1人と1匹   作:takoyaki

102 / 242
百一話です




記念すべき百一話です。
百話も特別っぽい感じですが、百一話ってのも第一歩って感じがして個人的には結構好きなんです。
てなわけで、どうぞ


地獄の沙汰も運次第

「どうぞ」

「あ、どうも」

1人取り残された(正確に言うならヨルも)ホームズは、誰もいない部屋に通され兵士に飲み物を出されていた。

ホームズは、出された飲み物の中身を確認せずに口に運ぶ。

そして、吐き出し、目の前の兵士にコーヒー(・・・・)を吹きかける。

コーヒーを吹きかけられた兵士は、無言で固まっている。

「………あ、えーっと……紅茶をお願いできます?」

兵士は、無言で顔を拭き、しばらくすると紅茶を持ってやって来た。

「お茶です」

「…………あ、どうも」

そして、口の周りを拭く為にハンカチを出す。

「…………ホームズ殿とおっしゃいましたね」

「えぇ、まあ」

兵士の質問にホームズは、コクリと頷く。

指揮者(コンダクター)殿とは、どういう関係で?」

「旅の仲間です」

ホームズは、にっこりと胡散臭い笑みを浮かべる。

(疑ってるなぁ………まぁ、そりゃあ、そうだよねぇ……)

ホームズは、心の中でため息を吐く。

こうなるから、一人で残りたくなかったのだ。

確かに、どっからどう見ても一般人のホームズが軍の関係者であるローエンと知り合いと言うのも中々疑わしいものがある。

とはいえ、それを全く隠そうとしないで聞いてくる態度を見る限り、この兵士の実力もたかが知れている。

「普段の職業は?」

「行商人です」

「行商人が何故、指揮者(コンダクター)殿と一緒にいる」

先程までの丁寧は口調は、何処へやら。最早ただの尋問である。

「さあ?道連れ仲間だって事でいいんじゃないですか?」

「ふざけるな!!」

兵士は、どんと机を叩く。

ホームズは、冷めたようにその様子を見つめる。

「お前らは一体何を知っている?何を企んでいる?

あの会議室での事は遠巻きから見させてもらったが、明らかに一般人が知っているレベルを超えていた」

「別に一般人じゃないでしょう?ローエンは?」

「とぼけるな。秘密兵器の開発はな、指揮者(コンダクター)殿が去って暫くしてから始まったんだよ。

指揮者(コンダクター)殿が知っていることはあり得ないんだ」

「…………へぇ」

ホームズは、ニヤリと笑みを浮かべる。

「それで、おれに何を聞きたいんです?」

カップの紅茶を口に運ぶとホームズは、上品にハンカチで口を拭く。

尋問されているホームズの肩の上でヨルはヒゲをピクピクと動かしている。

そんな空気の中、兵士はゆっくりと口を開く。

「お前、ア・ジュールのスパイか?」

意を決した兵士の質問にホームズは、面白そうに笑う。

「何がおかしい!!」

「あぁ、そうか、そうだよねぇ……そう思わない方がおかしいよねぇ」

ホームズは、笑いすぎて滲んだ涙を拭く。

そして、更におかしい事はこの質問全く外れてもいないところだ。

「安心したまえ。別に君たちの事をどうこうするつもりはこちらにはないよ」

ホームズは、口に人差し指を持って行き片目を閉じながら、面白そうに言う。

「とは言え、だ」

ホームズは、最後の一口を口に運ぶとハンカチで口を拭く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君達には、あるんだろうねぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホームズがそう言った瞬間部屋に武装した兵士達が入ってきた。

兵士達は武器を構え、ホームズをぐるっと囲んでいた。

 

 

 

 

「悪いようにはされない。それを信じてここに残ったんだけどねぇ………」

 

 

 

 

 

 

 

ホームズは、ハンカチを仕舞う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「君達は、指揮者(コンダクター)殿の言葉に逆らうのかい?」

ホームズは、ジロリと目の前にいる兵士を睨みつける。

しかし、兵士は平然として答える。

「たった今、伝令がきた。指揮者(コンダクター)は敵となった。殺してでも排除せよ、とな」

ホームズは、突然の言葉に目をむく。

「……それで、ローエンの仲間のおれにも、この様なおもてなし、と……一応聞いておくよ、指令を出したのは、誰だい?」

「ジランド副参謀長だ」

ホームズは、思わず歯噛みをする。

つまり、ミラ達は今、ラ・シュガルとア・ジュールとの両方から狙われているのだ。

「最悪だ……」

「安心しろ。貴様に対してはその様な指令は来ていない」

「なんて指令が来ているんだい?」

「『殺さずに捕らえよ』だ」

ホームズは、更に驚く。

「何で、おれなんか……」

「なんでも、貴様は精霊術を無効化する力があるらしいじゃないか」

ホームズは、ちらりとヨルの方を見る。

要するに対ア・ジュール相手の戦力としてホームズの事が欲しいのだ。

「……ジランドから聞いたのかい?」

「そうだ」

ホームズは、改めて自分をぐるっと囲んでいる兵士を見る。

「因みに、殺さなければ何をしてもいいとのお達しだ」

そんなホームズに兵士は、そう言うと武器を更に近づける。

ホームズは、ティーカップを持つ。

「……とりあえず、紅茶のお代わりをもらえません?」

「大人しく来てくれたなら」

それを聞いた瞬間ホームズは、手に持ったティーカップを鮮やかに目の前の兵士に投げつける。

鎧にあたり、がしゃんと砕ける音がする。

それに兵士達が一瞬気をとらた隙にホームズは、椅子から飛び上がり兵士達の後方に着地する。

「それじゃあいらないや。

あんな不味い紅茶、そうまでして飲みたくないもの」

ホームズは、やれやれといった風に肩をすくめる。

 

 

 

 

 

大人しく捕まらないなら、ホームズの次にしなければならないことはなんだ?

 

 

 

 

(決まってる……全員倒して、ミラ達の元へ行く!!)

 

 

 

 

 

ホームズは、そういって一歩踏み込む。

 

 

 

しかし、次の瞬間ホームズは膝から倒れる。

 

 

 

 

「あ………れ?」

 

 

 

訳がわからないという声を出すホームズを見て、今度は兵士が大笑いをする。

 

 

 

 

 

「やっと効いたか」

兵士は、そう言って薬の袋を見せる。

「残念だったな。お前の飲んだ紅茶の中にはしびれ薬が入っていたんだよ」

ホームズは、床に倒れながら先程飲んだ紅茶のことを思い出す。

「分かったか?お前がどうすべきか?」

「くそっ………」

床に向かってホームズは、そう吐き捨てる。

せっかく相手の不意をついたというのに、あっという間に相手のペースになってしまった。

「さて、お前には働いてもらうぞ。これでア・ジュール兵も恐るにたらないな」

兵士は、床に倒れているホームズの腕を持つ。

「………だ」

ホームズは、下を向きながらポツリと呟く。

「あぁ?」

何を言っているか分からず、兵士は尋ねる。

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、道理で不味かった訳だ」

 

 

 

 

ホームズは、俯いていた顔をあげる。

 

 

 

 

 

そこにあるのは敗北を悟った表情ではない。

 

 

 

 

 

人をコケにした意地の悪い笑みだ。

 

 

 

 

 

肩にいるヨルが尻尾を振るい兵士達の鎧に当てる。

ホームズは、突然の事に驚いている兵士の脇につま先から蹴りを入れる。

「グッ………カハッ!」

「なっ?!」

自分の隣の兵が気を失っていることが信じられないようだ。

「君もだ」

ホームズは、そう言うともう一人にも同じように蹴りを食らわせる。

二人が気を失って倒れるのを確認するとくるりとポンチョを翻し先程まで意気揚々と喋っていた兵士を睨む。

「紅茶に砂糖とミルク以外の物を入れるなんて言語道断だゼ」

ホームズは、ぺっと吐き捨てる。

「だからお前はおこちゃまなんだよ。なんたその好みは」

喋り出したヨルを見て兵士は、更に驚愕する。

突然の事の連続に兵士達は、全く理解が追いつかない。

「何で……」

「ん?」

「何故!薬が効いていない!効果は実証済みだぞ!」

「効くわけないだろう。飲んでないんだから」

そう言ってホームズは、濡れたハンカチを取り出す。

そう、最初からホームズは、紅茶を飲んではいなかった。

飲んだふりをして口に含み、その後口を拭くふりをしてハンカチに染み込ませていたのだ。

「殺気だった野郎どもに囲まれてちゃ、お茶を飲む気分にもならないよ」

「…………お前、まさか最初から?」

「まあね。ヨルがヒゲをピクピクと動かしてサインをくれていたし」

ホームズが指を指すとヨルはニヤリと笑いヒゲをピクピクと動かす。

最初からホームズの掌の上というわけだ。

ホームズを問い詰めていた兵士は、拳を握りしめ、ワナワナと震える。

「貴様……騙したなっ!!」

ホームズは、そんな兵士相手に肩をすくめる。

「失礼だなぁ。おれは何一つ嘘はついてないよ。

君達が勝手に勘違いしただけだろう?」

確かに膝をついただけで身体が痺れているなんて一言も言っていない。

「というより、お前らがそれを言うのはおかしいだろ」

ヨルは、やれやれと呆れている。

「君が言うと説得力が違うねぇ」

ホームズは、はぁとため息を吐いた。

「くそっ!!全員、あの男を捕らえよ!!生きてさえいればどうしても構わん!!」

その号令を聞くと兵士達はホームズに向かって襲ってきた。

振るわれる槍をホームズは、いつもの癖で左腕で防ごうとする。

 

 

 

 

 

『いい、二時間は絶対安静だからね?』

 

 

 

 

 

 

ジュードの言葉が脳裏をよぎる。

「やれやれ……」

ホームズは、屈んで槍の横薙ぎをかわすとそのまま足払いをかける。

そして、倒れた兵の膝の関節を踏み抜く。

「想像以上に大変だ」

「グガァあああっ!!」

激痛に叫ぶ兵士をよそにホームズは更にもう二三呟く。

そんな事をしてる間に次の兵士はホームズに剣を構え狙いを定める。

ホームズは、直ぐにその兵士と相対し、腰を落とし目の前の兵士にターゲットを絞り攻撃の姿勢をとる。

そして、その兵士の兜を見るとそこには、ホームズの後ろで振りかぶっている兵士が映り込んでいた。

「─────っ」

ホームズは、息を呑むと横に滑る様に移動する。

「獅子戦哮っ!!!」

そして、兵士の背後に獅子をかたどった闘気をぶちかます。

更にホームズは、振りむきざまに追撃をする。

「ガオォオッ!」

ホームズは、一声そう叫ぶともう一度獅子戦哮を食らわせる。

気を失ったのを確認する隙もなく次の兵が襲い掛かる。

まず目の前の敵の剣を蹴り上げる。

そして、そのまま蹴り上げた足を地面につけるとそれを軸にし、今度は後ろ向きに蹴り上げる。

ホームズは、足を炎に包み、近くにいる兵に今度は自分から攻めに行く。

「紅蓮脚!!!」

炎纏った蹴りを喰らい兵は倒れる。

いくら、頑丈でも所詮は鉄。

熱を持った攻撃には何処までも弱い。

ホームズは、倒れた敵を見下ろす。

弱点は、見つけた。

光明が差したようにも見える。

しかし、残念な事に兵はここにいるだけではないのだ。

時間をかければかける程兵達はは集まってくる。

案の定今のやりとりだけで兵士が増えてきた。

「………厄介だなぁ」

そう呟いた矢先、中継地点のテントの壁が割かれ槍を構えた大柄な兵士が突撃してきた。

「─────っく!!」

ホームズは、目の前にあった机を蹴り上げ、盾代わりにする。

「ハァアアッ!!」

突撃兵は、それに構わず勢いを緩めずそのままホームズに向かっていく。

兵は、机を足で押さえていたホームズをそのままテント外まで吹き飛ばした。

雨が振る曇天の空の下にホームズは、叩き出された。

空中を舞いながらホームズは、息を吸い込み、あらん限りの声で叫ぶ。

「ヨルーーーーッ!!!」

声に呼応するかのようにテントがぐらりと揺らぐ。

「─────来いッ!!!」

呼び出されたヨルはパッとホームズの肩に現れる。

それと同時にテントが崩れ去った。

 

 

 

 

 

 

「うわあああああっ!?!」

 

 

 

 

 

 

曇天の空の下、崩れたテントの下敷きになったラ・シュガル兵の叫び声が響き渡った。

 

 

 

 

 

「ふぅ……やれやれ」

背中から落ちたホームズは、よっこいせっと立ち上がる。

「お疲れ、ヨル」

「あぁ……疲れた」

ホームズがラ・シュガル兵達と戦っている間、ホームズはヨルにある役割を頼んでいた。

 

 

 

 

テントを崩せ、と。

 

 

 

 

 

主要部分の柱をバラせば崩すことはできる。

 

 

 

できるのだが……

 

 

 

 

「時間制限がいかつすぎんだよ……」

出現の拍子に巻き込まれたヨルも地面に投げ出されていた。

ヨルはため息を吐いて立ち上がったホームズの肩にぴょんと飛び乗る。

ホームズは、肩をすくめる。

「仕方ないだろう。普段とは違うんだから、色々」

そう言って腕の包帯を見せる。

そして、ホームズはファイザバード沼野を見つめる。

「とりあえず、集まってくる前にととっと行こうか」

「因みに、残り時間は?」

「後、四十分」

ホームズは、ヨルの質問に答えるとファイザバード沼野に向かって駆け出す。

 

 

 

 

 

そう、増霊極(ブースター)もなく、挙句霊力野(ゲート)もないホームズが、霊勢がめちゃくちゃなファイザバード沼野へと駆け出したのだ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしよう………」

雨の中、文字通りうねりを上げる大地を見つめ、ホームズはポツリと呟いた。

「お前は分かってやってるんだと思っていたんだが………」

 

 

 

 

 

しかし、残念ながら愚痴る時間も迷っている時間はない。

 

 

 

 

ここでもたついて居れば、直ぐに兵士がやってくる。

「ん?兵士……?」

ホームズは、そう言って腕を組む。

そして、思い出す。

そう、ホームズの母親は、通り抜けることが出来たのだ。

ホームズを助けながら。

今回は、前回と違う要素もある。

ホームズは、腕を解く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………突っ切るぞ、ヨル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とんでもないことを言い放った。

 

「言うと思った」

心底うんざりしたようにヨルは、言葉を吐き捨てる。

呆れこそすれ、驚きはしない。

ホームズ・ヴォルマーノとはそう言う奴だという事をこの十年近い付き合いで学んでいる。

「ま、一応人間のお前の母親に出来たんだ。無理ってことはないだろ」

ヨルの続きの言葉を聞きホームズは、苦笑いをする。

「君も同じ事考えてた?」

「忌々しいことにな」

ヨルの言葉を聞き、ホームズは走り出す。

ヨルは、ホームズの肩でため息をつく。

「念のため言っておくが、回り道して兵士達に会わないよう逃げるって手もあるぞ」

「念のため言っておくけど、それじゃあ、ミラ達と合流出来ないよ」

ヨルは、ホームズの言葉を鼻で笑う。

「随分と部の悪い賭けだな。こんな色んな意味で地獄のような戦場でお互い無事に会えると?」

ヨルの言葉にホームズは、ニヤリと笑った。

「ゼロに賭ける気は無いけど、一があるなら、そちらに賭けたいよね」

ミラ達と合流がゼロではないとホームズは、信じている。

ホームズの碧い垂れ目に決意の炎が灯ると、ヨルはため息を吐く。

こうなって仕舞えば、何を言っても無駄だ。

「やれやれ、忌々しいことだが、俺たちは一連托生だ。死ぬなんて許さんぞ」

「肝に命じておくよ」

 

ホームズは、そう言ってファイザバード沼野(地獄)に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







久々のホームズです。

普段は目指せ週二更新でしたが、今回は、ホームズが何をしているか、焦らす意味も込めて、週一で更新したんですが……
どうでしょう?ワクワクしまし………た?




ではまた百二話で( ´ ▽ ` )ノ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。