1人と1匹   作:takoyaki

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十六話です。



すいません、投稿遅れましたm(_ _)m


出る杭折られる

「みんなの1番古い記憶ってなんだい?何々、レイアは膝を擦りむいた事、ジュードはレイアにボコされた事か…いやー、ジュードには同情するよ。レイア、君は反省しなさい。それとその棍を今すぐしまいなさい。全くどうしてそんなかさばる物をもってきたんだい?なに?早く自分の事を話せ?わかったわかった、すぐに話すよ。おれの1番古い記憶は母さんが泣いてる姿だね……」

 

 

おれはいや、ここではホームズ少年と呼ぼうか、なんかそっちの方がしっくりくるしね。ホームズ少年は母親が行商なんて事をやっていたから、ここって言う故郷がなかったんだよ。まあ、ある程度のルートと本拠地が幾つかぐらいは決まってたけどね。

そんな訳でね、友達づくりには苦労した。仲良くなってもすぐに何処かに移動、そして、そこには何ヶ月いや、下手したら、何節も帰らない、そんな事ばかり続いてね。

ただ、子供心に分かってたんだ、そんな自分が友達を作るためには霊力野がない事を隠さなくちゃいけない。もし、ばれたら友達づくりどころではなくなる、てね。

君達だってわかるだろう?子供社会で1番大切な事は『みんなと一緒』と言う事だ。ホームズ少年はどこから来たかよく分からない流れ者、瞳の色も違う。そんなある意味異端児のおれに霊力野(ゲート)が無いなんてばれたらどうなるか……。

まあ、結局そんだけ分かってたのにすっかりばれちゃってね……

原因?些細なことだよ。いつもの様に精霊術の話に適当に合わせてたら、的外れな事を言っちゃったんだよ。

子供達だけならまだ、ばれなかったかもしれないけど近くにたまたま大人が居てね、ベラベラと喋っちゃったんだよ。

なかなかの推理力だったね。彼には探偵の称号をプレゼントしたいよ。

それはさておき、結果どうなったかというと、ジュードの予想通り、霊力野(ゲート)がないと言う事で、そこでのヒエラルキーは1番下。

そして、自分より下の存在に気付いた彼らはホームズ少年に徹底的に、執拗にいじめをおこなってきた。

殴る蹴るは当たり前だよね。しかも達の悪い事に誰が入れ知恵したか知らないけど、いや、何と無く予想は付いてるけどね、まあ、ともかく目に付かない所を集中的に殴る蹴るをするようになったね。

誰が入れ知恵したかって?

多分そこにいた、夢敗れた若者達だろうね。

リーゼマクシアは生まれついた霊力野(ゲート)の大きさで、将来が決まるんだろう?自分の霊力野が、ショボいばかりに自分の望む道に進む事が出来なかった。そんな連中の、ま、言ってみれば憂さ晴らしだったわけだよ。ただし、年齢一桁のホームズ少年に暴力を振るったなんて、言うのは世間体にもよろしくない。だから、ホームズ少年と同年代の連中に入れ知恵したんだろうね。

自分は手を汚さず、しかし、自分のアイディアでのいじめがどんどんされる。実にいい気分だったんだろうね。

策士をするのは、きっと楽しかったろうさ。

やり返さなかったのかだって?無理に決まってるだろう。もう1度言うけれど、ホームズ少年の母は、行商人、つまり、よそ者の商人なんだ。そんな人が商売をしようと思ったら、1番大切になってくるのは『信用』だ。……なんだかジュード以外ピンと来てない様だから、説明してあげるよ。

自分の子供に暴力を振るった子供の母親がやっている商品なんて、買いたいと思うかい?なに?ジュードをボコしたけど、ジュードの母さんは普通にうちに料理を買いに来たって?レイア、それはね、ある程度積み重ねた物があるから成せる事なんだよ。何度も言うけれど、ホームズ少年の母親は行商人だ。流れ者で、はっきり言って余所者だ。積み重ねた物なんて、せいぜい質のいい商品を扱っている程度の信頼だ。

ホームズ少年がやり返せば、多分それは歪んでいじめている子供の親達、つまり、ホームズ少年の母親のお客に伝わるだろう。自分の子供と、流れ者の子供、どちらが正しいと判断するかなんて想像するまでもないだろう?

そして、商品の売れなくなった商人に待つのは死あるのみ、というわけだ。理解出来たかい?

まあ、ホームズ少年はそんなわけでひたすら我慢していた。しっかし、まあ、母親ってのは偉大でね、いじめられた初日に見抜いたんだ、ホームズ少年がいじめられている事にね。

その時、やり返さなかった訳もすぐに察した。そして、

泣きながら小さな我が子を抱きしめた。そのままずっと謝り続けた。

『すまないね、本来なら命を賭けてでも守らなくてはいけないんだけれど、今の私には、行商人の私には、それが出来ない。 そして、……、本当はこんな事言いたくない。けれど言わなければ、ならないんだろうね。……君もきっと我慢する事か逃げる事しか出来ないだろう。そのいじめには、きっと立ち向かう事すら出来ないだろうね。……本当にごめんね』

あんなに涙でぐちゃぐちゃの母さん、じゃなかった、ホームズ少年の母を見たのは……分かったよ、母さんて言うよ、これでいいんだろ?なに?ついでにホームズ少年と言うのもやめろ?なんでさ?……自分の事を他人事みたいに言っていて、しっくり来ない?……分かったよ、じゃあ、おれと呼ばせてもらうよ。

おれの母さんがあんなに涙でぐちゃぐちゃの顔をしたのは後にも先にもこの時ぐらいだね……いや、もう一回あったね。

結局、母さんの言ったとおり、やり返せず、ただただ、耐えていた。けれども、立ち向かう事は諦めていなかったよ。どうやっていたかって?殴られた時、蹴られた時、おれは出来るだけ笑顔でいた。自分が耐えている事を、辛いと思っている事を、自分が辛い思いをする事を喜ぶ連中に悟らせない、それがその時のおれに唯一できた事だ。痛みは、耐える事が出来たんだ。けれど、目の色を馬鹿にされる事は我慢出来なかった。どうしても、ね。その時ばかりは笑顔を造っていられなかったね。

別にコンプレックスと言う訳じゃない。むしろ、逆と言ってもいい。

 

……そう言えばジュードの目は母親譲りだよね。目つきも、瞳の色も。

 

おれの目はね、母さんに言わせると目つきはともかく、瞳の色は父親譲りなんだってさ。死んだ父親の……ね。

ある時、母さんがおれの顔を見て言っていたんだ。

『髪の色は私譲りだけど、目の色は父さん譲りだね……、これで、わたしのたれ目さえ遺伝しなければ、渋い男には成れただろうに、くっくっく』

……真実なだけに、腹立たしいたらないね、今でも18に見られないもの……レイア、その驚いた顔を今すぐ引っ込めたまえ。……後で覚えてなよ。

ゴホン、取り敢えず話を戻すかね。

何処まで話したっけ……そう、おれの父親はもう死んでいるんだ。物心つく前にね。母さんの話によると、おれが赤ん坊の頃に事故で死んじゃったらしい。

だから、どんな顔をしていたか、どんな風に笑うのか、どんな人だったか、それらの事が全く分からない。いや、知らないと言った方が正しいね。

でも、それはとても悲しい事だ。母さんの話によればおれが生まれた時、父さんはとても喜んでくれたらしい。その場でバク宙する程に。

それなのに、おれはその人の事を何一つ知らない。

そんなにも、おれとの出会いを喜んでくれた人の事が、おれには何一つ分からない。

 

その人がおれの父親だと言う、

 

 

繋がりが、

 

 

証拠が、

 

 

おれにはない。

 

だって、その人に会ったと言う記憶が無いんだもの。

ずうーっとそう思ってた。でも、違った。記憶はなくても、証拠はあった。繋がりもあった。自分の顔に二つも、碧色の物があった。母さんお墨付きの、自分が父さんの息子だという証拠だ。そして、繋がりだ。

これが分かった時おれは本当に嬉しかった。バク宙は出来なかったけど、泣いて喜んだ。多分あれが最初の嬉し泣きだろうね。

 

 

だからね、目の色を馬鹿にされる事だけは我慢出来なかったんだ。

なにせ、おれの目は記憶にない、父さんとの唯一の繋がりなんだ。それを馬鹿にされた時の気持ち、想像ぐらいはできるだろう?

 

けれど、だからと言って、我慢出来ないからと言って、やり返す訳にはいかない。なんせ、自分達の生活が、かかってるからね。

そう思ったらさ、なんだか涙が出てきちゃって。奴らにばれちゃったのさ。

おれの、いつも殴られても、蹴られても、笑顔でいる弱味を決して見せなかった、最底辺の人間の弱味が。

今でも覚えてる。殴る蹴るじゃあ泣かなかったおれが、目の色を馬鹿にされて泣いた時、奴らは笑ったんだ。本当に嬉しそうに。あの顔は忘れられそうにないね。

 

それからは、とにかくひどかった。顔を合わせる度におれの目の事を馬鹿にする、いや、蔑むと言った方が正しいかもね。

さらにね、達の悪い事にその事がいつの間にか、そこの街の子供達みんなに広まっていてね、今まで参加してなかった奴らも含めて、その街のほとんどの子供達が指差して、おれの目の事を馬鹿にするんだ。暴力で自分の手は汚したく無い、そんな連中がこぞって参加してきたね。凄く悔しかったし、悲しかった。でも、やり返せない、言い返せない。

だって、言い返したら、生意気とか言って殴られちゃうからね。

泣かない様に気を付けた。でも、やっぱり泣いちゃうんだよね。それを見て周りの連中は面白がってもっとやる。

もう、無理だったよ。八方塞がりだ。完全におれの負けが確定しちゃったよ。

 

その頃から、おれは立ち向かう事もやめた。

というより、出来なくなった。我慢もしたてたけど、段々それすらも出来なくなって、ただただ、奴らから逃げる様になった。

 

逃げて、逃げて、逃げて、何度も逃げる。そんな事をその街から出るまで、ずうーっと続けた。

結局、母さんの言った通りになっちゃったというわけさ。

多分こうなる事を予想していたんだろうね……予想出来ていたけど止められなかった、いや、どうすることも出来なかったんだろうね。

 

 

今そいつらがどうしているかは知らない。

 

 

まあ、別に知りたいとも思わないけどね。

 

 

 

さて、おれの不幸でいっぱいの話はこれで終わりだ。

『生ぬるい!』なんて言われちゃえばそれまでだけどね。

まあ、当時のおれにとっては辛かったのさ。

ま、みんなが、これで満足してくれたらなによりだよ。

とはいえ、やっぱり自分の不幸話をするのは性に合わないね。なんだか、不幸自慢しているみたいでさ。

 

 

 




何だか、リアルが忙しくて……
そして、今回の話は難しくて難しくて………
何回も手直しをしました。
んー、こんな事を言わないで済むようにこれからは、計画的にいきたいと思います。

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