1人と1匹   作:takoyaki

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百五十一話です




てなわけでどうぞ


因果の応酬

「ジュード!早く!!」

レイアは、抜け殻のようなジュードの手を引っ張って走っていた。

後ろからはアルヴィンが迫っている。

(ホームズとローズは!?)

走りながらレイアは、ホームズを探していた。

するとレイアの横の壁からメキという木が軋む音が聞こえた。

反射的に足を止めると音は破壊音となり壁は、砕け散って人影が反対の壁に衝突した。

砂けむりが晴れて現れたのは、ホームズとそして、血だらけでホームズに切り掛かるローズの姿だった。

ギリギリと鍔迫り合いをするように迫る刀をホームズは、何とか左手の盾で防いでいる。

「ホームズ!ローズ!!」

レイアの声に一瞬隙が出来たローズを部屋に蹴り飛ばした。

「何してるの!?」

「こっちが聞きたいぐらいだよ……」

そう言って崩れた壁の向こうからゆらりとローズが姿を表す。

「わかってるのは、殺る気満々ってところだねぇ」

「そんな!何で!!」

「そいつが、エレンピオス人だからよ」

ローズは、舞い上がる埃を刀で振り払う。

「エレンピオス人は殺す!全て殺す!」

再び刀をホームズに向かって振り下ろす。

ホームズは、何とか盾で防ぐ。

体重をかけ盾と刀は、ギチギチと鳴る。

ホームズは、膝をついて何とか刀を押し返す。

「私の家族が死んだのはエレンピオス人のせいだ!だから殺す!

マーロウさんが死んだのはエレンピオス人のせいだ!だから殺す!

ミラが死んだのはエレンピオス人のせいだ!だから殺す!

そして、ホームズ・ヴォルマーノは、エレンピオス人だ!だから殺す!」

その狂気そのもののローズの叫びを聞き、思わずレイアは一歩下がってしまう。

「そんな………でも!!ホームズは、ローズの幼馴染みでしょ!!そんな殺なんて!」

ローズは、そのままホームズの顔面を蹴り飛ばす。

蹴られたホームズは、廊下を滑るように転がる。

「ぐっ………」

その容赦のない攻撃にレイアは、思わず息を飲む。

「貴方のいう通り、ホームズ・ヴォルマーノは、私の幼馴染みで昔馴染みよ」

ローズは、そう言うと刀に着いた血を払う。

「だけど殺す!!」

そう言って再びホームズに向かって切り掛かった。

ホームズは、立ち上がりながらもう一度刀を防ぐ。

「ホームズ!!」

「レイア!!君は、ジュード連れて逃げたまえ!!」

「でも!!」

その瞬間、銃弾がレイアをかすめる。

アルヴィンが追いついてきたのだ。

ローズとホームズには、目もくれずジュードとレイアに向かって歩みを進める。

どちらかが倒れたところで再びトドメを刺す気なのだろう。

「早く!!」

「…………ゴメン!ホームズ!!」

レイアは、ジュードを連れて小屋から逃げ出した。

ホームズは、ヒザ蹴りをローズ手首に向かって打ち上げる。

「ぐっ!」

突然の逆襲にローズは、思わず手をゆるめる。

ホームズは、その隙に一歩体を下げ、それから踏み込む。

「うぉら!!」

安全靴の蹴りをローズは、一刀で受ける。

「下がれ!ホームズ!!」

ヨルの言葉と同時にホームズは、下がる。

すると下からローズのもう一刀が切り上げられていた。

なにも刃で喰らうことの出来なかった刀はひゅんという音を立て空を切る。

もしあの場に足があったらと考えると身震いが襲う。

ローズは、防御に使った刀を切り替えホームズに突きを繰り出した。

ホームズは、迫り来る刀を下から蹴り上げる。

ローズは、もう片方の刀をホームズに向かって繰り出す。

ホームズは、歯軋りをして体を捻ってかわす。

刀はホームズの刀をかすめる。

「ヨル!!」

ヨルはホームズの援護の為口を開こうとする。

「させない」

ローズは、ホームズの刀をかすめた刀の刃を返し、ヨルに向かって切り上げた。

「──────っ!!」

ホームズは、慌てて屈みそしてバク宙をして刀を蹴り上げると同時にローズから距離をとる。

「やめておくれ!ローズ!おれは、君と戦いたくない!!」

「ハッ………貴方がそれを言うのね。カン・バルクで自分の都合で私達に襲いかかってきたくせに!!」

ローズの刀がホームズとヨルに迫る。

ホームズは、歯嚙みをして一歩後ろに下がる。

「どうする?あの小ムスメ俺の援護を潰しに来てるぞ」

ヨルの言葉を聞きながらホームズは、廊下の壁の距離を測る。

「………だからって諦めるわけに行かないだろう?諦めたらおれ達ジ・エンドだゼ」

ホームズは、そう言うとスピードを上げ、壁を蹴る。

そして、そのまま反対の壁にたどり着きもう一度蹴って更に距離を詰めていく。

壁を足場にし、床に足をつけず、そして、目で追えないスピードで距離を詰めていく。

(そんな!『非常識』を使ってないのに!)

この狭い廊下で刀を振るうのは、困難だ。

結果使われる手は、突きに限られてくる。

だが、振るわれる刀に比べ、突きは圧倒的に範囲が狭い。

(でも!動きは読める!!それぞれの壁を交互に来てるのだから………)

ローズは、左の壁から音が聞こえた同時に次に来るであろう右の壁に向かって刀を突いた。

しかし、刀が捉えたのは、木の壁だけだ。

ホームズは、どこにもいない。

戸惑うローズを他所にホームズは、上空から、踵を落とす。

落とされた踵はローズの肩をかすめて地面に落ちる。

「ぐっ……………」

かすめたとはいえ、安全靴の踵落とし。ノーダメージとは行かない。

動きが鈍ったのを見届けるとホームズは、そのままローズに向かって横薙ぎに蹴りを放つ。

「調子に乗るな!」

ローズは、刀の柄で迫り来るホームズの安全靴を殴りつけ、勢いを止める。

「マジかい…………」

思わぬ反撃で態勢を崩したホームズにローズは、両手を合わせる。

この狭い場所で、刀を満足に振ることの出来ないこの場所でホームズと戦うのは、不利だ。

確実に負けるのは自分だ。

ならばどうする?

「獅子…………」

簡単だ。

場所を移してしまえばいい。

「戦哮!!!」

ありたっけの闘気は、獅子となりホームズに襲いかかる。

獅子はホームズに喰らい付き壁を壊し窓を壊し埃と土けむりを上げながらホームズを吹き飛ばした。

林に吹き飛ばされたホームズは、背中をしたたかに打つ。

「ガッ…………!!」

肺の空気が一気に吐き出される。

「…………くそ……何でこんなことに」

ホームズは、地面に唾を吐きながら立ち上がる。

「それは、貴方がエレンピオス人だからよ」

その声の先には、ローズが髪をたなびかせ、佇んでいた。

ホームズは、ローズのその執念に恐れを覚える。

「………まさか、生まれたことが罪だとでも言うつもりかい?」

「さあ?どうでしょうね」

ローズの返答は、ゾッとする程の冷たい声音。

ホームズは、頬を引きつらせながら辺りを見る。

周りは、林というより、パレンジの木のようだ。密集して生えていない。

これでは刀も振りたい放題だ。小屋を挟んだ向かいからは、銃声と激突音が響き渡る。

(みんな無事でいておくれよ)

ホームズは、そう祈るともう一度目の前にローズと向き直る。

「小ムスメお前、いい加減にしろよ」

「貴方が言ったんじゃない?何をしたって死んだ人間は、生き返らないって」

ローズは、そう言って刀を握る。

「だったら、不幸の連鎖をここで切る。これ以上私みたいな人を出さないために」

ローズは、ゆっくりと刀をホームズに向ける。

「その為の力を私は手に入れてきた!」

 

 

 

 

 

 

 

 

───『気をつけろ。あれは力の使い方を間違えるタイプだ』────

 

 

 

 

 

 

 

ホームズを助けられなかったという後悔から手に入れた力は、

自分に力がないばかりに人に自分の傷を押し付けたくないと言っていた力は、

 

 

 

 

今ホームズに向けられている。

 

 

 

 

 

 

ミラの言葉を思い出しているうちにローズは、距離を詰めて襲いかかった。

ホームズは、左手の盾で、攻撃を防ぐ。

その鬼気迫る表情を見てホームズは、顔を伏せ、そして蹴り飛ばす。

(なんで……)

ローズは、腹を一瞬押さえると直ぐにホームズに刀を振るう。

ホームズは、上体を反らしながら刀を蹴り上げる。

(なんで……)

それからもう一度足を踏み替えローズに蹴りを放つ。

態勢を崩したローズは、そのまま地面に倒れる。

(なんで……!!)

ホームズは、そこを追撃しようとするが一瞬動きが止まる。

「馬鹿!止まるな!!」

ヨルの言葉で思わずハッとしたが、もう遅い。

ローズは、ホームズに刀を向け、マナを渦巻かせる。

「収束せよ!省略!」

ローズのリリアルオーブが輝く。

「ディバインストリーク!!」

光の砲撃は、狂いなくホームズに放たれた。

ヨルをかすめ、そして、ホームズは、そのまま木に叩きつけられた。

光の砲撃が消えるとホームズは、ゆっくりと倒れていった。

「ホームズ!!」

ヨルの声に反応するようにホームズは、ゆっくりと立ち上がろうと四肢に力を込める。

ヨルも動こうとするが、かすったディバインストリークの影響で思うように動けない。

「なんでだい…………ローズ」

ホームズは、ボソリと呟く。

「おれは、君に救われた。ガキの頃いじめられていたおれを君は助けてくれた」

ゆっくりと両手が地面からから離れていく。

「こんな、おれのことを友人と言ってくれた………」

傷だらけでその碧い瞳からは涙が溢れている。

「君と会えて本当に良かった」

あの宿でいった言葉に嘘偽りはない。

「なぁ、ローズやめておくれ………おれは、君と戦いたくない………刀を収めておくれ」

「…………私は」

ローズは、刀を一瞬降ろす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方と出会わなければ良かったと思っているわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

ローズの一刀は、深々とホームズの脇腹を突き抜けホームズとパレンジの木を縫い止めた。

「…………っガハ」

ホームズの口からは、夥しい血が流れ落ちる。

刀は、ホームズを木に縫い付け動き止める。

ローズは、残った刀を下段に構える。

「"天光満るところに我はあり"」

「まさか………」

収束していくマナの量とその聞き覚えのある詠唱にヨルは、何とか生首に変わろうとする。

しかし、先ほどのディバインストリークのダメージが残っており動けない。

「"黄泉の門開くところに汝あり"」

マナは、雷撃へと変わっていく。

「"出でよ神の雷"」

刀を抜こうとホームズは、もがくが、ホームズの今の状態では満足に力も出せない。

ローズは、感情を消し暗い瞳でホームズに狙いを定める。

「これで、終わり………」

ローズの周りは、雷となって辺りを覆う。

「"インディグネーション"!!!」

雷は、ホームズに向かって落とされた。

轟く雷光、そして、響き渡る轟音。

一般の慈悲も無く落とされたその力は、己の無力さを叩きつけられた。

ローズは、その様を見ると今度はヨルに目を向ける。

「今度は貴方ね」

「いや、まだお前だな」

その時、ローズの背中に強い衝撃が走った。

その衝撃が走った原因にローズは、心当たりがある。

普通に考えてそれはありえない。

だが、この男に普通は、通じない。

背後を確認すると脇腹から流れ落ちる血を必死に抑えながら佇むホームズがいた。

「そんな……抜けないはずなのに……動けないはずなのに………何で?」

ローズは、そう言って雷を落とした木を見る。そこには、雷撃を受けながらも白く輝く刀が落ちていた。

「抜かなかった………どうやっても無理だったから、切ってきた」

ローズとヨルは、思わず息を飲む。

刀のは、確かに外側を向いていた。

ホームズは、抜くことを諦め、左に動き右脇腹を切ることで拘束から抜け出したのだ。

「肉を切らせて…………骨を断つ……だ」

ホームズは、そう言って口から血を吐き出す。

右脇腹からも血がだらだらと流れ落ちる。

完全に逃げ切ることはもう出来ない。

だったら、ローズを倒すしかない。

ローズは、ここで初めてホームズという男に恐怖を覚えた。

「貴方、正気?」

「君と………同じくらいにはね」

ホームズは、そう言うと右足を踏み込んだ。

強く踏み込んだその瞬間からの回し蹴り。

一瞬反応の遅れたローズは、慌てて刀を振るう。

ホームズの蹴りの方が早く届く。

「う、うぁあああ!!」

ローズの乱れた刀。

乱れた刀などホームズに当たるはずもない。

普段ならの話だ。

とっくに限界を迎えていた、精神状態、そして、身体。

ホームズは、ゆっくりと態勢を崩す。

そして、崩れたホームズに刀が襲う。

恐怖と焦りで振るわれたローズの刀は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホームズの両目に届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然視界が暗くなったホームズは、戸惑う。

しばらくして、両目から迫り来る焼け付くような痛みでようやく自分がどうなったかを理解した。

顔も知らない父親との唯一の繋がりである碧い瞳。

そして、それを褒めてくれた人間。

 

 

 

 

 

 

 

 

『その甘さはいつかお前の首を締めるぞ』

『お前、その生き方どうにかしろよ。でないと、いつか取り返しのつかないことになるぞ』

『気を付けろあいつは力の使い方を間違えるタイプだ』

『ロクな目に合わないのは復讐に走った人間の周りにいる人間共だ』

『他人の荷物まで背負って潰れるな』

『忠告しておく。その生き方の先に待つのは深い絶望だ』

 

 

 

 

「あ………あ、あ」

全てが繋がった時、ホームズは口から血と内容物を同時に吐き出し顔を抑える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ"あ"あ"ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後悔、絶望、激痛、どれか一つでも足りない。だが、この三つでも足りない。

そんな慟哭がパレンジの林に響き渡った。

ローズは、そこでようやくハッとしたように自分の手にある刀を見て自分が何を切ったのか、悟った。

いつもあと一歩の踏み込みのなかったローズだ。

不意をついた刀も本当に殺す気なら、心臓狙うべきだった。

確実に殺すつもりなら精霊術ではなくその場で首を落とすべきだった。

余計な詠唱という手間を踏んでしまったため、ホームズに逃げ出す隙を与えてしまった。

知らず知らずの内にあと一歩を躊躇っていた。

だが、ローズは、切ってはならないものを切ってしまった。

その事実にようやく覚えた罪悪感がローズを襲う。

麻痺していた心が動き出す。

「ち、違う……そんなつもりじゃ……」

弱々しい弁解もホームズの慟哭にかき消され、本人届くことはない。

 

 

 

 

甘い匂いを乗せた風が静かに流れた。










ではまた百五十二話で

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