1人と1匹   作:takoyaki

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百四十八話です



すいません最近遅れ気味で…………




てなわけで、どうぞ


晴天の霹靂

「来るなって言ったろう………」

ホームズは、そう言いながらやってきたローズ達を睨む。

「気をつけろと言ったろう!」

そう、震える声でそう言うホームズに構わずジュード、エリーゼが治療に走る。

「だから、言ったろ。あんな手紙残すべきじゃなかったんだよ」

ヨルは、そう言ってホームズを馬鹿にしていた。

「………どういうことなの……ねぇ!ホームズ!!」

レイアは、ミュゼに向かって棍を構えながら尋ねる。

ホームズは、ぎりっと歯を食いしばる。

辺りには血だらけで倒れている人々。

ホームズが来た時にはもうこの有様だった。

この村人の数に対して遺体の数が少ないところを見ると辺り構わず殺しているわけではないようだ。

だが、それは理由にならない。

この空中に浮かぶ精霊を庇う理由には、ならない。

「あのおれ達を押さえつけた精霊術を発動させたのは、ミュゼだったんだよ」

ホームズは、自分の推論を口にする。

ジュードは、その言葉に驚いて治療の手を止める。

「どういうこと………?」

「ヨルが精霊術を察知出来なかったのは、四大精霊が現れたせいだ。

出現のタイミングとたまたまあってあの押さえつけられるような精霊術が発動した」

「………それが……どうしたの?」

「それがたまたまじゃないとしたら?

四大精霊が現れることを知ることができ、ヨルの精霊術喰いの弱点を知ったうえで合わせてきたとしたら?」

エリーゼは、そこでホームズとヨルの会話を思い出す。

 

 

 

 

 

 

────人間にそんな芸当が出来るとは思わんぞ───

 

 

 

 

 

 

 

 

「人間には出来ない………そうです……人間じゃないなら!!」

「そう言うことだエリーゼ」

ホームズは、ゆらりと立ち上がる。

「おれはそれを確かめにきた。ミラ・マクスウェルに姉なんて本当にいたのか、ミュゼとは一体何者なのか!」

ホームズに指をさされたミュゼは、面白そうに笑う。

「何が可笑しいんだい?」

ホームズは、心底不愉快そうに聞き返す。

「ミラ・マクスウェル(・・・・・・)ですって?フフフ本当に何も知らないのね」

「どういう意味です?」

ローエンの言葉にミュゼは、微笑んで返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼女、マクスウェルなんかじゃないわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉の意味をこの瞬間誰も飲み込むことは、出来なかった。

いや、1匹だけ、例外がいた。

ヨルだけは、驚愕という感情に飲まれず、ミュゼを睨んでいた。

「そこのシャドウもどきは分かっているようね?

ミラはね、アルクノアを呼び寄せる為のただの餌。

マクスウェルなんてそんな大事なものじゃないわ」

「待って!ミラは、人と精霊の為に頑張ってきたのよ!!それが使命だと、やるべき事だと」

「あなたこそ何を言ってるのかしら?」

ローズの言葉にミュゼは、小首を傾げる。

「私の話を聞いてなかった?ミラはね、アルクノアをおびき寄せる餌でしかないのよ。

強いて言うなら、それが使命よ。

アルクノアに命を狙われ、無様に自分の事を精霊の主だと信じ続けることがね?」

ミュゼは、ずっと笑みを崩さない。

「人と精霊を守るとか、そんなのないわ。全部与えられた、それが使命だと思い込まされた、ただの無力な人間よ」

空中で体育座りをして、そのままくるりと一回転して逆さまの状態でホームズ達を覗き込む。

「そんな人間が人と精霊の為にとか言って命を張っちゃって、フフフ………」

その薄暗い嘲笑にホームズ達の背筋に寒気が走る。

これ以上は、聞いてはいけない。

そんなどろりとした予感がホームズ達を支配する。

しかし、ミュゼの言葉は止まらない。

「本当はあなた達も薄々分かっていたんじゃないの?」

ミュゼは、体育座りを解いてくるりと一回転して元に戻る。

「ミラが死んでしまったのに断界殻(シェル)が消えなかったその時に」

ミュゼから発せられたその言葉は、致死的な毒となってホームズ達の心に回る。

「見たくないものから、目を背けて、盲目に信じて理想を押し付けて、本当に愚かね」

「…………じゃあ、君は、側で見ていておれ達の事を」

「えぇ、ずっと笑っていたわ」

ミュゼは、また面白そうに笑い、必死に心が折れないよう耐えているジュードを見る。

「ねぇ?ジュードは、気づいてた?ミラがマクスウェルとしての使命と、自ら死地に飛び込んでいく矛盾に悩んでいた事に?」

「え?」

情けないぽかんとした声を発し今までの事を思い出す。

たくさんあった。

気付いてもおかしくはない。

ミラは、何回かジュードに尋ねようとしていた。

しかし、ジュードは、今の今まで気づくことはなかった。

ジュードは、遂にそこで全くミラが見えていなかった事に気付いた。

「そんな………じゃあ、あの時……」

ローズは、甲板で何やら元気のなかったミラのことを思い出す。

あの時、ミラは確かに悩んでいた。

それにローズは、気付けなかった。

もうローズの両手に刀はない。

「あぁ。あなたはミラみたいになるのが目標だったわね?どう?現実を知って?今、あなたはどんな気持ちかしら?目標としていたものがニセモノなんて私なら耐えられないわ」

ローズは、何か言おうとするが口の中が乾いて声が出ない。

認めたくないこの気持ちを否定する言葉が欲しい。

だが、出てくるのは虚しい呼吸音のみだ。

呼吸によって流れてくる血の匂い。

ローズの両手から刀がするりと二本地面に落ちる。

「ミュゼ。もうやめたまえ。それ以上おれの雇い主を、仲間を侮辱する事は許さない」

ホームズは、そのままミュゼを睨みつける。

そんなホームズをミュゼは、涼やかな視線で流す。

「あなたに、いや、あなた達に何ができるのかしら?」

ミュゼの言葉に辺りを見回すと皆一応に項垂れている。

ミュゼは、それを見ると面白そうに髪を伸ばし、ホームズに叩きつけた。

その髪とは思えない重量に思わずホームズは、吹き飛ぶ。

「ぐっ………」

「因みに行っておくとね、私の使命は」

そう言って見覚えのある青みがかった黒い半透明な球体を作り上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

断界殻(シェル)の存在を知ってしまった人間を始末する事よ」

 

 

 

 

 

精霊術は、完成した。

「ヨル!!」

言われるより早くヨルは、生首となってミュゼの発動させた精霊術に食らいついた。

「えぇ。そうくるだろうと思っていたわ。シャドウもどきサン」

ミュゼは、後ろに回していた手に先ほどより小さい精霊術を作り出し喰ったばかりで隙だらけのヨルにぶつけた。

「ガッ……………」

ヨルは、そのまま地面に叩き落とされ生首からいつもの黒猫の姿に戻される。

「………ヤロウ……」

「ふふふふ」

ミュゼは、面白そうに含み笑いを浮かべる。

ホームズは、口の中に溜まった血をぺっと吐き出す。

「飛燕連脚!!」

空中にいるミュゼに向かってホームズは、飛び上がり空中回し蹴りを放つ。

しかし、

「ざんねん」

ミュゼは、ふわり身体を浮かせホームズの蹴りをかわす。

空中という身動きの取れない場で蹴りをかわされたホームズになす術はない。

「くっ!?」

身動きの取れないホームズにミュゼは、髪の一撃を叩き込む。

「───、がっ─!」

空中から叩き落とされたホームズは、背中から伝わる衝撃で肺にある空気を吐き出す。

「いい眺めね。最高よ」

ミュゼは、そう言ってもう一度巨大な球体を出現させる。

「こんの………」

ホームズは、両手を地面につけ咳き込みながらなんとか立ち上がろうとする。

「ふふふ、安心なさい」

ミュゼは、そう笑うと球体を落とした。

球体は、

「うぁ!」

「きゃぁ!」

ジュードとローズを囲んでいた。

そして、再び発生する重量に二人は地面に押さえつけられていた。

「ジュード!ローズ!!」

ホームズは、急いで助けに入ろうする。

しかし、

「あらあら。まだ、ダンスの相手を代える時間じゃないわよ」

ミュゼの髪がホームズを拘束する。

髪の毛というには、強い力でホームズを拘束していく。

「っつぅ………」

さっき叩きつけられた身体に塩を塗るようにミュゼの髪がホームズを締め付ける。

「ホームズ!!」

レイアの叫びにミュゼの髪が反応しレイアを襲う。

戦意を失っていたレイアは、棍で防ぐ事も出来ずそのまま弾き飛ばされた。

それを満足そうに眺めるとミュゼは、ホームズの拘束を強めていく。

「まずは、一人」

(だめだ……このままじゃ………)

動けないホームズは、術を食らわなかったローエンとエリーゼに目を向ける。

ミュゼの攻撃を喰らい動かなくなっているホームズ達と違いこの二人はまだ動ける。

「──────っ!二人とも逃げたまえ!!」

「しかし………」

「ここは、おれ達でどうにかする!後で連絡を入れる!だから、今は逃げたまえ!!ここで全滅するよりは、マシだ!」

「でも!」

「いいから!行きたまえ!エリーゼ!ローエン」

ホームズの必死な叫びにローエンとエリーゼは、急いで湿原の方に逃げ出した。

「馬鹿ね」

ミュゼは、ホームズに顔を近づけ心の底から蔑んだ笑みを浮かべる。

「逃すと思ってるの?」

そう言ってミュゼは、再び精霊術を作り出そうとする。

そんなミュゼの目に向かってホームズは、唾を吐いた。

「─────っ!!」

思わず視界が塞がれミュゼの集中力が切れ、出現させたばかりの精霊術は、ジュード達を拘束する精霊術と共に消え去った。

自身を拘束する髪も緩みホームズは、急いで抜け出す。

普段ならその程度の事で集中力など切れたりはしない。

だが、今のミュゼは、一度に何個もの事をやろうとした。

そして、ホームズ達相手に完全に油断していた。

その慢心と状況をホームズは、逃さない。

「…………貴様……」

先ほどまでの余裕綽々の笑顔崩し、鬼の形相でホームズを睨みつける。

「おいおいどうした?化粧が崩れてきたぞ?」

復活したヨルは、減らず口を叩きながら、黒球をホームズの脚に落とす。

落とされた黒球は、弾け飛び霞となってホームズの右足にまとわりつく。

「爆砕陣!!」

ホームズは、それと同時に地面に自分の足を叩きつける。

威力の上がった爆砕陣は、土煙を巻き上げ、辺り一帯を茶色の視界で覆った。

「ケホッ……ケホッ………このっ……あぁもう!うっとおしい!」

ミュゼは、煩わしそうに辺りを舞う砂煙りを吹き飛ばす。

土煙が払われるともうそこにはホームズ達の人影はなかった。

ホームズ達はまんまと逃げ出すことに成功したのだ。

「やってくれるわね……………でも、まあ」

 

 

ミュゼは、そこで言葉を切ると口角を吊り上げていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「手なんて幾らでもあるんだけど」

 

 

 

 

 

 

 

広がる青空の下、ミュゼは冷たい笑みを浮かべた。








ここのシーンは、本来なら回想シーンなんですけれども、折角なのでこうしました。




では、また百四十九話で( ´ ▽ ` )ノ

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