1人と1匹   作:takoyaki

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百五十七話です。



新年明けましておめでとうございます。



この小説を書いて二回目の新年です。


月日が流れるのは早いな………
企画は、ちょっと難しそうです。
楽しみにしてた方がいましたら申し訳ありません!!
てなわけでどうぞ


其の伍

「入って良いよ」

ようやく許可が下りたホームズとヨルは、扉を開けて入るとそこには、ルイーズに渡されたワンピースに身を包んでいるマープルがいた。

髪は乾かしたようで、いつもの少しずれたポニーテールが揺れている。

普段は、ズボンのマープルにとってワンピースというのは何だか妙な気分のようだ。

先ほどからスカートの裾をびらびらと触っている。

ホームズは、そんな仕草に心底呆れたような目を向ける。

「君って気品の欠片もないよね」

「レディの着替えの最中だというのに出ようともしなかったあなたには、言われたくないですわ。それと、君ではありません。姉さんですわ」

「今の姉さんを見て、レディなんて思う奴いないよ」

そう言ってスカートをびらびらと動かしているマープルに指を向ける。

「それ、間違ってもミニでやるんじゃあないよ」

ホームズの発言の意味を一瞬考え、そして自分の行動を冷静にみたマープルは、スカートの裾から手を離した。

「忠告感謝しますわ。まあ、デリカシーは、ありませんでしたけど」

「どういたしまして」

二人は半眼でそう会話をしていた。

「というか、服の感想は?」

ルイーズの言葉にホームズは、キョトンとした顔をする。

「いいんじゃない?」

頭に『どうでも』が付きそうな言い方にルイーズは、頬を引きつらせる。

マープルもそれを感じ取ったようだ。

額に青筋をピキリと立てる。

ホームズは、それに構わずマープルを見る。

「というか、会った時から気になっていたんだけど、君のポニーテール、どうしてズレているんだい?」

マープルは、顔を赤くしてズレてポニーテールを触る。

「仕方ないでしょう?私は後ろの髪を上手に結ぶだなんてそんな器用なこと出来ませんもの!それと、君ではなく姉さんです」

「…………ふーん」

ホームズは、そう言うと顎に手を当てて考え込む。

そして、思いついたように椅子を持ってくる。

「姉さん。とりあえず座りたまえ」

「?」

マープルは、荒れた息遣いを整え椅子に座る。

「母さん、僕のカバンに櫛があるからとって」

「ほれ」

ルイーズは、ホームズに櫛を放り投げる。

渡された櫛はとても綺麗で、新品のようだった。

ホームズは、それをキャッチすると、まずマープルのズレたポニーテールを解いた。

「何をしますの!?」

「あぁもう!動くじゃあないよ」

ホームズは、そう言ってマープルの視線を前に向けると髪を櫛で梳かし始めた。

しかし、

「………君、すげえ櫛が引っかかるんだけど、普段髪ちゃんと梳かしてるかい?」

「いいえ。私はそんな事しなくても美しいですもの。それと、君ではありません。姉さんです」

マープルは、胸を張って自信満々にそう返す。

ホームズは、ため息をつく。

「美しさってのはね、誇るものじゃなくて磨くものだよ」

ホームズの言葉に思わずマープルは、口をつぐんだ。

「弟のくせに生意気ですわ」

不満そうに口を尖らせながらそう言った。

「姉さんより歳上だからね」

ホームズは、そう返すと、髪を何とか梳かしていく。

ある程度梳かすとホームズは、マーブルの髪を一つにまとめていく。

そして、最後は綺麗なポニーテールに結び上げた。

「うし!出来た」

マープルは、驚いたように目の前の鏡に映る自分のポニーテールを見る。

「……文句を何か言ってやろうと思っていたのに、そんな隙全くありませんわ」

「…………」

ホームズの額にピキリと青筋が浮かぶ。

「褒める時ぐらい素直に褒めたらどうだい?」

「お前が言えたことじゃないな」

ヨルはホームズの頭の上で尻尾を横に振る。

ルイーズもうんうんと頷いている。

「昔は素直でいい子だったのになぁ……」

「記憶は捏造しないほうがいいぞ」

「君たち後で覚えていたまえ」

ホームズがヨルとルイーズにいじられている間にマープルは、立ち上がって鏡に全身を移す。

そして、ポニーテールを軽く触る。

「にしても、どうしてあなたはそんなに女性の髪を触るのに慣れていますの?」

ホームズは、肩をすくめる。

「昔、母さんの髪で散々遊んだからね」

ルイーズは、うんうんと頷きため息を吐く。

「あぁ、あの頃は本当に可愛かったのにぁ…………」

妙に芝居かかった口調でそう言うルイーズを無視して、マープルを見る。

「さて。というわけだ。これからはちゃんと鏡で見ながらやってご覧。それと、髪の毛は毎日ちゃんと梳かしたまえ」

マープルは、ホームズにアドバイスされたのが微妙に気にくわないようだったが、頷いて立ち上がった。

「あぁ、そうですわ」

「何だい?」

ホームズは、椅子を片付けながら返事をする。

「さっきの話の続きですけれど、マナの欠片というのが、この村にはありますわ」

ルイーズは、ピタリと動きを止める。

ホームズは、ポンと手を叩く。

「そう言えば昨日神父がそんな事言ってたね」

ホームズの発言にコクリとうなずく。

「それはこの村でしか手に入りませんし、売るとしたらこれ以上のものはないと思いますわ」

マープルの言葉を聞いてルイーズは、考え込む。

「なるほどねぇ………マープルちゃん、その神父さんの所まで案内してくれないかい?」

「いいですわ」

「よし!決まりだねぇ。ホームズ、君も来たまえ」

我関せずといった感じで自分の頭をゴシゴシと拭いてホームズは、突然の事に思わず間抜けな声が出た。

「へ?」

「言っておくけれど、断る権利なんて君にないよ」

「………僕、なんかした?」

「この情報を黙っていた」

ルイーズの言葉にホームズは、はぁとため息を吐く。

「わかった。行けばいいんでしょ」

ため息混じり立ち上がったホームズの肩にヨルがちょこんと飛び乗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、これはこれは。わざわざ来ていただき有難うございます」

ティーア神父は、突然来たホームズ達を快く迎えてくれた。

「ティーアさん。こちら、ルイーズさん。マナの欠片の件でお話があるようですわ」

マープルの紹介にルイーズは、お辞儀をしてにっこりと微笑む。

「どうも。ルイーズ・ヴォルマーノです。早速商談なのですが、どこですればよろしいでしょうか?」

「本当に早速ですね………分かりました。私の部屋で話しましょう」

ティーアが、自分の部屋の扉を手で示す。

ルイーズとホームズは、それの後に続く為に立ち上がる。

立ち上がったルイーズは、ホームズを手で制する。

「商談は、私がやるよ。君はその辺で待っていたまえ」

「…………何しにここに連れて来たの」

「嫌がらせ」

ルイーズは、困惑しているホームズに即答するとそのままティーアの部屋へと入っていった。

ホームズは、ポカンと消えていったルイーズを見つめていた。

「あのやろう…………」

ホームズは、ため息を吐いて椅子にどっかりと腰掛ける。

そんなホームズを眺めながらマープルは、頬を引きつらせる。

「何というか、色々ぶっ飛んでる方ですわね」

「………お前も思ったか……」

出会った瞬間に腹パンされたヨルは、うんうんとマープルの言葉に頷く。

ホームズは、そんな彼らの会話を聞き流しながら目の前の神と呼ばれた石像を眺める。

そんなホームズの視線に気付いたマープルは、不思議そうに首をかしげる。

「神様の石像がそんなに珍しいですの?」

「まあね。精霊信仰ってのは、よく聞くけど、神様ってのは、なかなか馴染みがないからねぇ」

ホームズの言葉を聞きながら、マープルは、ホームズの隣に腰掛ける。

「ホームズは、神様に祈ったりとか信じたりとかしてますの?」

マープルの質問にホームズは、顎に手を当てて考える。

「別に普通かな。やな事があったら恨むし、ギャンブルの時は祈る程度かな?」

「俺はそんな事考えた事もなかったな」

ヨルは、ホームズの頭の上で尻尾を振りながら答える。

ホームズは、マープルの方を見る。

「そういう君はどうなんだい?」

マープルは、指を顎に当てどう言葉を選ぼうか考える。

「そうですわね……結論から言うと私は信じていませんわ。それと、君ではありません。姉さんですわ」

どう言おうか迷っていたにしては、はっきりと言い切ったマープル。

そんなマープルにホームズとヨルは少し驚いた。

「それは、お前の両親と生き別れたのが原因か?」

ヨルの言葉にマープルは、首を振る。

「いえ。私を売りに出したのは人買いですわ。神様がそれをやったわけではありませんもの」

マープルは、ゆっくりと言葉を選んでいく。

自分の思いを口にするというのはこんなに難しい事なのかと、マープルは、思いながら。

そんなマープルを急かす事なくホームズは、黙って話を聞いている。

「何かの悪い出来事を神様のせいにするのは、簡単ですわ。けれどもそれでは、何かいい事が起こった場合も神様のせいになってしまいますわ」

マープルは、足をぶらつかせながら更に言葉を続ける。

「例えば、足の遅い子がいたとします。その子は、足が速くなりたいと思い、毎日走り込みをします。そして、遂にその子は誰よりも速くなりました」

ぶらつかせていた足を椅子の上に乗せるてホームズを見る。

「さて、ここで質問ですわ。

この子の足が速くなったのは神様のおかげでしょうか?

この子の努力を神様が認めてくれたからでしょうか?

それとも神様が見えない力を使ってくれたのでしょうか?」

じっとホームズを見つめる鳶色の瞳。

「勿論違いますわ。

そう、神様のおかげなんて言ってしまえば、自分達の成果と言うものが残りませんわ」

マープルは、ホームズから離れて天井を見上げる。

「幸せな事も不幸な事も

辛い事も楽しい事も

報われた事も報われなかった事も

全部全部私たち、人間が原因です。

でなくては、生きている意味がありませんもの」

辛い思いをしたというのに、それを神様のせいにしない。

そんな事を自分よりも歳下の子が考えていた。

ホームズは、マープルの話を聞いて優しく微笑んだ。

マープルは、コホンと照れたように咳払いをする。

「……少し話しすぎましたわね」

「いやいや。中々考えさせられる話だったよ」

「君もそれぐらい考えたほうがいいと思うよ」

いつの間にやら音もなくルイーズがホームズとマープルの後ろの席で足を組んで座っていた。

「母さん!」

「やっほー」

ルイーズは、ひらひらと手を振りながら立ち上がる。

「商談は?」

「まあ、交渉中ってところかな」

ルイーズは、そう言ってマープルの頭に手を乗せる。

「にしても、君は大したもんだよ」

言いながらホームズに意味深な視線を送る。

「はいはい、僕とはちがうよ」

「もしかして、拗ねてるんですの?」

「違う違う」

ホームズは、そう言うと立ち上がる。

「褒めてるんだよ」

ひらひらと手を振りながらホームズとルイーズは、扉へと向かっていく。

ルイーズは、扉の前で振り返るとマープルの方を向く。

「じゃあね、今日はもう遅いしマープルちゃんも早めに寝なよ」

ホームズは、ひらひらと振っていた手を止めくるりと振り返る。

「あ、そうだ。姉さん」

「姉さんではありません。姉さんと………あら?」

今でと何か違う、そんな違和感にマープルは、不思議そうに首を傾げている。

ホームズは、マープルに構わず言葉を続ける。

「お風呂に入ったら、ちゃんと髪を梳かしておくんだよ」

ホームズ達は、教会から出ていった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

宿屋に戻り夕食を摘みながら話を続ける。

「なかなか、変わった子だね」

「そうだねぇ」

ホームズは、肩をすくめる。

「どうだい、きょうだいができた気分は?」

「…………さてね」

ホームズの言葉にルイーズは、ニヤリと笑みを深める。

「そう言うところ、本当に父親そっくりだ」

「どちらかと言うとお前に似てると思うがな」

その言葉にルイーズもピタリと動きが止まる。

ホームズは、そんなルイーズを見てお返しとばかりにニヤリと笑う。

「だってさ」

「へいへい」

ルイーズは、珍しく不機嫌そうに口を尖らせる。

ホームズは、それに満足すると自分の部屋へと向かう。

「いや〜母さんに一泡も吹かせられたし、言うことなしだね」

ヨルはホームズの肩に乗り尻尾を振っている。

「俺の手柄だという事を忘れるなよ」

「わかった。忘れない限り覚えてるよ」

「おい」

ヨルはその返事に不満気だったが、ホームズは、無視して、ニコニコとしながら部屋の扉を開け、自分のベッドに寝転ぶ。

 

 

 

 

 

 

「遅かったですわね」

 

 

 

 

 

 

そんなホームズをルイーズが、上から覗き込んだ。

「うぉおあ!!」

ホームズは、驚きのあまり跳ね起きた。

マープルは、頭をぶつけられないように、直ぐに一歩引いた。

「え!?なんで姉さん、ここにいるんだい?どうやって入ったんだい?!いま何時だと思ってるんだい?何しに来たんだい?!」

「質問が多いですわ」

マープルは、うんざりしたようにため息をつく。

「じゃあ絞るよ。どうやってここに来たんだ…………」

階段を上るには、ホームズたちが食事をした宿の食堂の前を通らなくてはならない。

だが、ホームズとルイーズは、マープルの姿を見ていない。

そうなると理論的には、侵入口なんて一つしか考えられない。

そして、目の前には開かれた窓。

そのキィキィとなっている窓が自分が証拠だよと語っていた。

「いや、方法はいいや」

ホームズは、額を押さえながら、椅子を勧める。

マープルは、それに従ってちょこんと腰掛けた。

「何しに来たんたんだい?」

ホームズの質問にマープルは、待ってましたとばかりに櫛を見せる。

「髪を梳かしてくださいませ」

ホームズは、マープルの言葉に固まった後、ふっと笑うとマープルの頭に手を乗せ、思い切り掴んだ。

「いだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだ」

撫でることなく思い切り。

「何してんの」

「いいでしょう!減るもんでもないですし!レディの髪を梳かすぐらい!!」

「僕の睡眠時間が減るんだけど!」

マープルは、ホームズの手を振り払う。

「いいから!レディがわざわざあなたにお願いしてるんですから!二つ返事でやってくださいませ!」

「二つ返事で断ってあげるよ」

「断ったらどうなるかわかっているだろうね」

その声に振り返るとルイーズがドアにもたれかかってニヤニヤと笑っていた。

「私の(言葉)食らいたい(聞きたい)なら止めないよ。ただ、少女誘拐の犯罪者の道を歩みたいというのなら止めないといけない気もするけど、まあ、私には関係ないことだね」

「母さん、もしかしてさっきのこと根に持ってるかい?」

「………さてね」

ルイーズは、ニコニコ笑いながら自分の寝室へと帰って行った。

マープルは、椅子に座ってホームズが櫛を梳かすよう目で訴えかけていた。

ホームズは、諦めたようにため息をつくとマープルの髪を櫛で梳かし始めた。

「全く、こんな夜遅くに出歩くなんて危ないだろう?それに、風呂上がりは、風邪をひきやすいんだよ………」

ホームズは、そんなことを言いながらマープルの髪を丁寧に櫛で梳かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………賑やかになったもんだな」

騒動が起こる前にちゃっかりと逃げていたヨルは部屋の外からホームズたちを見ていた。

「やれやれ。あの子も分かってないね」

隣には部屋に戻ったフリをしたルイーズがいた。

ルイーズは、面白そうにホームズたちを見ている。

「何がだ?」

「女の子が、美容師でも家族でもない男に髪の毛を触らさるなんてことそうそうしないんだよ」

そう言って視線をホームズ達に移す。

「髪ってのは女の子の命だからねぇ」

「ま、弟相手に気取ることとないんだろ」

ヨルの言葉に目を丸くした後ルイーズは、クスクスと面白そうに笑った。

「ふふふ、なるほど、そうだったね」

ルイーズは、ヨルの頭をひと撫ですると自分の部屋へと帰って行った。

「それじゃあお休み」

「あぁ。また明日」

ヨルは、ホームズの元へと歩いて行った。

ホームズは髪を梳かし終えるとそのまま眠そうにしているマープルを背負って教会まで歩いて行った。




皆さんは大晦日どう過ごしましたか?
私は紅白を見てました。
ポケモンの曲とかもカバーしていてテンションあがりましたね!!




ではまた百五十八で( ´ ▽ ` )ノ

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