1人と1匹   作:takoyaki

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百五十八話です



皆さま、新年いかがお過ごしでしょうか?


今年の餅は美味いなぁと思いながら食べております。


それはさて置き、今回も変な子絶好調です!!というよりフルスロットルです!


てなわけで、どうぞ



其の陸

「おはよ〜」

「おはようございますですわ」

「………………」

朝ホームズが、食堂に降りるとそこには、当たり前のように座っているマープルがいた。

今日は珍しくいつものポニーテールではなく、完全に髪を下ろした状態で現れた。

寝癖は直っているところを見ると若干の成長を感じる。

「毎度毎度、早いね」

「えぇ。今日は昨日、うやむやになってしまった釣り勝負の続きと行きますわよ」

「姉さんがうやむやにしたんだろう………」

ホームズは、呆れながらトーストをかじる。

ヨルは離れたところでもさもさとルイーズの用意した飯を食べている。

ホームズは、朝飯を早々に食べ終えると席を立つ。

「さて、用意してくるから、姉さんはその辺で待っていたまえ」

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「よし……」

ホームズは、いつものポンチョを羽織ると、寝室の扉を開ける。

すると、そこには櫛と髪留めの紐を持って満面の笑みを浮かべているマープルがいた。

「よろしくお願いしますわ」

「…………何をだい?」

「髪を結ぶのをですわ!」

ホームズは、はぁとため息を一つ吐くとマープルを鏡面の前に座らせた。

抵抗は、無駄だということをホームズは、昨夜嫌という程味わっている。

「まったく………」

「いいではありませんか」

ホームズは、一度櫛で髪を軽く梳かしそれから髪をまとめていく。

呑気に鼻歌を歌っているマープルにホームズは、ため息が止まらない。

そして、いつものポニーテールにしようと思い少し手を止める。

「そう言えば、他の髪型ってしたことあるのかい?」

「?他の髪型ですか?」

どうやらマープルは、知らないようだった。

「ふむ………三つ編みとか出来るけど、どうだい?」

「いいですわよ。あなたにお任せしますわ」

「よしきた」

どうやら、髪型が決まったようだ。

ホームズは、黙々と髪を編んでいく。

「赤毛で三つ編みってなると、何だかお話の主人公みたいですわね」

「あぁ、あのくどい独り言をする女の子ね」

「………あなた気をつけないと色んな人を敵に回しますわよ」

「そうだね。目の前から湧き上がる殺意にどう対処しようか考え中だよ」

ホームズは、マープルにそんな軽口を叩きながら三つ編みを一つ作る。

「アレですね。きっとあなたはモテませんわね」

ホームズの動きがぴしりと止まる。

先ほどまで軽快に結っていたのが嘘のように固まっている。

「喧嘩売ってるのかい?」

「あぁ、その反応……確定ですわね」

「その通りだ」

「ヨル、余計な事を言うんじゃあないよ」

三つ編みを再開したホームズの反論にヨルは、ホームズの反論を鼻で笑う。

「基本フラれる事はあってもフルことはない」

マープルは、大仰にため息を吐く。

「全く、姉として嘆かわしいですわ。弟が女の子から、近づくだけで泣かれる存在なっているとは………」

「ちょっとちょっと。そんな事はないよ。どこで捏造したの」

「あぁ、全くだ。そんな事はない。近づくだけで女共に嘲笑さ(微笑みかけら)れていたぞ」

「余計な事言わないでって言ったよね?」

「あぁ、嘆かわしい!思わず同情してしまいますわ!」

「……………満面の笑みで同情されてもねぇ……」

鏡を見れば一発で分かるその表情にホームズは、ため息を吐く。

「というか、姉さんは、どうなの?」

マープルは、待ってましたとばかりに胸を張る。

「何度も渡されましたわ!ラブレター!」

「マジで?頭大丈夫?両方」

「どういう意味ですの?」

カチンときたマープルは、鏡に映るホームズを睨みつける。

「えぇ。あなたと違って私はモテますのよ」

「あぁそう」

ホームズは、そう言って少し間を空けて、マープルに再度問う。

「因みに、そのラブレター、誰宛だったんだい?」

ホームズの言葉に一瞬、本当に一瞬マープルが固まる。

しかし、残念ながらホームズは、それを逃さない。

「………つまりあれだろう?友達にこれ渡しといて、と男子にラブレターを渡されていたのだろう」

マープルは、さっと視線を逸らす。

ホームズは、さっきのお返しとばかりに言葉を続ける。

「やれやれ嘆かわしい!あぁ嘆かわしい!自分の姉がそんな情けない見栄を張るなんて!情けないにも程があるよ」

大げさにさながら演技のようにいうホームズにマープルのイライラは増していく。

「あなたおいくつでしたっけ?まさか、今までずっとフラれ続けですの?」

「姉さんこそ、ラブレター大量に貰ってるようだけれど、姉さん宛のもは、一つでもあったかい?」

「あなたには、関係ないことですわ!せいぜい自分をフった女たちに怨嗟の言葉でも吐いているがいいですわ!」

「姉さんこそ!せいぜいラブレター貰うたびに今度こそ自分宛だって期待にない胸を膨らませてればいいさ!」

「目くそと鼻くそで罵り合うな。馬鹿馬鹿しい」

醜い言い争いにヨルが一言落とす。

その言葉を聞いた二人は、ピタリと動きを止めるとズーンと顔に暗い影を作って黙り込んだ。

「やめようか」

「……そうですわね……いつか、私の下にも白馬に乗った王子様が来てくださいますわ」

「僕は空から降ってくる女の子かな……と」

情けないセリフを吐きながらホームズは、三つ編みを完成させていく。

「出来た。さて、行くかい?」

「ええ」

 

 

 

 

 

情けない姉弟は、はぁとため息を吐きながら、昨日の池へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「………釣れませんね」

「……まあ、こればっかりはねえ……」

釣りを始めて早、一時間。

二人の竿はピクリとも動かなかった。

竿の先には、先ほどからトンボが止まっている。

「話戻しますけど、モテるにはどうすればいいんでしょうね?」

「誰も得をしない話をどうしてわざわざぶり返すんだい?」

「だってモテたいじゃないですの。私だって日の暮れる教室に呼び出されて告白されたいですわ」

「…………」

「沈みゆく夕日!夕焼けに同調するように茜色に染まる教室!そして、真っ赤な顔した二人!憧れるじゃありませんか!」

「姉さんって、結構頭の中乙女だね」

「お花畑の方が合ってるんじゃないか?」

ジトとした目を向けるホームズとヨル。

ノリの悪い彼らにマープルは、不満気に口を尖らせる。

「むぅ……では、あなたは何か理想のシチェーションとやらはありますの?」

「そうだねぇ………」

ホームズは、少し考える。

「ずっとフラれ続けだから、今度は告白されればなんだっていいかな」

「モテない男の代表のようなセリフですわね」

「うるさいなぁ……だったら、告白してみればいいだろう?そして、フラれ続けるがいい」

「なんてこと言うんですの………」

そんな事を話しているとようやく、マープルの竿が動いて一匹釣り上げた。

ホームズは、それを視線の端で捉えると、再び竿に視線を戻した。

「因みに男子の視線から見て、どんな子が好かれるんですの?」

ホームズは、その質問にふむと考え込む。

「アレじゃない?こう……ぶりっ子じゃない可愛い子とか好きだと思うよ」

「そんな子滅多にいませんわよ」

「スゲェ、男の夢をたったの一秒で終わらせやがった」

「可愛いなと思う子は、大抵ぶりっ子です。そして、男子は、それに気づいていないだけですわ」

「まさかの追い討ち」

「稀に素で可愛い子というのはいますけれど、そういう子は大抵、その子と並ぶスペックの持ち主と付き合っていますわ」

「ねぇ、なんで、そのセリフと共に僕の事をそんな哀れんだ目で見るんだい?」

マープルは、目を伏せながら返す。

「そんな残酷な事言いませんわ。真実というものは、オブラートに包まなければなりませんもの」

「ヘルニア並みにダダ漏れなんだけど」

ホームズがため息を吐くと同時にホームズの竿が動く。

「お、釣れた」

「私も釣れましたわ」

釣れた魚を見比べるとホームズの方が僅かに大きい。

「むう……次こそ!」

マープルは、そう言うとミミズを針に通す。

ホームズは、少し考えた後蛙を針に通す。

「まあ、アレだろう」

ホームズは、マープルに遅れて蛙を池に投げ入れる。

「姉さんは、まず、身だしなみに気を使うところから始めるべきだろうね」

その言葉を聞いたマープルは、ホームズに編んでもらった三つ編みを触る。

「………参考程度に聞いておきますわ。あなたは、そうですわね………」

マープルは、考え込む。

その間にホームズの竿が動く。

「お、きた!!」

ホームズは、力を込めて釣り上げる。

その魚は先ほどより遥かに大きかった。

自慢気に魚を見せるが、マープルは考え込んでいて目の前でピチピチと動く魚に反応を示さない。

ホームズは、そんなマープルにため息を吐くと釣った魚を自分のバケツに放り込む。

「今回も僕の勝ちだねぇ」

ホームズは、やれやれといった風に言う。

「それですわ!!」

ホームズの勝利宣言にマープルは、ビシと指をさす。

「どれですか?」

戸惑うホームズにマープルは、ずぃっと、ホームズに近づく。

「いいですか?十四歳にもなって自分の事を『僕』なんて言うから、ダメなんですわ!」

ぐいぐいと来るマープルにホームズは、たじろぐ。

「ホームズも男の子なんですから、自分の事は『俺』と言わなければ!!」

ホームズは、とりあえず近づいてくるマープルを手でおしかえす。

「つまり、一人称を変えるって事かい………うーん………」

「そう!モテるためには、そう言う小さい事からコツコツとやっていくべきですわ!」

キラキラとした目を向けるマープルにホームズは、渋い顔をする。

そんなホームズをマープルは、不思議そうに見る。

「なんだか嫌そうですわね?何故ですの?」

「いや、それは………」

「母親にからかわれるのが嫌なんだろ?」

「ヨル。砲丸投げって知ってるかい?」

ホームズは、肩に乗っているヨルの頭を掴むとそのまま湖に叩き込んだ。

特大の水しぶきを上げて沈んでいくヨルにマープルは、顔の血の気が引いていく。

「ちょっと!!すごい水柱立ちましたよ!!大丈夫ですの!!」

「大丈夫だよ。魚は、逃げただけさ」

「いや、魚の心配なんてしてませんわ!」

マープルがあわあわど手を動かしているとのっそりとヨルが湖から上がってきた。

「貴様、いい度胸だな」

「人のトラウマ抉るんだったらそれなりの覚悟をしておくんだねぇ」

「トラウマ?」

首をかしげるマープルにヨルは身体を黒く光らせ水を飛ばしてからニヤリと笑う。

「あぁ。こいつ昔、モテる為の努力をいくつかやってルイーズにからかわれたんだよ」

ヨルの話を聞きながらどこか遠い目をするとホームズにマープルは、思わず涙を禁じえない。

「………なら仕方ありませんわね」

そうふっと顔を伏せた後すぐにキラリといたずらっぽい笑みを浮かべる。

「とでもいうと思いましたか!?」

マープルは、そう言うとホームズのバケツを取り上げ湖に持っていく。

「あぁ!何するんだい!!」

ホームズの嘆きなどどこ吹く風。

マープルは、高笑いをしながらホームズを見る。

「さあ!言いなさい!この魚達を逃がしたくなければ、自分の事を『俺』と!!」

慣れないこと、キャラではないこと、この二つを満たすものをやろうとすれば、人の顔は朱色に染まる。

ホームズとしては、何としても回避したい。

しかし、迷っている間にマープルは、着々とホームズの魚を湖に投げ入れている。

「わかった!言う!言うから!!」

「最初からそう言えばいいのですわ。では、『俺の名前はホームズ・ヴォルマーノ』と言ってみてくださいな」

ホームズは、咳払いをして顔を伏せる。

顔は、どんどん赤く染まっていく。

「………………………れ」

「ん?」

 

 

 

 

 

()()の名前は、ホームズ・ヴォルマーノです!」

 

 

 

 

 

 

 

羞恥で顔を真っ赤にしているホームズを見て、マープルは、とても楽しそうに笑みを浮かべていた。

「いいですわね、あなたのその表情!人の恥ずかしがっている姿は最高ですわ!!」

その歪んだ感想にホームズは、頬引きつらせる。

若干恍惚としているその表情が更にホームズをドン引きさせる。

「ヤバイ、この子」

「変態だな」

「趣味嗜好は、人それぞれですわ」

マープルは、そう言うとバケツの中の魚を湖に放り込む。

「さて、そろそろ帰ります?」

「そうだね」

ホームズは、すっかり少なくなったバケツの中の魚を湖に放り込む。

基本的に食べるわけでもないので、二人の釣りはキャッチアンドリリースが基本だ。

「魚の数、またわからなくなっちゃったねぇ……」

「いいではありませんの。どうせ私の勝ちなんですから」

「………………」

ホームズは、ため息を吐いて釣竿を肩にぶら下げそのまま歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

日も傾き、茜色に村が染まるなかホームズとヨルとマープルが歩いていると、人だかりが出来ていた。

ホームズは前方に見える人だかりを指差す。

マープルも何事か分からず首をかしげる。

二人は人だかりへと歩いて行って隙間から覗く。

「まあ!」

マープルは、目を輝かせて両手を握りしめる。

人だかりの中心には、母親に抱えられた赤ん坊がいた。

そして、側にはその赤ん坊の兄と思われる小さな男の子がいた。

皆それぞれに顔を隠したり驚かしたりしている。

「へぇ………」

ホームズは、ヨルを頭に乗せ興味深そうに赤ん坊を見ていた。

「あら?あなたはこの村に来た、行商のヴォルマーノさんの息子さん?」

赤ん坊を抱いていた母親の方がホームズに気が付いた。

「えぇ。そうです」

「あなたのお母さんの売ってくれたこの子の服、とてもいいわありがとう」

そう満面の笑みで言われ、ホームズはありがとうございますと礼をする。

「あ、あの!その子は男の子ですの?女の子ですの?」

「女の子よ」

興味津々と尋ねるマープルに微笑みながら、答えた。

「僕はお兄ちゃんなんだよ!」

男の子は、えっへんと胸を張る。

悪意はないのだろう。

その子にとって、妹が出来た言うのが嬉しく、そして、兄となった事が誇らしかったのだ。

ただその気持ちからでた無邪気な気持ちに悪意はない。

「えぇ。それは、立派ですわね」

マープルは、優しく微笑みながらそう返す。

そして、母親の方を見る。

「どうか、その子のこと大事にして下さいな」

母親は、笑った後、頷いた。

「えぇ。やっと授かった女の子だもの。この子共々大事にするわ」

マープルは、その答えに微笑んで返すとその場から、歩き出した。

「ちょ、ちょっと!」

ホームズは、一度ぺこりと頭を下げると慌ててマープルの後をついて行った。

マープルは、帰り道口を開くことはなかった。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「ふうん、そんな事が」

「まあね」

ホームズは、晩御飯を口に運びながら今日の出来事を話す。

因みに今日の晩御飯は、ピザだ。

とろりと垂れるチーズが食欲を誘う。

「それより、交渉の方は、どうなったんだい?」

「あぁ、それね」

ルイーズの何とも煮え切らないよう様子にホームズは、首をかしげる。

「ヨル、聞くけどさ、あのマナの欠片にマナは、本当に宿っているのかい?」

「あぁ。それは、保証してやる」

「そうか……」

ルイーズは、ヨルの言葉を聞くと再び黙ってしまう。

「母さん?どうしたんだい?」

「…………まあ、考え中かな」

ルイーズは、そう言うと最後の一切れを平らげる。

「マナの欠片、それは見たことも聞いた事もない品物だ。私としては、是非とも欲しいんだけれども………」

そう言いつつホームズのピザを鮮やかな手口で一切れ奪うと自分の口に放り込む。

「何だかなぁ………」

「ふうん………」

ホームズは、少なくなったピザを無言で見つめると残りを食べられない内にルイーズから、離す。

「まあ、いいや。取り敢えず、お………僕は風呂に入ってくるよ」

ホームズは、そう言うとピザを一気に平らげ、席を立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「ふぅ………やれやれ」

風呂から上がったホームズは、タオルで頭を拭きながら自分の部屋に戻る。

すると、そこには当たり前のようにマープルが赤毛を下ろして部屋にいた。

「こんばんわですわ」

「………こんばんわ……」

ホームズは、ため息を吐いて扉を後ろ手で閉める。

「昨日も言ったけどさ、風呂入った後に夜出歩かない方がいいよ。風邪ひくし」

「なら、心配いりませんわ。私は、この宿でお風呂に入りましたから」

「……………何してんの?」

「あなたのお母さんと宿屋の方には許可をもらってますわ」

「………………………」

ホームズは、無言で母親の部屋へと走って行った。

ヨルとマープルは、取り残された。

母親の部屋からは、ホームズの声が聞こえてくる。

人よりも耳のいいヨルは、ホームズとルイーズの言い合いが耳に入ってくる。

どう聞いてもホームズの方が部の悪そうだ。

ヨルは、そんな言い合いを聞きながらため息を吐く。

「それで、お前は毎度毎度、何しに来ているんだ?」

「見て分かりませんか?」

ふふふっと笑いながら、自慢気に髪をたなびかせる。

「わかるわけないだろ」

ヨルは、ため息を吐く。

そう言って尻尾で髪を指す。

「朝、自分の寝癖を直してたお前が、どうして髪を梳かしてもらいに来るんだ?」

その言葉にマープルは、僅かに動きを止める。

「髪を梳かせないってわけじゃないよな?」

「………言わなきゃいけませんか?」

ヨルは、興味なさ気に首を振る。

「別に。予想ぐらいつくからな」

ヨルのその言葉にマープルは、ホッと胸を撫で下ろす。

そんな事をしてる間にホームズがガチャリと扉を開けて現れた。

ホームズは、ブスッとした顔で布団を抱えて現れた。

髪を梳かしてもらうのを今か今かとマープルは、待っている。

「『マープルちゃん。君、今日から暫く泊まって行きたまえ』だってさ。母さんが」

「………へ?」

突然の事にマープルの手から櫛が落ちる。

「何だかよくわからないけど、姉さんは、ベッドを使いたまえ」

「お前はどこで寝るんだ?」

「そこのソファ」

ホームズは、そう言うと布団をバサッと乗せ、落ちている櫛を拾う。

「ええっと…………」

「ほら、じっとしていたまえ」

突然の事に困りきっているマープル他所にホームズは、髪を梳かしていく。

「………ホームズは、本当に髪を梳くのが上手いですわね」

「まあ、慣れてるし」

「ふふふ。自慢の弟ですわ」

「………………弟ねぇ……」

ホームズは、そう言いながら髪を梳かしていく。

「なんかあったのかい?」

「………………別に。何でもありませんわ。ただ……」

マープルは、そう言って顔を少し下げる。

「あの親子を見て、少しだけですわ」

少しだけ寂しそうな声でマープルは、そう言った。

ホームズは、何も言わず髪を梳かしていく。

マープルはためらいながら、少しだけ口を開く。

「あの親子を見て、想像しましたの。自分の生まれた時の事を」

「…………そっか」

「…………ええ。きっと、両親は、あんな顔をしていたんだなぁ………と、思いますとね…………」

マープルの肩が震える。

「両親の顔もわからないので、全ては想像です………でも………でも」

だからこそ、あんな光景を見せられて仕舞えば、憧れてしまう。

そして、自分には、もう望めないことも分かっている。

それを考えると夜にあの孤児院にいるのが耐えられないのだ。

ヨルはそれを見抜いていた。

そして、ルイーズもそれを見抜いていた。

だから、ルイーズは、マープルをホームズの部屋に泊めさせた。

ぽたりぽたりと涙を流すマープルの髪をホームズは、梳かしていく。

そんなホームズをヨルは怪訝そうな目で見ている。

ホームズは、それを見ると頷く。

「ちゃんと聞いてるよ」

そう言ってホームズは、机の上に櫛を置く。

どうやら梳かし終わったようだ。

「泣くだけ泣きたまえ。弱音だって吐きたまえ。幾らでも聞くよ」

そう言ってハンカチを差し出す。

「何てったって、僕は、姉さんの自慢の弟だからねぇ」

ホームズは、そう優しく微笑んだ。

マープルは、そんなホームズの言葉に嬉しそうに微笑む。

「ありがとうですわ。でも………」

そう言って少しだけ咎めるようにゆび立てる。

「ホームズ、『僕』ではありませんわ。『俺』でしょう?」

マープルの指摘にホームズは、少しだけ抵抗しようとする。

しかし、ふぅと一息つく。

「何てったって、おれは、姉さんの自慢の弟だからねぇ」

ホームズの言葉にマープルは、満足そうに笑うとベッドにダイブした。

ホームズは、そんな様子を見るとソファに潜り込んだ。

人に後悔与える夜の時間。

だが、休息の時間でもある。

夜の休息をホームズとマープル、そして、ヨルは確かに過ごしていた。

 

 

 

 

 

 








騒いで泣いてと忙しい子です。




では、また百五十九話で( ´ ▽ ` )ノ

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