そんな疑問が残るでしょう。そこには本編ではなかなか語りにくい事情があります。
HSSを知る桐未にとって、ヒスキンジとキンジは別物です。ましてや、自分がいる間はヒスらない訳で、それなら照れることも何も無いわけです。
要するに、ヒスったキンジ相手なら軽口叩く余裕はないってことです。照れまくりです。楽しみ……!
とりあえず話のまとまった私達は、元いた教室に帰った。さぞ騒がしいんだろうな、と思っていたのだが、そこにはりょうしか残っていなかった。
「……何事?これ。」
「また白雪か……。」
そこに広がっていたのは、切り刻まれた机や椅子。壁には弾痕がある。りょうは隅で壁に寄りかかって、力無く座っている。
「きーちゃん聞いてよ……。なんか刀を取り出した白雪ちゃん?がさぁ、理子ちゃんを襲ったのよ。そしたら理子ちゃんが煽るもんだがら白雪ちゃん本気でキレてさ。マジで殺しにかかってたよ。」
その中でりょうはただただ圧倒されていたと。
「その、俺の連れがすまない。あいつには言っとくから忘れてくれ。」
キンジはかなり疲れた様子。どうやら今ままでにもこんなことがあった感じだ。
「理子って人は大丈夫なの?」
「あぁ、あの人もすばしっこくて、あっという間に逃げてっちゃったよ。」
キンジの周りはまともな人間はいないのかね。早くもついてきて欲しくなくなってきた。まぁ、嘆いてもしょうがない。一度決めた以上はやりきろう。
「……そ言えば、変態さんとはどうなったの?」
私が嫌がる素振りがないからか、少し態度が和らいでる。
「ん?あのね、しばらく一緒にいる事になったよ。」
「!!変態め!きーちゃんに何をした!」
バッと立ち上がり、ふたたび警戒態勢に入る。
「なんもしてねぇよ!ただ話し合って決めたんだよ!」
キンジは必死に弁解する。だが、
「そんな訳無い!人嫌いのきーちゃんには、私ですらしばらくは鬱陶しがられたのに!仲良くなるのにどれだけ時間がかかっと思ってる!」
りょうは全く納得した様子がない。めちゃくちゃいきり立ってる。いや、心配してくれるのは嬉しいけど、失礼だね、りょう!
「別に人嫌いじゃないよ!りーは失礼極まりないよ!」
「そんな……。きーちゃんが変態を庇うなんて……。おい!きーちゃんを返せ!洗脳か?それとも、クスリか?どれにしたって許さいないぞ!」
唖然としたと思ったら、今度はキンジの肩を持って揺さぶり出す。今にも拳銃で殴りそうだ。
揺さぶられてるキンジは、残念ながら力でりょうに負けてるらしい。……これってどうしたら説得できるのか。
「ありがと。りーの優しさは分かったから。だからもう良いから。本当に何も無いって。それとも、私の事信じられない?」
キンジからりょうを引き剥がして、今度は私がりょうの肩に手を置いて語りかける。
「むぅ……。嘘ついてる訳じゃ無さそうだし、きーちゃんだね。」
一応落ち着いてはくれた。が、まだ腑に落ちてないらしい。
「じゃあきーちゃん答えてよ。なんでこんなのと一緒にいるのさ。」
何故、と来たか。まさかキンジのHSSとかばらす訳にはいかない。うーん。悩ましい。
「だって、こいつ遠山キンジでしょ?あの元Sランクの。」
流石有名人。名前だけは知られてるな。
「でも、実力に波があるとか。」
「お、俺の事はいいだろ。その、Eランクの探偵科にはどうにもならないことがあるんだよ。」
あまり詮索されたくないキンジは、かなり適当に誤魔化しにかかる。ただ、少し挙動不審だ。
「そうなの?きーちゃん。」
「そ、そうだよ。ただ、あまり公にするような依頼じゃないから秘密にしたいの。」
ここはキンジに乗っかっておくべきだ。しばらく、うーん。と悩んだりょうだったが、
「信じるよ。ただ、手を出したら許さないからね。じゃあ、また明日ねー!」
キンジを威圧し、こちらには笑顔で手を振って去っていく。
「疲れたから私も帰る。」
ここ二日で一年分は体力使った気がする。
「あぁ。もう今日は解散だな。これから頼むそ。」
キンジもキンジでヘトヘトって感じだ。
「私は何もしないけどね。」
適当に返事をして、私も教室を出る。ちなみに、りょうはこっからまた訓練するらしい。同じ寮なのに一緒に帰らないのはそういう事だ。
ヘトヘトになりながらやっとこさで着いた自分の部屋。だが、鍵が閉めたはずなのに空いていた。まだ何かあるのか。一応拳銃を構えて覗いたリビングのソファーでは、理子がくつろいでいた。
「あ、おかえり!お邪魔してるよ!」
……。いやいや。
「何でここに?」
さっきが初対面だろう。流石にもう終わりかと思ってたのに……。
「いやぁ、雪ちゃんから逃げてくるついでに色々とね。」
色々あっても普通知らん人の家に入るかね。
「あ、でも、きりりんとりこりんは初対面じゃないよ!」
えぇ?きりりん誰だか分からんし、初対面じゃない訳ないし。私に限って忘れる訳ないよね。
「分からないって顔してるねぇ。じゃあ、ヒント。きりりんが最近やってるゲームは?」
PSPでモンハンしてるか、パソコンで武偵のシュミレーション的なゲームをしてるかの二択だ。しかし、それに何の関係が。
「いや、分からないな……。」
理子はスゴく楽しそうにしてるな。少し意地悪な笑い方だけど。そんな理子に、一方的に話しかけられてて、完全に圧倒されてる。
「くふふ。じゃあ答えを教えてあげちゃうよ!KRMちゃん!」
KRMちゃん、か。大体理解したぞ。昨日PCでやってた武偵のシュミレーションゲームのプレイヤーネームだ。
「やっとお分かりで!ふふふ。きりりん鈍いねぇ。私達結構組んでたじゃん!」
あぁ!そう言えば、最近似たようなフリフリの服を着た人とよくやってたっけ。
「昨日盗撮してたら、気付いちゃったんだよね。」
よくもまぁいけしゃあしゃあと。
「それで、なんの用なの?」
結局来た意味が分からない。
「いやね。きりりんとは仲良くなれそうだなぁと思ったから、どうせならプロデューサーになろうかな、とか思ったんだよ!」
「プロデューサー?」
「そ!理子Pだよ!折角地は可愛いのに、そんなカッコしてたら勿体ないから、私が可愛くしてあげよう!」
ソファーにふんぞり返って、手元にあった雑誌を丸めて手でバンバン叩いている。プロデューサーのモノマネだろうか。
理解が追いつかない。なんともマイペースな人だな。つまり、私を陰キャから引っ張り出そうってことか。
「いや、いいよ……。私はこれでも不便して無いから。」
それに、理子と一緒に居たら絶対つかれるし。
「ダメでーす!もう決定事項でーす!さぁ、りこりんのプロデュース、楽しみにしててね!」
理子はルンルンスキップで私の部屋を出ていく。嵐の様な人だな。
でも、ああいうタイプの人はりょうで充分なんだよな。どうしよう。確か探偵科だった気がするし、絶対付きまとわれるだろう。明日から気が重いな……。
色々面倒になって、カップ麺をすすり、シャワーを軽く浴びてベットに潜る。
今日一日を振り返る。
ストーカーから逃走した朝。
それに怯えたままうけた授業。
探偵科ではそのストーカーの視線に晒され。
いざ決闘すれば、いつも自分が監視してるつもりでいた遠山キンジで。
話し合いをすれば、口説かれて。
終わったと思ったら修羅場に遭遇して。
ヘトヘトで家に帰れば理子がいる。
これで疲れないはずが無い。布団に入った瞬間から既に睡魔に呼ばれている。
明日からの大変な日常に備えて、私はまだ九時にも関わらず、深い眠りに着いたのだった……。