しばらくの沈黙が私とキンジの間に流れる。お互いに何を言う訳でもない。
まさか、そこまでの変態だったとは。ついにHSSに積極的になったのか?
考え事をしてる私より、ただ驚いていたキンジの方が初動が早かった。
「お、おい……。誤解だ。とりあえずその物騒なブツを下ろせ。」
冷静に、宥めるように語りかけてくる。ただ、拳銃を突きつけられてるからか、少し汗をかいている。
「……そ、それは無理かな。流石に盗撮にストーキングは看過出来ないね。」
盗撮は女子寮に侵入してる時点で許される行為じゃない。
「違うんだよ。俺は、ただお前に話があったんだよ。」
焦って捻り出した言い訳なのか、いまいち意味が通っていない。それに、目を逸らしてきてるし。
「じゃあどうして盗撮に走ったのさ。」
話したいなら百歩譲ってストーキングは許せる。だが、盗撮は言い訳出来ないだろう。
「それは……!後で話す。だから、いい加減下ろせよ、そんなもん。」
……まぁ、キンジにはそんな度胸がある訳ないか。話だけでも聞いてやろう。
「……分かった。少しだけなら聞く。」
拳銃を下ろす。そこで、少しキンジは肩の力を抜く。しかし、譲歩はそこまで。
「変わりに、りーを呼ぶし、話は私が決めたとこでさせてもらうよ。」
「……出来れば、二人で話せないか?その、あまり関係ないやつには聞かれたくないんだ。」
なんてワガママな。盗撮にストーキングと二大悪質犯罪を一旦見逃したのに、まだ望むか。
「変態の言葉を鵜呑みにしろと?」
今回は、全く非はない。だから、かなり強気に出る。
しばらくキンジは悩んでいる。そんなに込み入った話なのか。だが、ここは譲歩しない。
「分かった……。ただ、他人とは少し距離は置いて欲しい。」
意地でもそこは譲らないらしい。本当に強情だな。流石にこのままじゃ平行線のままだ。しょうがない。折れるしかないのか。
「はぁ……。分かった。じゃあ、移動しようか。」
二人揃って向かうは、りょうの待っている教室だ。まさか、運命の相手がキンジな上に、盗撮魔でストーカーだったとは。迂闊に願い事なんてするもんじゃない。
ヒスキンジが憧れ云々言っといて、態度が悪くないか?とかは、受け付けない。
だって、あれとこれは別人だからね。
「で、ある程度先に聞いとくけど、なんで変態してたの?」
「……俺は盗撮なんてして無い。それに、ストーキングってのも誤解だ。」
すました顔で言いやがる。あくまでとぼけるのか。
「じゃあ誰がカメラなんて置いたのさ。」
他にやり得る奴なんて居ないだろう。
「それは後で話す。……その、一人呼んで良いか?」
「誰?場合による。」
「少し、協力して貰った奴だよ。女だから平気だよ。」
うーん。変態助長する女子は頂けない。まぁ、話くらいは聞いてもいいか。
「好きにしてよ、もう。」
これ以上は譲歩するまいと決意しながら、歩みを進める。結局なにが言いたいんだろう……。
教室には、既にりょうが着いていた。ついでに、フリフリのゴスロリ制服を着こなした金髪ツインテのチビがいた。
「おー!お前が変態か!きーちゃんに手を出すとは不届き者め!成敗してくれるわ!」
りょうは臨戦態勢だ。拳銃を構えてる。
「おぉ!君が例の!私はりこりん!よろしくぅ!」
もう一人の子は馴れ馴れしいし、ハイテンションだ。右手にはパックのいちごミルクを持っている。
「すまない。とりあえず、理子もそこの子も出ていってくれ。」
「えぇー!理子も聞きたいー!」
「きーちゃんに何をする気だ!変態!」
残念な事にキンジの言うことは、りょうも、理子(?)もまともに聞いちゃいない。オマケに、キンジのりょうの中での株は急降下。
だが、話が進まないのは面白くない。私はりょうを、キンジは理子を追い出す。
主にキンジが十分程時間をかけ、やっと二人きりになれる。
「で。なんですか?」
「えっと……。まずはストーキングについてだ。」
「それはもう良いよ。私が聞きたいの盗撮の方。」
侵入した形跡や隠し撮りはなかなかの技術だ。記憶力が無ければ、絶対気付けなかったし。それに比べ、キンジの追跡はあまり上手とは言えない。
「あれはだなぁ、お前の情報を手に入れる為に理子に頼んだんだよ。別に覗きとかそういうことじゃないんだよ。」
スゴく居心地が悪そうにしている。頭を掻いたり、キョロキョロしたりして、落ちつきが無い。しょうがない。そろそろ核心に迫るしか無い。変態の核心なんて見たくも聞きたくも無いけど。
「結局、なんで私にそんなに関わろうとするの?」
「それは……。そのだな……。」
なかなか言い難いことらしい。必死に言葉を選んでる感じがする。やっぱりろくでもない事を考えたんじゃないのか?
「簡単に言うとだな。その、今後俺とずっと一緒にいて欲しいって事だ。」
ほら。ろくでもな…………。え?
どうやら私は口説かれているらしい。もうちょい言うと、告白されてるととれるのかもしれない。
ボッと顔が熱くなる。視線が泳ぎ始め、ソワソワする。そりゃそうだろう。ネクラとは言えそこそこのイケメンに告られたようなもんだ。
「あ……。えっと……。え……。」
私がワタワタしているのを、キンジは不思議そうに眺めている。別に照れた様子も無い。無自覚だ。ただ、女の扱いには慣れてないせいだろう。キョトンとしている。
「ふぅー!さっすがキーくんだね!どんどんハーレムを築いていくんだね!」
「変態!天誅だ!きーちゃんに手を出すな!」
「キンちゃん!私がいるのに!浮気はダメだよ!」
理子とりょうと黒髪ロングの美人が、扉をタックルで突発してくる。
「理子!……と何で白雪までいるんだよ!」
キンジがかなりキレている。いや、そもそもさっき白雪なんてやついなかっただろ。
「だって!キンちゃんが浮気してるから!」
The大和なでしこな美人さんが血走った目でキンジにしがみついてる。Theと大和なでしこが言葉としては若干喧嘩してる感じがするが、気にしない。
少しキンジにいなされると、今度はこちらにターゲッティングしたらしい。
「泥棒猫!キンちゃんに手を出すなぁ!」
向こうから口説いて来たのに、なんて理不尽な。
「えっと……。私が何かした訳じゃないんですけど……。」
「キンちゃんが悪いんじゃないの!誘惑するあんたが悪いのよ!」
えぇ……。白雪さん、人の話聞いてますかね。
「おぉ!キーくん取り合いだぁ!私も参加しちゃおうかな!?」
理子は心底楽しそうだ。
「うるさい!キンちゃんは私のものだもん!」
空間のカオスさに、いつもは騒がしいりょうが押されて黙っている。もう訳わかんない。
「と、とりあえず、外出ようか。」
「あぁ、そうするか。」
どさくさに紛れて、面倒くさそうなキンジとと共に外へ出る。とりあえず落ち着ける所へ言いたいんだが……。
別の教室に移る。
「もう良いよ。話に来た理由は理解したからさ。」
さっきずっと考えたんだが、多分昨日の爆発事件の時に、私にHSSを抑える力があることに気が付いてしまったんだ。たがら、HSSを嫌がるキンジは私を近くに置きたいんだな。
「それって、どういう意味だ?」
少し不審がってる。自分の秘密がバレてるか、ハラハラしてるのかもしれない。
「HSS、でしょ?」
まさか知られてるとは思ってもみなかったのだろう。目を見開いてる。
「お前……。どこでそれを?」
「まぁ、この体質がある辺りで察して欲しいかな。」
「そうか……。なら、話は早い。俺はHSSなんて嫌なんだよ。だから、頼む。出来るだけでいい。傍にいて欲しい。」
こいつ。恋愛に対して疎くたって、どれだけ朴念仁だろうが、それが恥ずかしい言葉だってことぐらい気付いて欲しい。真顔で言われたら、照れちゃうだろう。
だが、これに関しては安請け合いは出来ないな。
「ずっとってのは無理だね。それに、変な奴が多すぎだし。」
キンジも、流石にそんな簡単に通るとは思って無かったらしい。
「それはそうだが、頼む。暇な時とかでも良い。とにかくHSSはごめんなんだ。」
知らない奴に頼むってことは相当嫌なんだよな。まぁ、正直バレたらこうなるんじゃないかな、とは思っていた。特に兄が殉死してからは、HSSを嫌がる傾向がつよくなってたし。
私の出来ることなんて、こんくらいしか無いんだし、覚悟は出来ていた。バレないようにしようとしたって、限界はある。その時が来たら何らか変化が生じるものだ。
もう、迷ってたってしょうがない。逃げられもしないし、どうせなら協力してやろう。
「しょうがないね。協力してあげる。……ただし、面倒事はごめんだよ。」
「ほ、本当か!?これから、よろしく頼むぞ!」
キンジは心から喜んでいる。まぁ、私は何かする訳じゃないし、良いか。