1人と1匹   作:takoyaki

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百二十話です。
……………二百話いかないよね?



てなわけでどうぞ


信じぬものは、突き止める

「……一体何をしようとしてるんだろう」

一人暗い廊下を歩きながら、ポツリと呟いた。

先ほど感じた違和感。

それを考えていたらここまで来てしまった。

部屋を出るとき誰にも気付かれていないはずだ。

そして、幸いな事に彼はじゃんけんで負けて一人だけ別の部屋だと言っていた。

これ以上のタイミングはない。

そんな事を考えていると部屋の前まで来てしまった。

ここまできたら引き下がれない。

静かに物音を立てないようにドアを開ける。

彼はドアに背を向け本を読んでいた。

どうやら、部屋に置いてあった本を見つけたようだ。

本を読むのに夢中で彼は全く気付いていない。

それを確認すると一歩踏み込み、武器をホームズに向かって振り抜く。

しかし、ホームズは、背を向けたまま左手の盾で受け切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ……夜這いなら、もう少し色っぽいのがいいなぁ」

 

 

 

 

 

彼、いや、ホームズは、盾で受けながらゆっくりと立ち上がる。

 

 

 

 

 

 

「こんばんは、ローズ(・・・)

 

 

 

 

 

ホームズは、優しくそう言って刀を押し返した。

ローズ自身も特に抵抗するつもりもなかったようだ。

直ぐに下に降ろす。

 

 

 

 

 

 

ローズは、ありとあらゆる感情押し殺してホームズを睨みつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「あれ?ローズは?」

「……あぁ、ローズなら先ほど部屋を出て行ったぞ」

何となく目が冴えてしまった、レイアが何とは無しにそう言うと、ミラは少しだけ身体を強張らせて返した

「……?どうしたのミラ?」

「いや、何でもない」

「ふーん……ローズ何しに行ったんだろう?」

「ホームズの所じゃないのか?」

『好きな人と話したいんだよー、きっと』

「……まあ、多分そうだろうね」

レイアは、そう言いつつも何とは無しに違和感が拭えない。

「………ねぇ。ホームズの事どう思う?」

「……?レイアがそんな事を言うなんてめずらしいな」

ミラは不思議そうに尋ねる。

「うん………なんか、気になってさ……」

答えは直ぐそこまで出ているのだ。

しかし、後一歩が足りない。

「………あ」

ミラは突然何かを思い出したように声を上げた。

「そう言えば私もあったぞ……思い出した……」

ミラは、そう言うとレイアにナハティガルとの戦いの後の話しをし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「どうしたんだい?えらく物騒じゃないか?」

ホームズは、ローズの刀を見ながらそう告げる。

「………」

「まあ、別にいいけど……」

「ねぇ、ホームズ」

ホームズの言葉を遮るようにローズは、言葉を発した。

「私の家族は、アルクノアに殺された……知ってるわよね?」

「まあね」

ホームズの言葉を聞きながらローズは、俯き、ぎゅっと拳を握り締める。

「私……ずっとその事だけを考えてた。私の家族はアルクノアに殺されたって………でも……」

ローズは、そこで顔を上げる。

「問題はもっと別の場所にあった」

ローズは、そう言ってホームズを睨みつける。

 

 

 

 

 

何で(・・・)アルクノアに(・・・・・)殺された(・・・・)かと言うことよ」

 

 

 

 

 

 

 

ホームズは、ただ黙ってローズの話に耳を傾ける。

 

 

 

 

 

「冷静に考えてみるとおかしいわよね?私達家族は普通に過ごしていた筈なんだもの。アルクノアなんて、家族が殺されてから知ったわ」

ローズは、そこで言葉を切る。

「関わりなんてないと思ってた。

でも、今日改めて分かった」

「………何が言いたいんだい?」

ホームズの言葉にローズは、刀を向ける。

「貴方達親子は関わりがあったのよね?」

ホームズは、表情を崩さない。

ローズは、更に言葉を続ける。

「貴方は、ヨルの力でアルクノアからご指名が入るほどの存在だし、貴方のお母さんだってアルクノアに散々狙われてた……」

ホームズは、相変わらず表情を崩さない。

ローズは、言っていて気付いていた。

ここから先を言ってはいけないと。

これを言えば確実に全てが壊れると。

マーロウが言っていた。

ホームズの隠していることを知ろうとすれば気分が悪くなるだけだと。

だが、知らないことが気分のいいことだろうか?

確かに知らなければ、言わなければ、薄氷の上を恐る恐る歩くような関係を保っていけるだろう。

しかし、それを永遠に続けられるかといえば、答えは否だ。

この疑惑を知りながら見て見ぬ振りをするなんて、ローズには出来るわけがない。

口を閉じることは難しいことだ。

そして、ここまで来てしまっては止めることは不可能だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルクノアに追われている貴方達親子に関わったせいで、私の家族は殺されたんじゃないの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋の中にローズの声が染み渡っていく。

雪降るカン・バルクの夜。建物の中とはいえ、冷え切っている。

 

 

 

 

「よく、そこまでたどり着いたねぇ……ローズ」

ホームズは、そう言って椅子に座りなおす。

そう言いつつもとっくにローズが気付いていることにホームズは気付いていた。

あの時、ローズが真っ先に帰った時、ホームズは肩をすくめていた。

しかし、『知らない』とは一言も言っていないのだ。

「じゃあ!今の私の話は!!」

「当たってると思うよ。おれ達の行方をアルクノアが調べようとして、君達の家族は殺された……そう母さんから(・・・・・)聞いている(・・・・・)

その人づてに聞いたような無責任な言葉を聞いた瞬間ローズは、刀を捨て、ホームズの胸ぐらを掴み上げる。

これ以上うっかり刀を持っていたら、本当に斬り殺してしまいそうだ。

「……貴方は、知らなかった……」

必死に湧き上がる激情を抑え込み、言葉を続ける。

「だから、関係ない……そう言いたいの?…」

胸ぐらを掴み上げられながら、ホームズは口を開く。

「不満かい?でも、仕方ないだろう?君の家族が殺されたのって、確か、おれと別れてからだろう?

その時、おれがいくつだと思ってるんだい?」

ホームズは、胸ぐらを掴まれながらも平然としている。

「真相なんて人づてで聞くしかないだろう?」

「だったら!なんで言ってくれなかったのよ!」

「聞かれなかったからね。聞かれてもない事をホイホイ話すわけにいかないだろう」

激昂するローズとは対照的にあくまでホームズは、いつも通りだ。

ローズは、そんなホームズをみると思わず涙が溢れる。

「じゃあ………じゃあ………」

声が震え、胸を掴む手が弱まる。

もうなんの制御も出来はしない。

その次に出る言葉が何なのか、想像するまでもない。

「おいよせ」

ヨルは、そう言うがローズは、言葉を続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方達親子さえいなければ、アルクノアに私の家族は殺されずに済んだの!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ローズの身を切るような叫びが響き渡った。

言ってはならない、決して口にしてはならないその言葉が部屋の空気を凍りつかせる。

ローズの家族を殺したのは、アルクノア。だから、ホームズは関係ない。

それが正論であり、正解だ。間違っていない。

ローズの叫びは、言いがかりと言ってもいいレベルだ。

しかし、そんな風に割り切れるほど、人の心は簡単ではない。

どうしたって、考えてしまう。

不幸を呼び寄せた人間の事を。

その人間さえ、いなければありえなかった不幸を。

その人間さえ、いなければありえたはずの幸福を。

そして、それはある意味事実でもある。

それを言いがかりと呼べる人間がいるだろうか。

ホームズは、何も言わない。

今まで散々口答えをし、減らず口を叩いていたホームズが、今の言葉にだけは、何も言わない。

ローズは、滲む視界の中にいるホームズを見る。

ホームズの笑顔に見惚れ、それから意識し、そして再会し、旅までする事になった。

彼のことになれば、頭に血が上り冷静からはかけ離れてしまう、それほど大事だった(・・・)

そんなホームズが実は家族殺しの遠因の一つだった。

 

 

 

 

あの路地裏で泣いていたホームズも、

 

 

 

 

船着場で友達と言われて嬉しそうだったホームズも、

 

 

 

 

別れ際に動揺していたホームズも、

 

 

 

 

自分を抱きとめたホームズも、

 

 

 

 

全てがまるで自分の中で静かに壊れていくのを感じた。

どんなに手を伸ばしても決して届かない、過去の産物へと変わっていく。

ローズは、それを止められない。いや、止める気すら起きない。

そんな想いとは反対にある感情が出来上がっていく。

ローズは、静かにホームズの胸から手を離し、落ちている刀を拾い納刀する。

明日は、決戦だ。

マーロウを殺し、自分の家族を殺し、イスラの裏切る原因となったアルクノアとの決戦だ。

ここまで来て、自分だけ降りるわけにはいかない。

ローズは、とぼとぼ扉に向かって歩いて行き扉に手をかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………貴方と出会わなければ良かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ローズは、膨れ上がった感情をそう静かに言葉にして扉を閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

扉を閉める間際に視界に入った碧い瞳だけがやけに印象的だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「……というわけなんだ。まあ、別に気にする程でもないと思うのだが………」

一方こちらは、ミラの話が終わっていた。

「へぇ……ホームズが……まあでも、別にいいんじゃないですか?」

エリーゼは、そう言って頷いた。

しかし、そんな中何も言葉を発しないレイアをエリーゼは、不思議そうに見る。

「レイア?どうしたんですか?」

レイアは、ミラの話を聞いて驚きで目を見開いている。

「ミラ、今の話……本当?」

「あぁ。本当だ。別に隠すような事でもないだろ……まあ、私も忘れていたし……」

レイアは、ガタッと突然立ち上がる。

「レイア?」

「ホームズのとこ行ってくる。遅くなると思うから先寝てて。それと、その話ホームズに喋っていいか許可取っとくから、それまで他言無用ね」

レイアは、そう言って部屋の扉を開けた。

「わっ!ローズ!」

「………レイア?」

涙で潤んでいる目を慌ててローズは、隠そうとする。

しかし、レイアは、それに構わず走り出していた。

「ごめん!先寝てて」

そう言ってレイアは、走り出していた。

もっと早くに気付くべきだった。

違和感の正体はこれだ。

足に比例して早くなる鼓動。

レイアは、思わず胸を抑える。

早鐘を打つ心臓が痛い。

ホームズの部屋の前で深呼吸をして開ける。

しかし、ホームズの姿はない。

どうやら、入れ違いになったようだ。

「────!一体、どこへ」

 

 

 

 

 

『ここには、奴の親の墓がある』

 

 

 

 

 

 

ウィンガルの言葉が脳裏をよぎる。

(ここって、教会……そうか!ここの事だったのか!)

 

 

 

レイアは、そう言って外に出て墓地に向かう。

すると案の定、そこにはホームズとヨルが墓前にいた。

降り積もる雪の中に立っているその茶髪の後ろ姿は、中々に景色映えしていた。

雪を踏みしめながら、レイアはホームズに近づく。

恐らくヨルが告げ口をしていたのだろう。

ホームズは、レイアが声をかけるより先に大して驚いた様子も見せず振り返った。

「何してるんだい?こんな時間に?」

「……なんか、眠れなくてさ……それ、お父さんのお墓?」

早鐘を打つ心臓を懸命に抑え勤めていつも通りに話す。

「まあね」

深々と降り続ける雪。

口から漏れる白い息がその寒さをものがたっていた。

「お母さん……参加してくれない?……」

「何てったおれの母さんだし?」

「ははは……無駄な説得力だね」

レイアは、苦笑いをして口を開く。

「ねぇ?ホームズのお母さんの事教えてよ」

「え?何で?つーか、散々言ったと思うんだけど………」

「化け物じゃなくてさ、もっとこう……どんな事が得意とか、どんな料理が苦手とか、どんな食べ物が嫌いで……そして、どんな物が好きとか」

レイアの質問をホームズは、考えていく。

「そうだねぇ、大抵の事は出来たから、苦手なものはこれと言って………まあ、しいて言うなら精霊術かな?」

「料理は?」

「うーん……前にも言ったと思うけど大抵の物ならなんでも出来たよ」

「嫌いな食べ物とかは?」

「食べ物っていうか、コーヒー。

おれ、母さんのコーヒーをずっと飲んでたから、コーヒーがあんなに苦い物なんて知らなかった……」

そう言ってホームズは、遠い目をする。

「多分、母さんも苦い物が苦手だったんじゃないかな?」

レイアは、ニヤリと笑う。

「分かんないよ?ホームズの事を気遣って砂糖を多めにしてくれてたのかもよ?」

「そんなに甘い人じゃなかったよ」

ホームズは、ため息を吐く。

きっと碌な目にあっていなかったのだろう。

「………好きな物は?」

「明確には言わなかったけど、家族だったと思う。

父さんのお墓の前では絶対泣いてたし、おれの事を宝物だって言ってくれた」

レイアの質問にホームズは、とても楽しそうに答える。

いや、正確に言うならため息を吐いたりうんざりした風もなくはない。

レイアは、思わず顔を綻ばせ、楽しそうに笑う。

「いいお母さんなんだね」

「ふふふ、どうだか」

楽しそうに笑うホームズの顔を見てレイアの心臓は、更に早くなる。

寒い中走ったせいか、顔は赤い。

心臓に比例して早くなる呼吸は、白い息となって雪の降る夜へと消えていく。

ずっと言いたい事があった。

会った時からもしかしてと思っていた。

恐らく、気付いているのは自分だけだ。

誰にもバレていない。

アレだけ分かりづらく動いているのだ。

レイアは、ふと思う。

物語に出てくる、人物とは常にこう言う思いを抱えているのだろうかと。

早鐘を鳴らす心臓が、そうだと答える。

もっと鈍ければとも思った。

今回に限ってはそう思った。

しかし、もう遅い。

気付いてしまった。

黙ったレイアを見てホームズは、不思議そうに首を傾げる。

レイアは俯く。目を見てこの言葉を絞り出すには、辛い。

レイアから、静かに声が出される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、ホームズ。どうして、お母さんの話をする時、いつも過去形なの(・・・・・・・・)?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人の周りを雪が包み込む。

雪の降る静かな夜にレイアのその絞り出すような質問だけがやけに響いた。

 

 

 

 

 

 

レイアは、ふと思う。

物語に出てくる人物とは常にこう言う思いを抱えているのだろうかと。

 

 

 

 

 

きっとその通りだ。

物語に出てくる人物、人の隠している秘密に辿り着いたものは、きっとこう言う思いを抱えているのだろう。

 

 

 

 

 

レイアは、胸の前で手を握り顔を上げホームズに向かって顔を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ホームズのお母さんって生きてるの?」

 

 

 

 










エクシリアにどんでん返しがあるなら1人と1匹にだって!
この1人と1匹を考える上で最重要課題として頭をひねって考えつきました。
長かった………書けて良かった。
会話の流れが不自然にならないよう、でも仕掛けはしなくては………と、とにかく気を使いました。


確認もしました。
まぁ、間違っていたらスルーでお願いします。




ではまた百二十一話で( ´ ▽ ` )ノ

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