1人と1匹   作:takoyaki

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百三十一話です。


甲子園の球児達、いつの間にやらみんな年下に…………



てなわけで、どうぞ


小粒でもピリリと辛い

「ふぅ、やっと収まった……」

ホームズは、雪の降るカン・バルクを歩きながら、そうこぼした。

外の澄んだ空気に当てられるうちにホームズの酔いは、すっかり冷めた。

酔いも覚め、お目当ての酔い止めも買えたので後はこのまま城を目指すだけである。

だけなのだが………

「………何の用だい、エリーゼ?」

後ろを振り返ってエリーゼに尋ねる。

さっきからずっと後をつけていてる気配があったのだ。

物陰に隠れていたエリーゼは、少しずつ出てくる。

エリーゼの歩幅に合わせるようにホームズは、歩幅を小さくして歩き始める。

「………言っておきたい事がある、です」

「おれは、別に言うことはないけどねぇ」

「ローズのことです」

エリーゼの物言いにホームズは、一瞬だけ言葉に詰まった。

エリーゼは、チャンスとばかりに言葉を続ける。

「ローズから、聞きました」

そう言われれば一つしか思い当たらない。

「あぁ、家族殺しのこと?」

そういうホームズにエリーゼは、頷く。

ティポは、ふよふよと浮かびながら、ホームズを睨む。

「アレは事故です。ホームズのせいじゃないです」

エリーゼは、しっかりと横を歩く向ホームズの方をむく。

そして、ティポの口からではなく、エリーゼ本人の口から言葉を発した。

ホームズは、その言葉を聞き、首を傾げる。

「もしかして、慰めてる?」

「逆です。怒ってます」

エリーゼは、ホームズを睨みつけた。

「…………なんで?」

「ホームズが平気なふりをしてるからです」

『ホームズだってツライくせにー!どうして何も言わないんだー!!』

ホームズは、ハッと鼻で笑うと肩をすくめる。

「おれが辛いだなんて、一体いつ言ったんだい?」

エリーゼは、それを聞くとホームズの前に回り込み、目を真っ直ぐ見る。

その無言の圧力にホームズは、思わず足を止め、たじろぐ。

「な、なに?」

「ホームズは、辛いことがあると、右上を見るくせがあるんです」

その言葉にホームズの目が焦点を求めて泳いだ。

すると、ティポがふよふよと浮かぶ。

『まぁ、嘘なんだけどねぇー』

ティポの言葉を聞きホームズは、目を見開き、直ぐにいつも通りのたれ目になってため息を吐いた。

ようは、エリーゼにハメられたのだ。

「………凄いじゃん、エリーゼ。若干可愛げがないけど」

「負け惜しみは、見苦しいぞ、ホームズ」

ヨルの言葉にホームズは、頬をひきつらせる。

どう誤魔化そうか考えるが、どう考えてもいい案が浮かばない。

ホームズは、煙管を咥えて頬をかく。

「まぁ、弱音なら散々吐いたんだよ。君のいない時にね」

いつ思い出しても情けない限りだ。

思い出すたびにホームズは、過去の自分を蹴り飛ばしたくなってくる。

『だから、エリーゼには、言わないのかー?』

「そういう事」

そう言って、エリーゼに指を向ける。

「それより、エリーゼ、君は?」

「私ですか?」

「そうだよ。君こそ、大丈夫かい?弱音ぐらいなら聞く事ができるよ」

その言葉にエリーゼは、ようやく、ホームズがジャオの事を言っているのがわかった。

エリーゼは、少しだけ動揺すると咳払いをする。

「別に。大丈夫です」

『ジュード君に励ましてもらったもん!ホームズと違って頼りなったぞー!』

ティポの言葉にホームズは、目を見開き、それから憎まれ口を叩く事なく少しだけ優しく微笑んだ。

「それは、良かった」

そう言ってそして、エリーゼのデコを弾く。

優しく、ではない。

割とガチで。

「〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

額を赤くし、恨めしげに睨む。

ホームズは、それを澄んだ碧い目で受け流して歩き出した。

「憎まれ口を叩いた子へのお仕置きだよ」

そんな事をホームズが言っているとティポが飛んできて頭をかじる。

「痛いんだけど………」

ホームズは、不満気にそう言うと剥ぎ取り、追いついてきた。エリーゼ放り投げる。

「……まぁ、アレだ。ありがとね」

その憎まれ口に隠された意図に気付いたホームズは、そうお礼を言いながら人差し指で頬をかく。

エリーゼは、そんなホームズを見てニンマリと笑う。

「いいですよ」

「お礼に何か奢ってあげるよ」

『お詫びの分はー?』

「また時間のある時にね、何せ……」

ホームズは、そう言って懐に手を入れる。

「君に許してもらうのは、かなり面倒くさいからねぇ……」

そう言ってハンカチを取り出しひらひらと見せる。

エリーゼは、それを見て思わず顔を顰める。

その意地の悪い笑みとハンカチが意味する事がわからないエリーゼではない。

「本当に………いい性格してますよね、ホームズ……」

「褒めてくれてありがとう」

そう言って屋台で売っている串焼きの肉をエリーゼに渡した。

エリーゼは、串焼きの肉を受け取りながら呆れたように笑う。

「まぁ、ホームズは、それぐらいがちょうどいいのかもしれませんね」

「でも、モテないぞ」

「聞こえてるよ、ヨル」

「やっぱり、直した方がいいかもしれませんね」

「撤回早いな………」

情けない顔でホームズは、はぁ、とため息を吐く。

「それにしても、ホームズをこんな風に育てたお母さんってどんな人だったんですか?」

ホームズは、言葉に詰まる。

別に母親の事を話すのが辛いというわけではない。

むしろ生きていた頃の母の話をするのは、ホームズにとって楽しい事だ。

ただ、どんな人と聞かれるといつも言葉に詰まる。

「まぁ、タチの悪い人だったよ」

「毎度毎度どうしてそう言うマイナスなものが真っ先に出てくるんですか?」

半眼でエリーゼは、ホームズに尋ねる。

ホームズは、腕を組んで考える。

言葉に詰まったホームズに変わり口を開く。

「………確か、結婚した後こそ料理は美味かったが、結婚する前は壊滅的だったらしいぞ」

「……………あぁ、なんか凄く納得です」

「ちょっと、おれを見て納得しないで」

ヨルは、エリーゼに文句を言うホームズを無視して言葉を続ける。

「料理の腕のレベルアップは結婚後の花嫁修行の成果らしい」

「…………花嫁修行って普通結婚するまえにするものじゃないのかい?」

「お前、あいつに普通なんて言葉が通じるわけないだろ」

ヨルの言葉にホームズは、頬を引きつらせる。

「…………そう言えば、昔からお菓子作りは得意だったとは言っていたけど、料理が得意だったとは一言も言ってなかったねぇ……」

ホームズは、ため息を吐きながら母親との会話を思い出していた。

エリーゼは、ポンと手を叩く。

「もしかして、ホームズもお菓子作りが得意だったりします?」

「そうだよ」

「お前の数少ない特技だもんな」

「一言多い」

ホームズは、ムッとした顔でヨルの髭を引っ張る。

「……………イマイチ信用できない、です」

ホームズは、額に青筋を浮かべる。

「分かった、機会があったら作ってあげるよ」

「いえ、遠慮します」

即答で返されホームズは、情けないため息を吐いた。

少し悲しそうなのが逆に面白い。

エリーゼは、ふふと笑う。

ホームズも最初こそ不満気だったがすぐにエリーゼにつられるように笑みを浮かべた。

「泣いて頼んだって作ってあげないよ」

「頼まれたって食べません」

二人がそんな憎まれ口を叩いているといつの間にか空中滑車にたどり着いた。

エリーゼは、意気揚々と空中滑車に向かっていく。

しかし、ホームズは先ほどまでの元気が嘘のように無言になり渋い顔になっている。

そんなホームズを見て、エリーゼは不審そうに首を傾げ、そしてポンと手を叩く。

「…………ホームズ、乗り物酔い大丈夫ですか?」

「………昔は大丈夫だったし……きっと、多分大丈夫……」

確かに空中滑車は、平気だったのだ。

しかし、ホームズは先ほどまで船酔いでダウン仕掛けていた。

もしこれで再び酔いが戻ってきたらと考えるとどうしても渋い顔にならざるを得ない。

自信を持って大丈夫と言えないホームズがエリーゼは、心配になってきた。

「じゃあ、さっきは、どうやって街まで降りたんですか?

「屋根伝いに……………」

ふらふらの状態で、そんな事をやったのだ。

『お前、バカじゃないのかー!?』

「君達…………」

ホームズの半眼にエリーゼは、思わず目をそらした。

とはいえ、反論のしようもない。

それに母と来た時は確かに景色を楽しめたのだ。

大丈夫だろう。

「よし、乗るか!」

「いや、そんな悲壮な決意で言わなくても…………」

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい」

「話しかけるじゃあない。いま景色が見るのを集中してるんだか!!」

酔わない努力を必死で続けるホームズ。必死すぎて、なんか変な言葉使いになっているが、気にしない。

エリーゼとヨルはため息をついた。

酔い止めを飲めばいいようなものだが、ホームズは短時間に何度も薬を飲むのを嫌う。

ここで薬を使う事はしたくないのだろう。

ホームズに話しかけても仕方ないと思い、窓を見ると街が一面雪化粧されており、思わず息を飲んだ。

「わぁ!」

そんなエリーゼの声にホームズは、エリーゼの方に顔を向ける。

窓から景色を楽しそうに見ているエリーゼを見て、ホームズは、ヨルの方を向いた。

「もしかして、おれもこんな感じだった?」

ホームズの言葉にヨルはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。

「聞きたいか?」

「………………やめとく……」

ホームズは、先に制止をかける。

しかし、エリーゼの耳に入ってしまった。

「どんなでした?ホームズ?」

目を輝かせて詰め寄るエリーゼにヨル咳払いをして話し始める。

「こいつ、最初は、ビビってなぁ…………」

「ちょっと、他人が忘れた黒歴史掘り返さないで」

「ガチガチに体をこわばらせてやがってよ……………」

「ちょっと、やめてていったよね」

「最終的に涙」

「わぁあっ!待った!待った!」

ヨルを抑えようとするが、ヨルはぴょんと軽くかわす。

下手に捕まえようとすれば、そのまま揺れて乗り物酔いの原因になる。

うかつに動けないホームズをいい事に晒さられるホームズの黒歴史。

「ついでに、こいつ、苦手なものがまだあってな………」

「うぉぉおー!!やめろー!この子、他人の弱み握って楽しむような奴なんだから!!」

『エリーゼのことなんだと思ってるんだ!!』

必死にヨルの言葉をかき消すように、大声を出すホームズ。

狭い空間に響くホームズの声が鬱陶しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────『乗り物で酔わないコツはね、誰かと賑やかなお喋りをすることだよ』─────

────『まぁ、友達のいない君じゃあ、無理かもねぇ』─────

 

 

 

 

 

騒がしい空中滑車は、そんな彼らを乗せて進んでいった。

 

 

 

 

 

 







ハイ、ローズの家族殺しの表向きの理由を知っている、最後の一人はエリーゼです。
というわけで再度整理を
(パーティーメンバーに限ります)
ローズの家族殺しの表向きの理由を知っているのが、
ヨル
レイア
ミラ
アルヴィン
エリーゼ
ローズ
ホームズ(まぁ、当たり前ですが)
ローズの家族殺しの真相を知っているのが、
ヨル
レイア
ミラ
アルヴィン
ホームズ
ホームズの母親の事を知っているのが、
レイア
ヨル
ホームズ(まぁ、当たり前ですよね)



てな感じです。

話に触れるならそうですね………
ロープウェイとゴンドラの違いってなんなんでしょうね?
どちらにせよ乗るときはテンションが上がってしょうがないです。


ではまた百三十二話で( ´ ▽ ` )ノ

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