1人と1匹   作:takoyaki

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百十七話です。



てなわけで、どうぞ


永く遠い別れ

「ん?」

視界を遮っていた水飛沫が消えると、そこにはいるはずのホームズとマーロウの姿はなかった。

「……逃げたか」

ジランドは、そう言うとセルシウスを機械の中にしまう。

「如何致しますか?」

近くの兵士が今にも飛び出しそうになりながら、構える。

「……退くぞ。もう、何もないだろが、万が一何か奥の手が用意されていると厄介だ。

出来れば欲しい戦力ではあるが、それで逆に戦力を減らしていれば意味がない」

そう言ってジランド達はその場から立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ………ハァ……ハァ……」

マーロウを背負いながら、ホームズはなんとか走っていた。

そんな中、ホームズは石につまづいて転んだ。

幸いホームズが下敷きになった為、マーロウ自体に転んだダメージはない。

「─────っく!」

ホームズは、もう一度背負おうとするが、マーロウがそれをやんわりと拒否する。

マーロウは、力なくホームズの背から転がり仰向けになる。

ギリギリのタイミングで剛招来をした為、即死はまぬがれた。

しかし、マーロウの腹には、巨大な穴が空いている。

その穴はもう長くこの世に長くいる事を許されていない証拠だ。

「もう………いい。無理だ……」

「馬鹿言うんじゃあない!!

ライフボトルも使ったんだ!傷だって………」

しかし、傷が塞がっていく様子はない。

ホームズは、歯をぎりっとくいしばる。

「エリクシールは?!」

「お前に……やったので、最後だよ」

「そんな……」

ヨルはホームズの肩にいながらたずねる。

「……お前、どうしてホームズを殴り飛ばした?もし、ホームズが盾になればお前は助かったろう?」

マーロウは、傷を少し見る。

「ま、俺だって……撃たれる覚悟ぐらいしてたさ………」

弱々しい声にホームズは、首を横に振る。

「………マーロウさん?嘘だろう?化け物みたいにマーロウさんが……」

「………くくく、なんて顔してんだよ、お前」

ホームズは、今にも泣き出しそうに顔を歪めている。

「………涙が似合うなんてイケメンだけだぜ……モテない男はな、笑ってなんぼなんだよ」

「……なんだ……元気じゃないか……そんな減らず口が出るんだ………だから……」

震える声で絞り出されるホームズの言葉を聞きながらマーロウは、困ったような顔をする。

口の端から流れる血の量が、ホームズの希望を潰していく。

しかし、ホームズはそれに構わず更に言葉を続ける。

「まだ、おれは故郷に行っていないじゃないか!!おれの故郷の酒が飲みたいって言ってたの、あなたですよ!!」

マーロウは、少しだけ笑う。

「あぁ………そうだったなぁ………それ……が飲めないのは、少し惜しいな……」

「そうですよ!だから!だから!!」

ホームズの瞳に涙がたまっていく。

情けない事は十二分に分かっているし、マーロウが助からない事は百も承知だ。

「………おれも、精霊術が使えれば……」

ホームズは今初めて自分が精霊術を使えない事を呪った。

俯きながら悔しそうに震えているホームズにマーロウがコツンと拳を当てる。

「阿保言え……それじゃあ、お前はヨルに……とり殺されてるだろうが……」

そう言って、俯くホームズの頭に手を乗せる。

「それじゃあ……お前は……誰にも出会えなかった……ローズや、マクスウェルの姉ちゃん達や………俺にもな」

「………マーロウさん」

「俺は、そんなのゴメンだね」

マーロウは、ホームズの頭から手を落とす。

「なぁ、ホームズ………俺はお前らに会えて……楽しかったぜ」

マーロウは、ポツリとこぼした。

「辛い事も多かったが、それでも、お前らと……紅茶飲んで……情報交換して……よぉ……いいもんだよなぁ、ああいうの」

「ゔん、ゔん」

もうホームズの涙は決壊していた。

マーロウの顔に雨に混ざって暖かいものが、顔に落ちる。

マーロウはゆっくりとコートのポケットを漁り、ホームズに鍵をヨルにリリアルオーブを渡す。

「おい、お前、これ……」

「お前に使えるかは、分からんが……俺が持っているより、マシだろ……」

ヨルにそう言うとマーロウは、ホームズの方を向く。

「その鍵の使い道は……俺の家に行けば分かる」

「………自分の家でしょう?自分で案内してくださいよ……」

マーロウは、それには答えず、煙管を咥える。しかし、雨が邪魔をし、煙管に火が灯る事はなかった。

マーロウは、煙管を吹かすのを諦めただ咥えていた。

「もう少し見ときたかったんだがなぁ……お前らは揃いも揃って不安で仕方ねーよ……」

「だったら、生きろ!!最後まで見てろよ!」

マーロウは、煙管を咥えながら言葉を続ける。

「………我儘だなぁ、おい……」

マーロウの視界は極端に狭くなっている。

マーロウ自身もう、終わりが近いのを悟っていた。

いや、氷の矢が迫っていた時から、それぐらいわかっていた。

だからこそ伝えなければならない。

先を歩くものは、後を歩くものに伝えなければならない。

ホームズは決してマーロウの弟子ではない。

しかし、ホームズより遥かに歳上だ。

だったら伝えなければならない。

それが、マーロウの役目だ。

「ホームズ………」

マーロウは、そう前置きすると掠れる視界の中に移る碧い瞳を頼りに言葉を続ける。

これだけは言っておかねばならない。

ホームズが、直面している間違いそのもので、そしてこれから、確実に行われる事を未然に防ぐべきなのだ。

「お前がこれから歩むのは、お前の人生だ。お前だけの、お前による、お前の為の、人生だ。

だから、他人の荷物を背負ってまで潰れるな」

マーロウは、殆ど狭まった空を見上げる。

 

 

 

 

 

 

 

「人生は、長い………それなのに他人の荷物で潰れたら、どうしようもないだろ………」

 

 

 

 

遺言ぐらい聞いてあげたい。

しかし、ホームズは頷けなかった。

 

 

 

 

 

「ゴメン、マーロウさん。それは、無理だ」

 

 

 

 

 

 

ホームズの言葉にマーロウは、悲しそうに笑う。

「やっぱり、そう答えるか………なら、後はお前に任せた……」

そう言ってマーロウは、ヨルを見る。

「頼むぞ」

ヨルは無言でマーロウを見てこくりと頷いた。

「分かった…………元々一連托生の身だ。一回だけはどうにかしてやる」

ヨルの言葉に満足そうに頷くとマーロウは、ホームズの方を向く。

「ローズの馬鹿には、頑張れって言っといてくれ。あいつ、自分でも気付かないうちに成長しているフリをしちまうからな……」

「………分かりました……必ず伝えます」

もう、ホームズは涙を堪えていない。

顔は雨と涙で濡れていた。

「もう行け……じきに奴らも来るだろう」

マーロウの口から煙管が転がった。

もう咥えている力もないのだろう。

ホームズは、悔しそうに俯く。

「ホームズ」

「わかってるさ、ヨル」

ホームズは、マーロウの煙管を拾って立ち上がった。

マーロウは、音だけでそれを察する。

「………ホームズ、生きろよ……死んだりしたら………今度こそ手加減抜きで殺してやる」

ホームズは、煙管をいつもの小袋の中に入れる。

「えぇ、言われなくても………ありがとうございました……さよならです」

「じゃあな、マーロウ(・・・・)

マーロウは、ヨルの言葉に少し驚き、ニヤリと笑う。

「もう……視界もぼやけてよくわからんが……ホームズ、ヨル、お前ら笑ってるだろうな?さよならぐらい笑顔で言えよ」

弱々しい声でマーロウは、ホームズにそう言った。

「あた………りまえじゃ……ないですか……どんな女の子だってイチコロの笑顔……ですよ」

「……そうか………ならいい。じゃあな」

「はい」

ホームズは、ヨルを肩に乗せ、もう二度と振り返る事なく走っていった。

遠ざかる足音をマーロウは、満足そうに聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく、行ったか………」

マーロウは、曇った空を見上げる。

顔を打つ雨の強さも相変わらず変わらない。

「……あいつ、ほんと子供だよなぁ………おまけに嘘も下手くそだし……そこだけはあいつとは大違いだよな…………」

そうつぶやいてマーロウは腹の傷に手を触れる。

あの時、ホームズの厚意を受け取っていたら、確かに死ななかっただろう。

けれどもマーロウは、それを拒んだ。

もう少し後悔があるかと思ったのだが、以外に普通だ。

顔を打つ雨に顔をしかめる事もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────『お前、本当にいつも楽しそうだな』

『当たり前だろう?人は生き方は選べるけど、死に方は選べないんだから。だったら、楽しく生きた方がいいじゃないか』

『………もし選べたら?』

『そん時は私の負けでいいよ。君の初白星だ。てなわけで、どうする今ここで腹でも切るかい?』

『アホ言え。誰がやるんだよ、そんなこと。つーか、勝負だったのかよ………』

『出来るか、出来ないかの賭けだろう?だったら、勝負さ』─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ……ははは……」

もう、今まですっかり忘れていた思い出を思い出し思わず笑ってしまった。

いつも負け続きだった。この時もいつものように負けたマーロウは、そんな会話をしていたのだ。

マーロウは、ニンマリと笑い口を開く。

「……どうだ、自分で死に方………選んでやったぞ……賭けは………おれの勝ちだ……ざまぁみやがれ……」

 

 

 

マーロウは、ゆっくりと空に向かって手を伸ばす。

あの空の向こうに彼らの目指すべき場所がある。

それが分かった。

彼らの目的ももうすぐだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルイーズ・ヴォルマーノ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう呟くとマーロウの手は地面に静かに落ち、それっきりもう二度と動く事はなかった。

 

 

 

 

 

 







エクシリアは、揺るがない信念のRPGです。
マーロウは、それに恥じない生き方をさせたつもりなのですが、どうでしょう?
いや、やっぱこういう言い方は良くありませんね。
マーロウは、それに恥じない生き方をしました。
問題はそれを受け取った奴らがどう生きていくかです。





割と早い時期からマーロウの退場は、考えていました。
だからこそずっと迷いましたが、結局退場させました。
何回も直しました。
本当に書いてて辛かった………



さて、クルスニクの槍の章は、ここで締めます。
次回から新章突入です。
なので、企画も明日で締めます。



では、また百十八話で( ´ ▽ ` )ノ
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