本当は、午前中にあげようと思っていたのですが、タイトルの通り夜の話なので、幾ら何でもなぁ………と思い今上げました(笑)
てなわけでどうぞ
「ん?まだ寝ないのかい?」
とある宿での出来事。
ルイーズが帰ってくるとヨルは、窓際で星を眺めていた。
ルイーズの言葉に鬱陶しそうな顔を向けるとヨルは再び星を眺める。
「まぁ、もう少しな」
「夜は君の時間だものね」
「まあな。夜、特に新月だと特に身体の調子がいい」
「だったら、早く寝たほうがいいんじゃないのかい?
調子のいい時に寝れば君の力とやらも回復するだろう?」
ルイーズの言葉にヨルは、尻尾を振る。
「………新月だとな、月明かりがないから、星がよく見えるんだよ」
「へぇ」
ルーイズは、少し驚いた顔をして、ヨルを見る。
「もしかして、星を見るのが好きなのかい?」
「もしかしなくてもな」
ヨルは、そう言ってちらりと寝ているホームズを見る。
「本当は、屋根の上とかで見たいんだが………まあ、仕方ないな」
ルイーズは、ワインの瓶とグラスを持って窓に近づく。
「意外だねぇ……
「阿呆。俺が嫌いなのは、人間と精霊だ。それ以外は、割と好ましい部類に入るんだよ」
「ふーん………」
ルイーズは、ワインをぐぃっとあおると一つ星の筋を指差す。
「知ってるかい?アレは、ミルキィウェイと言ってね夜空を流れる川なんだよ」
自慢げにそう言って更に言葉を続ける。
「昔どこかの誰がミルク缶を零してしまって出来上がったという逸話付き」
「ふむ、俺が知ってるのと少し違うな。
確か、アマノガワと言って、仕事ををしないイチャイチャバカップルを分かつ為に作り出した川だと聞いているぞ。
分けたはいいが、今度は余りにも哀れなんで、一年に一度会うことを許したとか、何とか……」
「それってあれだろう?願い事を書いた札を吊るしておくと叶うっていう奴だろう?」
「…………知ってたのか」
悪戯っぽく笑っているルイーズにヨルは嫌そうな顔をして返す。
「割と有名な話だしね。その話、君はどうして知っているんだい?」
二千年以上閉じ込められていた筈の人間嫌いなヨルが何故かこの話を知っている。
ルイーズは、それを引き出す為に、もう一つの話を引っ張り出したのだ。
「カマかけて見て正解だったねぇ。
星にまつわる話なんて人間が作ってるもんだからさ。
教えておくれよ。人間が嫌いな君がどうして人間の作った話を知っているんだい?」
「…………昔、人間に教えて貰ったんだよ。封印される前の話だ」
ヨルは面倒くさそうにそう返す。
ルイーズの目が他に何か聞きたがっているのをヨルは、見つけてしまいため息を吐いて言葉を続ける。
「昔の話だ。夜する事がなくて空を見上げて星の数を数えてたら、人間が来てな、色々話したんだよ」
「…………それ、いつの話だい?」
「俺を倒そうと精霊と人間が結託してる頃だ」
そう言って夜空をもう一度見上げる。
ルイーズは、顎に手を当てて考える。
命を狙われ続け、回復が必要だと言うのにヨルする事がない。
つまり、寝られなかったのだろう。
命を狙われているという危機感がヨルに睡眠という安らぎを許さなかったのだ。
ヨルは、ルイーズの考えなどどこ吹く風という風に笑う。
「まあ、その頃から星を見るのが気に入ってな………」
「楽しかったかい?」
ルイーズの言葉にヨルは少しだけ目を伏せる。
「まあ、な」
そう言って伏せた目を上げると、ルイーズを見る。
「おい、それより、星が幾つか見つからないんだが………」
「は?」
「俺が封印される前は、輝いていた筈の星が見当たらない」
ルイーズは、この世界の秘密を知っている。
下手すればリーゼ・マクシアから見えない位置の星かもしれない。
そう思っているルイーズに構わずヨルは言葉を続ける。
「…………同じ場所で同じ時間に見ているのに、何故見つからないんだ?」
不思議そうな顔のヨルにルイーズは、ニヤリと笑う。
その言葉を聞いたルイーズは、ヨルの疑問に正解を告げる。
「一年かけて光が進む距離を一光年と言うんだ」
「なんだ、突然」
「いいから聞きたまえ。夜空に輝く星々は、地上から何十光年と離れている。下手すれば何百光年もね?」
ヨルはルイーズの言葉に首を傾げる。
「だから?」
「単純な話、今見ている星の光は、今光っているわけじゃないんだよ。
何十年前に光ってたものなんだ。だから、今もその星が存在してるかどうかは分からないんだ」
「…………つまり、俺が封印される前に見ていた星は……」
「多分、もうないんだろうね………」
ヨルはそれを聞くと悲しそうに目を伏せる。
その普段からは考えられない弱々しい様にルイーズは、少し驚いた。
「…………そうか。それじゃあ、仕方ないな」
ヨルはそう言ってルイーズの持っているワインを奪い少しだけ飲んだ。
「ヨル?」
「『形あるものは、いずれ無くなる』か………」
そう言って夜空を見上げる。
星の光が夜空を彩っている。
「形なんてなくても無くなるんだな」
封印される前には、あった筈の光がもうヨルに届く事はない。
そう呟くヨルにルイーズは観念したようにため息をついて、机の下からピーチパイを取り出して置く。
「本当は、私のためだったんだけど、君にもあげるよ」
「お前、これ一人で食うつもりだったのか?」
「当然」
そういうが早いかもうピーチパイを食べていた。
それから、ルイーズは口をもぐもぐと動かしながらヨルを見据える。
「………変わらない、なんて事はない。
それと同じようになくならないなんて事はない」
そう言って寝静まったホームズを見ながらローズは、もう一口、運ぶ。
「いずれこんな時間がなくなる日も来るだろうね。ヨルが居て、私が居て、ホームズが居て、なんて時間が永遠に続く事はない」
ヨルももぐもぐと口にピーチパイを運ぶ。
「そりゃあ、俺としてはそうなって欲しいんだが………」
「ピーチパイいらないならよこしたまえ」
「続くといいな」
ヨルの即答を聞くとルイーズは、自分の分を口に運びごくんと飲み込む。
「それでも、思い出は残り、未来を生きる力となる」
そう言うルイーズの笑顔は、とても優しい笑顔だった。
余りにも意外な笑顔にヨルは思わず面食らってしまった。
しかし、それが何か悔しかったのだろう。
「忘れたら?」
ヨルは、できるだけつまらなそうにそう返した。
ヨルの言葉を聞くと、ルイーズは先ほどまでの笑みを消しとばして面白そうに笑う。
「君なら忘れないだろう?二千年も前の星の位置を覚えていたんだもの」
─────『綺麗な色でしょ!あの星だけ金色に光るんだよ』──────
ヨルはもう一度星を見ようと窓を見る。
その前に鏡となっている窓ガラスが目を引く。
鏡となった窓ガラスには、金色の瞳が暗い夜の中に爛々と輝いていた。
ヨルは、少しだけ優しく微笑む
「そうだな」
そんなヨルを見るとルイーズは、満足そうに微笑み、ヨルの頭を軽く撫でた。
「付き合わせて悪かったな」
ヨルの言葉にルイーズは、ピーチパイをかじりながらウィンクをする。
「別に。女の子は、甘いものと綺麗なものが好きだからなんてことないさ」
「女の子、ねぇ………」
子持ちの女を子と呼べるかどうかは、中々微妙なところだ。
「何か言ったかい?」
「いや。何にも」
ヨルは、そのままルイーズの方を向かず、ぽつりと言葉を続ける。
「ありがとな。
「どういたしまして、
◇◇◇◇
「もう、アレからだいぶ経つな……」
ヨルは、そう言って夜空を見上げる。
時間は深夜。
ホームズは、相変わらず先に寝ている。
ヨルはその夜以降何回かルイーズと一緒に星を見るようになった。
していた話は他愛のないくだらないものだ。
その相手がいなくなってからもう二年経つ。
それから、ずっと一匹で星を眺めていた。
夜になると偶に胸に渦巻くこの感情が、なんなのか大体予想はついている。
そんな話をしたらルイーズは、きっと腹を抱えて笑うだろう。
それを思い出すと少しだけ腹がたつ。
そして、星を見ると何とは無しに思い出す、あの夜の出来事。
あの夜の思い出すと少しだけ頬が緩む。
「思い出……ね」
そう呟くとホームズの寝ている布団がもぞもぞと動く。
そして、むくりと起き上がると寝ぼけ眼でヨルを見る。
「
寝ぼけたようにいうホームズの言葉にヨルは思わず苦笑してしまった。
「
ホームズは、窓際で夜空を見上げているヨルを見て不思議そうに口を開く。
「星を見てるのかい?」
「まあな」
「ふーん………」
そう言って頭をボリボリとかく。
「なら、屋上に行くかい?」
ヨルは、驚いたように目を丸くする。
その顔が珍しかったのか、ホームズは首を傾げる。
「どうしたんだい?」
「いや、逆にお前こそどうしたんだ?」
「なんか、目が冴えちゃってさ……夜風にでもあたろうかなって思って。まあ、そうすれば君も行かざるをえないんだけど」
支度を整えたホームズを見てヨルはニヤリと笑う。
「あぁ、行くか」
これは、そんなとある夜の話。
ヨルとホームズ母(ルイーズ)の話です。
見事このコンビが票を獲得しました。
とはいえ、話が話なので死人と生者のコンビで悪ふざけできないなぁ………と思いこの過去の話を書きました。
まぁ、それ以外で悪ふざけしてましたが………
このコンビの何がいいって、酒が飲めるところです(笑)
そんなわけで楽しんでもらえたら幸いです!
さて、これにて今回の章はお終いです。
何度でも言いますが、ここまで書けて本当に良かったです!
ホームズの秘密がバレるところは書いていてとてもテンションが上がりました!
………いや、まぁ、うん。ホームズ、辛いんだけどね?
色々と問題のある奴ですがこれからもよろしくお願いしますm(_ _)m
あ、最後に……
ヒロインはローズです!
ではまた百二十七話で( ´ ▽ ` )ノ