1人と1匹   作:takoyaki

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百二十七話です。


最近よく聞く言葉〜
「近頃の若者は、電車の中でもバスの中でも暇さえあればスマホをいじっている。一体あの画面の中に何があるのか?一体何をやっているのか?」



自分の書いた原稿があります。
そして、小説書いてます。
………とは言えないですよね、はい。



てなわけで、新章です!
どうぞ


作戦開始
酸っぱい葡萄


「………ふぁ〜」

翌朝、決戦の日。

ミラ達は先に起きており、ガイアス一行も揃っていた。

そんな中ホームズは、眠そうに目をこすっていた。

昨晩は幾らなんでも色々あり過ぎた。

いつもの如く女の子に嫌われ、隠し事はバレ、人に見せた事のない内面を晒し、大泣きし、そして更に企みも呆気なくバレた。

本人には何一つバレていないことはせめてもの救いだ。

そんな事を思い出すと目が死んでいく。

元々たれ目のホームズの目は更に落ちていく。

『気合入れろーホームズ!』

ティポに喝を入れられホームズは、迷惑そうに顔をしかめる。

「うるさいなぁ、バッチリ入ってるだろう?見たまえ、このやる気に満ちた目を」

「眠気の入ったタレ目にしか見えません……」

エリーゼは、しらっとした目でホームズにそう言った。

「ハハハ………」

ジュードは隣で苦笑いをしてローズを見る。

ローズは、普通に腕を組んでそんな二人を見ていた。

いつもならここで更に被せてくるのだが、何も言う気配がない。

「……ローズ?」

「………何?」

不思議に思ってジュードが尋ねると、ローズは更に不思議そうに首を傾げて返した。

「………いや、何でもない」

「気になるわね、なによ?」

まさか、ホームズと何かあった?何て聞けない。

どう答えようか迷っていると、ホームズが口を開く。

「君、大丈夫かい?マーロウさんの事もあるし、休んだらどうだい?」

ホームズのその言葉に一瞬だけ顔をしかめるとローズは、直ぐにホームズに目を向ける。

「分かってるくせにそういう事言うのよね、貴方は」

ローズは、ホームズにそう言うとジュードの方を向く。

「平気よ。気にしないで」

「あぁ、うん」

釈然としないが、ジュードはとりあえず頷く。

ヨルはそんな微妙な空気に構わず口を開く

「それで、空中にある船とやらにはどうやって行くつもりだ?」

「城に繋いであるワイバーンを使う」

ウィンガルは、そう答えると更にもう一つの疑問をローエンが尋ねる。

「しかし、城にはどうやって行くつもりですか?」

「俺の城に行くのに策を弄するつもりはない。正面から大通りを使って突破する」

ローエンの疑問にガイアスは迷う事なく答える。

その答えに一同は、思わず息を飲む。

「……わぁお、まるで王様みたいだねぇ」

「何を頭の悪い事を言ってるんだ、お前は」

ヨルは、ホームズの肩で呆れている。

そんな彼らにに構わずジュードは声を荒げる。

「そんな無茶だよ!」

「そうです!せめて二手に分かれて………」

ローエンも同じ様に声を荒げたが、段々と声が小さくなっていき、静かに髭を触り始める。

静かになったローエンに構わずアグリアが立ち上がる。

「てめーらの意見なんて求めてねーんだよ」

そう言ってアグリアは立ち去ってしまった。

ガイアスは、立ち去らずジュードを見る。

「ジュード。お前のなすべきこと、わかっているか?」

ガイアスの言葉にジュードは、力強く頷く。

「うん。ミラを勝たせること、それが僕のなすべきことだ」

ガイアスは、それを見て満足そうに微笑み、四象刃(フォーブ)を連れて歩き出した。

そんな中、プレザが歩みを止める。

「教会の脇に、市街に続く道があるわ」

そう言うとアルヴィンの方を見ずにそのままの歩いて行った。

ポツンと残された面々には、何とも言えない空気が流れる。

『もうー!なんで仲良くしてくんないのー!』

ティポは、がっくりとする。

「うふふ、どうしましょうか?」

ミュゼは微笑みながらミラに尋ねる。

「そうだな……」

ミラが腕を組んで考える間にローエンが口を開く。

「教会の脇を抜けて裏道から、市街に入り、そこからは屋根伝いに城を目指し、空中戦艦奪取ともに城と兵を奪い返すのです」

ローエンは、そう言ってふふふと微笑む。

「彼らは、陽動を買って出てくれたんですよ」

その言葉と共に一行は、目を丸くする。

そしてレイアは、呆れたように腰に手を当てる。

「素直じゃないなー」

「全くだ」

「…………なんでこっち見てるんだい、ヨル」

ホームズは、そう言ってヨルをジロリと睨みつける。

そんな彼らを見てジュードは、苦笑いをする。

ミラは、ホームズを見て少しだけ目を伏せると直ぐに顔を上げる。

「よし、行こう」

一行は、ミラに続くように歩き始めた。

ホームズだけ欠伸をしながら歩く為、自然と最後尾になる。

そして、皆が前を向いているその瞬間に後ろを振り返る。

「いってきます、父さん、母さん」

肩にいるヨルにだけ聞こえる声量でそう言うとホームズは、後を追うように走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「なるほど、ここに繋がるわけか……」

ホームズは、煙管を口に咥えながらそう呟く。

道は終わっており、そこから少しだけ段差を飛び降りるだけで屋根の上に降り立つ事が出来る。

下に広がる街並みを見ると少しだけ寒くなるが、それと同時に……

「なんか、テンションが上がるね」

その言葉に皆は顔をそらす。

言わないほうがいい優しさもこの世にはあるのだ。

そして、そんな優しさとは無縁のミラはポンと手を叩く。

「おお、アレだな。馬鹿となんとかは高いところが好きという奴だな」

「肝心のところが隠れてないんだけど……」

ホームズは、頬を引きつらせながら返す。

「あら?ホームズは、お馬鹿さんなの?」

「おい、人を馬鹿にするなって言われなかったのかい?なんなの?精霊ってこんなのばっかなのかい?」

ミラに被せるように言うミュゼにホームズは、半眼を向ける。

「あらあら、隠し事はいけないでしょう?」

ミュゼにそう言われてしまい、ホームズは返す言葉もない。

ジュードは近くのアルヴィンに話す。

「ホームズが押されてるよ……」

「あいつ、女の子の素直な言葉に弱いよな……」

「あぁ………」

そう言ってレイアとミラを見る。

「何?」

「どうした?」

レイアとミラは首を傾げる。

「「何でもない」」

アルヴィンとジュードは声を揃えてそう返事をした。

「馬鹿な事言っていないでとっと降りなさい」

ローズが絶対零度の声音で、ジュードとアルヴィンに声をかける。

「だってさ、ホームズ」

「え?」

そう言ってアルヴィンは、戸惑うホームズを他所に屋根の上に突き落とした。

「君、何やってるん………」

雪を払いながら立ち上がると、そこには、

 

 

 

 

 

雪国仕様の鎧を着込んだ兵士がいた。

 

 

 

 

 

「えーっと…………」

 

 

 

 

 

目が合い、時間が止まる。

 

 

 

 

 

 

「アルヴィン!!」

 

 

 

 

先に我に返ったホームズは、固まった後、アルヴィンのほうを向いて叫んだ。

「はいはい」

そう言って頭上に銃口を構える。

「レインバレット!!」

銃弾は、兵士達に雨のように降り注ぐ。

ホームズは、その隙に駆け出し、勢いそのまま顔面に蹴りを食らわせ、家の壁まで蹴り飛ばす。

そんなホームズの後ろに回った兵士が、踵を鳴らす。

どうやら、戦場の兵士と同じく靴に何らかの黒匣(ジン)が仕込んであるようだ。

勢いよく回し蹴りが放たれる。

「はあぁっ!」

蹴りが届く前にレイアの棍が、兵士を襲う。

少しだけのけぞったところにトドメの一撃とばかりにローズが斬り伏せる。

しかし、

「まだいるよ………」

兵士は、まだ四人残っていた。

「ホームズ下がって!」

闘気を纏おうとしていたホームズの前にジュードが現れる。

そして、拳を合わせる。

「ミュゼ!!」

ジュードのマナがミュゼに移り、ミュゼは、ニコリと笑う。

そして、髪を伸ばし兵達を倒していった。

突然の攻撃にホームズは、空いた口がふさがらない。

「…………何、今の?」

「ジュードの直接使役よ」

ミュゼは、ふふふと笑っている。

対するミラは複雑そうな顔をしている。

訳の分からないホームズは、ジュードにもう一度目を向ける。

「えーっと、僕のマナを与える代わりに戦ってもらってるの」

「あぁ、前言ってたね。だから直接使役って訳か」

「し、しかし……ジュード、その、もう少し、人目に気を使った方が……」

珍しくミラが歯切れ悪くそう言う。

ジュードは、訳が分からず首を傾げる。

「どうして?」

「どうしてだと!?それを私にここで説明させる気か!?」

ミラは顔を真っ赤にしてジュードに詰め寄る。

「え?な、なに?僕変なこと言った?」

「別にそんなことないけど」

「よせ!ジュード、ホームズの言うことを鵜呑みにするな!普段から変なことしか言っていない奴なんだぞ」

「喧嘩売ってるなら買うよ」

聞き捨てならない発言をするミラにホームズは、半眼を向ける。

そんなホームズ達を遠目にレイアは、見る。

昨日の今日で不安もあったのだが、至っていつも通りのホームズだった。

まあ、分かっていたことだ。

少しぐらい沈んで貰っていた方が、まだ安心できたかもしれない。

ローズがいい例だ。

迷惑をかけないように頑張っているのが、まだ手に取れる。

しかし、ホームズには、それが全くない。

「ねぇ、ローエン」

考えても出ない答えを抱え込んだレイアは、自然と声を出した。

ローズと距離のあるのは、確認済みだ。

「辛いことがあってさ、どうしたって、苦しい筈なのにいつも通り過ごすことなんて出来るのかな?」

ローエンは、そんなレイアの視線の先を見て少し考える。

「そんな事はないでしょう。辛いことも悲しい事もきっと残っていきます」

「なら、それを感じさせない人ってやっぱり変だよね?」

レイアは、不安そうに言う。

そんなレイアにローエンは、少し目を伏せ静かに微笑む。

「それはきっと感じさせていないだけです。

そうですね、俗に言う………」

 

 

 

 

 

 

 

目の前のホームズは、今に飛びかかろうとしてジュードに抑えられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やせ我慢(・・・・)というやつですよ。得意ですからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

レイアは、ローエンの言葉にようやく納得した。

ローズと違い昨日の晩の事が嘘のように消えているホームズ。

何も事情の知らない人間には、いつも通りにしか見えなかった。

逆にレイアは、事情を知っているため不自然に移った。

けれどもなんてことない。

単純にホームズの方がローズよりやせ我慢が上手かっただけの話だ。

いや、慣れているといった方が正しいのかもしれない。

そんな事を思いながら歩いていると、刀を納めているローズが目に入った。

レイアは、そんなローズに近づく。

「大丈夫?」

「別に。平気よ」

ローズは、そう言ってぎこちなく笑うと前に進んでいく。

色々あったが、ローズもホームズのカバーに向かっていた。

それでもあの輪の中には入っていけないのだろう。

ホームズの策に嵌り、彼を憎むようになった彼女にその場所は、もう甘酸っぱい思いを感じる場所ではない。

いや、見た目は、恐らくまだ甘酸っぱいのだろう。

事実何も知らないジュードは不思議そうにローズを見ている。

しかし、それはあり得ない。

甘いことはない。

辛く、酸っぱく、苦い場所だ。

「………ローズ、あの、」

それを見ていたエリーゼがローズに声をかける。

エリーゼもローズから昨日の話を聞いている。

「………話、しなくていいんですか?」

『だって、ローズは』

続きを言おうとするティポの口をローズが押さえる。

「いいわ、別に。ありがとうね」

ぎこちなく嘘くさい笑顔、そして、感情を押し殺したような声がローズから発せられ、その場にいたレイアとエリーゼは、胸が締め付けられた。

 

 

 

 

 

 

 

やせ我慢を続けるホームズとぎこちなく笑顔を浮かべるローズ。

 

 

 

 

 

 

 

 

二人の気持ちを置き去りにし、城へと歩みを進めていく。

 

 

 

 

 

追いついてきたレイア達を見て、ミラは少し困ったように俯く。

何を考えているか、丸分かりだ。

「少し、様子を見よう。必ずタイミングが訪れるはずだ」

「うん、そうだね」

「はい」

そんなミラ達の会話を渋い顔をしてローエンは、聞いていた。

時が経てばどうにかなるものももちろんある。

しかし、時が経つほどどうにもならなくなるものもあるのだ。

それを彼女達はわかっていない。

時を置き、どうにならなくなってしまった戦友の事を思い出すとどうしてもローエンは、眉間にシワが寄っていく。

 

 

 

 

 

 

「さて、どうしたものですかね……」

 

 

 

 

 

狂った歯車の回り出した音をかき消すようにローエンが静かに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 









梅雨も明けて、キラキラと爽やかな、いや、寧ろギラギラとウザい太陽ですが、そんな陽気の中書いた話の時間軸は冬。
雪が恋しいですね………
英語で『sour grape』は、「負け惜しみ」という意味だそうです。
まぁ、やせ我慢続けてる例の奴らには、ぴったりだと思います。


では、また百二十八話で( ´ ▽ ` )ノ


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