1人と1匹   作:takoyaki

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百十三話です


もう梅雨って数えていいんですかね?





パンドラの匣庭が開かれる

「ヨル」

「なんだ?」

「確か、カラハ・シャールで言ってたよね。

『せいぜい、うっかりハンドラの箱を開けないよう気をつけるんだな』って」

「ああ。ばっちり開ける羽目になったな。いや、空けるといった方が正しいか?」

ホームズとヨルは、次々と出現し空を埋め尽くす空中艦隊を見ながら呟く。

「ねぇ?ホームズこれは……」

ローズの言葉にホームズは、頷く。

「ヤバいねぇ……いつでも逃げられるよう準備しておきたまえ」

『怖いよー。メッチャ怖いよー』

ティポは泣きそうな声で叫ぶ。

「空をかける船だと!?」

その瞬間、ぞわりとヨルの背筋に悪寒が走った。

 

 

 

 

 

(なんだ!?このマナの気配は!?)

 

 

 

 

 

 

ヨルは、急いで空に空いた穴を見る。

その瞬間、空中艦隊の何隻かが精霊術の球体に飲み込まれ潰れた。

奥に何らかの人影が見える。

(あいつは、大精霊……か?)

ヨルが思考の渦に沈んでいる内に1人の人影がクルスニクの槍に歩み寄る。

「………ついに……フハハハハッ!」

人影、白髪をオールバックにした男は、高笑いをする。

そんな男にアルヴィンは、顔を険しくさせ、声を荒げる。

「ジランド!!どうなってる!」

その言葉に一行は、全く雰囲気が違うジランドを見て驚く。

「ジランドだと!?アレが?!」

「おいおい、嘘だろう?ナハティガルの腰巾着じゃなかったのかい……」

ホームズは、眉を潜めた。

ジランドは、アルヴィンの言葉に対しつまらなそうに目をそらす。

「お前……」

アルヴィンは、ジランドに銃口を構えた。

その瞬間、ヨルの髭がピクリと動く。

ホームズは、それを見逃さない。

「下がりたまえ!アルヴィン!!」

その言葉と同時にアルヴィンを取り囲むように見覚えのある氷の矢が地面に放たれた。

一行は、更に息を飲んで氷の矢が飛んできた方向を見る。

ガイアスは、それを見て眉を潜めた。

「ハミルをやったのは、貴様らか」

「そう。この俺の精霊……セルシウスがな」

ジランドは、そう言って黒匣(ジン)のような機械を取り出した。

その機械は輝き陣を刻みそして、左目を氷で覆った女性を出現させた。

ヨルは、それを見ると顔をしかめ歯を剥きだしにする。

 

 

 

 

 

 

「マジで、俺の間違いでも勘違いでもないのか………」

 

 

 

 

 

ヨルは、敵意も殺意も隠そうとせずに氷の矢が飛んできた方向、ジランドを睨みつける。

ミラは突然の事に唖然とする。

「馬鹿な……セルシウスなんて聞いた事もないぞ……」

「そりゃあ、お前はそうだろうよ」

ヨルは、ミラにそう言うとセルシウスを睨みつける。

 

 

 

 

 

 

 

「……そんな事よりも、そんな事よりもだ!お前……何故、そんな所にいる!!答えろっ!!」

 

 

 

 

 

 

激昂するヨルをセルシウス取り合わない。

「貴様!」

「落ち着きたまえ、ヨル」

ホームズが静かにヨルにそうなげかける。

 

 

 

「俺の民を傷付けたこと!許しはしない!」

ガイアスは、そう言って再び紅い闘気とマナを纏う。

すると、空中からガイアス達に向かって砲弾が注がれた。

「うぉっ!」

幸い誰にも当たらなかったが、外れた砲弾は、水と泥を巻き上げた。

ホームズは、思わず砲弾が飛んできた上空に視線を移す。

「おいおいおい……」

思わずホームズが見上げたそこには、人が船から大量に降りてきた。

普通なら重力によって真っ逆さまところ、空気の様なものを噴射してゆっくりと降りてくる。

「なんなのアレ!」

「格好から見るにアルクノアっぽいけど……」

レイアの言葉にホームズは、そう返した。

二人がそう話しているうちに空から降りてきた一人がジランドの側に降り立つ。

「アルクノアのジランドさんですね」

「あぁ、そうだ。そいつが例の女だ」

ジランドは、そう言ってミラを顎でさす。

ミラはジランドの言葉に目を剥く。

「アルクノア……だと?貴様が、ナハティガルに黒匣(ジン)を伝えたのか!?」

ミラの言葉にホームズは、ギリっと唇を噛み、ジランドを睨みつける。

「あなただったのか………そんなものを作って……一体何がしたいんだい!!そいつのせいで、一体どれだけの人が死んでいったとおもっているんだい!!」

ホームズの激昂もミラの言葉もジランドは、笑っていて取り合わない。

「その女を殺すなよ。台無しになる」

ジランドは、そこで言葉を切ってホームズに目を向ける。

「それと、そこの黒猫を肩に乗せた男もだ。必ず捕らえろ」

「なっ?!」

ローズは、突然の事に言葉を失った。

ホームズは、がちんと歯を噛み合わせる。

「ローズ!!みんな!逃げるぞ!」

ホームズは、ミラ達に声をかける。

「装甲起動兵前へ」

「はっ!」

しかし、遅かった。

アルクノアの様な兵士は、濡れた斜面を滑り降りてきた。

そして、ミラの横を滑りながら銃弾を撃つ。

キンと、幾つかホームズの盾に当たる音がする。

弾丸は、防げた。

しかし、その間に黒匣(ジン)のチャージが終わり、ホームズ、ジュード、エリーゼ、ミラに向かって放たれた。

「ゔわああああっ!!」

ジュード達は派手に吹き飛ばされ、ヨルは、ホームズから離れた所に叩き落された。

「────っ!」

ホームズは、何とか立ち上がろうとする。

その時微かにカチンという音が聞こえた。

音の方向を慌てて振り返るとそこには、アルヴィンが地面に突っ伏しているミラに向かって銃を構えている姿があった。

「アル…………」

ヴィンと叫ぼうとすると、ホームズは、背後から近づいた黒ずくめの兵士に髪を掴まれ地面に押し付けられた。

「…………ぐっ!!」

黒ずくめの兵士は、しっかりとホームズを拘束し、動く事を許さない。

ホームズの口の中に泥水の味が広がる。

そして、周りの景色を見る。

アルヴィンは、相変わらずミラに銃口を向けたままだ。

そんなアルヴィンの腕にセルシウスの氷の礫がヒットし、銃を下ろさせる。

「聞いてなかったのか?勝手なことはさせねーぜ」

一行が何とか立ち上がり、ミラは片手剣を構え、斜面の上にいるジランドに身体を向けた。

何としてもここで倒さなくてはならない。

「エリーゼさん!!ホームズさん!!」

ようやくローエンが事態に気づいた。

エリーゼにもホームズと同じく黒ずくめの兵士が集まっていた。

「っちい!省略!フォト……」

ンと言うまえにローズに向かって銃弾が発射される。

ギリギリで気づいた為、急所は、外れたが、詠唱を中断させられてしまった。

ホームズは、地面に押し付けられながらも視界の端で黒ずくめの兵士に捕まっているエリーゼを捕らえる。

「んの……離したま────」

ホームズが声をあげようとした瞬間薬の染み込んだ布でホームズの顔を押さえる。

そして、ホームズはそのまま意識を失った。

意識を失ったホームズを黒ずくめの兵士が抱える。

「そんな、ホームズ!!」

ホームズの異変にローズがいち早く気付く。

ぐったりとしているホームズを見てローズは、身体が震える。目の前で自分の昔馴染みが消えようとしている。

その現状に感情が激流のように荒れ狂う。

「起きなさいっ!ホームズ!」

ローズの呼びかけも虚しく、ホームズは動かない。

刀を交差させ、詠唱をしようとするが再び銃弾がローズを襲う。

明らかにローズの詠唱を潰しにきている。

「だったら……」

そう言って蒼破・追蓮を放つが別の兵士が盾になって防ぐ。

ローズは、ギリっと歯をくいしばる。

「このままじゃ!!」

ホームズを肩に担いだ兵士は、一歩また一歩と進んでいく。

「そのガキも連れて行け。増霊極(ブースター)の適合例だ」

エリーゼも黒ずくめの兵士が抱えられてしまった。

仲間が一人、二人と、連れて行かれる。

「エリーゼとホームズから離れろ!」

ミラが片手剣を携えて駆け出す。

そこに、ガイアスが割って入りミラの腹に肘鉄を入れる。

「寝ていろ。どうやら、お前がいると事態がややこしくなりそうだ」

そう言ってガイアスは、ミラを肩に担ぐとそのまま長刀を振り辺りの人間達を切り倒していき、ジュード達にミラを預けた。

「マクスウェルを連れて逃げろ」

「でも!エリーゼとホームズが!!」

レイアの言葉にジュードは、少し考えてミラをローエンとレイアとローズに預ける。

「ミラをお願い。僕が何とかする。

ローズは、もう完全にターゲットになってるみたいだからレイア達の援護に回って」

それから、ジュードはヨルにパナシーアボトルを渡す。

「ホームズにこれを飲ませて。そうすれば意識が戻るから」

ヨルは、静かに頷きパナシーアボトルを尻尾で巻きつける。

「ジュード、ヨル……任せたわよ」

「………うん」

ジュード達は、頷き走り出す。

ジュード達とは、別に戦っていたガイアスにも兵士達は迫ってきていた。

ガイアスの背後から黒ずくめの兵士が襲いかかる。

「陛下!!」

それを駆けつけたウィンガルが、斬り伏せる。

いや、ウィンガルだけではない。

何処からともなくプレザの精霊術が発動し、兵士達を上空に水柱で打ち上げていた。

そして、ジャオはホームズを抱えている黒ずくめの兵士を槌で打ち倒した。

「お前!」

ヨルが驚いている間もなく、ジャオは、ティポを持っている兵士の頭を掴んで放り投げ、エリーゼを担いでいる兵士の頭を踏みつけ、エリーゼ達を救出した。

ヨルは、直ぐに我に帰るとホームズの口を無理やりこじ開け、パナシーアボトルを開け中身を飲ませる。

「───っ!ゲホッ!ゴホ!」

ジュードの言う通りホームズは、目を覚ました。

「……ヨ……ル?」

「貸し(イチ)だ。それより起きろ」

ホームズは、何とか起き上がるすると、そこにはエリーゼを意識を取り戻したエリーゼを静かに地面に立たせるジャオがいた。

「良かった……起きたね、ホームズ」

ふと気付くとホームズの周りにはジュードとアルヴィンがいた。

「どのくらい寝てたんだい?」

「大して寝てないよ」

良かったと胸を撫で下ろそうとした瞬間、ガンと鈍い音が辺りに響いた。

音のした方を見るとジャオが黒ずくめの兵士に鈍器の様なもので殴られていた。

「ジャオさん!?」

ホームズは、慌てて起き上がり駆け出す。

ジャオは、殴ってきた黒ずくめの兵士を掴み上げ、後ろに向かって投げようとする。

しかし、そこを三つの黒匣(ジン)の攻撃が襲う。

「ぐぬぅううう!」

腹部に思い切り食らいながらも、その兵士を自分に黒匣(ジン)を向けた三人の兵士に投げつける。

「エリーゼ!!」

何とか追いついたジュード達が、エリーゼに駆け寄る。

「ジャオさん……その傷……」

ホームズは、ジャオ見て思わず叫んだ。

背中のマントは、血で染まり、頭からも血が流れている。

「……ホームズ。すまんかったのぉ……弱味につけ込むような事をしてしまって……」

「………別に気にしてないです」

「………」

ホームズのその言葉にジャオは、困ったようだ。

ホームズからは、見えないが困った顔をしているのが、ありありと分かる。

ホームズは、深々とため息を吐く。

「おれは嘘はつきませんよ、それより……」

いつもの調子で言おうと思っても声が震える。

ジャオから流れる血を見てホームズは、思わず顔をしかめる。

別れが目の前に迫っている人間を前に平常心など保てない。

その言葉にジャオは、安心したように頷く。

そして、ジャオは、振り返らずに更に続ける。

「エリーゼにも謝らねばならん事がある」

「────?」

エリーゼは、不思議そうに首を傾げる。

 

 

 

 

 

 

「お前さんの殺された両親……殺した野盗ってのは、儂じゃ」

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

突然の告白に一同は、固まってしまった。

 

 

 

 

「これ以上、お前を見守る事は出来ないだろう」

ジャオは、ゆっくりと立ち上がる。

エリーゼの目から涙が溢れていく。

「だから、生きてくれ」

何か言わなくてはならない。

「ジャオ………さん……」

しかし、エリーゼには、震える声でそう言うのが精一杯だった。

ジャオは、振り返り、静かに目を開く。

「エリーゼの事……」

俯いているホームズを見てジャオは、少し困った様な顔をしてそれからもう一度言う。

「頼んだぞ」

「──────っ」

ホームズは、思わず顔を上げた。

「阿呆、しっかりしろ。ジャリの方が辛いんだ」

ヨルの言葉にホームズは、ポンチョで涙を拭く。

ジュード達もジャオの言葉に頷く。

「………頼まれました」

「うん」

「あぁ」

ホームズ達のその言葉にジャオは、静かに微笑み、黒ずくめの兵達の元へ歩いて行った。

 

 

 

 

 

静かに歩みを進めていくジャオの背中をホームズ達は見守っていた。

 

 

 

 

 

ジャオは、ガイアスに黒匣(ジン)を向けようとしている黒ずくめの兵を槌でのめす。

そして、二人は暫く無言で向かい合う。

ガイアスにもジャオの覚悟が分かったのだろう。

「長年世話になった」

そう言ってガイアスは振り返らずに進んでいった。

「皆を頼みます」

ジャオもガイアスの方を振り返ることなく、そう告げた。

ガイアスの後にウィンガルとプレザがそれぞれ後に続き、静かに礼をして行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャオの目の前には、それこそ数えるのが面倒になるほど黒ずくめの兵達がいた。

ここが、自分の死に場所だ。

そのつもりでジャオは、降りしきる雨の中今ここにいる。

 

 

 

 

 

 

「最後の足掻きじゃ!」

 

 

 

ジャオは、先程の戦闘でホームズが見せたような笑みを顔に浮かべる。

 

 

 

 

 

ジャオに向かって一斉に黒匣(ジン)が照射される。

照射された攻撃は、辺りに砂煙を巻き上げる。

そして、それが晴れた時、ジャオがマナをまとって佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

霊力野(ゲート)全開!!」

 

 

 

 

 

マナを紫の鎧の如くまとったジャオは、そのまま慟哭を上げ走っていく。

 

 

 

 

 

「おおおおおおお!!」

 

 

 

 

 

そして、地面を渾身の一撃で叩いた。

マナを込められて殴られた地面は、まるで爆発を起こすかのように吹き上げ、黒ずくめの兵達を軒並み、殲滅させた。

 

 

 

 

 

 

だが、それだけの事をやれば弊害が出て来る。

 

 

 

 

 

 

この目立った事象に空中戦艦が、ジャオに照準を合わせ、そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

容赦なくも、遠慮もなく、無機質に光の攻撃が注がれた。

怪我と霊力野(ゲート)の酷使で、動けないジャオは、眩しそうに手をかざす。

のんびりと死ぬだな、とそんな事を思っていた。

エリーゼの事も心配がないと言えば嘘になる。

しかし、今、エリーゼは一人ではない。

ホームズも同じだ。

あそこまで落ち込んでいた男が今は、仲間に囲まれている。

 

 

 

順風満帆とは、行かないだろう。

しかし、それでも、

 

 

 

 

 

 

 

 

「……生きてくれ、エリーゼ・ルタス、ホームズ・ヴォルマーノ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

照射された光線は、止まる事なく地面を抉った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 








………やっぱりこのシーンは悲しいですね




ではまた、百十四話で( ´ ▽ ` )ノ

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