朝は、寒いですが、段々と暖かくなってきましたね
てなわけで、どうぞ
「エリーゼ、レイア、ローズを頼むよ」
ホームズは、ローズをレイアに渡す。
レイアは、無言で頷く。
「分かりました」
『任せろー!』
エリーゼとティポからも返事を聞くとホームズは、ポンチョを翻しマーロウと向かって歩き出す。
「ホー………ムズ…………」
そんなホームズの背中にローズが息も絶え絶えに言葉かける。
「…………がんばれ」
雨音に掻き消せられてもおかしくないほどのか細い声の応援。
ホームズは、一瞬だけ動きを止め、右手をひらひらっと振って返す。
どうやらホームズには、届いたようだ。
マーロウは、近づいてくるホームズとヨルを見ると納得した顔をする。
「なるほど、
ローズの捨て身の攻撃により、武器を取り出す精霊術は、使えない。
では、代わりに精霊術をと思ってもヨルがいるためこれも使えない。
ローエンの術を見るまで、レイとフォトンしか使えなかったローズを見れば分かる通り、マーロウもご多分にもれずその程度しか使えない。
その程度の術ならヨルに食われてしまう。
ホームズは、そんなマーロウに構わず肩をすくめる。
「金棒持った鬼と戦ったって勝てませんからね」
「ローズを捨て石にしたのか?」
ホームズは、冷めた目でマーロウを見る。
「あんまり下らないこと言うと怒りますよ」
マーロウは、きょとんとした顔をするが直ぐに面白そうに笑う。
「なるほど、そりゃそうか……バトンを繋いだ奴を捨て石というのは、侮辱だわな」
マーロウは、そう言ってやれやれと深いため息を吐く。
「ったく、俺が意地の張り合いにそんな無粋なことを言う日が来るとは思わなかったぜ。歳はとりたくないもんだ」
「年寄りに激しい運動は、毒です……どうです?諦めてそこを退いてくれません?」
ホームズは、馬鹿にした様にマーロウに言う。
マーロウは、言葉を鼻で笑うとホームズの右手を指差す。
「年寄り相手に震えてるくせに何を言ってやがる」
ホームズは、さも今気づいたように震えている右手を見せる。
「あぁ、これの事です?」
そう言って、右手を見た後、マーロウを見る。
「知らないんです?今、若者の間で流行っているんです。
こうすると、身体が温まるんですって。お手軽準備運動ですね」
「くくく、なるほど」
「フフフ、一つ賢くなりましたね」
そう言うと二人は笑い出す。
「くくく」
「フフフ」
「クハハハハハハ」
「フハハハハハハ」
雨に打たれ笑い出す二人。
『どうしたんだー!』
ティポの言葉には、耳も傾けず、更に声をあげ、笑う二人。
「ガハハハハハハハハハ」
「アハハハハハハハハハ」
そんな二人をレイアとエリーゼは、息を飲んで見守っていた。
「「ダ─────ハッハッハッハッハア!」」
二人は、足元の水を飛ばし同時に踏み込む。
水飛沫が立ち昇る水飛沫は、二人の姿を遮る。
立ち上る水しぶきが晴れると、そこには、お互いの手を掴みあっている二人がいた。
「相変わらず、嘘が下手だな。
そんな健康法聞いたことねーぞ」
「流行っているのは、
年寄りが知らなくたって当然です」
二人は、歯を食いしばりながら、軽くを叩き合う。
「ハン!言ってろ」
マーロウは、鼻で笑うとそのまま手に力を入れ、ホームズを崖に向かって押す。
「!!」
「そんな……ジャオさんを投げ飛ばしたホームズに……」
『力勝負で勝ってるー!?』
ホームズは、耐える事が出来ず、じわじわと後ろに押されていく。
(くそっ!!)
「世話の焼ける奴だ」
ヨルは、ため息混じりにそう言うと地面の水たまりを尻尾で叩きつけ水しぶきをマーロウに飛ばす。
(目潰し!?)
思わず怯んだマーロウにホームズは、蹴りを叩き込み距離を取る。
「んの……相変わらずだな」
マーロウは、目を手で拭くと呆れながらそう言葉を吐く。
「お褒めに預かり、どーも」
ホームズは、詫びれもせずさらっと返し、回し蹴りローズに貫かれ激痛を伴っている右手のある側面に向かって叩き込む。
それをマーロウは、腕を盾にし受け止める。
手応えは確かにあった。
しかし、マーロウは、ピクリとも動かない。
ホームズは、少し驚くと直ぐに顔を顰める。
何と無くでは、あるが予想はついていたのだ。
「いい蹴りだ」
マーロウは、そう言うとホームズの足を掴む。
「褒める程度にはな」
そう言ってホームズを振り回し、壁面に向かって投げ飛ばす。
背中に走る硬い衝撃に思わず息がつまり、壁に背を預け座り込む。
「ホームズ!!」
思わず駆け寄ろうとするレイアをホームズは、右手を前に出し止める。
ホームズは、もう片方の手で顔を押さえ、何とか意識が飛ばないよう抑え込む。
「……君は……君達は、ローズ達の治療をしていたまえ」
「でも!」
「……さっき言ったことをもう忘れたのかい」
ホームズは、ゆっくりと崖の壁から背中を離す。
「君は、今出来ることをやりたまえ」
ゆっくりとしかし、確実に立ち上がる。
「おれも今出来ることやる」
立ち上がったホームズは、マーロウを睨みながらそう告げる。
ヨルは、鼻で笑う。
「瀕死程度にやれよ」
「心配してくれて嬉しいよ」
ホームズは、ニヤリと笑いマーロウに向かって駆け出す。
駆け出したホームズから、マーロウの顔に向かって右手を伸びた。
このままでは、マーロウの顔にアイアンクローが決まる。
しかし、マーロウは、避けるそぶりを見せない。
代わりにホームズの右足を踏みつけた。
「──────!?」
「右手はフェイク。本命は、
そう言ってマーロウは、左拳を固め、ホームズに向かって左フックを放つ。
左フックは、ホームズのもっとも防御の薄いある右に向かって放たれた。
左フックは、ホームズの顔を捉える。
完全に口の中が切れた。
目を回してもおかしくない拳にホームズは、意識を飛ばさずマーロウに向かって右手を伸ばし、顔を掴む。
「叩きつける!!」
ホームズは、そのままマーロウを地面に向かって叩きつけた。
泥水を上げ、マーロウは、倒れこむ。
ひっくり返った天地に驚いたが直ぐにマーロウは、原因に目を向ける。
その容赦も慈悲もない一撃にレイアは目を剥き、エリーゼは、顔を逸らす。
踏みつけられた事により、マーロウの胃の内容物が逆流し、口から溢れ出る。
ホームズは、踏みつけの一撃を決めると直ぐに距離を取った。
「やった?」
「いや………」
その光景を見て、レイアは、ホームズに尋ねる。ホームズは、口の中に溜まった血をぺっと吐き出して警戒する。
ホームズの予想通りマーロウの手が直ぐにピクリと動いた。
倒れたマーロウは、ゆっくりと動く。
「………なるほど、その馬鹿猫がおれのフックの威力を殺したわけか」
マーロウは、口を拭うと立ち上がる。
そして、顔を上げ、ホームズを見る。
「おしかったな、あと一息だった」
マーロウは、ホームズに踏みつけられた腹を触りながら更に言葉を続ける。
「……なぁ、一つ聞いていいか?」
ホームズは、答えない。
それをマーロウは、了承と取ったのだろう。
「なんで、あそこで獅子戦哮や爆砕陣をしなかったんだ?」
マーロウは、更に続ける。
「それと、何でヨルの黒い球を使わないんだ?」
そう言って、マーロウは、傷だらけのホームズを指差す。
「そんでよ、何でおれが起きるまでの間、守護方陣を使ってないんだ?
いや、迂闊に攻撃出来ないってのは、分かるんだがよ……回復をしない理由は、ないよな?」
マーロウの質問にホームズは、答えない。
否、答えられない。
そんなホームズを無視してマーロウは、最後の言葉を告げる。
「お前、技を出す気力残ってないだろ?」
ホームズは、何も言わない。
しかし、それが全てを物語っていた。
そう、ナハティガルとの戦いで、ヨルにあるだけの黒い球を作らせたので、もうヨルに黒い球を吐き出す気力は、ない。
そして、ナハティガル戦、ジャオ戦、そして、ミラ達との合流までにホームズは、力を使い過ぎてしまっていた。
先程の剛照来が最後だったのだ。
更に言うなら、グミもない。
それは、ホームズの腰にあるかさの減った袋が物語っていた。
蹴飛ばし、掴み叩きつける。こんな事ぐらいしか、今のホームズには出来ない。
その状態で
マーロウは、呆れたようにため息を吐く。
「お前、そんな状態でよく俺に挑もうと思ったな」
そう言ってマーロウは、グミを口の中に放り込む。
ホームズは、どうでも良さそうに肩をすくめる。
「別に、どうだっていいでしょう?それよりも……」
「それよりも?」
「口臭いんで黙ってもらえます?」
ホームズは、馬鹿にしたように嘔吐したマーロウに言う。
マーロウは、ホームズのその強気な台詞を聞くとため息を吐いて笑う。
「……っとに、可愛げのないやつだよ、お前は」
「何です?おじいちゃん、お小遣いちょうだいとでも言えばいいんです?」
ホームズがそう言った瞬間マーロウは、近くに落ちていた籠手をホームズに向かって投げる。
ホームズは、首を少し傾げてかわす。
「前に言ったよな?『次は当てる』って」
「外してから言っても説得力ないですね」
ホームズは、馬鹿にしたように笑う。
そんな減らず口を叩きながらホームズは、雨のせいで分かりづらいが冷や汗をかいていた。
マーロウの実力は、自分の母親には、及ばない。
それは、分かっている。
しかし、それでも、それが弱いということにはならない。
元々、比べる対象が間違っている。
百と二百を比べて、百の方が小さいと言っているようなものだ。
ホームズは、静かに身構えるとマーロウを睨む。
マーロウもそれに対応する様に構え、今度はマーロウから先に仕掛けてきた。
振りかぶられたマーロウの拳をホームズは盾で受ける。
とても拳と盾がぶつかったとは思えない音が鳴り響く。
「ぐっ!!」
ホームズは、何とかマーロウの拳を受け切った。
しかし、化け物にギリギリ及ばない程度の人間が、その程度で終わるわけが無い。
「獅子戦哮!!」
突然現れた闘気の獅子にホームズは、地面に打ち付けられる。
「紅蓮拳っ!!」
そして、マーロウは、そのまま紅蓮の炎を纏いホームズに向かって振り下ろす。
ホームズは、何とか身体を捻ってかわす。
しかし、地面は弾け飛び、ホームズは、吹き飛ばされる。
「っ、くそっ!!」
ホームズは、巻き込まれながら立ち上がる。
そこにマーロウは、更に追撃を仕掛ける。
「三散華!」
拳と蹴りの混ざった三連撃が、ホームズを襲う。
「っっつ!!」
痛む身体を抑えて、ホームズは踏ん張ると回し蹴りを放つ。
マーロウは、静かに構えて捕まえ、拳をホームズの蹴りに向かって放つ。
「幻竜拳!!」
ホームズの足に衝撃が響く。
ホームズは、そのまま倒れこむが、身体を回し、何とか立ち上がる。
そこにマーロウは、更に追撃を仕掛ける。
「瞬迅脚」
崩れた姿勢のまま腕を交差しホームズは、受け止めた。
後ろに後退もせず、仰け反る事もせず、ホームズは受け切った。
マーロウもまさか受けきるとは思わなかったのだろう。
驚き目を少しだけ見開いている。
しかし、それだけでは終わらなかった。
ホームズのリリアルオーブが光ったのだ。
◇◇◇◇
『いいかい、二人ともそのまま、耳を傾けておくれ』
ホームズは、剛照来のおかげで比較的ダメージが軽く、直ぐに意識を取り戻した。
しかし、他の面子は、残念ながら意識が戻るには、まだ治療が必要だ。
『次、マーロウさんと戦うのは、おれだ』
そう言って、ホームズは、二人を見る。
『でもね、ヨルは黒球を吐き出せないし、おれにも技を出すだけの気力はない』
『ちょっと、そんな状態であのマーロウさんに挑むの?!』
レイアは、あり得ないと言う口調だ。
治療で回復できるのは、怪我ぐらいだ。
残念ながら、技を出す為の気力までは回復出来ない。
『仕方ないだろう?ヨルの黒球は全部ナハティガルの時に使っちゃったし、守護方陣・改(仮)もすっごく力使うし……』
『だったら、グミを食べてからにして下さい』
エリーゼの言葉にヨルは、ホームズの腰にある袋を逆さまにしてみせる。
袋からはなにも落ちてこない。
確かにナハティガル戦の前までは沢山あった。
エリーゼに渡す余裕まであった筈なのだ。
しかし、今、そこには何もない。
『まさか……』
レイアの言葉に、ヨルは、頷く。
『前にも言ったろ、あそこを通るのは、無茶とかそういうレベルの話じゃないんだ』
ファイザバード沼野を突き抜ける時に全ての回復道具を使ってここまで来たのだ。
『だったら、私のあげま……』
そう言って取り出そうとするエリーゼの手をホームズが止める。
『それは、君のだ。いいかい、君達はここにいるみんなを回復させなくちゃいけない。
その為に、それは必要なんだ』
『でも、それだったら、ホームズはどうするの?』
レイアの言葉にホームズは、考え込む。
『協力してもらえる?』
その問いにレイアは、首を横に振る。
『頼み方が違うよ、ホームズ』
ホームズは、静かに目を閉じ開ける。
『レイア、君の力を貸しておくれ』
『いいよ。どんな無茶振りにも応えてあげる』
レイアは、満面の笑みで、そう答えた。
ホームズは、それを聞くと少しだけ笑ってエリーゼとレイアを見る。
『考えがあるんだ。その時にまた指示を出す。
その代わり、それまでは君達は、今出来ることをやっておくれ……そう、治療をね?』
ホームズは、直ぐに真剣な顔になり、レイアとエリーゼに告げる。
二人は静かに頷いた。
『それで、ホームズ、作戦って?』
『あぁ、それはね……』
◇◇◇◇
「エリーゼ!!今だっ!」
ホームズのリリアルオーブが、エリーゼと
『すってー!』
ティポの言葉と共にマーロウから力が抜ける。
『あげるー!!』
今度は、ホームズに向かって放つ何かを吐き出す。
ホームズは、ニヤリと頬を吊り上げる。
マーロウは、その瞬間、何が起こったか悟った。
エリーゼの固有リンクサポート、ティポドレインだ。
「………てめー、俺の力を?」
それは、相手の力を
「レイア!!」
ホームズは、マーロウの言葉を無視してエリーゼとの
「任せて!」
ホームズは、崩れた姿勢を立て直す。
「行くゼ!転泡!!」
そして、下段回し蹴りをマーロウに放った。
下段蹴りを食らったマーロウは、背中から落ちる。
その瞬間、レイアの棍が軽く宙を舞う。
「いいものとーれた♪」
レイアの固有リンクサポート、アイテムスティール。
ダウンした相手からアイテムを奪う。
レイアが今回奪ったのは、
「パイングミ!?」
マーロウは、自分の手元から離れていくパイングミを信じられないという顔で見る。
そう、ホームズだってワーストコンディションで挑もうと思うほど、間抜けではない。
だから、マーロウから武器を奪い、そして、自分の武器を復活させたのだ。
エリーゼとレイアの固有リンクサポートを使って。
更に目指すべきタイミングは、マーロウがホームズの状態を看破した後出なくてはならない。
でなければ、不意をつけない。
人間は、他人が教えたものよりも自分でたどり着いた答えを信じる。
だからこそ、それが間違いだと気付いた時に、確実に動揺が走る。
実力で圧倒的に負けるホームズは、そうでもして相手の隙を討つしかないのだ。
慌てて取ろうと立ち上がるが間に合わない。
マーロウの手から離れたパイングミは、そのままホームズの元へ渡った。
ホームズは、ニヤリと笑って、パイングミを噛み、飲み込む。
その一連の動作の間に右足を後ろに引き紅蓮の炎を纏う。
「紅蓮脚!!」
立ち上がったマーロウにホームズは、紅蓮に燃える蹴りをぶつける。
「─────ぐっ!!」
熱と痛みでマーロウの意識が思わず飛びかけた。
そこに更に踏み替えたホームズの左脚が、マーロウを襲う。
「獅子戦哮!!」
闘気の獅子が、マーロウを大きく吹き飛ばし、壁にぶつける。
その衝撃で、舞い上がる水しぶきと泥水。
マーロウが離れるとホームズは、守護方陣を発動する。
ポンチョが舞い、ホームズの傷が少しずつ治っていく。
「さあて……仕切り直しだ」
青白い光に照らされる碧い瞳をマーロウに向け、ホームズはそう言い放った。
これでサポートは、全部出したぞー!!
何度も書き直しました。
書いては消し、書いては消しを繰り返し、やっと出来上がったものは元と大して変りませんでした……
エリーゼが自分からやると言って作戦に混ざったので、レイアは、ホームズに言わせる方にしました。
何か頼み事があれば、自分からするのが筋ですからね。
「〜してくれる?」はダメです。
「〜して」や「〜して下さい」でなければ!
ではまた百十話で( ´ ▽ ` )ノ
あ、企画はまだやってますよ
一番上の活動報告にあるのでどうぞ