記念すべき、百十一だよ!ゾロ目だよ!
でも、
一万字越えだよ〜〜
長いよ〜〜
どうしよ〜〜
でも今回はこれがちょうどいいので、これでいきます!
てな訳でどうぞ
『圧倒的に強い奴に負けない方法?』
ホームズの母は、もぐもぐとピーチパイを食べながらホームズの質問を復唱する。
『そんなの簡単だよ。戦いになる前に逃げればいいんだよ』
『………聞き方が悪かったよ。どうすれば強い奴に勝てるんだい?』
ホームズは、頬を引きつらせながらもう一度尋ねる。
ホームズの母は、ふむと考え込む。
『質問を質問で返すようでわるいけど………いや、君相手だったら別にそうでもないな……まぁ、それはともかく。試合でかい?それとも戦闘でかい?』
ホームズは、腕を組んで考え込む。
『……せっかくだし両方教えておくれよ』
ホームズの母は、新しいピーチパイのピースに手を伸ばし手づかみで食べる。
『OK。まず、試合。この場で言う試合ってのは、ルールのある競技のことだけど、その場合、そんな奴に勝つなんて無理だね』
ホームズの母は、あっさり言い放った。
『えっ?それじゃ努力するだけ無駄じゃないか』
『馬鹿言え。みんなその『強い奴』になりたいから努力するんだよ』
ホームズの母は、当たり前の様にそう言うともぐもぐと食べる。
『試合ってのは、ルールの上で勝ち負けを競うものだ。
ルールで勝ちをとればそれで話は終わり。
逆にルールをおかせば負けることだってありえる。わかるね?』
『まあね』
『それぞれの競技でそれぞれの選手は、ルールの試合で勝つ為に努力をして強くなる、そんな奴に弱い奴が勝てるわけないだろう?』
ホームズの母の言い分にホームズは、こくりと頷く。
『ま、戦略がものをいう勝負は例外だけどね』
『じゃあ、戦闘は?』
ホームズの母は肩を竦める。
『単純に戦闘不能にすれば勝ちだ……どんな手を使おうとね?』
ホームズの母は、ニヤリと底意地の悪い笑みを浮かべる。
『食べカスついてるよ……』
ホームズが呆れた声を出すとホームズの母は、何てことなさそうに口元を拭く。
ホームズが一切れ食べる間にホームズの母は、既にふた切れを食べている。
その食事のスピードにホームズは、若干引く。
『ただし、それでも圧倒的に強い奴が勝つってことの方がほとんどだよ……ね、ヨル?』
『何で、俺に話を振るんだ……』
ヨルは、忌々しそうに言う。
『別にいいじゃないか、経験豊富な化け物に聞いておきたいんだよ』
『………お前の言い分に賛成するのは、忌々しいが、その通りだな』
ヨルの言葉にホームズの母は、うんうんと頷く。
『強い奴に勝つ方法なんて幾らでもある。
けれど、
そう言ってホームズの母は、これで話は終わりと言わんばかりにピーチパイに手を伸ばし、口に運ぶ。
ホームズは、なるほどと母の言い分に納得仕掛けるが直ぐに首を横に振る。
『いや、じゃなくて!そう言う圧倒的に強い奴に勝つ方法を教えてって言ってんの』
ホームズの母は、ピーチパイを口に運ぶのを止めるため息を吐いて答える。
『簡単だよ。ミスをしなければいいんだよ』
『馬鹿なことをいうもんじゃないよ』
瞬時に返したホームズにホームズの母は、くくくと面白そうに笑った。
『それを瞬時に理解するのは、君の頭のいいところだけど、その夢のないところは残念なところだねぇ……そんなんだと、モテないよ』
『うるさいなぁ……』
若干傷ついた様子のホームズをヨルとホームズの母は、面白そうに笑う。
ホームズの母は、一頻り笑った後、肩を竦める。
『ま、冗談はともかく。そう、ホームズの言う通り、戦いに置いてミスをしないなんて無理だ。
そして、ついでに言うならこれは必要条件であって、十分条件ではない』
『十分条件は?』
『戦略だね』
ホームズは、頬が引きつるのを感じる。
『ミスをせず、戦略を立てろだって?ほとんど無理じゃないか』
『だから、最初にも言ったし、前にも言ったろう?』
ホームズの母は、そう言って最後の一口を飲み込む。
『逃げろって』
◇◇◇◇
「貫け!フリーズランサー!!」
短い詠唱からは、信じられない速度で氷の矢がホームズを襲う。
「ぐっ!!」
躱しきれなかったホームズは、氷の矢の餌食になる。
氷の矢が肩に突き刺さる。
「ナメるんじゃあない!」
ホームズは、そう言って腰を落とす。
「剛招来!」
ホームズの体から赤い蒸気が吹き出し氷の矢を溶かす。
そして、ホームズはマーロウに向かって駆け出した。
マーロウと距離があるこの状況は、ホームズに取って不利だ。
何せ、ホームズには中遠距離からの技がない。
せいぜい、ヨルの尻尾で縛り上げる程度だ。
つまり、距離が離れてしまえば精霊術の詠唱を邪魔する手がない。
そして、更に達の悪いことにマーロウの詠唱は極端に短い。
こんな距離で精霊術を連発されてしまえば勝ち目は、薄くなる一方だ。
「ま、悪くはない」
マーロウは、そう言って手をかざす。
「ストーンブラスト」
一言告げた瞬間、ホームズの足元から石が現れホームズに向かって打ち上がる。
傷口に容赦なく石が襲いかかる。
しかし、ホームズは歩みを止めない。
(つーか、絶対止まるともっと酷いに決まってる!)
ホームズは、そのまま石の壁を通り抜け、マーロウに向かって蹴りを放つ。
ホームズの蹴りは確かにマーロウを捉えた。
しかし、マーロウは、眉一つ動かさない。
「身構えてりゃダメージなんざ、殆どねーよ」
マーロウは、そう言ってホームズを殴りつけた。
ホームズは、そのまま地面に顔面から落ちていった。
マーロウは、ホームズに狙いを定め、詠唱を始める。
「登ってけ、トラクタービーム」
発動した精霊術は、ホームズをゆっくりと上空に持ち上げていく。
ホームズの身体は先ほどローズとは違い静かに上がっていく。
しかし、ゆっくりと無理矢理あげている分ホームズにダメージが襲う。
そして、精霊術は消え、ホームズは地面に向かって落ちていった。
その時をマーロウは、逃さない。
素早く下にいき、拳を固める。
そして、
「うるぅあああっ!」
落下するホームズの腹に向かって拳を突き上げた。
素手だ。
籠手は、していない。
しかし、腹にマーロウの拳がめり込んで行く。
「─────っ!!」
声にならない叫びを上げ、ホームズは嘔吐する。
更にマーロウは、そのまま若干ホームズを打ち上げ、蹴り飛ばす。
ホームズは、無様に泥水の上を転がった。
「ホームズ!」
その惨状に、思わずエリーゼは治療の手を止めてホームズの名を呼ぶ。
しかし、ホームズはそれに応えることなく、冷たい雨に打たれ続ける。
肩から流れる血は、ホームズの周りをじわりと赤く染めていった。
「勝負ありってところか」
マーロウは、そんなホームズを見てそう判断すると、エリーゼとレイアに一歩ずつ近づく。
エリーゼとレイアは、それぞれ武器を構え、
「ま、懸命な考えだな」
マーロウは、そう褒める。
治療は、終わっている。
しかし、未だに一行は、起きる気配がない。
ホームズの戦いの惨状を目の当たりにしたレイアとエリーゼは、若干震えている。
「わりーな、おめーらの友達をこんなんにしちまって」
「別にどうってことない……です」
エリーゼは、きゅっと力を込めて杖を持つ。
マーロウは、ハハハっと笑う。
「心配とかしないのか?」
「しません」
「なんで?」
「ホームズ相手に心配してたら、キリがないです」
目を離したすきに大怪我ばかりしているホームズだ。
今回も似たようなものである。
エリーゼとレイアは、武器を持つ手に更に力を込める。
今の戦いを見ればわかる。
確実に自分たちでは勝ちようがない。
マーロウがこのまま自分達に向かって踏み込んだ瞬間負けが決定するだろう。
マーロウが踏み込み、そして、レイア達に向かって行こうとした瞬間ガクンと動きが止まった。
不審に思って後ろを振り返る。
するとそこには、泥だらけのホームズがマーロウの服の裾を掴んで立っていた。
「嘘だろ………」
マーロウは、信じられなかった。
いや、マーロウだけではない。
レイアもエリーゼも驚いている。
ほとんど戦闘不能状態だったホームズが立ち上がったのだ。
顔は泥だらけ、肩からはとめどなく流れ続ける血が、痛々しい。
確かに攻撃は、ホームズを捉えていた。
事実、ホームズは、地面に突っ伏して動けていなかった。
「…………何……言ってるんです………」
ホームズは、マーロウの服の裾を掴む力を強める。
「………おれは、まだ……動ける。戦闘不能になんて……なってない…………」
そう言ってそのまま服を引っ張り、距離を詰め、そして、
背負い投げの要領で投げ飛ばした。
「………だ……から……負けて……ないっ!負けてないったら、負けてない!」
ホームズは、声を張り上げそう言い放った。
しかしホームズの肩からは先ほどの傷のせいで血が流れている。
背負い投げなんてしていい傷ではない。
ホームズは、マーロウが倒れている間に守護方陣をして回復に努める。
焼け石に水程度の回復だ。
とはいえ、やらないのとでは随分と違う。
マーロウは、ゆっくりと立ち上がり、ホームズの右手を見る。
「………お前、その爪……」
「あぁ、これ?」
ホームズの親指の爪は、剥がれ、柔らかい肉が見えていた。
「危うく意識が飛びそうだったんで、逆に痛いことをすれば大丈夫かな?って……まあ、大成功でしたよ」
「お前……そんな手で背負い投げなんてしたのか……」
そんなホームズを見てマーロウは、呆れ半分驚き半分で更に言葉を続ける。
「お前、よく挑んでこれるな……あいつの息子だったお前がこの実力差でどうして挑もうとする?
言われただろう、逃げろとか戦うなとか」
ホームズは、肩の傷を抑える。
─────『まぁ、そうは言ってもいずれ君にも逃げられない時が来るかもしれないんだけどね?』
『……なんか、前も似たようなこと言ってたね』
絶対絶命の対処の仕方の時も似たような事を言っていた。
ホームズの母は、クスクスと面白そうに笑う。
『私とすれば、君にはいずれそんな時が来る事を祈りたいね』
『何?死んで欲しいの?』
『そうじゃなくてさ………』─────
「あなたには、関係のない事です」
ホームズは、そう言い返した。
「………ま、いいけどよ。お前、勝てると思ってんのか?」
「そんなことを考えることに意味はない」
ホームズは、呼吸を整える。
「勝てないかもしれないとか、
負けるかもしれないとか、
倒せないかもしれないとか、なんて関係ない!」
ホームズは、肩から手を離す。
「勝つんです!!」
そう言ってホームズは、駆け出した。
マーロウは、静かに手を前に構える。
「……アクアレーザー」
水がホームズに襲いかかり、マーロウから距離を離された。
「……ぐっ!」
案の定、ホームズは膝をつく。
しかし、直ぐに立ち上がり、もう一度駆け出す。
「震えろ!グランドダッシャー!」
地面の衝撃がホームズを襲い、思わず足をもつらせ、転ぶ。
「ホームズ!」
レイアがホームズに駆け寄ろうとするが、それをホームズは手で制する。
「後ろを……見たまえ」
ホームズに促され後ろを向くとそこにはア・ジュール兵が集まっていた。
「君達には……そっちを頼むよ」
そう言いながらホームズは、ゆっくりと立ち上がる。
出来ることならホームズを助けに行きたいところだ。
しかし、こちらも捨て置けない。
そんな中、倒れていたジュード達が目を覚ます。
「ん………あれ?」
「ジュード!みんな!」
レイアは、そう声をかけた。
「って……ホームズ!」
ボロ雑巾の様になっている、ホームズの後ろ姿を見て、ジュードは、思わず駆け寄ろうとする。
「後ろ」
ホームズは、そう言ってもう一度、後ろを指差す。
ホームズの指差す方向に集まるア・ジュール兵を見てジュードは、今の状況を理解した。
ローズ達も直ぐに後ろを向く。
確かに敵達が溢れている。
「でも、ホームズ大丈夫なの?」
「任せたまえ。料金分の仕事はするさ」
自分達の知らない間に傷を増やしているホームズを後ろから見ながらジュードは、まだ迷う。
「わかった。任せたぞ、ホームズ」
一行が迷う中、ミラがホームズの背中にそう告げた。
ミラは、そう言いながら折れてしまった自分の剣の代わりに、マーロウが捨てた剣を拾う。
「ちょっ、ミラ!?」
ジュードは、ミラの口から出た言葉に戸惑う。
ホームズを助けに行かなかった時とはまた、訳が違う。
ホームズは、今にも倒れそうで、マーロウは一人で戦うには強すぎる。
しかし、ミラはそんなジュードの言葉を無視してホームズにさっさと背中を向ける。
「それと、忠告しておくが、死んだりしたら報酬の話は無しだ……借金も踏み倒してやる」
ミラはホームズに背中を向けたままそう言った。
ホームズは、ひらひらと手を振って応えた。
マーロウは、そんなホームズを見ながらたずねる。
「頑張るな……」
マーロウの質問にホームズは、静かに口を開く。
「ま、頑張らなきゃやらなきゃならない理由が三つ四つありますからね」
「一つ目は、報酬と借金だとして、二つ目はなんだ?」
そう言ってホームズは、ちらりとローズを見る。
「女の子に頑張れと言われたんです……男として、頑張らない訳にはいかないでしょう?」
ホームズの言葉を聞き、マーロウは、面白そうに笑う。
「モテない男は、そういうのがあるよな。応援なんかされた事なくて、テンション上がってんだろ?」
「ノーコメントです」
殆ど肯定だった。
マーロウは、面白そうに笑って、ホームズに手を構える。
「三つ目と四つ目は?」
「終わって、気が向いたら話してあげますよ」
ホームズは、ニヤリと笑いながらそう返した。
「なるほど……まぁ、終わりだ……来い!フレイムドラゴン!」
炎龍が現れホームズに襲いかかる。
ホームズは、かわそうと足を動かした。
しかし、足をもつらせて倒れてしまった。
レイアとエリーゼは、それを視界の端に捉える。
「ホームズ─────っ!!」
牙を剥く炎龍、防ぎ様の無い熱。
その龍がホームズの目前まで迫ったその瞬間、
真っ黒な猫の生首が現れた。
「ふーむ、俺にかかれば龍なんざ、目じゃないな」
ヨルは、そう言って元の姿に戻り、口からいつもの黒球を吐き出す。
黒球は、ホームズの足に当たり弾け、霞となってまとわりつく。
「寝すぎたよ、君……」
ホームズは、そう言って呆気にとられているマーロウに向かって駆け出し、そのまま腹に蹴りをかました。
「─────っカッハ!」
問答無用の黒霞のホームズの蹴りをくらい、マーロウの息が詰まる。
マーロウは、突然の事に思考が追いつかない。
しかし、一つだけ理解はしていた。
(……んの、野郎……ハメやがったな!)
さて、この世に猫を全力で殴った事のある人間は、一体どれだけいるだろうか?
猫を全力で殴る人間は、更に少ない。
そして、殴るにしても猫にあった力で殴るのがせいぜいのはずだ。
では、ヨルという全く知らない、魔物とも違う、猫とも違う、人間とも違う、そんな生物を殴るのにズレは発生していなかっただろうか?
ヨルに対し、その力は妥当だったのだろうか?
ホームズとヨルは、そのズレにかけた。
(ミスを、不測の事態を起こさない為には……)
ホームズは、蹴りを更に放つ。
今までとは、考えられない力の強さにマーロウは、押されっぱなしだ。
「ワザとミスをしてしまえばいい!」
ホームズは、そう言って今度は普通の足で蹴る。
マーロウに勝つ為には、どうしてもヨルの黒球が必要だったのだ。
しかし、精霊術を使うエリーゼには、治療を優先させた為、マナの補給ができなかったのだ。
かと言って、ヨルがいる限りマーロウは、精霊術なんて使わない。
そこで、ワザとミスをした。
ヨルが退場するという不測の事態を起こした。
しかし、下手すれば復活出来ないものだ。
何故と疑問に思ったがマーロウは、直ぐに答えに辿り着いた。
「なるほど、三つ目の理由は、それか……」
単純な話ホームズは、信じて、賭けていたのだ。
レイアの突きを食らっても気絶せず、ミラの魔技を食らっても直ぐに復活したヨルの強さに。
「だが……」
そう言ってホームズの顔面を掴み地面に叩きつける。
「それだけで、勝てると思うなよ?」
立ち上がろうとするホームズに腹にサッカーボールを蹴るようにマーロウは、蹴りを入れた。
「ぐっ!!」
腹部に走る激痛にホームズは、意識を飛ばしそうになる。
しかし、ホームズは、意識が飛ぶ前に自分の傷口を抉る。
「─────痛!」
激痛で飛びそうになる意識を掴む。
「……舐めるんじゃあないよ……」
ホームズは、ゆっくりと立ち上がる。
その時、ホームズのリリアルオーブが光り始めた。
今までホームズの見せたことのない、輝きに思わずマーロウは、身を引く。
ホームズは、幽鬼のごとくゆらりと立ち上がる。
そして、マーロウに向かって駆け出した。
マーロウは、拳を固めた。
本能で分かる。
あれは、近づけさせてはダメだ。
ホームズが、間合いに入った瞬間、自分の負けが決まる。
「魔神拳!」
「ホームズ、左に避けろ」
ヨルの言葉にホームズは、
「君、ふざけんなよ………」
「至って真面目なんだがな」
「真面目に痛めつけようとするのやめようよ……」
悪態を付きながらホームズは、走る。
マーロウは、もう一度拳を固める。
先ほどまでのボロボロの状態のホームズの気合いと心意気は、褒められたものだった。
しかし、賞賛を与えるまでだ。
決して、負けのイメージが現れることはなかった。
だが、今はどうだ?
ヨルが復活し、肩に乗った。
それだけでホームズに恐怖を感じ、圧迫感を感じる。
「魔神拳・双牙!」
二つ牙が地面を這ってホームズに襲いかかる。
「ヨル!」
「やれやれ」
ヨルは、生首になりホームズを押し上げる。
ホームズは、そのまま空中に飛び上がり、マーロウにかかと落としをかます。
マーロウは、ギリギリで一歩引きホームズの攻撃をかわす。
当たらなかったホームズのかかと落としは、泥水を激しく吹き飛ばした。
「ぐっ!」
泥水は、マーロウに壁となって襲いかかる。
思わずマーロウは、手で防ぐ。
そして、泥水が晴れるとそこには、ホームズがいた。
リリアルオーブが、輝くホームズの間合いにマーロウは入ってしまった。
「今度はこっちの番だ……」
「あぁ、やっとだ。待ちくたびれたぞ」
リリアルオーブの輝きは激しさを増していき、そして……
「「辛酸を舐めろ」」
輝きは
ここから出される技は、ただの技ではない。
秘奥義だ。
「地獄の様に熱くっ!!」
ホームズは、炎を纏った左脚で踏み込みホームズとマーロウだけを囲むように炎の陣を発動させる。
今までの紅蓮脚と違い、炎の色はより高温である青色となりマーロウを焼く。
「──────っ!」
「悪魔の様に黒く!!」
ホームズは、黒霞を纏った足にリリアルオーブを使い、自分の闘気を上乗せし、最早脚が見えなくなるほど黒霞の量を増やす。
そして、今度は炎の脚を軸足にし、マーロウに蹴りを放つ。
もう、マーロウは声を上げている場合では無い。
ヨルはホームズの肩でニヤリと口角を上げて笑う。
「
ヨルは、そう言って尻尾でマーロウの関節を拘束していく。
「人生の様に苦い!!」
ホームズは、黒霞の右脚で炎の陣を踏む。
すると炎の陣は、渦を巻くように徐々に右脚に巻きついていく。
青い炎はホームズの黒霞と混ざり合い、新月の夜を思わせるほど暗い黒となる。
激痛と拘束の為動けないマーロウにホームズは、背を向ける程身体を回して遠心力をその必殺の脚に乗せる。
「「″エスプレッソ・ラプソディー"!!」」
全ての力を乗せたホームズの右脚はマーロウの腹をまるで何か丸太か何かをぶつけたかのような重く響く音を立てて、捉えた。
「──────ッグハ!!」
その攻撃の熱と衝撃は全身を巡り、とうとうマーロウは立っていられるず、その場に仰向けに倒れた。
それは、まるで何か夢を見ているように、一秒が一時間に感じるほどゆっくりと倒れていった。
ホームズとヨルは、しばらくマーロウを見るが動く気配は無い。
勝ったのだ、ようやくマーロウを倒す事ができたのだ。
しばらくしてそれを自覚すると、緊張の糸が切れたホームズは、ゆっくりと膝をついた。
「ホームズ!!」
ローズが慌てて地面につかないように寝かせるように抱える。
他の面子もホームズを囲むように集まる。
「あ……れ?ローズ?兵士……は?」
「倒したわよ!貴方がグダグタやってる間に、それより………」
そういってローズは、手を見る。
そこには、ホームズの血がベッタリとついていた。
「ジュード!レイア!エリーゼ!」
急いで後ろにいるジュード達を呼ぶ。
「わかった」
「任せて!」
「はい」
『任せろー!』
そう言ってジュードは、ローズに指示を出す。
「ローズは、ホームズの頭を膝を上でもどこでもいいから乗せて高くして」
「分かったわ」
そう言ってホームズの頭を膝の上に乗せる。
ジュード達は急いで治療をする。
傷も出血はひどいが、急所をギリギリで外れているので何とかなりそうだった。
申し訳程度の守護方陣も中々効果があったようだ。
「にしても、おたく、俺たちが寝てる間に随分と無茶したねー」
「君たちが起きてくれればもう少し楽だったんだけどねぇ……」
ホームズは、アルヴィンの言葉にヘッと鼻で笑って返す。
「ホームズさん、マーロウさんは?」
「生きてるよ。ま、暫く動けないけどね」
何せ、ホームズの秘奥義を食らっているのだ。
無事かもしれないが大丈夫ではない。
ホームズは、その後ミラを見る。
「………ふふふ、ミラ、借金と報酬の話覚えてるだろうね?」
ホームズの言葉にミラは笑顔で頷く。
「あぁ」
「良かった」
ホームズは、ニヤリと笑う。
そんな会話をしているとホームズの傷の治療は、終わった。
ホームズは、治療が終わると立ち上がり、渡されたライフボトルとミラクルグミを食べる。
実は渋ったのだが、エリーゼとレイアの無言の圧力に屈しとうとうホームズが折れたのだ。
まあ、何せ、ホームズが食べなかった為にこの様な事態になったのだから仕方ない。
所謂日頃の行いのせい、という奴だ。
減りに減った体力なんとか元に戻すし、ホームズは立ち上がる。
そして一行は、再び、クルスニクの槍に向かった。
◇◇◇◇
「ところでさ、ホームズ」
走っている中、レイアが思い出した様に尋ねる。
「頑張る理由の四つ目って、結局何だったの?」
ホームズは、一瞬、本当に一瞬だけ動きを止める。
「あー……それ?」
目を少しそらす。
─────『そうじゃなくてさ、私にもそういう時が来たんだよ』
ホームズの母は、ニコニコと笑いながら、続ける。
『どんな時だったんだい?』
『君が後ろにいた時さ』
ホームズは、母の言葉に目を丸くする。
『逃げきるには、少しばかし大変な奴だったんだよ、でも、君が後ろにいたからね、頑張らなくちゃいけなかった』
そう言って手についたピーチパイのカスを払う。
『ここまで言えば、分かるだろう?自分にとって、大切な人あるいは、人達にまで危機が及ぶ場合は、逃げようがないんだよ』
ホームズの母は、椅子に深く腰掛ける。
『だからさ、君にもそんな状況が来るほど大切な、宝物の様な人達が出来ることを私としては願わずには、いられないのさ』
ホームズの母は、ニヤリと笑う。
『母親ってのは、息子の安全を願うけど、それと同じくらいに幸せを願うものなのさ』────
ホームズは、興味深々に見つめるマクスウェル一行を改めて見る。
自分の事を友達と言ってくれたレイアとエリーゼ。
ツッコミ役と治療をいつも任せてしまう、ジュード。
静かにホームズの事を理解してくれるローエン。
エレンピオス人繋がりなのか分からないが、なんだかんだでノリの合うアルヴィン。
結構グサリとくる言葉を吐くが、ここぞという時は決めてくれるミラ。
久々に会えた自分の瞳の色を褒めてくれたローズ。
まあ、そして、不本意ながら腐れ縁のヨル。
「………別にどうだっていいだろう?」
ホームズは、目をそらして、素っ気なくそう返した。
そんなホームズの返しに一行は、不満顔だ。
「えぇーきになるなあ?」
「ジジイも気になりますね」
「ふむ。出来れば私は知りたいな。今後の為にもなりそうだ」
あまりの押しの強さにホームズは、助けを求める様にローズを見る。
しかし、ローズは首を傾げるだけだった。
「何で、そんなに嫌がるのよ?いいでしょ、別に。減るもんじゃないんだから」
ローズの助けも期待出来ない。
「おたく、そろそろ観念したらどうだ?」
アルヴィンは、面白そうに笑いながらそう返す。
ホームズは、頬を人差し指でぽりぽりとかく。
「あぁ、もう!うるさい!うるさい!うるさあーい!!
内緒!男は秘密があった方が格好いいんだからっ!!」
そう言ってホームズは、ずんずんと先を歩いて行った。
「えっ?ちょ、ホームズ!?」
慌ててローズが後を追い、一行もそれに続く様に後を追った。
─────『……思春期の息子に母親の愛情なんて鬱陶しだけだよ』
『だったら、
君のソレは、照れ臭い時にでるくせだからね』
ホームズの母は、ふふんと面白そうに笑いながら言った。
ホームズは、ぷいと目をそらす。
『くくくく、直せるといいね?ホームズ?』
『……うるさい』──────
ホームズは、雨が降るなかずんずんと一人で進んで行く。
冷たい雨も火照った頬を冷ますのには、ちょうどよかった。
秘奥義出せたー!!
もう、秘奥義を出せただけで、満足です、はい。
辛くて酸っぱくて苦くて、大騒ぎですね
ホームズの口上は、よいコーヒーとはってヤツです。
正しくは、「地獄のように熱く、悪魔のように黒く、天使のように純粋で、愛のように甘い」だそうです。
コーヒー嫌いなホームズには、これ以上ないくらいピッタリだと思います(笑)
マーロウ戦は、如何に自分にとって有利な状況に持っていくかを考えて書いていたのですが……どうでしょう?
ラストのシーンは、アレですね。
ローズの影に隠れて分かりづらいですけど、ホームズも相当です。
では、また百十二話で