1人と1匹   作:takoyaki

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百五十三話です



過去編開始です!!



てなわけでどうぞ


アオイハナの村
其の壱


「母さん、まだ着かないのかい」

「いや、もうちょっとなんだけど………」

「それは、さっきも聞いた」

ホームズは、はぁとため息を吐きながら、てくてくと歩みを進める。

今より、若干背の低いホームズは、母親の身長といい勝負だった。

横に並ぶたびにため息を吐きたくなる。

「ええぃ。ため息を吐くのを止めたまえ!見たまえのこの綺麗な景色を!!」

「…………荒涼としていて、なにも生えてないんだけど、どの辺を見ればいいんだい?」

辺り一面の枯れた茶色の土しかない景色の山道。

ここをホームズ達はここ登っていた。

今回彼らは、行商に行った街でこの先にある村に行って欲しいと頼まれたのだ。

隔離された陸の孤島とふさわしい場所、そして、土に栄養もなく細々とした農業しかできていないので、何か物資を売りに行って欲しいとの事だった。

断る理由は、山ほどあったが、それでも、今後のパイプを作るに越したことはないし、何より、ルイーズ本人は自覚してなくてもお人好しの気がある。

人を振り回すお人好し。

これ以上厄介な人間などいないはずなのに、更にそれを自覚していないときたものだ。

もういい加減にして欲しいという奴だ。

ご多分にもれず、今回も仕方ないなぁの一言で行先は決定してしまった。

「それと、リリアルオーブは、まだなのかい?ちゃんと今度こそお金溜まるんだろうね?」

そうホームズは、いい加減リリアルオーブが欲しいのだ。

まあ、確かに戦闘になればルイーズのほうが強いのだが、いつまでも任せておくわけには行かない。

更に言えば技を教えてもらっても、リリアルオーブがないため実効などまるで出来ない。

冷たい返しと冷たい要求にホームズの母親、ルイーズは、目元を抑え、ホームズの肩にいるヨルを抱き寄せる。

「ヨルぅ〜〜〜〜私の息子が最近冷たいんだけど〜〜反抗期かなぁ〜〜〜」

「…………お前に反抗するような命知らずはいないだろゔううううううぅ」

ギリギリと首をしめられヨルは苦悶の叫びをあげていた。

笑顔のまま締め上げていくのが、また怖い。

「ギブギブ!!」

ヨルの言葉を聞くとパッと手を離しヨルは地面に落ちた。

ホームズは、その一連の行動を見てため息を吐く。

「頼むから殺さないでおくれよ。()まで死んじゃうんだから」

ルイーズは、面白そうに手を振って答える。

「大丈夫だって」

「……………不安だなぁ」

ホームズのため息を他所にルイーズは、目の前を指差す。

「お!あれじゃないかい?私達の目的地!」

「んー…………」

ホームズは、タレ目で何とか目を向ける。

そこには、確かに村が広がっていた。

「本当だねぇ…………ところで、村の名前は?」

「さぁ?」

即答で肩をすくめて返すルイーズにホームズは、額に青筋が立つのを感じた。

(蹴っ飛ばしたい………)

文句を飲み込むそのままルイーズの後をついていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「さて、私は村長に挨拶と許可取ってくるから、君はその辺で遊んでいたまえ」

ルイーズは、そう言うとさっとそうと走っていった。

取り残されたホームズは、辺りを見回す。

辺りにあるのは、一面の青い花畑と民家のみ。

「………………どの辺?」

「花の冠でも作って暇を潰してればどうだ」

「………………いや、畑の花は取っちゃダメだろう」

「畑じゃなければよろしいですわよ」

その聞き覚えのない声ホームズとヨルはうしろを振り返る。

そこには、自分より小さな女の子がいた。

パーカーにズボンといういでたちで、髪は赤毛の若干ズレたポニーテール。

くりっとした、くるみのように大きく鳶色の瞳が印象的だ。

「………………誰?」

「人に名前を聞く時は、まず自分から名乗るのが常識だと思うのですけれど?」

その小憎らしいお嬢様言葉にホームズは、青筋を浮かべる。

「ホームズ・ヴォルマーノ、これでいいかい?」

「わたしはマープルです。以後よしなに」

「あぁ〜…………わかった」

(よし、以後関わらないようにしよう)

ホームズのアホ毛が過敏に反応していた。

「さて、わたしの自己紹介も済みましたし、そこの黒猫さん?名前をお聞かせねがえますか?」

そんな風にヨルに喋っているマープルを見て、ホームズはため息を吐く。

「あのねぇ、お嬢ちゃん。猫が喋るわけないだろう?」

「そうですね。猫は喋りませんが、この黒猫さんは、喋っていましたよね?それとお嬢ちゃんではなく、マープルですわ」

その一言に余裕綽々だったホームズは、ギジリと固まった。

「ま、マープルちゃん。そのそれは、その…………」

「ちゃん付けで名前呼びとは、中々たらしですわね?」

さっと両肩抱くようにホームズから距離をとるマープル。

「どの辺が!?至って普通だよ!!」

「あなたは、知らないのですわね。わたしたちの間では男子は、女子の事をちゃん付けでなんて呼びません。名前(ファーストネーム)苗字(ファミリーネーム)で呼びます」

子供たちには子供たちの世界がある。

そして、そこには暗黙の了解というものがある。

今回の件がそれなのだろう。

しかし、その上から目線にホームズは、ギリギリと歯軋りをする。

「じゃあ、マープル」

「初対面の人に向かって呼び捨てとは、大分なれなれしいですわね」

「──────!!」

「おい、よせ。もう、俺が喋るからこれ以上こいつを煽るな」

ヨルは疲れたように口を開いた。

「ヨルだ。それと俺が喋ったことは、内緒にしといてくれ。色々ややこしいから」

「えぇ。いいですわよ。肉球を触らせてくれたら」

今度は、ヨルが固まる番だ。

「あら?ここは、二つ返事で答えてくれるところではありませんの?」

ニヤリと底意地の悪い笑みを浮かべながらマープルは、案に脅していた。

「このクソガキ……………」

ヨルは渋々ホームズの方から降りると肉球を差し出した。

マープルは、満足そうにヨルの前足の肉球を押し続けていた。

「中々変わった押し心地ですわ」

「良かったね」

ホームズは、うんざりしたように言うと立ち上がっていた。

「あら?どこ行きますの?」

「君のいないところ」

「君ではありません。マープルですわ」

ホームズの顔から笑顔が消える。

しかし、マープルは涼しい顔のままだ。

「………ここで、マープルって呼ぶと君はなんて思うんだい?」

「記憶力のない方ですわね。なれなれしい方だと思いますわ」

「じゃあ、なんて呼べばいいんだい!!」

ホームズの全力の叫びにきょとんとする。

「普通にマープルさんか、マープル様じゃありませんか?」

「一つ明らかに普通じゃない選択肢があったよ!!」

「ささいな問題ですわ」

しれっと返すマープルにホームズは、思わず引く。

「し、じゃあもう、ファミリーネームの方を教えてよ。そっちで呼ぶ」

ホームズは、呆れたようにそう言うとマープルは、涼しい顔で首を振る。

「ありませんわ」

「ない?」

 

 

 

 

 

 

 

「ええ。わたし、孤児ですの。だから、ファミリーネームは、存在しませんわ」

 

 

 

 

 

 

 

ホームズは、それを聞いて辺りを見回す。

村人全員が知り合いレベルの人数しかない。

(こんなところで子供なんて捨てたら、誰が捨てたか一発じゃないか………)

「どうもわたしは、人買いに攫われたらしくて……それをティーアさんが拾ってくださったんですわ」

ホームズの考えを見透かしたようにマープルは、そう続ける。

「わたしの他にもそう言う人たちは、いますわ。ここから見えるあの教会に皆さんいるんですの」

ホームズは、困ったように頭をぽりぽりとかく。

「なるほど。無神経なこと言って悪かったよ」

「いえ。気にしてませんわ」

そう言って笑うマープルをホームズは、少し目を細めてみる。

「ふうん。まあ、マープルさんがそう言うならそれでいいけど」

ホームズは、そう言うとスタスタと歩き出す。

「結局どこへ行くんですの?」

「とりあえず村をぐるっと回ってくるよ」

「なら、わたしもヴォルマーノについていきますわ。案内人なしの観光もあじけないでしょう?」

てくてくとついてこようとするマープルをホームズは、手でしっしっと払う。

「いらない。というか、マープルさん。初対面の年上の人を呼び捨てするってのも大分礼儀知らずだと思うけどね」

ホームズのその言葉でマープルは、歩いていた足を止め不思議そうに首をかしげる。

「年上?どなたのことをおしゃっているのですか?」

「………目の前にいるんだけど」

「おいくつですか?」

「十四歳」

ホームズのその言葉にマープルは、目を丸くする。

「まぁ!年上でしたのね!!」

「素直に驚いているね!!というか、君はいくつだい!?」

「八歳ですわ。それと君ではありません。マープルです」

ホームズは、その回答に目眩がしてきた。

元々年相応に見られないことは自覚は、していた。

しかし、六歳も下の子に年上に見られないということはショック以外の何者でもない。

「て、いやいや。流石にそれは、ないでしょ……」

そう、いくら何でも十四歳と八歳が同等ということはありえない。

そこから導き出される結論は一つだ。

「…………君もしかして、天然入ってるかい?」

「本当に失礼な方ですわね。わたしはしっかり者ですわ」

「OK。今ので大体わかった」

ホームズは、ため息を吐いて今度こそ歩き出した。

「まあ!信じていらっしゃらないですわね!!」

「ぐぉ!」

しかし、直ぐにマープルに両足を掴まれて転ばされしまい、それも叶わなかった。

「痛いじゃないか!!」

「いいからお聞きなさい!わたしがいかにしっかり者であるか!!」

「知らないよ!!毛ほども興味のない話をするんじゃあない!!」

ぎゃあぎゃあと道の真ん中で騒ぐ二人。

「…………君たちは、何をやっているんだい?」

用事を終えたルイーズはその珍妙な光景にため息を一つ吐いた。

いへゃ、ふぇうに(いや、べつに)

ホームズの頬はマープルに手加減抜きで引っ張られていた。

マープルは、そんなルイーズとホームズを交互に見ると首をかしげる。

「どちらさまですか?」

ホームズは、マープルの手を振りほどくと、頬をさする。

「僕の母さん」

「まぁ!そっくりですね」

「喧嘩売ってる?」

「その言葉そっくりそのまま返すよ、バカ息子」

背筋に寒気が走った。

ルイーズは、胸に手を当てる。

「私の名前はルイーズ・ヴォルマーノ。君は?」

「わたしは、マープルと言います。以後よしなに」

ルイーズは、うんうんと頷きながら、ホームズの方を見る。

「で、何をもめてるんだい?」

「わたしの観光案内を断ったんですの」

それを聞くとルイーズは、大袈裟にため息を吐く。

「君は、本当にどうしようもないね。そういう時は二つ返事と相場が決まっているんだよ」

「あれ?おっかしいな?それでもめてたわけじゃないと思うんだけど…………」

釈然としない顔でそういうホームズを無視してルイーズは、マープルの方を向く。

「それじゃあ、マープルちゃん。案内頼むよ」

「ええ。お任せください」

そんな二人を見てホームズは、さらに釈然としない顔を浮かべる。

「………ねぇ、ちゃん付けで呼んでるんだけど」

「同性ならいいんだろ」

「ほら、とっときたまえ」

 

 

 








今回の過去編、ぶっちぎりの長さです。


ついてきてくださいな



では、百五十四話で( ´ ▽ ` )ノ

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