1人と1匹   作:takoyaki

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百五十二話です



てなわけで、どうぞ




「ホームズ………………」

感情を剥き出しに慟哭を続けるホームズにローズもヨルも息を飲んで見る。

ホームズは、慟哭を終えるとそのままパタリと糸の切れた操り人形のように倒れた。

「そんな………つもりじゃ………」

「小ムスメ、そこを退け」

ヨルは、泣き崩れるローズを無視してヨルは歩みを進める。

ローズは、慌てて刀を構える。

そんなローズを見てヨルは面倒くさそうに舌打ちをする。

「何のつもりだ?」

「ホームズは、私が殺すの………だから……」

震声で言うローズにヨルは、ハッと鼻で笑う。

「お前、意味わかって言ってんのか?」

ヨルは面倒くさそうに言う。

「うるさい!やかましい!だまれ!」

張り裂けんばかりに言うとヨルに向かって刀を構える。

「邪魔するって言うなら貴方から…………」

その言葉を聞きヨルは眼を細め、奥にいるホームズを見る。

流れる血が早く助けろと訴えている。

「時間がない………が、一つ教えてやる」

ヨルの身体を黒霞が覆う。

「俺にも実は怖いものがある」

黒霞は、徐々に大きくなっていく。

「俺は人間のその善人が悪人なるその様が本当に怖い」

その威圧感にローズは、思わず一歩下がる。

ヨルはもう一度同じことを言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「善人と言われる人間達が何かの拍子に悪人なってしまう。その様が本当に怖い」

 

 

 

 

 

その言葉とともに黒霞は消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには、ホームズだけ見たことのある本来のヨルの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

「黒い…………虎……………?」

見るものを圧倒するその迫力。

ローズは、刀を持つ手が震えるの感じていた。

「因みに言うとだ。動物は、恐怖を覚えれば逃げる。二度と恐怖の対象と会わないよう逃げ続ける」

ヨルの前足から爪が伸びる。

「だがな、化け物は違う」

一歩足を進める。

「化け物は、己に恐怖を覚えさせた対象を許さない」

ヨルから吹き出る殺気が一気に膨れ上がる。

「その場で、潰す」

その瞬間ヨルの尻尾がローズに襲いかかった。

しなる丸太のような尻尾は、容赦なくローズの腹を打ちそのままパレンジの木に叩きつけた。

「…………カハっ……」

ローズは、そのまま意識をゆっくりと手放していった。

ヨルは追撃しようとするが、地面に突っ伏しているホームズを見て諦めたようにため息をついた。

「仕方ない。時間もないしな」

ヨルはホームズを背中に巻きつける。

さて、そこで行き先に迷う。

あの小屋に戻ったら再びローズが襲ってくるだろう。

「オマケにあそこにいるのは、腑抜けたつり目…………」

ヨルは、ピクリととある霊力野(ゲート)の気配を捉える。

「そうか、奴らなら…………」

ヨルは、一人でそう納得するとぴょんと木を登り枝から枝へと飛び移っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは…………」

ヨルは少し驚いたように辺りを見回す。

ヨルは霊力野(ゲート)の位置まで辿り着いた。

辺りは廃墟がチラホラと見える。どうやら、元は村だったようだ。

ヨルはそんな中か霊力野(ゲート)の気配のする家に入る。

「だ、誰?」

「俺だ、ヨルだ。ジャリ、ローエン」

エリーゼとローエンは、突然現れたヨル本来の姿に戸惑う。

そんな二人に構わずヨルはホームズをベッドの上に寝かせる。

血だらけのホームズを見て二人は息を飲んだ。

「そんな!ホームズ!なんで」

「いいから、早く治療しろ」

ヨルに急かされエリーゼは、慌てて精霊術をかけた。

エリーゼが精霊術をかけている間にヨルの身体から黒霞が溢れ出て段々と小さくなっていく。

エリーゼは、ふっとヨルとローエンのよ方を見る。

「とりあえず、終わりました………でも……」

腹の傷は、塞がっているし、しばらくは大丈夫だろう。

後で、目を覚ましたら病院に連れて行けばいい。

だが、

「ホームズの目は無理そうです」

ローズの刀で斬られたホームズの目は元に戻らなかった。

顔の知らない父親との唯一の碧い瞳は、もう光を移すことはない。

黒霞は、消えヨルの姿が現れる。

いつもより小さい、それこそ子猫のような姿にローエン達は再び開いた口がふさがらない。

「すいません。ヨルさん一体何があったのですか?」

ヨルは小さな尻尾を少し振る。

「アルクノアが突然襲ってきてな。なんとか、それは撃退したんだが、その襲撃で小ムスメの奴、壊れちまってな、ホームズに襲いかかった」

エリーゼは、思わず口を手で覆う。

「そんな…………」

「今、あいつに見つかるとマズイ。だから、離脱してきた」

「もう一つ聞いてもいいですか?」

ローエンの言葉にヨルは自分の身体を見る。

「さっきの俺の身体と今の俺の身体のことか?」

「はい」

ヨルは、前足を持ち上げる。

「さっきのは、貯めといたマナを還元して一時的にもとの姿に戻っただけだ」

『もしかして、今は力使いすぎて、こんな状態とかー?』

ヨルは忌々しそうに頷く。

「ご明察。この状態じゃ生首にもなれない。しばらくは、暗いところで回復に努めるしかないな」

そう生首になれないということは、精霊術を食べることができないということだ。

単純にエネルギー補給の手段が一つ減ってしまった。

そう言ってベッドの下に入る。

「うぉっ!埃がすごいな……」

ヨルはそう言いながらガサゴソと動き続け、埃やらゴミやらを叩き出していく。

そのマイペースぶりにエリーゼが呆れていた頃、一つ見過ごせないものが出てきた。

「………………この白いものは?」

何やら白い石のようなものだ。

だが、石というには形が妙だ。

そして、手触りも違う。

ヨルは、その言葉を聞くとぬっと頭をベッド下から出す。

「よこせ」

「え、あ、はい」

ヨルは有無言わさず受け取るとそのままベッドの下で寝てしまった。

『なんなんだよー!ねぇ?ローエン』

「………………えぇ。そうですね」

ローエンは、顎髭を触る。

「エリーゼさん。我々も少し休みましょう。ミュゼさんが、いつもやってくるか分かりませんからね」

エリーゼは、頷くとトテトテと部屋から出て行き、食べ物を取りに行った。

(………………今の白いものは間違いありません)

戦場で散々見たのだ。

見間違うはずもない。

「骨ですね」

魔物か、人間か、まではわからない。

だが、あのヨルの態度を考えると結論は、おのずと絞られてくる。

「ローエン、ご飯持ってきました」

「ありがとうございます、エリーゼさん」

ローエンが考え込んでいるとエリーゼの持ってきた食事が届いた。

「まずは、腹ごしらえですね」

ローエンの言葉にエリーゼは、頷いて食事に手をつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

翌日。

ヨルはもぞもぞとベッドの下からあられた。

その姿は、いつもの黒猫の姿で子猫の面影はなかった。

エリーゼは、それを見ると少しため息を吐く。

「もう少し、あのままでいてくれたら……」

「阿呆なこと言ってないで、精霊術を出せ」

エリーゼとティポは、ムッとした顔をしつつも、ブラックガイドを出現させた。

ヨルはそれを生首になって丸呑みした。

「まあ、こんなもんか」

そう言ってヨルはベッドの上にいるホームズを見る。

エリーゼは、それを見ると静かに目を伏せる。

「………ホームズは、昨日から起きてません」

「そうか」

ヨルは、そう言うと尻尾を振る。

ローエンは、そんなヨルを見る。

「ヨルさん。聞いてもいいですか?」

「なんだ?」

「昨日の白い石のようなもの。あれは、骨ですよね?」

「そうだ」

「人骨ですか?」

「おそらく」

ヨルの言葉を聞きエリーゼは、思わずベッドから飛び退く。

ヨルは、そんなエリーゼに目を向ける。

「なんかの拍子に落としたのをそのまま、ベッドの下に入れたんだろうな」

たんたんと語られる言葉にローエンは、首を傾げる。

「まるで、見てきたように言いますね」

 

 

 

 

 

 

「当然だ。この村に俺たちは、来たことがある」

 

 

 

 

 

ローエンは、顎髭を触りながら考える。

「もしや、廃村になったのは、そう昔の話ではないということですか?」

「まあ、人間(おまえ)たちにとっての昔の定義がよくわからんが、三十、四十年前とかの話じゃない」

ヨルはそう言ってホームズに視線を向ける。

「こいつが、生き方を決めた村だ」

そう言って包帯の巻かれたホームズの両目を見る。

「その時選んだ生き方でこんなザマになって、そして、この村に来ることになるなんてな…………」

ヨルはふっと息を吐く。

「全く、縁ってのは、不思議なもんだな」

エリーゼは、それを聞くとぎゅっとティポを握りしめる。

「ヨル、教えてください。ホームズは、過去に何があったんですか?」

ヨルは振り回す尻尾を止め降ろす。

「楽しい話じゃない。はっきり言ってこんな時に聞きたい話じゃない」

「私は、聞きたいです。友達だから」

エリーゼの言葉にヨルは目を丸くする。

そんなヨルに構わずエリーゼは、続ける。

「友達だからちゃんと知っておきたいんです」

『ヨルとケンカした時みたいに変なこと言わないためにもねー』

エリーゼのジッと必死な目を見てヨルは本気だと悟ったようだ。

「この話を知らなくてもおまえの人生になんの影響もない。それでも聞きたいか?」

「はい」

ヨルは黙って上を向く。

そして、ローエンの方に目を向けるとローエンも静かに頷く。

ヨルは大きく息を吐き出した。

それは、ため息というよりも準備運動のようだった。

「とりあえず、その辺の椅子に腰掛けろ。ローエン、エリーゼ(・・・・)、それと、ティポ(・・・)は、いいか……」

エリーゼは、ヨルの言葉に少し驚いたが直ぐに椅子に腰かけた。

「分かった、話そう。この村、名前がないと不便だな…………そうだ、アオイ村でいいだろ」

ヨルは一人で納得すると咳払いをして再び口を開く

「アオイ村とホームズの話だ」

 

 








ヨルの怖いものの元ネタは、タイトルの通りです。
言われてみれば確かにな、という奴です






さて、今回の章は短いですが、何だか暗い話になってしまたね……
まあ、自分の作ったキャラに手加減なんかしませんよ(笑)
まだまだ彼には頑張ってもらいましょう!



さて次回からは過去編です。なんだか、長くなってしまいまして………


二百話行くかもな………もしかしたら………



では、また百五十三話で( ´ ▽ ` )ノ





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