彼女と彼の、冬の日にあったとある一幕。

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リハビリ。文章を整える名目のヤマナシオチナシ。


自覚症状が不足していませんか?

 

 ありきたりな話だけれど、私はどうやらゲームのヒロインに生まれ変わったらしい。

 

 

 ***

 

 

 聖夜(クリスマス)まであと三日。今年の終わりも見えてきた頃になって、私は彼の部屋を訪ねることにした。なにか用事があるから、というわけでもなく、ちょっとした気分転換だ。

 ここのところは冬期休暇の課題を済ませるのに忙しくて、誰かと遊びにでかけるのも、街へ繰り出す機会も減っていた。久方ぶりの外出とすればちょうどいいぐらいの距離……もとい、すぐ隣の家である。

 通い慣れた門をくぐって、玄関先でインターホンを鳴らす。返事はこれまた聞き慣れた声で、そう待たずに返ってきた。

 

「──あれ、悠香(はるか)?」

「おはよう……って時間でもないか。うん、とりあえず、気まぐれにお邪魔しに来た」

「なにそれ……まあ、いいんだけど」

 

 とりあえず上がって、と苦笑する彼の言葉に甘える形で中に入る。十二月も半ばを過ぎた頃、真冬の寒さはすこし外を歩くだけでも酷く肌を刺してくる。有難いことに彼の家はしっかり暖房が効いていて、それはドア一枚隔てた入口でも目に見えて実感する。

 

美千代(みちよ)さんたちは?」

「母さんはパート。父さんは昨日から残業続きで修羅場みたい。意地でもクリスマスは帰ってくる、とは言ってたけど」

「ふぅん。じゃあ、千種(ちぐさ)はお留守番中だったわけか。ひとりで」

「そうだよ。特にこれといって用事もなかったし」

 

 実は暇してたんだ、と笑う彼の表情につられて、私もくすりと微笑んだ。どちらも高校二年の冬休み。青春真っ只中にある学生の休日がコレでいいのかと思わないでもないけれど、かといって何か変わったコトをしようという気もない。

 良くも悪くもいつも通りの雰囲気は、まあ、なんとも私たちらしいと言えるのだろう。

 

「暇なら彼女でもつくってデートに誘えばいいのに」

「そんな簡単に恋人ができたら苦労しないよ。大体、悠香は僕を買い被りすぎだ」

「そうかな」

「そうだよ。事あるごとにそんなこと言うじゃないか」

 

 それはそうだ。なにせ彼は恋愛シミュレーションゲーム──俗に言うギャルゲーの主人公。気が付けば攻略キャラの女の子と仲良くなって、親しくお茶でもしていそうな人たらしだ。実際、彼が本気で行動に移せばそういう関係になってくれる相手は沢山いると思う。ヒロインたちなんてまさにそれだろう。

 無論、私なんていうイレギュラーを除けば、という話なのだが。

 

「千種なら簡単にできると思うから言ってる。それこそ、自分のことを低く評価しすぎ」

「……そうかな」

「そうだよ。幼馴染の贔屓目無しに見ても、確実にそう言い切れる」

「……僕には悠香のその自信がどこから湧いてくるのか不思議でならないよ」

 

 主に原作知識から、と言っても彼はおろか、誰も信じないだろう。この世界がゲームだと私だけが知っている……なんて昨今のライトノベルに使われるタイトルみたいなことを公言する気はないし、言ったところで私自身なにか得をするワケでもない。この秘密はお墓まで持って行くか、そのお墓に一緒に入りたいという物好きな誰かにだけ、冗談半分、こっそり打ち明けるぐらいがちょうどいいのだ。

 ……うん。長年隠してきた自分の秘密というのが、実は前世の記憶があってこの世界はゲームなのでした、なんていうのは頭がおかしくて非常によろしい。きっと聞かされた相手は面食らって想像もできないような顔をしてくれるだろう。

 そのときのことを考えるだけでちょっと楽しみになるぐらいには素敵だ。

 

「そういう悠香はどうなの。彼氏とか、つくる気無いの?」

「どうだろう。私もそこまで恋愛ごとに興味あるわけじゃないし」

「なのに僕には彼女云々恋人云々って言うよね。矛盾してないかな」

「自分と他人はまた別。その中でも千種はもっと別だからね」

「もっと?」

「長年付き合ってきた幼馴染がどんな相手と結ばれるのか気になるってこと」

「ああ、そういう。それなら納得だ」

 

 うんうん、とうなずく彼の後を追って、二階の部屋にふたりして足を踏み入れる。それだけではないのだけれど、本音を言うのはちょっとナンセンスだ。さらっと誤魔化した会話を流しつつ、彼の部屋における定位置であるクッションの上に座り込む。

 

「なにか飲み物でも持って来ようか?」

「いいって。もうしばらくすればお昼なんだし」

「それもそっか。どうするの、食べていくなら二人分用意するけど」

「ん、迷惑じゃなければ」

「ぜんぜん。いつものことなんだから、今更迷惑も何もないって」

「それもそうだね、うん。じゃあ、よろしくお願いします」

「よろしくお願いされました。男の手料理だから、味の保証はできないけど」

 

 なんて言って笑う彼だが、わりと整理された部屋の様子からも見て取れるように家事炊事は昔から得意である。とくに今日みたいな様子で両親が家を空けることが多くなった中学からは上達する一方で、驚くことに今では私の家事スキルを軽く上回っている。幼馴染としては誇らしい反面、女としてはちょっと複雑だ。

 

「あ、そういえば悠香」

「ん、なに?」

「今度のクリスマスなんだけど、どこか出かけない? こうやって顔を出したってことは、冬休みの宿題もひと段落ついてるってことだろうし」

「……まあ、そうなんだけど。……それ、私でいいの? てか私じゃなきゃダメ?」

「悠香以外に誰を誘うっていうの。母さんも父さんも日中は仕事なのに」

「それはほら。三年の久條(くじょう)先輩とか。あと、A組の綾崎(あやざき)さんとか」

「いや、その二人とはたしかに面識があるけど……誘うほどでもなくないかな……?」

「そうなんだ」

「そうなんだよ」

 

 意外だ、とわずかばかり目を見開いたりしてみる。私から見て好感度が高そうな相手ふたりの名前をあげたのだが、まだまだそういう関係には発展していないらしい。というか、二年のこの時期にコレでは本当に誰かと結ばれるのかすら怪しくなってくる。

 

「他に気になる人とかいないの、千種は」

「うーん……どうかな。別に、そこまで気にしてる人はいない……かな……」

「なるほど……」

 

 これはもしかするともしかして、彼の青春は灰色のままだったりするのだろうか。まさかギャルゲーのヒロインから引く手数多な主人公が。……いや、そんなことはないはずだ。現に相手方からは想いを寄せられているようだし。

 

「そういうことならご一緒しようかな。私も予定とか入ってなかったし」

「ありがとう。折角の一年に一回のイベントだからね。悠香と過ごせるのは素直に嬉しい」

「そういう感想は将来的に、恋人ができたときの為に取っておくべき」

「そんなことはないよ。普段から伝えておく事だって大切だ」

 

 さらっと歯の浮くような台詞を言いながら柔らかく微笑む千種。その考え方はたしかに良いものだと思うけれど、やっぱり軽く言うべきではないと思う。私のような相手に安売りしているのも問題だ。正直なのは美徳になるけれど、正直すぎるのも考え物というカンジ。

 

「……まあ、そういう性格だから千種なんだろうけど」

「僕はいつだって僕だからね」

「分かりきってる。──お昼にしよっか」

「ん、了解」

 

 とりとめのない会話を打ち切って、すっくと勢いをつけながら立ち上がる。が、途中、バランスを崩してふらついたところを支えられてしまった。

 ……ほんのちょっぴり心臓が跳ねてしまったあたり、どうにも不覚としか思えなかった。

 

 

 ***

 

 

 僕の幼馴染は少しだけ変わっている。もしも彼女の口から人生二週目です、なんて言われたら「そうなんだ」と疑いの余地もなく信じてしまいそうになるぐらいだ。

 

「私も手伝うよ」

「エプロン使う? 母さんの」

「汚したら悪いでしょ。別に大丈夫」

「エプロンは汚れるものだよ。それに洗濯するのは僕だし。母さんには後から言っておくから」

 

 はい、とそのままキッチンに立とうとする彼女に差し出すと、渋々といった様子でエプロンを受け取った。昔からの付き合いなんだからそう遠慮しなくてもいいのにとは思うけど、悠香のことだから「親しき中にも礼儀あり」とかそういうことなんだと思う。真面目だ。

 

「……で、なにつくるの。お昼ごはん」

「ハンバーグ。ソースが余っちゃってて」

「ん、わかった。ご飯は炊いてる?」

「そっちも今から。夜は母さんも帰ってくるから、多めに炊いておく予定」

「じゃあ先に用意しておこっか。四合ぐらいでいい?」

「ん、そのぐらいで」

 

 テキパキとお米をとぐ準備を進めていく悠香。勝手知ったる人の家……というのも、中学時代は毎日のようにお世話になっていた。まだまだ自炊に慣れていなかった頃、材料を買ってきてアレコレと教えつつ助けてくれたのが彼女だ。おかげさまで、今では人並み程度の腕にはなっている……と思いたい。彼女に追いつけているかどうかは、また別として。

 

「…………」

「…………」

 

 しばらく無言で手を動かしていく。もともとどちらもあまり騒ぐような性格をしていない、というのもあってよくあること。気まずいというワケでもないけれど、自分の意識に没頭しているだけかと言われるとすこし違う。沈黙は意識しても、異物としては残らない感じ。

 

「……うん。なんか、懐かしいね、悠香と並んでこうするの」

「え? ……ああ、私、最近はこっちで料理とかしてなかったっけ」

「そうだよ、めっきり。悠香も忙しいだろうから、仕方がないことだけどね」

「いや、忙しいっていうより、いてもいなくても変わらないから」

「そんなことないよ?」

「お世辞は不要」

 

 じとっとした目で見てくる悠香に、本当なんだけど、と頬をかきながら苦笑する。クラスの男子からは表情が乏しくて何を考えているのか分からない、と言われる事も多い彼女だけれど、よく見てみればちゃんと汲み取れる機微がある。きっと彼らはこの少女の顔をちゃんと見ていないだけなのだ。しっかり観察すれば、これほど分かりやすいのに。

 ちなみにこのジト目は純粋に睨んでいるだけで、深い意味とかはなかったりする。

 

「そういえばなんだけど、悠香は進路とか決めた?」

「ん? あー……まあ、地元の大学に進学……かな」

「え、意外。悠香、頭良いのに。もっと上のところとか狙わないの?」

「いいかな、それは。大層な経歴より、私はほんのちょっぴり毎日が楽しければ幸せだから」

「それで地元の大学?」

「家族といると楽しいから。近所の人も良い人ばかりだし」

「そっか。……僕もそこにしようかなとか言ったら、怒る?」

「別に。理由がなんであれ、それが千種の決めたことなら尊重するよ。それが正しいかどうかなんて、私が決められる問題でもなさそうだし」

 

 ……あ、これ、気のせいじゃなかったらちょっと嬉しい? 

 

「そうだね。じゃあ、僕は僕でしっかり考えて決めてみる。いまの流れだと、怒らないけど納得はしないってことだろうし」

「──あんた、エスパー?」

「悠香のことだから、分かるんだよ」

 

 驚く彼女にそう言うと、悠香はすこし顔を赤らめながらそっぽを向いた。ストレートな言葉に恥ずかしがるのは昔からである。きっといまの彼女を見れば「無表情でかわいげがない」なんて言った男子たちの見る目も変わるだろう。頭も良くて大抵のことは卒なくこなせる幼馴染は、わりと自慢だったりするのだ。その彼女の素敵な一面を誰かに知ってもらいたいと思うのは……まあ、たぶん、間違ってはいないと思う。

 ──実は独り占めしたいとか、うん。そういうのは、ちょっとナンセンスだ。きっと。




・千種くん
ギャルゲー『アオハル恋心パーセンテージ ~君の想いにいつかきっと~』の主人公。男の子。17歳。高校二年生。物静かでおっとりしている草食系男子。良くも悪くも素直なところがあり、そのせいで色々なトラブルに巻き込まれがち。歯の浮くような台詞を平気の平左で言ってのけるヤベー奴。感謝と好意は誰に対してもストレートにちゃんと伝える主義。お陰様でハーレム形成中。

……なのだが本編で複数ヒロインのギャルゲーなのにグランドルート(ハーレムルート)が存在しないという主人公大失格級の純情少年。こうだと決めたら迷わない。そしてルートに入ったら他のヒロインに一切目もくれない。おまえホントにギャルゲーの主人公か? なおこちらで誰のルートに入っているかは言うまでもない。


・悠香さん
ギャルゲー(ryのヒロイン、そのひとり。幼馴染枠。本編では明るく活発な元気っ子。ダウナー系雑食性ゲーマーJD転生者がなんの因果か中身になってしまった結果、化学反応を起こして色々と拗れた。よって現在は無口無表情系の物静かなヒロインちゃん。

わりと千種くんに絆されてるのをどうにかポーカーフェイスでかわしつつ彼の殺し文句を「こういうこと言う奴」「ギャルゲーの主人公だから」と回避して戦う乙女。ちょっと自分の心に気付きつつも見て見ぬふりをするのが最近の悩み事。でも彼と過ごすのはそれはそれでアリなので地元に残ってくれるのはめちゃくちゃ嬉しい。

ちなみに向き合ってちゃんと受け入れれば秒でエンディングに入るぐらいの大勝利度。がんばれ女の子。

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