朝から襲撃を受ける、なんていう最低の出だしを迎えた俺は、現在、自転車を全力でこぎ続けていた。なんてったって朝から爆弾魔に襲われなけりゃいけないのか。
「止まりやがったらうちやがります。」
チャリのケツに仕掛けられたC-4に加え、後ろからはUZIを乗せたセグウェイが追いかけて来る。完全に武偵殺しの手口だ。
なんで俺が!という怒りとか、ここで終わるのかという絶望とか色々渦巻いて頭が真っ白になる。
今朝、バスに遅れた俺、遠山キンジは、自転車で登校しようとしていた。のだが、なんとチャリのサドルに爆弾が仕掛けられていた。オマケに、UZIを乗せたセグウェイまで追ってきている。
全く訳が分からないが、死にたくないから、チャリで爆走してるのである。
背後のセグウェイはなおもピッタリくっついてきている。このまま人気の無い所を走り続けるしかないのか。
そう思った時。目の前を茶髪の女子が歩いてるのが見える。このままじゃ巻き込まれるかもしれない!
「おい!そこをどけ!爆発するぞ!」
呼びかけた。だが、かえってそれが悪かったのかもしれない。
「いったぁ!」
そいつは、あろう事かその場でコケやがった。
その動きは明らかに強襲科のものじゃない。探偵科とかそっちの方だ。そんな奴を轢いたら病院送り待った無しだ。くそ!こんな時に!
その女子を避けようとして、タイヤが滑る。バランスを崩した俺は、そのまま転んでしまう。幸いチャリは女子を避けて転がっていくが、俺は女子にのしかかってしまう。
「いってぇ……。……?」
転んだのに、何故か顔が幸せだ。こう、柔らかいし、チョコみたいな甘ったるい匂いがする。目を開けて見ると、それは、正しく女子の胸だ。大きくも小さくもない、標準サイズだ。……なんて言ってる場合じゃない!
俺は、こういうのはダメなんだよ!あぁ、血流が体の中心に集まって……。こない?何故だか、ヒスる気配がない。
なんて、考え事をしてるのが悪かった。
「うわぁ!変態だ!どいてよ!」
思いっきりどかされそうになる。だが、その前に更に大きな衝撃が襲う。チャリがセグウェイを巻き込んで大爆発を起こしたのだ。
やっぱり本物だったか。たが、とりあえず危機は去った。……訳じゃなかった。
「…………。ってか!いい加減離れて!」
いつまでも胸を枕にしていたせいで激怒した女子に突き飛ばされる。
「いてぇ!」
石頭の俺じゃなければ死んでもおかしくない衝撃だったが、それを気にもとめず通学に戻ってしまう。武偵の女子は逞しいな。ほんと。
しばらくクラクラしてたが、復帰した俺は、辺りを見回す。だが、呑気に休む暇は与えられない。
「とまったから、殺しやがります。」
無機質で不気味な声が、セグウェイと共にこちらへ迫る。今度は三機、どれもUZIを構えている。
「くそ!こんなんどうすりゃいいんだ!」
魔改造されたベレッタを抜き、構える。そして、そのうちの一機に狙いを合わせる。引き金を引こうとしたその時、
「伏せる!早く!」
脇道から甲高い声が聞こえる。伏せてから、そちらの方を向こうとしたその時。
バリバリバリ!
拳銃をぶっぱなす音が脇道の方からする。それに伴い、
バキバキバキ!と破壊音がして、セグウェイが爆破四散する。す、すごいぞ……!一気に三機も正確に撃ち抜くなんて、普通の武偵じゃとても出来ない。
「こっちに来て!」
セグウェイを撃破したらしい少女は、ピンク髪のツインテールだ。ただし、中学生ほど。
「わ、わかったよ!」
その子のもとへ向かう。
「おい!どういうことだよ!何が起こってるんだ!」
この子はやけに冷静だから、何か知ってるはずだ!
「あんたは、武偵殺しに狙われてんの!ほら、下がって!あとはあたしがやるから!」
俺をどかして、少女はまた道へ戻っていく。俺は呆然とその姿を眺めていた。状況は全く理解出来て無いが、分かったことがある。それは、あの子が普通じゃないってことだ。ピンク髪の子じゃない。茶髪の地味な子だ。
あの時、俺は明らかにヒスるラインを越えていたはずだ。なのに、ヒスる兆しも何も無い。
今までヒスりにくい子はいた。でも、今回はヒスのヒの字も無い。皆無なのだ。
考え事をしてる間も銃撃戦は続いていた。ねちっこくセグウェイは追って来てるが、全て撃退してるらしい。
しばらくして、銃声が止む。
「あんた、危なかったね。」
ピンク髪の子は多少汚れてはいるが、無傷だ。
「君……。凄いね。中学生なのに。」
素直な感想を漏らす。だが、
「違う!あたしは中学校じゃない!」
八重歯剥き出しで吠えられる。そう言えば、女性は歳を余計に多く見られると怒るらしい。
「ご、ごめんね。まさか小学生でそこまで出来るとはね。君は天才だよ!」
オーバーなリアクションで褒めちぎる。だが、
「ちーがーうー!バカ!節穴!」
少女は顔を真っ赤にして地団駄を踏む。足元のセグウェイの破片が木っ端微塵になる。なんて馬鹿力だよ、おい!
「馬鹿にしすぎ!風穴!」
少女は駆け寄って来る。そして、胸ぐらを掴もうとした、その瞬間。
「あっ、ちょっと!」
小石に躓いて、転んでしまう。そして、俺に倒れかかってくる。
「おいっ!ちょっ!」
俺も咄嗟のことで、上手く受け止められず、倒されてしまう。
……顔がまたしても柔らかい何かに押し付けられている。本日二度目だ。クチナシみたいな甘酸っぱい匂いがする。ついでに、さっきの子のチョコみたいな匂いも。だが、一向にヒス血流はこない。
「……?死ね!風穴!あんたなんて助けなきゃ良かった!」
ピンク髪の子は、バッ!と起き上がり、俺の腹をさっきの地団駄の威力で踏みつけて去っていった。……もう訳わかんないな。
後々分かったことだが、彼女はアリアというSランク武偵だったらしい。今まで一度も犯人を逃したことがないとか。まぁ、もう俺には関係の無いことだ。
それより、大事なのは、茶髪の子。少し不機嫌な理子に調べてもらったところ、彼女は芦捷桐未というらしい。
Bランクの探偵科の生徒で、異様な記憶力を持つらしい。ただ、推理力や洞察力に優れてる訳では無いため、このランク付けがなされている。
つまり、ヒステリアモードには特に関わりは無いことになる。
しかし、彼女、もしくは彼女の匂いのする間はヒスることは全く無い。
だが、匂いが消えた後では、ヒスる可能性がある。というのも、その後白雪で実際なりかけたからだ。
何故かは分からない。ただ、彼女が俺の平穏な生活の鍵を握っているのは確かだ。
ヒステリアモードの恐怖が無ければ、俺の女嫌いもどうにかなるし、普通の生活を送れるようになるのは間違いない。
そう考えた俺は、彼女の事を調べあげることに決めた。
理子には引き続き調べて貰うことにしている。探偵科Eランクは伊達じゃない。俺じゃあ調べられる情報なんてたかが知れてる。
だったら、そっち方面にめっぽう強い理子に任せるべきだろう。
理子は、ふざけた感じの人柄とは裏腹に、Aランクに属する程の、情報収集のプロだ。
理子の手にかかれば、スリーサイズから起床時間。果てはケータイのパスワードだって、バレてしまう。
俺も、何度も助けられている。まぁ、その度に報酬としてエロゲやらギャルゲーやらを買わされて恥ずかしい思いをしている。
なんでも、理子は低身長のせいで、十五禁のゲームは買えないらしい。
まぁ、理子の特徴はこの際どうでもいいとして。俺は俺で、追跡して、彼女の事を調べよう。そして、夢のノンヒステリアモードライフを満喫してやるさ。
ところで、最近暑くなってきましたね。足の早い切り身なんかはすぐ腐ってしまいますね……。
以上。主人公の説明でした。
追記 感想で頂いた誤設定直しました。すみません。