1人と1匹   作:takoyaki

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百四十六話です




今回は短めです


てなわけでどうぞ


嵐の前の静寂

「………プハッ!!」

動けないホームズをレイアとローエンが海岸に引っ張り上げた。

「助かった……ありがとう」

ホームズは、そう言うと海の方を振り返る。

そこには、もうジルニトラは無くそして、海岸にはもうミラはいない。

ホームズは、思わず歯噛みをする。

「あの馬鹿女………勝手なことしやがって………」

悔しそうに悲しそうにこぼすホームズに一同は、俯く。

ローズは、ミラの最後を思い出す。

「最後の最後まで、本当に………」

俯きながらローズは、そう零す。

自分の命と引き換えに断界殻(シェル)を壊し、アルクノアの計画を潰した。

どこまでも人と精霊の為に生きたミラにローズは、続く言葉が見つからない。

「…………嘘だろ……」

アルヴィンは、水平線を見ながら震える声で呟く。

 

 

 

 

 

 

 

「…………断界殻(シェル)が消えてない……」

その言葉にローズは、慌てて振り返る。

そこには、いつもと変わらない夕焼けの空が広がっていた。

「はは………」

アルヴィンは、乾いた笑い声を漏らす。

「空は紅いまま………エレンピオスも見えない………これじゃあ……」

アルヴィンは、泣きそうな顔でこちらを振り返る。

「何のためにミラを見殺しにしたのか、分かんねーよ……」

言葉を続けるとアルヴィンは、何処かへ歩き始めた。

「アルヴィン、どこ行く気だい?」

アルヴィンは、ホームズの質問に立ち止まる。

「おたくも、そこにいない方がいいんじゃないのか?」

ホームズの質問には、答えずそう一方的に告げるとそのままアルヴィンは、歩いて立ち去ってしまった。

その質問の意味のわからないホームズではない。

否定したい。

だが、その言葉を信じて貰える確信がホームズにはない。

今何を言っても白々しく聞こえる。

そう考えてしまえば、ホームズに言葉を続ける力はない。

それがそのまま振り向くことを躊躇わせる。

ホームズに変わりヨルは、平気な顔して振り返った。

ヨルと目のあったローズは、目をそらした。

ローズのその行動はヨルに全てを悟らせた。

「とりあえず、今は休みませんか?」

ずっと黙っていたローエンは、そう言った。

ここは港、宿もある。

休むのにこれ以上はない。

誰も異議を唱えず一行は、そのまま宿屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「ふむ……大分回復したねぇ……」

皆が寝静まるとホームズは、レイアの用意してくれた杖を使い部屋を抜け出した。

全く動けなかったホームズだったが、一眠りしたら杖を使えば歩けるところまで回復した。

ロビーにきたホームズは、腰を下ろす。

ヨルは、ホームズの肩から飛び降り向かいの椅子の上にちょこんと座る。

「で、何を考えているんだ」

「君が精霊術を喰えればこんな事には、ならなかったなぁって所かな?」

「俺のせいだっていうのか?」

ヨルは、ニヤリと笑う。

いつもの笑いだが、僅かに敵意が滲み出ている。

そんなヨルに構わずホームズは、続ける。

「君は、四大精霊が現れたせいで、マナが溢れ、あの精霊術の気配に気づかなかったといったね」

「あぁ。単純にあのオンナの不注意とその時たまたま発動した精霊術のタイミングが合ってた……ただ、それだけの理由だ」

堂々した物言いにホームズは、ため息を吐く。

「ったく、どっからどう聞いても言い訳にしか聞こえないよ……」

そう言って肩をすくめる。

「ま、だから、みんなのいない時に話したかったんだけど」

ホームズは、そこで声を落とす。

「君は言ったね、『タイミングが合ってた、ただそれだけだ』って」

「あぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

合ってた(・・・・)じゃなくて、合わせてた(・・・・・)としたら、どうだろう?」

 

 

 

 

 

 

ヨルは、ホームズの言葉に目を丸くする。

「お前、何を言ってるんだ?」

「四大精霊が現れる事を知る事ができ、そのマナのせいで精霊術に君が気付かない、それら全てを見越して、タイミングを合わせたとしたら?」

「阿保言え。人間にそんな事できるものか」

ヨルは、首を振る。

「それにいいか?俺は最重要秘密だ。そうそう対策なんて立てられる訳がないんだよ」

「それは、前までの話だろう?ここに来るまでの間に一体何回精霊術喰らいの力が発動しなかった事があった?」

ホームズ達の情報は、逐一アルヴィンが広めていた。

知らないと思わない。

「だが、結局最初に戻るが、人間にそんな芸当が出来るとは思わんぞ」

「………………なんだ」

ホームズは、真顔で片眉を少しあげる。

「分かってるじゃないか」

「あ?」

ヨルは、不思議そうに首を傾げる。

ホームズは、煙管を咥え、ヨルに向かって杖を突きつける。

「『不可能を消去して残ったものは、如何に奇妙なものであっても真実となり得る』」

そう言ったホームズの言葉にヨルは、首をひねる。

「おい、どういう意味だ」

ヨルの質問には、答えずホームズは立ち上がりひょこひょこと歩いていき、くるりと振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

「内緒。男は、秘密があった方が格好良いからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホームズは、静かにそう言うとそのまま部屋に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

ヨルは、掃除ロッカーを睨む。

「あいつ、お前に気づいてたぞ」

そう言うと椅子から降りる。

「ジャリ。お前もとっとと寝ろ。あの馬鹿何かに気付いてるぞ」

エリーゼは、ゆっくりと掃除ロッカーから現れた。

「ホームズは、一体何に気づいてるんです……か?」

「知らん。だが………」

ヨルはティポとエリーゼを睨む。

「ホームズは、お前がいることに気付いてあんな風に煙に巻いた言い回しをしやがった」

ヨルは尻尾を振りながら続ける。

「きっとロクなことじゃない。寝れる時に寝とけ」

ヨルの言葉にエリーゼは、首を縦に振らない。

エリーゼは、黙ったままギュッとティポを抱き締める。

「アルヴィンは、何処かへ行ってしまいました………」

「………」

それから俯いたまま言葉を続ける。

エリーゼは、不安なのだ。

エレンピオス人のアルヴィンは、ジュード達の元を離れた。

なら次、離れるとしたら?

そんな事、考えるまでもない。

 

 

 

 

「ホームズとヨルはいなくなったりしませんよね?」

 

 

 

 

 

 

ヨルはエリーゼの質問に答えずそのまま歩き出した。

 

 

 

 

 

エリーゼは、それを見送るがどうしても部屋に戻る気にはなれなかった。

起きた時にホームズ達がいない。

そんな想像がエリーゼの眠りを妨げる。

『ミラもいない、アルヴィンもいない、ホームズとヨルはいなくならないよね?』

「当然です」

エリーゼは、そう言ってそのまま椅子に腰を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 







夜の企み話です………




ではまた百四十七話で( ´ ▽ ` )ノ


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