1人と1匹   作:takoyaki

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百五十五話です。


今日のジャンプにベルセリアの情報が載っているんじゃないかと思うと寝ていられませんね!!
これで載ってなかったらやだなぁ……



てなわけで、どうぞ


其の参

「で、何しに来たんだお前は?」

「んー………余計な御世話?」

ホームズは、ヨルにそう返して夜空を見上げる。

「まあ、僕の気のせいとか考えすぎとかならいいんだけどねぇ………」

そう言いながらホームズは、広場に向かって歩みを進めていく。

広場に近づくにつれ、すすり泣くような声が近づいていく。

「…………この霊力野(ゲート)の気配は……」

「静かに」

ホームズは、そう言って辺りを見回す。

泣き声の方向は広場のベンチ。

しかし、誰も腰はかけていない。

ホームズは、泣き声のするベンチの後ろを覗き込む。

そこには、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんばんわ。マープルさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの小憎らしいマープルが膝を抱えて座り込んでいた。

驚いたようにあげた顔は涙でぐしゃぐしゃに崩れていた。

「な………んで、あなたがここに?」

ホームズは、不思議そうなマープルに答えず抱きかかえる。

「なっ!?ちょっ!?」

マープルが、突然の事に目を白黒させているうちにホームズは、マープルを自分の隣に降ろす。

「椅子に座りたまえ。ベンチっていうのはね、座るために作られたんだよ」

ホームズは、マープルを下ろすとむんと背伸びをする。

「……………して?」

「ん?」

「どうして、こんなところに来たんですの?」

ホームズは、ふぅっとため息を吐く。

「……………まあ、散歩かな。君は?こんな遅い時間に出歩くなんて感心しないよ」

「……………私の勝手です。あなたには関係のないことです。乙女の秘密をほじくろうとするとモテませんわよ」

「はいはい」

ホームズは、そうやって笑って返すと椅子にどっかりと腰掛けた。

そんなホームズを見てマープルは、更に不思議そうな顔をする。

「あなたは、帰りませんの?」

「君が帰るまではここにいるよ」

そう言うとマープルは、心底嫌そうな顔をする。

「夜に私のような少女と一緒にいたいと言うのですか?そう言うのを変態と言うんですよ」

「……………君、本当可愛くないよね」

ホームズも同じように心底嫌そうな顔をするとハンカチをマープルに渡す。

しかし、マープルはそれを受け取ろうとしない。

「使いたまえ。ちゃんと洗濯もしてあるし断る理由はないと思うよ」

「……………どういう意味ですの?」

震える声でホームズに問いかける。

「別に。何か拭くものが必要だろう?」

「そうじゃありませんわ!!」

マープルは、ホームズを睨みつける。

「あなた!一体どういうつもりですの!!私は、私は、私は、」

そう言いながらマープルの瞳からは、涙が一つまた一つと溢れていく。

ホームズは、それを黙って見つめていた。

マープルは、恨めしそうにホームズを睨みつける。

「私は、泣いてるところをみせたくないんです!だから、何処かへ行ってください!」

ホームズは、マープルの方を向かず空を見上げる。

「ん?何か言ったかい?」

ホームズは、そのまま夜空に瞬く星から目をそらさない。

「………まあ、アレだ。君の用事が終わるまで僕は天体観測でもしてるから」

ホームズの精一杯の言い訳にマープルは、それ以上言い返すでもなくそのまま声を殺して泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっかし、よく泣いたなこのガキ」

ヨルは、感心したようにマープルを見ていた。

マープルは、泣き疲れしたようで今は、静かに寝息を立てている。

ホームズは、起こさないようにそおっとマープルを背負う。

「まあ、たまには感情を外に出さないとね」

そう言ってホームズは、孤児院に向かって歩き出した。

ヨルはホームズの頭の上でバランスをとっていた。

「そう言えばお前も泣くだけ泣いて寝てたよな」

ヨルの心底面白そうな物言いにホームズは、顔をしかめる。

いつの事を言っているのかよく分かる。

「覚えてくれて嬉しいよ」

ホームズは、ゆっくりと歩みを進めていく。

月光が夜道を照らし歩くのに不自由はない。

ホームズは、マープルを背負いながらその道を進んでいた。

辺りには、月光で照らされた青い花が夜の闇の中に浮かび上がる。

その幻想的な光景にホームズは、ほぉっとため息を吐く。

「どうした?」

「いや、別に。きれいだぁなと思ってさ」

「お前でも風景に感動することがあるんだな」

「どういう意味だい?」

「そう言う意味だ」

そんな会話をホームズとヨルがしているとマープルは、ゆっくりと瞼を開けた。

「ん…………」

中々覚醒しない頭でぼんやりと辺りを見回す。

「!!?」

そして、普段より高い視点に驚いて体を急に動かした。

ホームズも驚いたようだ。

少しだけ歩みを止める。

「あぁもう!突然動くんじゃあない!危ないだろう!?」

ようやくマープルは、自分がホームズに背負われているんだと理解できた。

「どういうつもりですの?」

不機嫌な様子を隠そうともせずに尋ねるマープルにホームズは、ため息を吐く。

「孤児院に向かってるの。君、このまま、夜通し広場にいるつもりだったのかい?」

「君じゃありませんわ。マープルです」

「落とすよ」

「レディの扱いを知らないようですわね」

「……………レディを自称するならもう少し礼儀というものを知りたまえ」

月明かりに照らされるホームズの背中を見ながらマープルは、少しだけ口を開いた。

「……………私が泣いていると思って来たのですか?」

「そうだ」

ホームズがどう答えようかどうしようか考えている間にヨルが代わりに答えた。

ホームズは、背中にいるマープルの方を見る。

涙で赤くなったマープルの目とあったホームズは、観念したようにため息を吐く。

「まあ、なんとなくね。君、家族とか兄弟とか見ると少しだけ動きが止まってるんだよ」

ホームズは、それ以上言葉を続けない。

「だから、どこかで寂しいと泣いているんじゃないかと、そう思ったわけですのね?」

「いや、広場だろうってことぐらいは当たりが付いていたよ」

マープルは、一瞬何故だか分からなかったようだが、直ぐにわかったようで舌打ちをする。

「ユーフォの弟ですわね」

「彼、夜中に広場から聞こえてくるすすり泣きを大層怖がっていたよ」

ホームズの言葉にマープルは、観念したように口を開く。

「えぇ。あなたの予想どおり私はいつも夜はここで泣いています。そして、それから孤児院に戻っています」

ホームズは、黙ってマープルの方を見ている。

マープルは、そのまま言葉を絞り出すように続ける。

「……………だって、しかたないじゃないですの………皆さんにはお父さんもいてお母さんもいて、家族がいる………でも私にはいない………」

寂しそうに紡がれる言葉をホームズは、背中で黙って聞いていた。

「さびしいですよ………悲しいですよ………でも、孤児院というところはそう言う子たちが集まったところです………だから……だから……」

マープルは、ぎゅっとホームズの肩を掴む。

「私だけそこで、悲しい寂しい羨ましいと泣くわけにはいかないのです………」

 

 

 

 

 

 

─────「自分の置かれた状況がわかるくらいは、賢い子だよ、あの子は」─────

 

 

 

 

 

 

 

 

ホームズの脳裏にルイーズの言葉が蘇る。

(なるほど、確かに賢い子だ)

だからこそ、賢いからこそこの子はこんなところで泣く羽目になっているのだ。

自分の立場を理解する頭脳。

そして、年相応の心。

そのズレがこんな夜遅くに一人で泣くという状態になっているのだ。

昼間あんなにハツラツしていた彼女は、今は見る影もない。

「そっか………」

ホームズは、そう言うと少しずつ歩みを進めていく。

会話の途切れてしまったマープルは、不思議そうに首を傾げる。

「驚いた。慰めの言葉もないのですね」

その口調は、不満というよりも驚いていると言うものだった。

ホームズは、マープルの言葉を聞くと申し訳なさそうに笑う。

「悪いね。僕、そういうの苦手なんだよ」

ホームズは、そう言いながら、歩みを止めることなく進めていく。

「まあ、僕に出来ることなんて、せいぜいハンカチを用意してあげるぐらいさ。それ以上は、無理かな」

「充分ですわ」

「へ?」

予想外の返事にホームズは、思わず振り向く。

そこにはとても嬉しそうなマープルがいた。

目元には薄っすらと涙が浮かんでいる。

「それ以上なんてありませんわ」

「…………いや、泣きながらいわれても……」

顔は花が咲いたような笑顔だというのに目元には、涙が浮かんでいる。

そんな表情にホームズは、戸惑っている。

そんなホームズを無視してマープルの瞳からは次から次へと涙が零れ落ちた。

慰めの言葉が欲しかったわけではない。

励ましの言葉が欲しかったわけではない。

ただ、弱音を聞いて欲しかったのだ。

苦しくて、寂しくて、悲しい、そんな弱音を誰かに聞いて欲しかった。

だが、隠れて泣いているマープルには、そんな事はありえない。

しかし、ホームズはマープルを見つけた。

そして望みを叶えた。

こんなに嬉しい事はない。

「…………嬉し泣きという奴ですわ」

「…………何で?」

そんなマープルの心情など知る由もないホームズは、戸惑うばかりだ。

ヨルはホームズの頭の上で呆れている。

マープルは、くすりと笑うとホームズの耳元で小さく囁く。

「内緒ですわ。女は、秘密があった方が美しいですからね」

「あぁはいはい。そうだね」

「腹の立つ言い方ですわね」

「そう言うのはね、あと十年歳をとってから言うんだね」

ホームズは、呆れたようにそう返すとマープルを地面に下ろす。

「ついたよ。後は布団でゆっくりおやすみ」

マープルは、静かに頷くのを見届けるとホームズは、マープルに手を振ってその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「なんとなくだが……」

「ん?」

ホームズは、宿屋に向かって帰っている途中、肩にいるヨルに話しかけられた。

「お前のモテない理由がわかった気がした」

「蹴り飛ばすよ」

思春期真っ只中のホームズにとってこれほど腹の立つ言葉はない。

そんなホームズに構わずヨルはケタケタと面白そうに笑っている。

「ったく、このクソ猫」

ホームズは、忌々しそうに吐き棄てると宿屋の扉に手をかけた。

 

 

 

 

「おっ、帰ってきたね」

 

 

 

 

ルイーズは、食堂でお茶を飲みながらひらひらと手を振ってホームズを出迎えた。

「ただいま」

ホームズは、疲れたようにそう返すとルイーズにならうように食堂のテーブルに腰掛ける。

しばらく待っているとホームズの前にマーボーカレーが出てきた。

ホームズは、マーボーカレーにスプーンをつけて始める。

「どうだった?夜の散歩は?」

「………その聞き方、答えわかってるだろう?」

「当然。私は君のお母さんだからね」

「はぁ………」

ホームズは、ため息と共にカレーを救う。

「君だって予想できてたくせに」

ルイーズの言葉にホームズは、マーボーカレーを食べる手をピタリと止める。

「あんなにうんざりしてたくせに探しに行くんだもの。君も相当お人好しだよねぇ」

「………母さんの息子だからね」

ホームズは、そう言うとぺろりとマーボーカレーを平らげた。

「残念ながら」

「一言多いよ」

ルイーズの半眼にホームズは、答えず手をひらひらと振ってそのまま寝室へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。

 

 

 

 

 

「んー…………」

ホームズは、眠そうに瞼を擦りながら降りてきた。

「おはよう、ホームズ」

「おはよう〜」

ルイーズの挨拶にホームズはあくび交じりそう返すと、席に着く。

「おはようですわ」

「ん、おはよう」

ホームズは、そう返事をしながらパンにバターを塗る。

そして、ピタリと途中で手を止める。

「ん?」

ホームズは、寝ぼけた頭で、今の流れを思い出す。

徐々に覚醒していく頭、そして、隣の席に見覚えのある少しずれたポニーテール。

「はぁ!?」

「朝からげんきですわね………」

呆れたようにマープルは、ため息を吐いた。

「なんでいるの!?」

「ホームズに会いに来たのですわ」

「わぁ………君以外から聞きたかったセリフだなぁ……」

ホームズは、ため息を吐きながらトーストを齧る。

「どういう意味ですの?」

「そのまんまの意味だよ」

マープルの怒りに満ちた目を無視してホームズは、お茶を飲む。

「で、何の用だい?」

ホームズの言葉にマープルは、居住まいを正して真剣な顔でホームズを見る。

「私ときょうだい(・・・・・)になってくださいませんか?」

ホームズは、一瞬でフリーズした。

「えぇーっと………」

突然の申し込みにホームズの頭がついていかない。

困惑しているホームズを他所に目の前のルイーズとヨルはとても面白そうにニヤニヤと笑っている。

ホームズは、直ぐに断ろうとしたが昨日の夜の出来事を思い出す。

そうあの時、マープルは家族がいない事を寂しがっていた。

それを思い出すと無下に断ることもできない。

そんな風に迷っているホームズをマープルは、覗き込むように見つめている。

「…………………わかった。いいよ」

その言葉を聞くとマープルはとても嬉しそうな笑顔を浮かべる。

因みに言うとルイーズとヨルは笑いを堪えるのに必死だった。

「良かったですわ。だったらこれからは…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の事をお姉ちゃんと呼んでくださいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホームズは、思わず紅茶を吹き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ!?なんで?」

「それより私に言うことがあるだろう………」

ホームズの吹き出した紅茶は全てルイーズに降りかかった。

「あら、お姉ちゃんは嫌ですの?だったら、お姉さん、姉さん、などでもいいですわよ」

「そうじゃないよ!いやだよ!呼ばないよ!」

「あら?あなたは了承したじゃありませんか」

目を白黒させているホームズを他所にマープルは、自分の紅茶を飲む。

「いや確かに言ったけど。ぎゃくだろう、普通!僕の事をお兄ちゃんとかって呼ぶもんだろう?」

ホームズの言葉にマープルは、信じられないものを見たかのようにホームズから距離を置く。

「出会ったばかりの年下の女の子に自分の事をお兄ちゃんなんて呼ばせるなんて………あなたは、変態ですか?」

「出会ったばかりの年上の男に自分の事をお姉ちゃん呼ばわりさせる変態に言われたくない!!」

ホームズのもっともな言い分を無視してマープルは、すくっと立ち上がって自分の胸に手を置く。

「孤児院のみなさんは私より年上なのです。

ですから、お姉ちゃんもお兄ちゃんも有り余っているのです」

「だから?」

「弟か妹が欲しかったのですわ」

「それで?」

「あなたなら私の弟と言ってもなんの違和感もありませんわ」

「君、頭のネジとんでじゃないの!?」

仮にも年上のホームズは、裏返る声で朝一番の突っ込みを入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ルイーズは、こめかみに手を当てため息を着く。

ヨルはもさもさと口を動かしながらルイーズの方を見る。

「お前、こうなることわかってたのか?」

「いや………ちょっと、予想外だったかなぁ…………」

そんなルイーズが目を向けた先には、未だにもめているホームズとマープルがいた。

「なしなし!さっきのなし!君ときょうだいなんて絶対ヤダ!」

「あら?男のくせに二言ですの?」

マープルは、ハッと鼻で笑う。

「そんなじゃ、モテないですわよ」

「年下の女の子を『お姉ちゃん』呼ぶよりは、モテると思うけどね」

ホームズも負けじと言い返す。

するとマープルは、意地の悪い笑みを浮かべる。

ホームズは、その何かを企んだ笑みに思わずたじろぐ。

「な、なんだい?」

「ホームズに拒否権なんてないですわよ」

そう言ってマープルは、ヨルを指差す。

その意図を悟ったホームズの額から汗が流れ落ちる。

そうマープルは、知っているのだ。

ヨルが喋ることを。

そんなものを言いふらすなんてことは、ホームズとしては絶対ゴメンだ。

何せ説明するのが面倒臭い。

「さあ!さあ!さあ!かもん!」

無駄にテンションの高いマープルと目が死んでいくホームズ。

ホームズは、無言で固まるとその後、顔を屈辱で歪めながらマープルの方を向く。

 

 

 

 

 

 

 

「…………………マープル……………姉さん」

 

 

 

 

 

 

今にも泣きそうなホームズとは対照的に、マープルは満面の笑みで満足気に頷いていた。

「よし!これで私たちは姉弟ですわ!てなわけで、ホームズ!早速遊びに行きますわよ」

「いや、僕仕事が………」

「いいよ、行っておいで。こっちは、私に任せて君はお姉ちゃん(・・・・・)と遊んでおいで」

「蹴っ飛ばすよ」

「いいから行きますわよ」

ニヤニヤと笑うルイーズに詰め寄ろうとするとマープルは、ホームズの腕を引いて出て宿屋を出て行った。

ルイーズは、それを見送るとふぅとため息を一つ。

 

 

 

 

 

「いやぁ、ほんと強烈な子」

 

 

 

 

 

 

 

 







変な子です(笑)

変な子ランキング僅差の2位です。
一位は、もちろんルイーズです。
当初はもっとまともなキャラの予定だったのですが、カン・バルクでエリーゼとの会話の頃には、こんなことになってました…………
変な子、書いてて楽しいです。






最後にホームズ……
残念だったね!!お前はどう転んでもお兄ちゃんなんて呼ばれねーよ!!
なんせ、お兄ちゃんなんてキャラじゃないですからね(笑)



ではまた、百五十六話で( ´ ▽ ` )ノ




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