1人と1匹   作:takoyaki

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百十話です。


余裕で百話超えたなぁ…………



てなわけでどうぞ


鎬が削れる

「やってくれるじゃねーか……」

マーロウは、立ち上がりながらホームズを睨む。

不意打ちからの連続の攻撃による火傷と打撲が、マーロウの身体に響く。

対してホームズは、守護方陣により回復している。

技を出す気力が回復し、ホームズのダメージは、減っている。

マーロウとホームズのコンディションは、完全に逆転した。

「一杯食わされたわけか……」

マーロウは、そう言って腰を落とす。

「剛招来」

静かにそう告げ、マーロウから赤い蒸気が発せられる。

その威圧感にホームズは、唾を飲む。

確かに状況は、ひっくり返った。

しかし、マーロウのタチの悪い所は、それでもホームズに勝利の確信をもたらせないところだ。

ヨルは、ホームズの肩からマーロウを睨む。

「根性見せたまえよ、ヨル」

「あぁ。ここまできたらそれしかないな」

ホームズは、腰を落とし、気合を込める。

「剛照来」

 

 

 

二人は、睨み合う。

 

 

 

 

そして、

 

 

 

 

「魔神拳!」

 

 

 

先に動いたのは、マーロウだった。

地面を這う拳の衝撃波がホームズに襲いかかる。

「爆砕陣!」

ホームズは、地面を踏み付け、爆破させる。

爆発の衝撃と、マーロウの衝撃波がぶつかり合い、水しぶきが立ち上った。

「うぉっ!」

立ち上る泥水のしぶきは、壁となり二人を遮った。

「獅子戦哮・氷牙!!」

その壁をマーロウの放った凍気の獅子が食い破る。

元々凍気の塊の為、水しぶきを凍らせ更に巨大になって、ホームズに襲いかかってきた。

「水には、負けるけど………」

ホームズは、そう言いながら、炎を纏う。

 

 

「氷に負けるわけないだろう?」

 

 

 

 

 

ホームズの炎を纏った蹴りが凍気の獅子に襲いかかる。

「獅子戦哮・焔!!」

炎の獅子は凍りの獅子を食い尽くした。

氷の獅子は溶かされ、水蒸気となって辺りを埋め尽くす。

マーロウは、水蒸気を掻き分け、ホームズに殴りかかる。

ホームズもそれに対応するように蹴りを繰り出す。

マーロウの拳とホームズの脚がぶつかり合い轟音が響く。

「っつ!」

「くっ!」

ホームズとマーロウは、それぞれ拳と脚を離す。

ホームズは、歯をくいしばると脚を踏み替える。

「輪舞旋風!!」

風を纏った回し蹴りをホームズは、マーロウに放った。

マーロウは、それを屈んでかわす。

そして、マーロウはそのままアッパーを繰り出す。

ホームズは、アッパーが辿り着く前に両足を地面につき、上体を逸らしてかわす。

そして今度は逆足でマーロウに蹴りを放つ。

左手でアッパーを放ち無防備な状態、そして、ローズの攻撃により右手に怪我を負っているマーロウへの右側からの攻撃。

間違いなくベストな攻撃だった。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、マーロウは平気な顔でホームズの攻撃を右腕で受けた。

腕で受けたとは言え、衝撃は右手の傷に響く筈だ。

だというのに、マーロウは平気な顔をしている。

ホームズは、目を向き、直ぐに納得する。

自分の母と並ぶくらい化け物なのだ。

常識が通じないのは当たり前だ。

ホームズは、脚を掴まれる前に距離を置く。

マーロウは、静かにしゃがみ、そして地面を掴み、黒い紐を引っ張り上げる。

「ヨルの尻尾か………成る程、今のやりとりの間にこんなものを仕込んでたわけか。ご丁寧に俺の脚にまで巻きついてやがる……」

ヨルは、顔色を変えず、(まあ元より黒いので変えようはないが……)尻尾を短くして自分の元へ戻した。

ウィンガル戦の時で学習済みだ。

不意を突くならともかく、もう、ばれている状態で、しかも掴まれてしまえば不利な要素しか残らない。

「賢いな、ヨル」

「何年生きてると思ってんだ」

ヨルは、吐き捨てるように言いながら、考える。

マーロウの武器を呼び出す精霊術をローズが潰し、そして、普通の攻撃の精霊術をヨルがいることで封じている。

拮抗はしている。

しかし、それは逆におかしい。

不意をついたとは言え、ミラ達を一瞬の内に倒した化け物じみた実力の持ち主にヨルの力を使わず拮抗している。

ローズも何とかマーロウに食らいついたが、それでも一撃を入れるのが手一杯だった。

 

 

 

「きっと、勘のいい君の事だ。気づいているだろう?」

ホームズは、ヨルにそう言う。

「まあな」

(消耗が半端じゃないな)

ホームズの息は今さっきに戦い始めたというのに既に上がっている。

馬鹿な発言が多くて忘れがちだが、ホームズは頭が悪いわけじゃない。

今回ホームズは、誰よりもマーロウの規格外の強さを理解していた。

その為マーロウに対する恐怖も人一倍だ。

更にマーロウから発せられるプレッシャーも尋常ではない。

そして、もう一つ、ホームズの戦い方だ。

ホームズは、普段の実力以上の力で戦っている。

この戦いで何かを犠牲にする様な勝ち方は、残念ながら通用しない。

より正確に言うなら犠牲にする物を選ばなければならない。

例えば、腕とか腹とかは論外だ。

そんな事をしてしまえば、確実にマーロウはそこを尽く。

もっと言うならそんなハンデを持ってしまえば、ホームズに勝ちはこない。

犠牲にする物を間違えた時点で、ホームズの勝ちは確実に無しになる。

だからこそ、ホームズは体力を犠牲にし実力以上の力を出している。

これで、消耗するなという方が無理である。

詰まる所、先程の不意打ちにつけこんでダメージを食らわせ、ボロが出るまえにケリをつけるしかない。

しかし、中々攻撃が通らず、更に体力は、消耗していく。

ヨルもそして、マーロウもそれを見抜いている。

「……相変わらずのやせ我慢だな」

「さて、どうでしょう?」

ホームズは、そう言うと脚を振り被る。

マーロウも同じように拳を握る。

「「三散華!!」」

 

 

 

拳と脚。

 

 

 

 

三つの連撃は、それぞれ激しくぶつかり合う。

態勢を崩したのは、ホームズだ。

マーロウはその隙を逃さない。

拳をもう一度振り被る。

「─────っ!」

ホームズは、慌てて盾を正面に構える。

マーロウは、それに構わず盾を避け、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヨルを思い切り殴りつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────っ!」

ヨルは、そのまま殴り飛ばされ、地面に叩きつけられた。

「ヨル!!」

ヨルは、ピクリとも動かない。

幸いホームズはまだ生きているので、ヨルも死んだわけでは無さそうだ。

 

 

しかし、ホームズのアドバンテージは一つ消え、マーロウに一つ戻る。

 

 

 

 

つまり、

 

 

「切り裂け、ウインドカッター」

 

 

 

 

 

マーロウの精霊術の復活だ。

 

 

 

 

 

「ぐっ!」

風の刃は、ホームズに容赦なく襲いかかった。

何とか距離をとったので、急所こそ外れたものの、左肩から吹き出す血を見る限り無事とも言い難い。

ホームズは、左肩を抑えながら立ち上がる。

「距離をとったな?」

マーロウは、そう言って更に詠唱を始める。

「来いっ!フレイムドラゴン!」

炎の龍は、唸りを上げホームズに向かっていく。

「んのっ!」

ホームズは、脚に炎と闘気を纏う。

「獅子戦哮・焔!」

ホームズの脚から放たれた炎の獅子が炎龍に襲いかかる。

炎龍は、炎の獅子を物ともせずに食い殺し、ホームズに襲いかかった。

「─────がァっ!」

熱という熱がホームズを襲う。

一瞬でも気を抜けば、そのまま全てを焼かれそうだ。

もう完全にマーロウの独壇場だ。

ようやくホームズの舞台に引きずり込んだと思ったのに、また逆転してしまった。

「─────っ!守護方陣!!」

炎に焼かれながらホームズは、地面を強く踏み込み守護方陣を発動させ、何とか炎を退ける。

「……驚いた。まさか耐えるとはな」

マーロウは、目を丸くし、心底驚いたようだ。

「危なかったです。危うく禿げるとでした」

ホームズは、へっと笑う。

「相変わらず、口の減らない奴だ」

マーロウは、やれやれとため息を吐く。

「大方、他の連中が起きるまでの時間稼ぎのつもりだったんだろうが……」

そう言ってホームズを指差す。

ホームズの肩にはマーロウの精霊術を封じていたヨルは、いない。

「どうするんだ、お前」

「……貴方に言う必要はないでしょう?」

ホームズは、震える肩を抑えそう言い返す。

「強がりだけは、一人前だな」

ホームズは、ニヤリと負け惜しみの様に笑う。

「自分より強い奴と戦うんです……強がらなくてどうするんです?」

そう言ってちらりと後ろを見る。

レイアとエリーゼは治療を続けているが、まだ誰も意識を取り戻していない。

ホームズが負ければ、その時点で負けは濃厚だ。

ホームズは、パンと頬を両手で挟む。

 

 

 

 

 

 

「………まあいい。ここからが本番だ」

静かにホームズは、震える声を必死に抑えてそう言い放った。

不安もある、恐怖もある、心細くもある。

しかし、ホームズはそれを全て自覚しそれでもマーロウの前に立ちはだかる。

そんなホームズを見てマーロウは、満足そうに笑うともう一度構えた。

 

 

 

 

 






本当は、鎬を削るです。



少年よ強くあれ!!



まあ、少年って歳じゃないんだけど……



ではまた百十一話で( ´ ▽ ` )ノ

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