1人と1匹   作:takoyaki

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百二十三話です。



数字に直すと1、2、3です。
えぇ、まぁだからどうしたという話ですけど………


てなわけでどうぞ


天使は悪魔の顔をしてやってくる

「………あー………これって話した方がいい奴かい?」

  ホームズは、諦めたようにため息を吐いた。

「そうして貰えると私がここに残った意味がある」

ホームズは、ミラの言葉を聞きヨルに顔を向ける。

「ローズは?」

「いないな」

「そう……じゃあ、レイア、君もそこにいたまえ。話してあげる」

そう言ってホームズは、口元に人差し指を持ってくる。

「ただし、これから話すことはトップシークレットだ。

ローズは、もちろん他の面子にも話さないでね」

声を潜めて真剣に言うホームズにミラとレイアは、頷く。

「よろしい。なら話すよ」

そう言ってホームズは、口を開く。

「ミラの推理は当たりだ。ローズの家族が殺されたのは、厳密に言えばおれたち親子のせいじゃない。

まあ、そうなれば他の原因はひとつだ」

「そうなるな」

ミラはホームズに同意する。

しかし、レイアは訳が分からず、首を傾げる。

ホームズは、そんなレイアを見ると先程ホームズが粉々にした長い椅子の欠片を三つ拾い、レイアの前に置く。

「……いいかい、回りくどいようだけど、丁寧に説明するよ。

ローズの考えでいくとクリスティ一家殺しに関わっているのは、犯人であるアルクノア」

そう言って大きめの木片の一つを指差す。

「アルクノアとの関係をもたせたおれたち親子」

ホームズは、先程より少し小さい木片を置く。

「そして、被害者ローズの家族」

最後にホームズは、更に小さい木片を置く。

椅子の上には、全部で三つの木片が置かれた。

「さて、問題はこのアルクノアがローズの家族を殺した動機だ」

そう言ってホームズは、一番大きな木片を持つ。

そして、中ぐらいの木片に近づける。

「いいかい、おれ達が理由じゃない、するとどうなるか……」

そう言って中ぐらいの木片を椅子から落とす。

レイアは、少しずつ理解していく。

 

 

 

 

 

今、椅子の上に残るのは小さな木片(ローズの家族)だけだ。

 

 

 

 

「そうか、そうなるね」

「そう、ローズの家族が殺された原因は、ローズの家族自身にあったんだ」

「でも……なんで?」

レイアの疑問は、最もだ。

ホームズは、少しどう説明しようか考え、レイアを指差す。

「レイアの棍、おれに壊されたよね?」

レイアは、言われてふと思い出す。

「古くなってガタが来てた所に剛招来で強化されたかかと落としを食らったからね………」

レイアは、そう言ってため息を吐く。

妙に説明口調なところをみると未だに思い出すたびに不愉快になるようだ。

「ホームズには迂闊な事言うもんじゃないって思ったよ」

「いい事だよ思うよ。失敗は、教訓として学ぶべきだよ」

「………色々言いたい事はあるけど、続けて」

レイアのじとっとした湿度の高い半眼に構わずホームズは、続ける。

「さて、レイアの棍がいい例だ。

道具というものは、時間と共に風化し、老朽化し、壊れていく」

そう言って大きな木片を持つ。

黒匣(ジン)も一緒だ。

どんなに強大な力を放とうと、どんなに悪魔の様な代償があろうと、それが人の手で作られた道具である限り、壊れる事は避けられない」

そう言って大きな木片をくるくると回す。

「彼らは二十年もの間、このリーゼ・マクシアの中に閉じ込められていた………黒匣(ジン)だって、徐々に使えなくなっていく筈だ……」

ホームズは、木片をミラに向ける。

「君に聞きたいんだけど、アルクノアの力は弱まっていったかい?」

「………いや。そんな事はなかった」

ホームズは、ミラの言葉に頷き口を開く。

「それは何故か?答えは単純、黒匣(ジン)が使えるよう援助をしていた奴らがいたかだ」

そう言って小さな木片を持つ。

 

 

 

 

 

 

 

「ローズの家族がそれだ。

彼らは、黒匣(ジン)の原料を渡し、金を得ていた」

 

 

 

 

 

 

 

しんと空気が静まり返った。

「えっ?どういう事?」

「死の商人の代名詞、武器商人こそが、ローズの家族の正体だ」

ホームズは、そう言って大きな木片を持つ。

小さな木片を弄びながらホームズは、言葉を続ける。

「表向きは、どこにでもいるしがない商人。

しかし、裏の顔は人と精霊に仇なすリーゼ・マクシア人だ」

「ちょっと待って。エレンピオスの物がどうして、リーゼマクシアで作れるの?」

レイアの言葉をヨルは鼻で笑う。

「クルスニクの槍だって、リーゼ・マクシアで作れただろ?何も不思議なことはない」

ホームズは、片手に小さい木片と大きな木片を持ち、もう片方の手で、中ぐらいの木片を持つ。

「これに気づいたのは、母さんだ。

税金を納める為にその月の売り上げを計算しなくちゃいけなかったけど、クリスティ一家の手が離せそうになかったから、親切でやったらしい。

まあ、普通は嫌がる筈なんだけどね」

そう言って中ぐらいの木片と小さい木片を今度は同じ手に持つ。

ヨルは、ゆらゆらと尻尾を動かしながら口を開く。

「ホームズの母親相手にイカサマをやるなんて不可能だ。

例え、イカサマがかけられていないと信じていても、あいつの目にかかれば、不自然な点は矛盾となり、不正となる」

ホームズは、ヨルの言葉に頷いて三つの木片を椅子に置く。

「母さんは、気づいてしまった。

アルクノアとクリスティ一家の繋がりに気づいてしまった。

のちによく言っていたよ。『私が気を使うと大抵碌な結果にならない』って」

「…………それで、ホームズのお母さんは、どうしたの?」

レイアが恐る恐る尋ねる。

「母さんはね、どうでもいい人間には、かなり適当だけど、恩人や気に入った人間には、本気で力になろうとする、そんな人だった」

そう言って思い出したように手をポンと叩く。

「あぁ、勿論気に入らない人間は、自分の力の及ぶ範囲で徹底的に潰す人だったよ」

「いや、今はその情報いらないよ」

「………話を戻そう。ローズの家族は前者だった。

だから、臆することなく迷うことなく言った。自分の気付いたことを」

「…………ローズの家族に言ったの?」

「……らしい。そう書いてあった。まぁ、おれが黒匣(ジン)について詳しく知ったのはつい最近だけど……」

ホームズは、そう言って口から煙管を外しくるくると回す。

レイアとヨルだけがその言葉の意味を察する。

「どうしてそんな事を……」

「彼らの商売はね、傾いていたみたいなんだ。その埋め合わせにって始めたのがキッカケだったらしい」

ホームズは、ふうっとため息を吐く。

「悪魔は天使の顔をしてやってくるとは、よく言ったものだねぇ……」

ホームズは、ポツリとそう言うと話を戻す。

「ローズの家族はね、どうやら抜けるつもりだったらしい、一刻も早く。

しかし、母さんがそれを止めた。

金ってのは、素直でね……金額の大きさはそのままアルクノアとの関わりの強さだ。

その強さは今更、そう抜けられる物じゃあなかった……」

ホームズは、そう言ってカバンから紙と封筒を幾つか引っ張り出す。

「紙だし、売らなかったんだね、ミラ」

「まあな。一銭の価値にもならなそうだからな」

ホームズが出した紙は金額が書き連ねてあり、合計金額が書かれていた。

金額の大きさに思わずミラとレイアは、息を飲む。

「ホームズ、これ……」

「母さんが計算した奴だよ……これだけの取引を彼らはしていた。

客を区別するなとは言わない。

金を持って、店に並べば、その時点でお客様だ」

そう言ってホームズは、目を険しくする。

「問題は、そのお客様との商売に不正を働き、犯罪に加担していたことだ」

「ローズの家族は、ここから抜けようとしていたんだよ……ね?」

レイアの質問にホームズは、頷く。

「だけどね……アルクノアがそれを許すと思うかい?

ここまで、秘密に加担した人間を何もせずに野放しにすると思うかい?」

そう言って紙を手に持つ。

「目的の為なら手段を選ばないアルクノアが、そんな事をするわけがない、そうだろう?ミラ」

「あぁ」

ミラは静かに頷く。

「母さんもそれを指摘した。だから、下手に動くなと忠告をした。

けれども、クリスティ一家は、恐らく母さんの隠し事分かっちゃったんだろうねぇ……」

「隠し事?」

「今更抜けられないってこと」

レイアの言葉にホームズは、にべもなく言い放った。

凍りつくレイアに構わずホームズは、言葉を続ける。

「………できない事をできる事にする為の最終にして最高の手段って、何だかわかるかい?」

 

 

 

 

そんなものホームズを見てれば一発でわかる。

 

 

 

 

「命を……かける事……」

レイアの呟きにホームズは、頷き、俯く。

「結果は知っての通り、彼らは賭けに負けた」

そう言って、ホームズは煙管を咥え直す。

「交渉は失敗し、

家族は殺され、

ローズは一人になった………」

そう言ってシワだらけの封筒を開ける。

「えらく、くしゃくしゃだね……」

「まあ、母さんが握り潰したからね」

そう言ってホームズは、その時、手紙の届いた時の事を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

碧い瞳に焼きついた母の表情は、今でも忘れられない。

 

 

 

 

 

──────

 

『……んの馬鹿!』

ホームズの母は、眠たそうな垂れ目を険しく釣り上げ、ホームズの手を取った。

『急いで、シャン・ドゥにもどるよ!!』

母の手から感じる体温は冷たく、その動揺を隠そうともしない、母の態度から当時のホームズは幼心に良からぬ事が起きているのを感じた。

 

 

───────

 

 

 

 

 

 

 

「『突然のお便りを許してほしい。

貴方には、色々と忠告されたが、それでも私達は、アルクノアと手を切りたいと思う。

確かに手を切りたいと言えばタダでは済まないだろう。

けれどもこのままでも安全とは限らない。

それに、私は商人だ。

お客さんは、区別するつもりはない。

しかし、商人として願う事はある。

商人ならば商品を売って人々を幸せにしたい、幸せになりたい。

確かに私達はそうやって生きてきた……生きてきたのだ。

願う事なら、その日々に私は戻りたいと思う。

こんな後ろ暗い思いをして生きていきたくない。

だからこそ、その為に私は、いや、私達は、命を賭けようと思う。

本来ならば、私達の娘達は巻き込みたくない。

しかし、巻き込まれないのはローズだけだ。

上の子は関わってしまったからと、作戦まで提案してきた。

色々と可能性が低い事は確かだ。だからこそ心配などせず、成功だけを祈っていてほしい。

勝手な事ばかりで済まない。

お元気で』」

 

 

 

 

ホームズは、そう言って手紙を全て読み上げた。

 

 

 

 

ホームズの言葉が終わり、辺りは静寂に包まれる。

「………決意の手紙だな」

「そうだね。自分の生き方を貫き直そうとしたんだ……例え、結果がどうであっても………いや、ローズとアルクノアとの縁を切る事は出来たある意味成功したんだろうねぇ」

ホームズは、くしゃくしゃになった封筒をしまう。

レイアは、ローズの話を思い出す。

「そうか……サプライズパーティは、ローズを巻き込まないためだったんだね……」

「そういうこと」

ミラは顎に手を当てホームズを見る。

「………ホームズ、これをローズに言う気は……」

「ないね」

ミラの心配そうな声をピシャリと潰す。

「しかし……このままでは……」

 

 

 

 

「別にいいだろう?嫌悪されるのは、おれだけだ。君たちにまで被害が及ぶ事はないよ」

 

 

 

 

何て事なさそうに言うホームズにレイアの中で何かが切れた。

「そんな事を言ってるんじゃない!ホームズ分かってて言ってるでしょっ!!」

レイアは、座っているホームズの胸ぐらを掴む。

しかし、ホームズは動じない。

「じゃあ、君はどうするつもりだい?まさか、この話をローズにするつもりじゃないだろうねぇ?」

ホームズは、そう言ってレイアの手を解く。

「それは、約束違反だゼ?まあ、例え言った所でローズは、信じないだろうけどね」

「…………えっ?」

思わず首を傾げるレイアに今度はヨルが口を開く。

「簡単な話だ。レイア、お前はホームズの友人だ。そんな奴の事をどうしてローズが信じる?」

きっと何を言ってもホームズを庇っているように見えてしまうだろう。

レイアが答えに詰まると尻尾でミラを指す。

「お前もだ。湾曲的とはいえ、ホームズの事を認め信頼している奴をどうして、信じる?」

ヨルは尻尾を分け、三又にする。

「ジャリもレイアと同じ理由でダメだ。いや、自分より年下というのが更に加わるかもしれないな。

チャラ男は、論外だ。

それにそもそも、前提条件が必要だ」

「前提条件?」

ミラが首を傾げる。

「この事実に自力で辿り着いているという前提条件がな。この条件なしで説明をしたところで、あの小ムスメは、信じないだろう。

お前ら以外で、つり目とローエンが自力で辿り着かない限りは、ダメだ。

ホームズから聞いたなんて言えば更に小ムスメの憎悪を煽る事になるぞ」

何も知らないローズからしたら、ホームズが言い訳をしているようにしか見えない。

「………ホームズは、こうなる事が分かってて言ったの?」

レイアの声は堪える激情で震えていた。

「まあね。ローズのこれは、ミラ辺りが気づくだろうとは思ってたしね。おおよそ予想通りだ」

ホームズは、なんてこと無さそうに淡々と言葉を並べていく。

ホームズのその様子がレイアは、我慢がならなかった。

「卑怯だよ………ホームズ」

歯を食いしばって辛そうに言うレイアにホームズは、肩をすくめる。

「何とでもいいたまえ。これ以上の選択肢は、おれにも君にも選べないだろう?」

レイアは、ホームズから手を離す。

レイアに話してしまえば、ローズにホームズの真意を伝えようとする。

だが、ホームズの友人という立場がそれを許さない。

レイアの語るホームズにローズが耳を貸す事はない。

つまるところ、ホームズはレイア(友人)を利用した、

心配をする友人をホームズは掌の上で転がしていたのだ。

けれども、それは全てローズのためだ。

だからレイアは反論を出来ない。

だからこそ

 

 

 

 

 

 

「……………卑怯なんだよ………」

 

 

 

 

 

 

 

レイアは、絞り出すようにポツリとこぼした。

「……だが、ホームズ」

そんな中、ミラが口を開いた。

「これは、お前が背負うべき荷物じゃない。どう考えてもこれは、ローズが背負うべきものだ!」

「………何をそんなに熱くなっているんだい?」

ホームズは、煙管をぷかぷかと動かし、ミラを睨む。

「家族は自分を守るために皆殺しにあった。

ずっと信じていたイスラは実は情報を流した張本人だった。

更に自分の師匠であるマーロウさんはエレンピオス人を助けに行ってエレンピオス人に殺された。

こんな状態のローズに家族のことまで背負わせるつもりかい?『君の家族は精霊を殺しまくる黒匣(ジン)を使うアルクノアを支援していた。だから殺された』なんて言うつもりかい?」

ホームズの声に感情はない。

どこで息継ぎをしているか分からないほど一息で言い切った。

「馬鹿を言うんじゃあない。そんなの無理だ。ローズを低く見てるとかそんなのじゃない。刃物で刺されば血が流れるのと同じぐらい当たり前の事なんだよ」

そう言ってミラを見る。

「君には、縁のない話だろうけどね、誰も彼もが背負って歩めるわけじゃないんだよ」

「でも!これじゃあホームズがローズに憎まれたままじゃん」

「それがどうしたって言うんだい?」

ホームズは、碧い瞳で真っ直ぐレイアを見る。

「おれが憎まれる事で、

家族のことも知らず、

ローズが生きていける、これ以上何を望むって言うんだい?」

ホームズは煙管をくるくると回す。

「別に気にすることじゃあない。おれにとって、女の子に嫌われるのはいつものことだ」

そう言ってホームズは、肩をすくめる。

レイアは、あの墓場で泣いていたホームズを思い出す。

淡々と紡がれる言葉も、いつも通りの憎まれ口も全て強がりだ。

「『いつものこと』かもしれないけど、平気じゃ無いよね」

レイアの言葉にホームズは、煙管を弄ぶ手を止める。

ミラに無遠慮な事を言われ、エリーゼとティポの言葉に涙を流すホームズが、ローズのあの言葉を聞いて平気なはずがない。

少し前のレイアなら見落としただろう。

しかし、レイアは墓場でのホームズを見ている。

ホームズは、とにかく隠すのだ。

自分の感情も、

強さも、

弱さも、

過去も、

全てを隠して生きてきた。

先ほどからローズの事を話すホームズの言葉には、感情がない。

「……まあ、答えなくてもいいよ。聞かなくても分かる事だしね」

レイアは、ホームズが口を開く前にそう言って腰を下ろす。

「ホームズは、最初から計画していたの?」

ホームズは、煙管を咥え直す。

「正確に言うと、原案を作ったのは、母さんだ。

マーロウさんに全部話してね、リリアル・オーブを預ける時に全部自分達のせいにするって。

それを裏付ける為にもおれ達は、シャン・ドゥを立ち入り禁止になった。

マーロウさんが、いずれ時期を見て話す筈だったんだけど………」

「……話してなかったのか」

「まあね」

ミラの言葉にホームズは、ふぅとため息を吐く。

「一番いい方法は、師匠であるマーロウさんに教えてもらい、ローズはそれからおれら親子に会わずに生きていく、それがベストだったんだけど……」

「……それどころかついていてきたからな、あの小ムスメ……」

ヨルは尻尾をゆらゆらと動かす。

「まあでも、結果としては上手くいったんだろうね。

真実ってのはさ、誰かに教えてもらうんじゃダメってことなんだろうね。

自分で辿り着くからこそ、信じられるそういうことなんだろうさ……」

ホームズは、そう言って煙管を揺らす。

ホームズがそう結論づけたその出来事にミラは心当たりがある。

「イスラの時か………」

「正解。いずれ自分から話そうと思っていたけど、少し軌道修正した」

ミラは、ホームズを睨む。

「だから、お前は……」

「そういう事。君の言う通り本気で隠すつもりなら、あんな事言わない。

でも、アルクノアが現れて、エレンピオスの存在も明らかになった。

ここで言えば確実にローズは、自分の結論を信じるだろうと思った。だから、ヒントを出した」

そう言ってホームズは、肩をすくめる。

「別に嘘はついてないゼ、何一つね。全部ローズが考えた事だ」

自分に憎しみの矢が向かうようにローズを騙す。

そして、ローズは、自分がホームズに守られていることに気づいていない。

誰かの為に頑張る、そう言えば聞こえはいい。

しかし、ホームズの自分の人生を他人に使うその様は、滑稽を通り越して、寧ろ気味が悪い。

ローズは、自分の瞳の色を一番最初に褒めてくれた大切な人間のはずだ。

そのローズに恨まれることは、ホームズにとって愉快なことではない。

それは、先程レイアが見抜いた通りだ。

しかし、ホームズはそれを選んだ。

ローズを守る為にローズとの関係を叩き壊し、恨まれ生きていく道を選んだ。

ホームズのその生き方をレイアは、否定したい。

しかし、ホームズがその生き方を選ばなければ、今度はローズが無事ではすまない。

二つに一つだ。

いや、ホームズ自身が後者の道を潰している。

そんな道などないように、見つからないように隠してしまった。

「……ホームズ、お前の人生は、お前の為のものだ。

それを人に使うのは、褒められた行動ではない」

ミラは静かに言葉を続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「忠告しておく、その生き方の先に待つのは、深い絶望だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホームズは、ミラの言葉を聞くと瞳を閉じてローズとの事を思い返す。

出会ってから先程までの別れが走馬灯のように蘇る。

しばらく思い出に浸ると目を開き、ホームズは、背もたれに背を預ける。

 

 

 

 

 

「………その通りなんだろうねぇ……」

ホームズは、ミラの方を見る。

実際、ホームズは会えて嬉しかったローズに出会いそのものを否定されている。

心がブレなかったと言えば嘘になる。

未練がないと言えば嘘になる。

「………それでも悔いはない。後悔はしない。大事な昔馴染みは、絶望せず、前を向いていく……これ以上なんてない」

ホームズは、そう言って立ち上がる。

「さて、随分と遅くなったねぇ……明日もあるし、おれは先に寝るよ」

ホームズは、そう言って手を振って部屋へと戻っていった。

ヨルはその場に残る。

距離はまだ大丈夫なようだ。

「ヨル」

レイアの心配そうな瞳にヨルは、金色の瞳で向き合う

「前にも言ったろう?あいつは、あいつで化け物だって………自分の為に、頑張れない。他人のためにしか頑張れない。

友人が出来ると喜ぶくせに自分からその繋がりを壊す。その友人を守る為に」

ヨルは吐き捨てるように続ける。

「『いずれ手放すなら大切なものなど作らなければ』、なんて考えられれば楽だろうにあいつはそれを考えない」

ヨルは、尻尾を揺らし天井を見上げる。

「本当、馬鹿な奴」

そう言って一定の距離から離れたヨルはふっと闇に溶けるように消えた。

レイアは、消えたヨルの場所を見続けた。

 

 

 

 

 

 

『死なないでね。おれはもうこれ以上知り合いが死ぬのは見たくないんだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイアは、頬をパチンと叩く。

「寝よう、ミラ」

「………そうだな。そうしよう」

 

 

 

 

大切なものを平気で手放すホームズ。

だったら、ホームズの大切なもの(友人)の取るべき行動は一つだ。

 

 

 

 

「絶対にホームズより先になんて死ぬもんか」

「あぁ、そうだな」

 

 

 

 

 








本当は十二時あげようと思ったのですが、眠いので諦めます。

今回のホームズの話、書こうかどうしようか迷いましたが、このままにしました。




最後に私は最近胃腸炎になりました………やだやだ。
皆さんもお気をつけて。



ではまた百二十四話で( ´ ▽ ` )ノ

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