづらいが、全くと言っていい程盛り上がっていなかった。

 そもそも力とは超常の方であろうからフィジカルは全く関係ない筈なのだが。

 そんな彼女の様子に彼は気の抜けたように軽く笑い、それに対して彼女が軽く怒る。

 

 片方にとっては全く予想だにしていなかった再会は、緩い雰囲気で幕を開けたのだった。

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