1人と1匹   作:takoyaki

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百三十八話です



ようやく取れた夏休みも仕事さきから電話が来て全然心が休まりませんでした………はぁ………


てなわけでどうぞ


報復絶倒

「いちにい………」

ホームズは、敵の攻撃をかわしながら考える。

「ふむ、六人か、少しキツイなぁ………」

「「八人だよ」」

レイアとジュードの冷めた突っ込みが聞こえた。

本人とては、ばっちり決めたつもりだっただけに気まずい。

ホームズ気まずい思いを振り払うようにそのまま目の前に迫る敵の顔面に回し蹴り放つ。

仰け反るようにアルクノアは、倒れこむ。

そして、そのままアルクノアを掴むと大上段に振りかぶり迫る敵に叩き落す。

「さて、残るは………」

『六人だよー』

「………わかってるよ」

ホームズは、頬を引きつらせながら、そう返す。

そんなホームズにアルクノアが、靴の黒匣(ジン)のスイッチを蹴りを放つ。

ホームズは、それを左腕の盾で受け流し、そのまま顔面を掴み地面に叩きつけた。

「後……五人!」

ホームズがそう構えた瞬間、アルクノアが背後からホームズを首を押さえるように羽交い締めにする。

「ぐっ!!」

振りほどこうともがくホームズ。

アルクノアもその千載一遇のチャンスを逃さないよう必死押さえる。

純粋な力勝負ならともかく、押さえるべきポイントを抑えているアルクノアをホームズは、なかなか解くことが出来ない。

「柔よく剛を制すって奴だ!」

アルクノアは、自慢気にそう言うと指示を飛ばす。

「っ───今だ!!」

羽交い締めにしたアルクノアの声と共に別のアルクノアが籠手を振りかぶる。

「ヨルっ!助けないと!!」

ローズの言葉にヨルは欠伸をして返す。

ホームズは、迫り来る籠手を前に一瞬力を抜く。

突然脱力したホームズに力を入れていたアルクノアは、バランスを崩した。

ホームズは、その隙を逃さない。

両脚を地につけ、身を屈めてアルクノアを背負うと同時に首を絞める腕を掴む。

「っうぉおらっ!!」

「!!!」

そして、そのまま籠手を振り被るアルクノアに投げた。

「ぐっ!!」

巻き込んで体制を崩す二人を前にホームズは、後ろに下がり両脚を手すりの側面を足場にし、そこから一直線に飛び蹴りを放つ。

その素早さは、今までの瞬迅脚とは比べ物にならない。

「兎迅衝!!」

放たれた蹴りはアルクノアの二人を反対側の壁に叩きつけ、意識を刈り取った。

「後三人!!」

ホームズは、そのままダンと地面を踏み込み体重を乗せ目の前の敵を蹴りとばす。

そんなホームズの後ろからアルクノアの一人が武器を横薙ぎに振る。

ホームズは、それを屈んでかわす。

「転泡!!」

そして、下段回し蹴りを放ち相手の脚を刈り取る。

転んだ相手が立ち上がる前にホームズは、相手の脚を掴む。

「だぁっらっ!!」

そして、振りかぶり最後の一人に思い切り叩きつけた。

「全部で八人………」

ホームズは、得意気な顔でジュード達の方を向く。

「どうよ」

「すごいではないか、ホームズ」

ミラの言葉にホームズは、自慢気に胸を張る。

「まぁ、私ならもっと短くて済むが」

「よし、褒めてないことだけは分かった」

いつものやりとりにジュードは、苦笑いを浮かべ、一行は扉を開けた。

開かれた扉の先には、先ほどと同じ発動機が目の前にあった。

これさえ壊せば、封鎖線は、消えジランドの元への道が開かれる。

「アルヴィン」

「了解」

ミラの言葉にアルヴィンは、発動機を撃ち抜いた。

相変わらずの乱暴な手段にジュードは顔を引きつらせる

「…………これで、消えた筈よね?」

ローズの言葉にローエンは、頷く。

「えぇ。戻ってみましょう」

一行は、その部屋を出ようと歩みを進めようとした瞬間銃弾がホームズの顔をかすめる。

「ホームズ!?」

レイアの驚いた声に構わずホームズは、床に落ちていた石を投げつけ銃を飛ばす。

アルクノア、ビネガーは銃を拾うことを早々に諦め剣を振りかぶっていた。

「っ!」

思わず左腕の盾でホームズは、受け止める。

「………やっぱりねぇ」

構えなしで蹴り飛ばした時にこうなるだろうと分かっていた。

構えがないということは、単純に準備がないのと一緒だ。

一撃は、与えられるかもしれないが、必殺にはならない。

もっと言うなら、ルイーズの方がホームズより力は上だ。

同じことをやったホームズの方が威力が弱いのは当然だ。

「ナメるな、俺はもうヴォルマーノと名のつくものに負ける気はない」

ギンと二人は弾かれたように距離を取る。

しかし、ビネガーが先に距離を詰める。

「お前の母のせいで、エレンピオスがどれだけ大変なことになったか!」

振られる剣の重さにホームズは、歯をくいしばる。

剣戟を受けるのに精一杯のホームズは、返答する暇がない。

そんなホームズに構わずアルクノアは、更に続ける。

「知ってるか?この精霊燃料計画」

「はぁ?」

ホームズは、額に青筋を浮かべながら尋ね返す。

 

 

 

 

 

「本来なら、二十年もかかるはずではなかった」

 

 

 

 

ホームズは、その言葉に目を丸くする。

アルヴィンも驚いた顔をしている。

「オリジナルのクルスニクの槍さえあれば、こんなに時間がかかるはずなかったのだ」

「………今、そっちにはないのかい?」

「あぁ。貴様の両親がいらんトラップを仕掛けたせいでな」

「トラップ?」

ホームズは、そう言いながら蹴りを返す。

しかし、アルクノアは、それを紙一重でかわす。

「貴様の両親は、クルスニクの槍が発動すると同時にクルスニクの槍が崩れ去るトラップを仕掛けたのだ」

そう言ってアルクノアは、ホームズに剣を振い、ホームズと無理やり距離を開ける。

「設計図も全て消し去り、クルスニクの槍のオリジナルを壊した。

貴様の両親のせいでエレンピオスがどれだけ終わりに近づいたと思う?」

「知った事じゃないね」

ホームズは、返事共に蹴りで返す。

ビネガーは、ホームズの蹴りを冷静に受ける。

「元々軍でも、精霊燃料計画の賛成派が殆どだったんだ!なのに!なのに!」

ビネガーは、狂ったように剣を振るい続ける。

「あいつらは、それの否定派に回った!そのせいで、エレンピオスは、終わりへのカウントダウンを着々と歩むことになったのだ!!」

ホームズは、その言葉を聞くと眉をひそめる。

「終わりへのカウントダウン………?どういうことだい?」

「お前………何も知らないのか!!」

最早ビネガーを突き動かす感情は、怒りなのかその他の何かなのかビネガー自身も分からない。

「アルクノアだって、二十年間もリーゼ・マクシアに閉じ込められることもなかった!」

アルクノアの目に強い敵意が宿る。

「どう考えても、エレンピオスが生き残るにはそれしか方法がないんだ!

なのに、奴らは自分達の為にリーゼ・マクシアを犠牲に出来ないなんて綺麗事を抜かしてエレンピオスを破滅に追い込んだんだ!」

アルクノアの強い憤怒と共に振るわれる剣をホームズは、盾で受け流す。

「分かるか!?エレンピオスは、もう綺麗事では、抜け出せないところまで来ているんだ!

軍の上層部もそれが分かっているから、それに賛成したんだ!」

ホームズは、その言葉を聞きながら蹴りを放つ。しかし相手もそれを受け流す。

「なのにお前の両親は、それに反対した!こちらに閉じ込められたと言うのに!奴の夫であるベイカーは、死んだというのに!ルイーズは、アルクノアに参加することを最後まで拒んだ!」

激昂するアルクノアの力は、徐々に上がっていく。

「あいつさえ参加すれば、もっと計画は早まったというのに!

何度も勧誘したが、奴はその度にこう言いやがった。

『悪いけど、黒匣(ジン)を使う組織に属するつもりはない』ってな」

そう言ってアルクノアは、渾身の力を込めてホームズを剣で押し返し飛ばす。

ホームズは、手すりに背中をしたたかにぶつけた。

「──────っ!」

思わず息がつまる。

ホームズは、そのままずるりと腰を床に落とした。

そんなホームズに剣を向けてアルクノアは、更に言葉を続ける。

「教えてやろうか?お前の母親、隊長を務めていたが、結局隊員は、お前の父親だけだったんだぜ」

アルクノアの言葉を聞きヨルは、ふっと目を細める。

何せこの話何度も聞いたのだ。

「隊員の最低人数は、決まっているはずなのに、あいつの所には誰一人として集まらなかった」

アルクノアは、そう言うと息が詰まっているホームズに剣を振るい地面に転ばせる。

「そうして、彼奴らは二人で任務に当たっていたんだ」

アルクノアは、そう言うと再び剣を振るう。

ホームズは、つまる息を堪えてなんとか盾でいなして立ち上がる。

「そして、二人はわけのわからん綺麗事の為にエレンピオスを危機に晒した」

そう言って横薙ぎに剣を振るう。

「その罪、お前にも払ってもらうぞ」

静かにしかし、有無を言わせない迫力と共にアルクノアは、剣と盾をつばぜり合いさせる。

その必死な形相のままビネガーは、ホームズに恨み事を続けた。

「…………くくく」

ホームズは、俯きながら堪えるように笑みをこぼした。

「……?」

突然笑い出したホームズをアルクノアの怪訝そうに見る。

「くくくくくくくく」

「おい」

なおも笑い続けるホームズにアルクノアは、苛立っていた。

「フハハハハハハ」

「いいか加減に………」

 

 

 

 

 

「アーーーーーハッハッハッハッハッハッハッハッ!」

 

 

 

 

 

 

 

ホームズは、今度こそ堪えきれなかったようで、顔を上げて腹を抱えて心底面白そうに笑い出した。

その張り裂けんばかりは、回廊にこだまし、聞いているもの背筋を凍りつかせた。

「何を笑っている!?」

「これが笑わずにいられるか!!」

そう言ってホームズは、思い切りアルクノアを蹴り飛ばし距離を置く。

「母さんのことをそんな風に思うのがいるとは、思わなかった!そりゃあ、笑うに決まってるさ!」

そう言ってホームズは、指をさす。

「何?」

アルクノアは、訳が分からず首を傾げる。

そんなアルクノアに腹の底から意地の悪い笑みを浮かべ、ホームズは、口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君、ルイーズ・ヴォルマーノに嫉妬していただろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホームズの言葉が回廊に静かこだまする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬本当に一瞬、アルクノアは、動きを止めた。

その反応がホームズの予測が的中していることを何よりも雄弁に物語っていた。

「まさか……ふふ、まさか母さんに嫉妬する人間がいるなんて考えもしなかったよ」

ホームズは、再び笑いそうになる。

「君はおれの母さんが羨ましかったんだ」

紡ぎ出されるホームズの言葉は、アルクノアの体にゆっくりと巻きついていく。

「多数いる賛成派、精霊燃料計画が必要なエレンピオス、リーゼ・マクシアに閉じ込められそして、支えがなくなった。

そんな状況において、なお綺麗事を貫き通せる母さんが羨ましかったんだろう?」

「………れ」

「綺麗事は、間違っていない。

しかし、現実の前には、何の意味も持たない。

それを間違ってないと声を張り上げ誰にも屈しなかった、そんな力を持った母さんが羨ましかった。

自分だって貫きたかった綺麗事を

諦めてしまった綺麗事を

貫き通した母さんが羨ましくて妬ましくて仕方なかったんだろう?」

「………まれ」

「そして、そんな母さんに並び立った、自分と同じ無力はずの父さんが羨ましかったんだろう?」

「……だまれ」

「自分には、出来なかったことを悠々とやってしまう母さんと父さんを見ているうちに自分の無力さを突きつけられた。そんな自分が惨めで憐れで無様で我慢出来なかったんだろう!!」

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れっ!」

回廊に響き渡る絶叫と共にアルクノアは、突撃を仕掛けてきた。

ホームズは、それを盾で受ける。

アルクノアは、それに構わずめちゃくちゃに武器を振り回す。

「そんなはずない!そんな訳がない!寧ろ俺は、ああはならないと心に決めて───」

「バカを言うんじゃあない」

ホームズは、静かにそう告げると腹に膝蹴りをする。

腹に真っ直ぐに入りアルクノアは、手を止める。

その隙にホームズは、アルクノアにアイアンクローを決める。

ならない(・・・・)、じゃあない、なれない(・・・・)だろう?」

自分の顔に走る激痛にアルクノアは、答えられない。

そんなアルクノアに構わずホームズは、顔面を掴む手に力を込めていく。

「とりあえず、君には、この言葉をプレゼントしよう」

ホームズは、ニヤリと笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「男の嫉妬は醜いゼ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

轟音と共にホームズは、顔面から床に叩きつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、偉く偏った見方だったけど、両親の事がわかって良かったよ。そこだけは、お礼を言っておくよ」

 

そう言ってホームズは、ミラ達の方を見る。

「さて、終わったよ」

「あぁ、そうだな」

ミラは静かに頷いた。

「お前、辛くないのか?」

「いや。なんか、逆に驚いちゃったぐらいだよ。母さんなんかに嫉妬する人がいるなんて思わなかったからね」

ホームズは、肩をすくめて返す。

「それよりアルヴィン、君はなんともないのかい?」

実質閉じ込められる原因を作ったのは、ホームズの両親だ。

アルヴィンは、しばらく沈黙してから口を開く。

「まぁ、おたくの両親も閉じ込められたから、それでおあいこだな。

これで、おたくらの両親だけ、エレンピオスに残ったとかなら話は別だったけどな」

「怖い怖い」

ホームズは、適当にそう返すと前を進む。

ホームズの肩にヨルは、飛び乗る。

肩に乗ったヨルに視線を移すと俯くジュードとレイアがいた。

「どうしたんだい?二人とも?」

ホームズは、足を止めて振り返る。

「いや、アルクノアにも色々な人がいるんだなって」

ジュードの言葉にホームズは、首を傾げる。

「だってさ、この人だって本当は、こんな計画に反対だったんでしょ?

なのに、これを選ばざるを得なかった………」

「何?同情でもしているのかい?」

「…………うん」

ジュードは、ホームズの質問に頷く。

「ホームズは、そうは思わないの?」

レイアの質問にホームズは、肩をすくめる。

「別に。思わないね」

そう言って口に煙管を咥える。

「どんな経緯があろうが、それがこの人の選んだ結果だ」

ホームズは、ぷかぷかと煙管を動かす。

「………まあでも、母さん達の味方して欲しかったなぁ」

小さくホームズは、そう呟くと歩みを進める。

「ホームズ」

「なんだい、エリーゼ?」

先ほどの封鎖線が消えているか確かめる道すがらエリーゼは、ホームズに尋ねた。

「…………結局あの人は、いい人だったんですか?」

ホームズは、倒れたビネガーを無感情の目で見ると口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや……哀れな人だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホームズは、短くそう返すと目的に向かって足を踏み込んだ。

 

 







実はホームズの両親の話は、うっすらと考えてはいます。
いますが………まぁ、お察しの通りエレンピオスの話なので、ジュードもミラも誰も出てこないので外伝という形で何処かでやろうかなと考えてます




ではまた百三十九話で( ´ ▽ ` )ノ

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