1人と1匹   作:takoyaki

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百四十九話です。



間違えてましたこれ、百五十話ではなく、百四十九話でした


残された者たち
いっぱいのスープ


「入るよ」

ホームズは、そう言うとローズの部屋へと入った。

ローズは、ベッドに座ったまま身じろぎひとつしない。

ニアケリアから、逃げてからローズは、ずっとこの調子だ。

元々ホームズのことで塞ぎ込んでいたローズだ。

ジルニトラの戦闘で何とか振り払いかけた矢先にミラが自分を犠牲に命を散らした。

目標としていたミラが死んでしまったがそれでもローズは、何とか自分の心が折れないよう堪えた。

ここで折れてしまっては、ミラのようになれない。

そう思って何とか誤魔化しそして堪えてきた。

しかし、ミュゼと出会いミラが本物のマクスウェルではないと聞かされた。

自分の目標としていた人物が、偽物であったこと、それだけでも心を抉るというのに、ミラの死が、人と精霊の為にと懸けた命が無駄だったという事実に遂にローズの心は折れた。

家族と死に別れ、その原因はホームズだと気付き、ミラとも死に別れる。

今までずっと堪えていた事が全て吹き出してしまった。

気丈に、そして馬鹿みたいに誤魔化し続けていたローズは、ミュゼの言葉を受け遂に立ち上がる事ができなくなってしまった。

ホームズは、手に持った食事を見て、そしてテーブルに置いてある殆ど手をつけられていない食事を見てため息吐く。

「君、食べないともたないよ」

ホームズは、そう言うと持ってきた食事をスプーンですくう。

「ほら、あーん」

「………いらない」

「そう言わないで、ほら、あーん」

「いらないっていってるでしょ!!」

ローズは、そう叫ぶとホームズの手を振り払う。

その瞬間スープは、空を舞いホームズに降りかかる。

「……………ほっといてよ」

ポツリと零されるローズの言葉。

ホームズは、スープのかかったポンチョを脱ぐとそれを脇に抱える。

「……………とりあえず片付けてくるね」

ホームズは、そう言うと部屋を出て扉を閉める。

すると別の部屋から、レイアが俯きながら出てきた。

「レイア?」

「あ、あぁ!ホームズ」

レイアは、慌てて空元気な返事でそう答えた。

「どうしたの?」

今にも泣きそうな感情を奥に止めて問いかけるレイアにホームズは、何と言おうか言葉に詰まる。

「腹が減った。レイア、飯はまだか?」

そんなホームズに構わずヨルは静かに言葉を続けた。

「あ、うん。まだあるから、炊事場に行こう」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「………どうだい?そっちの様子は?」

「ずっと落ち込んでる。そっちは?」

「同じく」

二人は、残った食事を食べながらそんな会話を繰り広げていた。

ここ数日の二人は、ずっとこんな感じだ。

相変わらずホームズの両腕には、包帯が巻かれていたが動かせるようになっていた。

ホームズは、そう答えると窓から夕暮れの空を見上げる。

風と共に流れるパレンジの甘い香りがハミルの村らしい。

風にたなびくポンチョを触ってみる。

「まだ生乾きだなぁ………」

「あぁ。スープかけられたって言ってたね」

「まあ、事故だけどね」

そう言ってホームズは、レイアを見る。

「君の方は?」

「いつも、食器を叩き落としちゃうんだよね………」

レイアは、再び俯いてしまう。

食事を作っているのはレイアだ。

ホームズは、怪我をしており文字通り料理の腕は壊滅的だ。

そんな事もあって、レイアが料理を作っているのだが、自分の作った食事が床に叩きつけられてしまう。

これで何も感じないはずがない。

レイアは、俯いたまま声を震わせる。

「ミラもいない。ローエンもエリーゼもいない。アルヴィン君もいない。ジュードもローズも落ち込んだまま………」

ポタリポタリと自分の作ったスープに涙が落ちる。

いつも明るく振舞っていたレイア。

だが、今回の出来事の連続で遂に我慢できなくなってしまった。

堪え切れなくなった感情は涙となって目から溢れ出る。

「………ジュードを元気づけたいんだけどさ………何でかな?全然上手くいかないや………」

ポタポタとスープに落ちる涙はとどまる事を知らない。

ホームズは、それをしばらく見ると今度は鍋の入ったスープを見る。

四人分にしては、量が随分ある。

恐らくジュードが落としてもいいように多めに作ったのだろう。

しばらく固まりそして意を決したようように鍋を掴み、ゴクゴクと飲み始めた。

「え?ちょ!ホームズ!?」

ホームズの突然の奇行にレイアは、それ以上言葉が続かない。

しばらく炊事場には、ホームズのゴクゴクという音が鳴り響く。

そして、それが聞こえなくなるとからんという音とともに空になった鍋がレイアの前に置かれた。

レイアは、それを見て目を丸くする。

「ちょ、本当にこれ一気に飲んだの!!何考えてるの?!結構な量だよ、これ!」

「やかましい!!」

ホームズは、そう言いつけるとレイアにハンカチを投げつける。

「いいかい!おれは、少なくとも女子の手料理を食べれて幸せだ!!超元気だ!!」

「…………えーっと……?」

「オマケに上手い!これ以上に何があると言うんだい!」

「ホームズ………」

分かりづらいがそれでもホームズは、精一杯レイアを励まそうとしているようだ。

ホームズは、そのまま言葉を続ける。

「だから元気を出したまエェロロロロロロロロロ」

「吐いた!?説得力まるでないんだけど!!」

やはりスープの一気飲みは無茶だったようだ。

ご丁寧に洗い場に向かって吐いていた。

口から先ほどの液体が流れるように溢れ出てきた。

「わたしの作ったのが、即効で吐き出されたんだけど!!結構ショックでかいよ!これ!」

自分の料理が汚物に変わる様は見ていて気持ちのいいものではない。

「何をしてるんだ貴様は……」

ヨルは呆れ顔だ。

「いや、違、これはその反芻つって、ほらおれルーメンがあるから……」

青い顔で慌てたように弁解するホームズにレイアは、呆れてため息を吐いた後少しだけ笑った。

 

 

 

 

 

「ありがとね、ホームズ」

 

 

 

 

 

器用なようで不器用な友人の精一杯の気遣いにレイアは、そう笑って返した。

無理をしていない本当に楽しそうな笑顔を見てホームズもつられて笑顔になった。

「でも、ホームズはやっぱりモテないね」

「一言多い」

ホームズは、桶に貯めてある水を口に含むと口をゆすぎ洗い場に吐き出した。

そして洗い場を丁寧に掃除する。

「うわ………包帯がビチャビャだ………」

そう言ってちらりとホームズは、レイアを見る。

レイアは、ため息を一つ吐いてホームズの両腕の包帯を巻き直していく。

「大分治ってきたね」

「……まあ、もう二度とやりたくないね」

「そうだね。これ以上は、やめてほしいかな」

「…………善処するよ」

目をそらしながら言うホームズを見てレイアは、ため息を吐く。

「期待しないで待ってるよ」

「満点の返事だな」

ヨルは肩で面白そうに笑っている。

そんな会話をしているうちにホームズの包帯は綺麗に巻かれ終わった。

ホームズは、綺麗に巻かれた両腕の包帯を確認するとポンチョをふわりと羽織る。

「うっし、乾いたね」

フード付きのポンチョをホームズは確認していた。

「さて、レイア。君は少し休みたまえ」

「え?」

不思議そうなレイアに指を向ける。

「食べたら寝る。泣いたら寝る。元気でいる為の秘訣だよ」

ホームズの言葉にレイアは、突きつけられた指を見てそれから、少しだけ笑う。

「前半は、太る理由だよね?」

「消化にはいいんだろう?」

「まあ、そうだけど」

レイアは、そう言って手元にあるハンカチを見る。

ハンカチから視線をホームズに戻すとホームズは部屋から出て行こうとしていた。

「ホームズ」

「なんだい?」

「あー、えーっと………」

レイアは、手元にあったハンカチをホームズに見せる。

「ありがとね。ちゃんと洗って返すよ」

「いいよ別に。腐る程持ってるし」

ホームズは、そう言うと椅子に残っているヨルを見る。

「君、来ないのかい?」

「範囲内だろ?たまには一人で羽を伸ばすさ」

「一匹だろう」

ホームズは、そう返すと炊事場を後にした。

ホームズが完全に出て行ったのを確認するとレイアは、ヨルをじっと見つめる。

しばらくその沈黙が続いた後レイアから口を開いた。

「ホームズさ、寝れてる?」

吐いたばかりの青い顔に誤魔化されていたが、目元には隈が出来ていた。

ヨルは首を横に振る。

「いいや。ここのところは、しょっちゅう夜中に起きているな」

ヨルは尻尾をくるくると巻きレイアを見る。

「それって前に言ってた……」

「あぁ。ここのところは特に悪夢をよく見るらしい」

年に一回か二回のペースで悪夢として見る出来事。

その悪夢をホームズは、ここ最近ずっと見ている。

ヨルは、喋りながらくるくると渦を任せていた尻尾を一気に解く。

「まあ、近しい人間の死を間近でしかも立て続けに見たんだ。当然と言えば当然だよな」

解かれた尻尾をホームズはゆらゆらと揺らす。

レイアは、ハンカチをぎゅっと握る。

「ねぇ、ヨル。その出来事のこと教えてくれない?」

ヨルは揺らしていた尻尾を止め、ローズを見る。

「楽しい話じゃない」

「みたいだね」

「俺が言うんだから相当だぞ」

「すごい説得力だね」

レイアは、そう言うとヨルを見る。

「でも、知りたい。何故って聞かれればうまく答えられないけど………ホームズとヨルのことを知りたいから、じゃダメかな?」

レイアのその真っ直ぐな瞳を見るとヨルは、重々しく口を開く。

「いいだろう。話してやる」

 

 

 

 

 

 

 

「いいわけないだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扉越しに聞こえた声にレイアは、思わずビクと肩をすぼませる。

それから、ゆっくりと扉が開き、ホームズが現れた。

「ったく、油断も隙もありゃしないねぇ」

「ホームズ………」

やってしまったというふうに肩をすくませるレイアをみてホームズはため息を吐く。

「別に怒っちゃいないよ……ただまぁ……」

ホームズは、そう言ってヨルを掴む。

「悪夢にうなされるのは、俺一人で十分さ」

ホームズは、そう言うとそのまま扉を目指し、扉の前で振り返る。

「それじゃあ、おやすみ。良い夢を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホームズは、そう言うと静かに扉を閉めた。

取り残されたレイアは、ハンカチをぎゅっと握りしめた。




スープの一気飲みは危ないような気がするので真似するのはやめましょう(笑)



ホームズのあの行動は、知り合いが昔、泣いている時、一生懸命笑わせてくれようとした話を参考に書かせてもらいました。
勿論、一気飲みなんてしてませんよ(笑)


上手くいったか、どうかは、皆さんの判断にお任せします。




では、また百五十話で( ´ ▽ ` )ノ

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