羽岡じゃない方です。頑張れ元軍人。
ハクから肉親の話を聞いて数日経ったある日の事。
「此処が……か……」
俺は
何故、羽岡女子学園じゃないのか……話は昨日に遡る。
『……で有るから、この数式を組み込むと……』
「(この問題……演習の時に習った計算式と同じっぽいから問題ないな)」
取り敢えず授業は普通に出た。尻尾や手はどうしたって?
学校には偶に空き教室と言うのがあるだろ?友希那の机の角にカメラ置いて、俺は別室でノーパソ開いて繋げて1人リモート授業だ。
因みに仕切りもあるので覗かれる事も無いし、入室時は名前を聞いて筆談。安心設計と言えば安心設計。
手は気合だ。変わっても手は手、はっきり分かるんだな。
ピロン
「(CALL……差出人は学園長か)」
机のカメラの電源をオフにして、学園長室のカメラに切り替える。
『……お、今回は早いね』
「まぁ、呼び出し受けてますから即時対応ですよ。で、何用ですか?」
『あぁ、そうそう。実は明日から教師を担当して欲しくてね』
「教師ですか、まぁ出来る事は出k……すみません、もう一度お願いします」
聞き間違えなら良いが……いや、聞き間違えだろう。
『ん?だから
聞き間違えじゃなかった。
『手続きは済んでるから頼んだよ〜』
ブツリと言葉を返す前に切られた。勝手に手続きを済ませて一方的に切ってんじゃねぇよ。
「……はぁ」
再び教室のカメラに切り替え、遅れた分を素早く取り返す。
キーンコーンカーンコーン
『という事で今回はここまでだ。起立は要らんから各自のんびりしてくれ』
「漸く終わったか。ぐっ……ふぁぁぁぁ……」
思いっきり伸びをしつつ、同時に欠伸が出る。無意識だが尻尾も大きく左右に振っていた。
「さて、一体どうしようか……」
『何かあったの?』
友希那の声が聞こえた。
「いや、何というか……詳しい事は後で話す」
『良いから話しなさい』
「分かったよ……昼飯食べながら話そう。こっちの教室で良いか?」
『えぇ、構わないわ。リサも来るけど大丈夫よね?」
「オーケー……じゃあ現地で」
そう言い、ノーパソを閉じようとした瞬間だった。
「来たわよ」
「どうも〜♪」
「早ぇよ。早すぎんだろ」
まだ呼んでから数秒だぞ。
「……取り敢えず、テーブル用意するから適当に座ってくれ」
「「臨時教師?」」
「そうなんだよ。んぐっ……全く、人の事を考えねぇ奴だな」
テーブルの上に弁当を広げて3人仲良く食べ始める。因み今日は3段のドデカ弁当だ。
勿論俺が作ったもの。この事を考え、予め友希那とリサには弁当は要らないと言っといた。その分、俺の苦労が詰まっている。
まぁ食えれば良し、それで俺満足。ヨシ(自己完結)
「でも急だね〜。臨時教師なんて」
「大体は病とか産休が主だ。犯罪……は余程の事がない限り起きんだろ」
「えぇそうね。それで何時からなの?」
「明日」
「……もう一度言ってくれるかしら?」
「だから明日だ。これについては俺からでも文句の一つや二つ言いたかったけどな」
はぁ……と溜め息が出る。
「頑張りなさい。私からはそれしか言えないわ」
「嗚呼。そうだな……」
「因みにレンが担当する学校って何処なの?」
「まだ分かってない。メールで送ってくるんじゃねぇのかな」
そう言うとピロンとまたノーパソから通知音が鳴る。
「ん、そう思ってたら来たぞ」
「何処なの?」
「えーっと……『花咲川女子学園』みたいだな」
「「……」」
一瞬にして2人が無言になり固まる。
「……どうした友希那?リサ?」
「いや〜、実はね……」
「まさか、羽岡に居ないバンドメンバーが居るとは」
他にも居ると言う話を聞いて、
左腕に身に付けた腕時計を確認する。時刻は午前6時32分。朝日が若干眩しく感じる。
「……あの〜、臨時教師の方ですか?」
背後から声をかけられ振り返る。そこに居たのはガクガクと足を震わせていた白く長い髪を頭の後ろで結び、眼鏡をかけている。言わばポニーテールの水色の瞳の教師……ん?
「「霧霜?/た、隊長!?」」
2人の声が重なり、目と目が合う。さらに震えていた霧霜の足がピタッと止まり、力が抜けたかの様にその場にへたり込んだ。
「な、なんで隊長が……」
「
「す、すみません……でも聞いた話だと学生ですよね?」
「まぁな。と言うかお前は何故此処に居るんだ?」
聞きつつ手を差し伸べる。霧霜はその手を取り立ち上がった。
「先生に3日間だけ教師を担当して欲しいと言われて……」
「マネージャーの仕事もあるだろ?バレないのか?」
「まぁあの時は変装してますから……あはは……」
スーッと目を逸らす霧霜。オイ、コッチヲ見ロ。
「……という事で、私が確認に承りました」
「急に本題に戻そうとするな」ガシッ
「んぎぃっ!?」
徐ろにアイアンクロー。メリメリと少しずつ力を入れつつ持ち上げる。
痛みが強くなるのを感じたのか、踠き始めた。
「いなぁぁぁぁぁ!?」ジタバタ
「んー?なんだって?」メリメリ
「ご、ごめんなさぁぁぁい!ゆるして!かおがつぶれりゅ!」バタバタ
時刻は午前4時。俺達は一体何をしているんだろうか。
「はぁっ……はぁっ……し、死ぬか思いました……」
「死ぬ気でやったからな」
手加減はした。手加減は。
「完全に入ってましたよね!?」
「気にすると頭輝くぞ」
「遠回しにハゲになるって言ってるじゃないですか!?」
「細けぇ事は気にすんな、ほれ。頭撫でてやる」
「私はもう子供じゃ……あれ?」
わしゃわしゃと頭を撫でられる霧霜だったが、ふと何かに気づいた様で鋭い目でこっちを見返した。
「何か持ってますよね」
「察知能力は大丈夫そうだな」
袖の中に手を突っ込み取り出したのは……黒色の
「
「大正解。だが良く知ってたな?」
「『
ハクも
「そうかい」
「でもどうして持ってるんですか?」
「まぁとある件でな……これだ」
「これ……って!?」
服を捲り上げ心臓部位を見せる。驚きを隠せない霧霜はそっと触った。
「脱獄した強盗犯にやられたものだ。油断してた俺も悪かったが」
「さ、触ってて痛くないんですか?」
「チクチク感はあって痛いは痛いぞ?抜いた時は大量出血で病院送りだったけどな」
「えぇ……」
若干引き気味の霧霜。そりゃそうだ。普通なら刺されりゃ既に死亡、運が良ければお亡くなり寸前と言ったところを悪化すると分かって抜いた……ん?花咲川に送られた理由ってそれじゃねぇか……?生徒の前でナイフを抜き、多量出血……あ。
「(もしや、送られた理由って完全に俺が原因じゃねぇか……?)」
「か、顔が青ざめてますけど……どうかしたんですか?」
「イヤナンデモネエョ」
後で皆に謝ろう。そう決心した後、一興を後にして霧霜に連れられ学園長室へ向かった。
「……という事で、羽岡から臨時教師として来ました。刻針時練です」
「同じく、臨時教師の霧霜雪です」
「刻針君の話は亜矢羽君から聞いているよ。ささ、楽にしてもらって構わないから。あと、普通に喋ってもらって構わないからね」
「そうですか」
「じゃあ失礼します」
促されるまま、俺と霧霜はソファーに座る。
「急に質問するけど、君の姿はともかく……本当に大丈夫なのかい?」
「……何がですか?」
「君は確か強盗犯に心臓を貫かれたと聞いたが……」
学園長は心配そうに俺に聞く。俺は首を横に振った。
「大丈夫です……それにやらなければ他の人が苦しみ、最悪の場合は自害してしまう。被害が拡大する前に止めなければ。その意を決する前に行動した」
と言いつつ、左胸部を撫でる。傷跡が残っているせいかデコボコしている。
「故に仲間を……友を救える。この傷跡は救えた証です」
「確かに人を救うというのは良い事だけど、君が死んだらもっと悲しむ人だっているんじゃないかな?」
「それは……」
「(ううっ……レンっ……死んだかと思ったよぉ……生きてて良かったよぉ……)」
「(リサ……遅くなってごめんな)」
「(友希那……?)」
「(心配させないで……貴方が死んだのと……思ったのよ……)」
確かに考えればリサや友希那は俺が危険な行動に出た結果、傷や暴走を受ける事となった。
そして心配そうに涙を流しつつも俺を責めていた。責任は俺にある……だからこそだ。
「……自身の行動も検討します」
「いやいや、別に注意している訳ではないよ。君も救いたいという気持ちは分かる。だからこそ、自分や他の人が傷付かない方法を考えてみたらどうだい?」
「……」
「ほ、ほら!しんみりした状況じゃ何も始まらないよ!えーと、羽岡学園長、担当する教科とかは?」
暗さを紛らわそうと霧霜が誘導する。
「……臨時教師と言っても君に担当してもらいたいのは各生徒の様子を見てほしいんだ」
「様子……ですか?」
てっきり英語とかだと思ったのだが、様子を見る……か。
「詳しいことは他の生徒から聞くと良いだろう。詳しいからね」
「期間の方は?」
「霧霜君と同じく3日間、お願い出来るかい?」
「分かりました。また何かありましたら遠慮なく呼び出して構いませんので。行くぞ、霧霜」
「はい!失礼しました!」
「すまない刻針君。君も生徒なのに……」
ガチャリと学園長室の扉を開けて振り返る。
「成し遂げれないなら手は挙げませんよ。生徒の為、教師の為……依頼は必ず成功させます……では」
そう言いつつ、扉をゆっくり閉めた。
「……さっきよりも目がシャキッとしてますよ」
「釘を刺されたみたいでな。絶対に完遂させてみせると言う思いが出てきたんだ」
「何ですかその『この戦争が終わったら結婚するんだ』と死亡フラグ建てた人が見事死なずして結婚した後、すぐに亡くなる感じは……」
細かいし分かりにくい。
「3行で頼む」
「死亡フラグ、折られる、でも死ぬ……これで良いですか?」
「ワオ、なんと分かりやすい」
「こんなことに掛けてる時間なんてないですからね!?」
「バレたか」
クスリと軽く笑いつつ、手元の時計を見る。
「多少時間はある。時間を潰す方法を考えないと」
「そうですね……あ、そうでした」
霧霜はバックから黒い液体が入った一本の小瓶を取り出した。
「これ、先生から」
「黒……いが、おそらく……俺の」
「はい、獣化の抑制剤です。飲めば任意で能力をコントロール出来る様になる……はず」
「確証はねぇのかよ」
「まだ試作ですから……取り敢えず飲んでみてください。あ、因みに一気飲みは……」
「……っ!」
小瓶の蓋を開け、黒い液体を一気に飲み干した。
「ちょっと、一気に飲んでは!?」
「はぁっ……っ!ううっ!?」
苦く、辛く、渋く……形容し難い不味さに口元を押さえ、吐き出すのを我慢する。
「話は最後まで聞いてくださいよ!?大丈夫ですか!?」
「いち早くコントロールしねぇと……この姿でも怯えさせてしまう……可能性もあるからな……ゲホッガハッ!」
「咽せながら言わないでください!」
「たし……かにな……」
意識が若干飛びそうになるが堪えつつ、身体に違和感を感じた。
手袋を外してみれば、獣と化していた手が。コートを捲れば、そこにあった尻尾が消えた様に思えた……いや、消えており、元の姿に戻っていた。
「どうやら、上手くいったみたいだな……もう大丈夫だ。霧霜、ありがとな」
「いえ、お役に立ったのは先生ですから」
「お前も手伝ったんだろ?ならお前にも感謝だ」
「そう……ですか?あ、ありがとうございます……あ、定期確認はしますので様子をメールなどで送って頂ければ……」
「分かった。取り敢えず、俺達の用意をしなきゃな」
そろそろ時間だ。と霧霜に伝えつつ、準備を行うことにした。
……予定外な事が起きなければ良いんだが。