1人と1匹   作:takoyaki

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十五話です。




大分桜が咲いてきました。


人猫の仲

「ジュード!!」

ル・ロンドに着くと受付けの女性もとい、ジュードの母が迎えてくれた。

話を聞く限りどうやら、とても心配した様だ。そんな事を言っていると今度は男の声でジュードを呼ぶ声が聞こえた。ディラックだ。

ディラックはそのままジュードに近づくと思い切りジュードの頬を叩いた。

「どうして、こんな危険な事をした!彼らに何かあったらどうするつもりだったのだ!」

その言葉を聞いて、腕を折ったホームズはこっそりとレイアの後ろに隠れた。

「……ホームズ」

呆れた様にホームズを見るレイア。

「いや、だって、ばれたらジュードもおれも怒られるし…」

「やっと喋ったと思ったら、これだよ…」

「そんな目でおれを見ないで!!」

2人がコソコソと喋っていると、ジュードが言い返していた。

「できる事をしないなんて…僕は父さんとは違うから。」

「この…!」

ディラックは、再度ジュードを叩こうとした。しかし、ミラが車椅子から立ち上がり間に入り止めた。

「もう、許してやって欲しい。ジュードはやり遂げたのだから」

その立ち上がったミラをディラックは驚いた様に見る。

「立てるのか……?」

しばらく見るとすぐに後ろを向いて、後で治療院に来なさいとだけ言って、戻って行った。しかし、すぐに立ち止まり振り返って言った。

「ホームズ、君もだ」

「……ばれてました?」

「ばれてないと思っていたのか」

「……後で行きます」

ホームズはそう言うとため息を吐いた。

レイアはミラの方を見ながら言う。

「さてと、しばらくはリハビリだねぇ」

「世話をかけるが頼めるか?」

「任せて……と、ホームズ」

「なんだい?」

突然話しかけられてびっくりしながらも答える。

「『両親の故郷への行き方』、聞かなくていいの?」

「ここじゃ人目につくからなぁ、ミラとしてもつかない方がいいだろう?」

ホームズはミラにそう尋ねる。ミラは頷きながら返す。

「確かにな」

2人の会話にレイアとジュードは不服そうにしている。

そんな2人を察してミラが口を開く。

「すまないが、こればかりは私から喋る訳にはいかない」

そう言うと、ミラは変わりに、と言葉を続けた。

「ホームズが黙ってたことを喋ってくれるだろう」

「とんでもない無茶振りぶっこんできたね?!」

突然の無茶振りに、ホームズは白目を剥く。しかし、ミラは逆に不思議そうにホームズに言う。

「先程、鉱山で後で話すと言っていただろう?」

「………そんなにはっきり言ったっけ?」

「どちらにせよ一緒だろう。…さあ、話せ」

「ここまで、デリカシーがないと逆に清々しいね……」

ホームズは呆れている。ジュードの方を見ると申し訳なさそうにしている。

「…それに、今回精霊の化石を見つけたのはジュード、レイア、そして、ヨルと言ったところだろう」

「……そだね」

もう、何が言いたいかなんとなく分かっているホームズはそう返した。

「そんな状態で、報酬だけ渡すと言うのは……な?」

「つまり、足りない分として、おれの父親の話をしろと」

「いや、それだけではないぞ、ジュードの質問にも答えてもらうぞ」

「ミ、ミ、ミ、ミラ?!」

突然話題を振られて、あたふたするジュード。そんな様子を眺めて、ヨルはつまらなさそうに欠伸をすると、ホームズに言った。

「いいんじゃないか、答えてやれば。だってそこの女の言ってる通りだろう?お前今回の精霊の化石探しじゃなんの役にも立っていない」

悪意のない暴言と悪意しかない暴言を受けて、ホームズは涙目になっている。

さすがに見兼ねたレイアがフォローを出す。

「いや、でも、ほら、ミラの車椅子を押してくれたじゃん!」

「帰りはお前が押して帰って来て平気だったんだから、別にホームズがいる意味なかっただろう?」

ヨルに、にべもなく言われてしまい言葉のないレイアに代り、今度はジュードがフォローをする。

「でも、僕達を助けてくれたよ」

「ほとんど、俺とそこの女のお陰だろう」

その通り。ホームズ単体での攻撃は、爆砕陣と守護方陣だけで、後の攻撃は共鳴術技だったり、ヨルの力を借りたりとホームズの活躍、というには、少し無理がある。

「こいつの功績は俺をその女の側に残した事と、怪我を悪化させた事だ。まあ、報酬に見合った働きをしたかと言われれば、ノーとしか答えられないな」

「……君はどっちの味方だい?」

「お前の敵だ」

ホームズはとりあえず、ヨルにアイアンクローを決めると涙を拭いてミラに喋る。

「分かったよ、おれの話が報酬に見合うのだったら、話してあげるよ…今夜でいいかい?」

「構わないぞ」

「場所は、おれの泊まってる部屋というわけにもいかないな……」

ホームズの泊まってる部屋に行くには階段を登らなければならない。ジュードやレイアだけなら問題無いが、足を怪我したミラを呼ぶには無理がある。

「んー…そうだ、港にしないかい?あそこなら別に気兼ねなく話せるだろう?」

ホームズの提案にミラ達は頷いた。

「それと、最後に聞いていいかい?」

「なんだ?」

「なんで、おれの話をそんなに聞きたいんだい?」

「理由なんているものか、知らない物を知りたいと思い聞いた事のない物を聞きたいと思う、ただそれだけの事だ、だったか?」

何処かで聞いた様な言い回しにホームズはため息を吐いた。

「『あるのは…』以降が抜けてるよ…とりあえず、レイアもその時はおいで、君にも聞く権利があるからね」

「……うん、わかった。……えっと、そろそろヨル君を解放してあげたら?」

ヨルは未だにホームズのアイアンクローを受けている。

「レイアの優しさに感謝しな」

ホームズはヨルをアイアンクローから解放してやった。ヨルはホームズを恨めしそうに、いや、殺したそうに睨んでいた。

そんなヨルには見向きもせず、ホームズはマティス医院の中へ入っていった。それに続く様にヨル、ミラ、レイア、ジュードと続いた。

 

 

「あの人から、無理はしない様に、と言われてるはずなんだけど…」

「すいません……」

今回の治療はいつも受付にいる女性だ。どことなくジュードに似ている。いつもと違い、今回は精霊術メインで治療している。

ホームズはふと思いついた疑問をぶつける。

「もしかして、ジュードのお母さん?」

「ええ、もしかしなくてもそうよ」

道理で似てる訳だ。ホームズは1人納得していた。まあ、本来なら、ディラックの事を『あなた』と呼んでいる時点で気付くべきなのだが……。

「でも、ついて行ってくれて良かったわ。お陰でみんな無事、とまではいかなかったけど、帰ってきてくれたんだから……て、どうしたの突然上なんか向いて?」

「いえ、何か、まともな反応を聞けて、胸いっぱいになっただけです」

「そう?……よしっと、とりあえずこんなものね。腕の骨折は、ジュードが言った様に2、3日保定しておけば大丈夫よ。他の怪我も今のでだいたい治ったわ」

「どうもありがとうございます。というより、最初からこうした方が早かったんじゃ……」

「あなたの場合、応急措置がいくつかしてあったから、それを生かすように治した方が体に負担が少なかったのよ。今回のは仕上げよ」

そう、ホームズの怪我を1番始めに治療したのは精霊術でも何でもなく包帯だったのだ。

「なるほど、骨折の方はジュードの応急措置だったからそれを生かして、精霊術でやったと」

「ええ、そうよ」

「ふむ……だったら、大怪我しても下手な治療はせずに精霊術士を探せば、」

「探しているうちに死ぬかもしれないわよ」

「やめておきます」

ホームズの野望(?)が潰されたところで今回の診察は終了となった。

「一応念の為、後1週間は通って頂戴ね」

ジュード母からそう聞くとホームズは挨拶をしてマティス治療院を後にした。勿論ヨルも連れて。

 

 

◇◇◇◇

 

 

その夜、 ル・ロンドの港。ホームズとヨルは、そこに居た。本当なら、仕事をして、疲れているはずだが、腕が2、3日使えない為、特別に休みを貰ったので割と余裕だった。

ホームズはベンチに腰掛けながら、皆を待っていた。その隣にはヨルと、そして、肉まんが2つあった。1つはホームズの物、もう1つは……

「おい、そっちのもよこせ」

「やだよ、何の為に2つ買ったと思ってるんだい」

「俺が2つ共食う為」

「いい性格してるよ」

「だろう?」

ヨルの分なのだが、食欲の固まりのヨルはどちらとも食べようとしていた。

ホームズとヨルは、お互い目を合わせるとすぐにベンチから立ち上がって、戦いの準備をした。ホームズは自分の肉まんを守る為、ヨルは肉まんを奪う為に。

右腕が使えないホームズは不利に見える。しかし、ホームズはそれを補うだけの威圧感を出していた。今は夜なのでいないが、もし、鳩が居たならいっせいに飛んで逃げる様な、そんな威圧感だった。まあ、黒猫相手に不利もくそもないのだが。

対するヨルも尋常ではない殺気を放っていた。ホームズを殺せば自分も死んでしまうが、そのぐらいでないと、このあったかほかほかの肉まんは、奪えないのだ。

そんな威圧感を、殺気を出しながら彼らは相手の出方を伺っていた。

ホームズは怪我人、そんなに激しく俊敏な動きは出来ない。対するヨルも、全盛期ならいざ知らず、現在の体格差では圧倒的に負けている。下手に先制攻撃をすれば、あっという間にねじ伏せられてしまうだろう。

 

((この勝負、先に動いた方が負ける!!))

 

 

 

絶対に負けられない戦いが、今始まろうとしていた!

 

 

 

「………何してるの?」

「!!、ジュード?!」

「スキあり!」

 

 

しかし、一瞬で終わった。

 

 

 

勝者はヨル。戦利品の肉まん2つはヨルのものとなった。ジュード、レイア、2人は何とも言えない表情で見ている。ちなみに、ミラは羨ましそうに見ている。そんな彼らの様子などお構い無しでヨルはもぐもぐと食べていた。何せ、これが久々のエサではなく、飯なのだ。ヨルはとても幸せそうだ。

「ああ、おれの肉まん……」

対するホームズは絶望に打ち拉がれている。しかし、すぐに復活するとヨルに掴み掛かった。

「返せ!吐き出せ!おれが買ってきたんだぞ……て、うわぁ、本当に吐き出す奴があるかぁぁあ!!」

肉まん(ゲル状)が少しだけ、返ってきたがホームズにあるのは、敗北感だけである。

対するヨルは素知らぬ顔で食べ続ける。その堂々とした食べっぷりは勝者そのものだった。

「ねぇ、本当に何やってるの?」

ジュードの疑問がもう一度ぶつけられる。

「肉まん争奪戦。さっきまでそこでやってた屋台で買ったんだ。おれ、一口も食って無いのに……」

「ええっと、ドンマイ?」

「それ、レイアにも言われた。何なのみんなして……」

このまま行くと、肉まんの恨みつらみで、夜が開けそうなので、ジュードは本題に入った。

「で、話って?」

「ん、ああ、そうだったね」

どうやら、素で忘れていたらしいホームズの返しに、ジュードはため息を吐いた。ヨル程では無いがホームズも中々食い意地が張っている。

「うーん、どうやって話そうかな」

ホームズは顎に手を当てながら考える。正直なところ、ホームズがこれから話そうとする事はジュード達の予想通りなのだ。正直な話、二言程度で終わってしまうのだが…

(多分それじゃあ納得しないよな……)

ミラはホームズに話せと言った。二言程度で終わってしまうのものは話とは言わない。

一通り考え終わるとホームズは顎から手を離し、ジュードとレイアを適当な所に座らせた。 すると、ホームズは彼らの方に向き直った。ヨルもそれに続くように肩に乗る。

ホームズは不幸自慢の様な話をするのが好きではない。だから、余り話したくない。

 

しかし、彼らはホームズを良い悪いはともかく知ろうとした。

 

理解しようと誠意を尽くした。

 

だったら、それに応えなければならない。

 

誠意に返すものは誠意でなければならない。

 

ホームズは、月を背にいつもの少し胡散臭い笑顔で話し始めた。

 

「さてと、それじゃあ、話すとするかね。ただ、過度な期待はしないでおくれよ。何せ、幸せいっぱいの話じゃない。予想外のどんでん返しもない。そんな不幸でいっぱいの話だからね」

 

 








桜が入学式に咲かない!


そんな事は自分の周りじゃお約束です。
毎年一年生のテーマソングは突っ込み入れながら聞いています(笑)

それでは、十六話で( ´ ▽ ` )ノ

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