1人と1匹   作:takoyaki

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百四十五話です



てなわけで、どうぞ


全方塞がり

「な………んなんだい……これは………」

ホームズは、上からの重圧に押しつぶされながら声を絞り出す。

アグリアは、床に這い蹲りながら、プレザに目を向ける。

「ババア!どうにかなんないのか!!」

「無理……力が強すぎる………」

ガイアスもウィンガルも同じように動けない。

このままでは、全滅だ。

「ジランドの罠…………?」

「馬鹿な……精霊の死の気配は、感じなかった……」

ミラはジュードの言葉を否定する。

ホームズは僅かに見えた光明に歯をくいしばる。

「だったら………ヨル……」

精霊術なら喰えるのだ。

しかし、ヨルは、押しつぶされながら何とか首を振る。

「無理だ……さっきから生首に変わろうとしてるが………」

そこで更に押さえつけられる。

「……この押さえつける力がデカすぎて出来ん………」

ホームズは、ヨルを恨めしげに睨む。

「気づきたまえよ……この……クソ猫」

「出来たら……苦労してないんだよ……このクソアホ毛」

ホームズは、その言葉に考え込む。

マナの気配、霊力野(ゲート)の気配を察知するヨルがわからない。

何が考えられる?

何か邪魔なものがあったと考えるのが自然だ。

「マナの気配を邪魔するもの………」

そこで、ホームズは、思いつく。

「そうか………四大精霊の出現……」

「そう言うことだ………」

ヨルは、押しつぶされながら答える。

「四大精霊のマナはデカすぎるんだ………出現とこの術の発動が被ったのが運の尽きだ……」

「解説もありがたい……けど……これをどうにかする手は……ないのかしら?」

ローズの言葉にジュードが思いつく。

「そうだ!クルスニクの槍だよ!槍は精霊術を打ち消す装置なんだ」

確かに、クルスニクの槍は断界殻(シェル)という精霊を打ち消し、穴を開けた。

ホームズは、心底嫌そうに顔をしかめる。

「……まさか、こいつにすがる日がくるとは、思わなかったよ………」

「まぁ……やるしかないだろ……」

ヨルはそう言ってクルスニクの槍を睨みつける。

「分かってるよ……」

ホームズも頷く。

とりあえず、愚痴はここまでだ。

槍を使う事には、了承した。

槍さえ使えばこの精霊術を打ち消す事ができる。

 

 

だが、それには……

 

 

 

 

「マナが必要だよね?でも、マナは、さっきのでもうないんじゃ……」

「という事は………」

レイアの発言に気づいたエリーゼの言葉をローエンが引き継ぐ。

「えぇ。この場にいる全員のマナを注げば或いは………」

「命懸けだねぇ…………」

ホームズは、そう言いつつもニヤリと口角を上げる。

「だが……まぁ……生き残るのに賭けるものとしちゃあ、妥当だよねぇ……」

「おたくが言うと説得力が違うな……」

ホームズの発言にアルヴィンが呆れながら返す。

「骨は拾ってあげますよ」

いつかのお返しとばかりにローエンが言うとアルヴィンは、苦笑いを浮かべる。

皆が覚悟を決めたその時、ミラが無理矢理立ち上がった。

そして、槍の発動機に近づいていく。

発動機に辿り着くとミラは背を向けたまま皆に告げる。

「何も皆が命の危険を冒す必要はない」

その言葉にジュードは、目を見開く。

他の面子も一瞬何を言われたか分からなかった。

「ダメだ………ダメだよ!ミラ!」

真っ先にその言葉の意味を理解したのはジュードだった。

「何故だ……あんたには、なすべき使命があるだろう!」

断界殻(シェル)が消えればアルクノアの計画は、完全に潰える」

そう言ってクルスニクの槍の制御盤までたどり着いた。

「…やめなさいよ……」

ローズは、振り絞るように口を開く。

「やめてよ……お願いだから……!」

ローズの悲壮な声でもミラは止まらない。

皆が命を賭ける事を覚悟したようにミラもマクスウェルとして命を賭ける事を覚悟したのだ。

「…………ない……」

ホームズからポツリと漏れる言葉にミラが振り返る。

「ふざけるんじゃあない!!死ぬなんて許さないよ!」

ホームズの怒鳴り声が辺りを震わす。

「ホームズ……」

感情を露わにして自分を怒鳴りつけるミラは少し面食らった。

「報酬はどうする気だい!?約束したろう!?

借金は?!君、おれの金をいくら使い込んだと思ってるんだい!?

王様ゲームじゃ、君だけいい思いしやがって!その借りも返してない!

後は………そうだ!君、おれの作った不味い料理しか食ってないだろう?!おれの作った菓子は上手いんだぞ……後は……後は……」

怒鳴っていた筈のホームズの声は後に行くほど震えていた。

「冗談じゃない……おれは……僕は……知り合いが……!仲間が……!」

そこで満足そうに笑うマーロウの顔がよぎる。

その後、ルイーズの困ったように笑った顔がよぎる。

「死ぬところなんてもう二度と見たくない!!」

ミラはあきれた顔をする。

「お前は、こういう時だけ我儘だな」

それから起動装置に向き合う。

「すまないな、ホームズ、みんな」

そして最後のスイッチ押そうと手を伸ばす。

「ダメだ……ダメだよ!ミラ!勝ってもミラがいないんじゃ……!!」

そう言って今にも飛び出しそうなジュードをアルヴィンが止める。

「やめろ」

「何言ってるんだよ!アルヴィン!このままじゃミラが本当に死んじゃう!!」

ジュードは、そう言って何とか這いつくばって進もうとする。

「ミラ!ミラァ!!」

ミラはジュードの泣くような叫びを振り払うようにスイッチを押した。

周り飛び交う大精霊は、クルスニクの槍にマナを注ぐ。

ミラだけよりも更に確率は、上がる。

もうカウントを数えるだけになった。

「………ダメだよ」

ジュードは、泣きそうになりながら顔を上げる。

「ミラがいなくなったら……僕は……」

ミラは振り返ってそんなジュードの顔を見る。

「そんな顔をするな」

そう困ったような顔で笑うとジュードに最後の言葉を告げる。

「さらばだ、ジュード」

そう言うとクルスニクの槍を睨みつけ最後の力をクルスニクの槍に注ぎ込んだ。

「クソ!クソ!クソ!クソ!動け動け動け動け!!」

ホームズは、必死なって動かそうとするが先ほどの反動で全く動けない。

ローズも必死に身をよじって起き上がろうとする。

だが、動かない。上からの重圧にローズは、立ち上がることが出来ない。

「ヤダヤダヤダ!!」

ローズの口からは拒否の言葉しか出ない。

クルスニクの槍は、一同願いを無視してマナを重点した。

 

 

 

 

 

 

「ミラァァァァア──────!!」

ジュードの張り裂けんばかりの慟哭が響き渡ると同時にクルスニクの槍は発動した。

轟音と共に今までなんども忌々しいと思った閃光が照射され皆を押さえつけていた精霊術をかき消していく。

その眩い光が辺りを埋め尽くし思わず目を瞑った。

一発逆転の策は確かに成功したのだ。

 

 

 

鳴り響く轟音もやがて止み、上から押さえつけられるような重圧も消えた。

まだ僅かジュード達は、ゆっくりとまぶたを開ける。

まぶたを開けた先には、装置の前に佇むミラの後ろ姿があった。

そして、ミラはそのまま、ゆっくりと左に流れるように倒れていった。

「ミラ!!」

ジュードは、立ち上がって慌てて駆け寄ろうとする。

しかし、その瞬間船が大きく軋む

船全体にかかっていた重圧は、船自体を大きく蝕んでいた。

天井から瓦礫が降り注ぎジュードの行く手を妨げる。

そして、瓦礫の一つは、真っ直ぐにクルスニクの槍の操作盤の前、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佇むミラに向かって落ちていった。

 

 

 

「ミラァアーーーー!!」

瓦礫に阻まれ進むことが出来ないジュードは、虚しく手を伸ばす。

だが、その手が届くことはない。

 

 

 

 

 

船はゆっくりと崩壊していき、海へと消えていった。

 

 

 

 

 

ジュード達を飲み込んで、ゆっくりと、しかし、確実に。

 

 

 








ではまた百四十六話で

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