1人と1匹   作:takoyaki

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百六十二話です




食事中には、読まないでね
まあ、それはさておき、真相後編です。


てなわけでどうぞ


其の拾

「くそ、何なんだい!アレは!」

ホームズは、叫びながら走る。

「恐らく、マナの欠片を使って詠唱をすっ飛ばしてるんだろ。何せ、文字通りマナの塊だからな」

「ということは?」

「術喰らいは、使う暇がない」

「最悪だ………」

ホームズがそうこぼすと忌々しそうに舌打ちをする。

それと同時にホームズの後ろで爆発が起きる。

ホームズの顔から血の気が引く。

そして、更に足を早める。

「もうこうなったらヤケだ!姉さん連れてとっとと逃げるよ」

そう言って扉に手をかける。

しかし、開かない。

「はぁ!?」

ホームズは、慌てて押したり叩いたりを繰り返すのだが、扉はピクリとも動かない。

そうこうしている内にも足音は、一つまた一つと迫ってくる。

「あぁ!もう!どうすりゃいいんだい!!」

「ホームズ!脚を出せ!」

ヨルの突然の要求にホームズは、脚を一歩前に出す。

「よし」

ヨルは、そう言うと口をぱかりとあけ、黒球を吐き出しホームズの足に落とす。

落とされた黒球は、ホームズの足で弾けると黒霞となって纏わりつく。

「なんだい?これは?」

「いいから、それであの扉を蹴飛ばせ」

疑問に思う時間も迷う時間も惜しいホームズは、そのまま回し蹴りを扉に向かって放つ。

放たれた蹴りは扉を蹴散らしホームズたちへ道を作った。

「色々言いたいことはあるけど!」

ホームズは、そのまま部屋の中に入る。

「…………なんだい、これ?」

その部屋には円柱の水槽が所狭しと並んでいた。

そして、その中には例外なく子供達が閉じ込められている。

その光景の意味がわからないホームズは、首をかしげるばかりだ。

「なるほど」

そんなホームズと違いヨルは、そう呟いた。

「ここで、マナの欠片を作ったわけだ」

そういって指差す先には、確かにマナの欠片を精製している機械があった。

「でも、どうやって?」

ホームズがそう呟いた瞬間水槽の床が開き一番手前の子供が下の階に向かって落ちていった。

そして、代わりの子供が水槽に入る。

「なんなんだい、これは………」

ホームズの問いにヨルは、尻尾を一振りする。

「この妙な機械でガキどもの霊力野(ゲート)から、マナを吸い出してるんだろ」

「おい、ちょっと待ちたまえ、そんなことしたら!」

ホームズの言葉にヨルは、静かに頷く。

「あぁ、ガキ共は死ぬ」

ホームズの顔から血の気が引く。

そして、ホームズは、片っ端から水槽を見る。

そう、最悪の可能性がホームズの頭をよぎったのだ。

今日、朝から見ていないあの少し変わっていて、そして、泣き虫な女の子の顔が先ほどから脳裏をチラついて離れない。

ホームズは、予想が外れる事を祈って水槽を確かめる。

だが、ホームズの予想は外れることはなかった。

「姉さん!!」

一番奥の水槽にマープルは、瞳を閉じて浮かんでいた。

ホームズは、先ほどの脚で蹴りつける。

だが、時間と共に消えたその足では砕けない。

「ヨル!もう一回!!」

「阿呆。そうホイホイだせるか」

ホームズは、しばらく考え込むと急いで動き出した。

「ホームズ?」

「機械があるなら………」

そう言ってホームズは、工具箱を引っ張り上げた。

「やっぱり!!」

工具箱をあさって金槌を引っ張り出す。

そして、ヨルの尻尾に巻きつけるとそのまま勢いよく回し遠心力を乗せる。

「せーのっ!!」

ホームズは、掛け声と共に金槌を叩きつけた。

二回三回と繰り返し、ようやく水槽は壊れた。

壊れた水槽からマープルを引っ張り出す。

「姉さん!姉さん!おい、しっかりしたまえ!」

引っ張り出されたマープルの顔は青白く、呼吸も弱い。

ホームズの声にも反応を示さない。

「ここか………」

ホームズがマープルに懸命に呼びかけていると鉄仮面を被った黒ずくめの男達が三人入ってきた。

その男達の異様な殺気に気付いたホームズは、震えながらもマープルをかばうように抱きかかえる。

「誰だい、君たちは………」

男達はホームズの質問に答えることなく銃口を突きつける。

引き鉄に手がかかった瞬間ヨルの金槌のついたままの尻尾が、襲いかかる。

銃口に当たった金槌は、銃を暴発させる。

「──────っ!」

暴発した銃に気をとられた瞬間、ホームズは、工具箱を蹴りつける。

顔面に工具箱をぶつけられた黒ずくめの男の一人はクラクラと頭を揺らす。

「ヨル!尻尾を!!」

ホームズの指示に答えるようにヨルが尻尾を伸ばす。

尻尾は黒ずくめの男の一人に巻きつく。

その瞬間ホームズは、力を込めヨルの尻尾を振りまわし、そのまま壁に叩きつけた。

思わぬ反撃に面喰らう男達を他所にホームズは、マープルを背負い逃げ出した。

扉を開け部屋から走り出す。

暗い廊下をただひたすらに下っていく。

どんどんと出口から遠ざかっていることに歯嚙みをしながらそれでもホームズ は走る。

マープルを背負って懸命に走るホームズを追う足音迫ってくる。

ホームズの背後から電撃が発せられる。

「くそ!ティーアがもう!?」

「違うな。奴の霊力野(ゲート)じゃない。さっきの奴らだ」

(というより、霊力野(ゲート)の気配を感じない?なんだこいつら……)

ヨルが小首を傾げていると再び無詠唱で精霊術がホームズに襲いかかった。

ホームズが足を乗せようとした段が崩れた。

「っ──────!!」

態勢を崩したホームズは、階段から転げ落ちる。

ギリギリでマープルを抱きかかえ、なんとかマープルに怪我がないように踏ん張った。

ホームズは、そのままころげおちて行き、最後扉に背中をしたたかに打ち付けた。

「─────ッハ!!」

身体中を打ち付けたホームズの身体は、鈍い身体がホームズに響き渡る。

額から血が流れ、身体は擦り傷まみれだ。

そんなホームズに二人の黒ずくめの男がみたこともないこれまた黒い機械を持って迫る。

迫り来る死の気配にホームズは、震えが止まらない。

ホームズは、床を拳で叩いて立ち上がる。

ここで死ぬわけにはいかない。

カチカチとなる歯を思い切り食いしばる。

「一つだけ手がある」

ヨルの言葉にホームズが反応した。

次の瞬間、黒い機械の先にエネルギーがチャージされ照射された。

轟音と共に巻き上がる砂煙。

暗闇の中砂煙が晴れるとそこには、ホームズ達の姿はなかった。

 

 

 

 

代わりに彼らの天井にマープルを抱えたホームズが両足で立っていた。

 

 

 

 

その両足には黒霞が纏われていた。

ホームズは、宙返りをして黒霞を消し、一人に向かって踵落としをする。

上空からの不意打ちに一人は、意識を手放した。

だが、もう一人は別だ。

直ぐに現状を把握すると再び黒い機械に何かをチャージし、ホームズに向かって照射した。

攻撃をし終わった僅かな隙を突かれ、ホームズは、かわすこと叶わず、マープルを守るので精一杯だった。

照射されたソレは、ホームズ達をそのまま扉の向こうに吹き飛ばした。

「……………ぐっ、!」

埃を巻き上げ、ホームズは部屋へと飛び込んだ。

ホームズは、慌て目立ち上がる。

その瞬間、強烈な異臭がホームズの鼻をついた。

「なんだい………この臭いは………」

言葉で言い表すのは、不可能とも言える悪臭にホームズは、顔しかめる。

吐かないようにするので精一杯だ。

「くそ、一刻も早く出ないと………」

ホームズは、ふらふらと足を動かす。

その瞬間ヨルのヒゲがピクリと動いた。

「ホームズ!!」

ヨルの切羽詰まった声に本能的に左に避けると先ほどまでホームズがいた場所を氷の矢が凄まじい速さで通り抜け、追撃しようと入ってきた黒ずくめの男に命中した。

氷の矢に貫かれた男は、そのまま死に絶えたを

「あーあ、死んでしまいました………ホームズさんが避けるから行けないんですよ」

その涼やかな声にホームズの背筋は凍りつく。

振り返りたくない。

だが、振り返らなくてはならない。

まだ解けていない疑問、それを解く鍵は、間違いなく、この部屋で、そして後ろにいるあの男だ。

「ティーア…………!」

「怖い目だ。たれ目を怖いと思ったのは初めてですよ………」

ティーアは、相も変わらずその腹の奥底を悟らせない。

「ここに来る時、あの部屋を見た。アレでマナの欠片を作っていたのかい……」

マープルは、にっこりと頷く。

「なかなか、いい案でしょう?材料は、殺しても殺しても減ることのない人間。そして、それを安定的にマナの欠片を作り出すシステム」

「どこで、あんなものを………」

「子供には関係のない話です」

そう言って一歩歩みを進める。

「さあ、返してもらいましょう。彼女は、大切な()()です」

ホームズは、腕の中にいるマープルをティーアから奪われないように力を込める。

()()?」

ポカンと口を開けるホームズ。

そんなホームズを見てティーアは、不機嫌そうにそして困ったような顔をする。

「………人のものを取るとは、泥棒ですよ。商人の息子ともあろうあなたが、万引きですか?笑えませんよ」

「全くだね…………」

ホームズは、マープルを見る。

「この子は、泣いていてんだよ……両親に会いたいと泣いていたよ………」

目の前にいるこの男をホームズは、許せなかった。

「君は、()()というのか……君達の都合で引き離したこの子を!!」

「引き離した?馬鹿なことを言わないでくださいよ。むしろ引き合わせたと言った方が正しいくらいですよ」

「………は?」

「聞いてませんか?彼女は、人買いところにいたんですよ?」

「それを拾ったと言っていたな………」

ヨルが喋ったことに少しも戸惑うことなくティーアは、頷く。

ホームズは、マープルを抱いたまま後ろに下がる。

「そうか、そういうことかい………君、この子を買ったな………」

「正解です。人買いから手に入れたかったのなら、それしか方法はありませんからね」

そう言ってホームズに向けて足を進める。

「その子の霊力野(ゲート)の大きさは目を見張るものがあった。人買いの()()()さんの口も上手かったので、つい………」

その言葉を聞けばわかる。目の前のこの男は、自分が悪いとまるで思っていない。

まるで、うっかり高い買い物をした主婦のように少し照れたように笑っている。

ホームズがそんなティーアの表情に戦慄していると後ろで何かが水に落ちるような音が響く。

いつの間にかホームズは、桶の前にいたようだ。

ホームズが後ろを確認するとそこには黒々とした泥ようなものが並々と入っていた。

そして、あの異臭がより強い。

どうやらこの桶の中にある泥状のものが、異臭の正体のようだ。

「おや、マナを絞り終えたようですね」

異臭を放つ桶に放り込まれた死体は、そのままズブズブと死んでいく。

「これは、一体…………」

正体がわからず戸惑うホームズを差し置いてヨルが尻尾を泥状のものに突っ込む。

「こいつは……………」

「ヨル?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ、人間だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は……………?」

ホームズは、ヨルが何を言っているか分からなかった。

「これ全部人間だ。すり潰されて、液状化されているがな」

ホームズは、ごくりと唾を飲む。

そんなヨルにティーアは、拍手を送る。

「ズバズバと真相にたどり着いていきますね。あなた方は」

そういうと大仰にため息を吐く。

「そうですよ。ここにすり潰した人間を入れ発酵させます。そうするとあら不思議」

ティーアは、何かのレバーを引く。

すると桶の中に現れた機械は、ゆっくりと動きだし死体を潰していく。

肉を断ち、骨を砕きながら。

ホームズは、言葉が出ない。唇からは、血の気が失われていく。

そんなホームズに構わずティーアは、自慢げに両手を広げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのアオイハナが、こんな貧相な土地でも育てることが可能になる最高の肥料となるんですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この異臭の正体は、死臭の更に悪化したものだ。

ティーアのこの言葉を聞いた瞬間ホームズの頭に今までの疑問がよぎり、そして全てが繋がった。

「つまり、こういうことかい?男一人、女一人の子供を家族に入れるようにし、そして、それ以外はこの孤児院、いや、教会が引き取る。その引きとった子供のマナを搾りとり、マナの欠片として売る。

そして、搾りとり終わった子供達はすり潰しアオイハナを育てる肥料にする。

そうやって、この村は回っていると、そういうのかい?」

「大正解です」

フフフと楽しそうにティーアは、笑っている。

ホームズは、後ろの泥のを見る。

この泥達はかつての人間たちの成れの果て。

「どうですか?どこにも無駄がないでしょう?」

理不尽な理由で親に捨てられ、そして最後は、その理不尽な親達のためにこんな救われない死を迎えた。

マープルもこうなっていたかもしれないと思うとホームズは、本当に吐き気を覚える。

「…………どうして………どうして、こんな酷いことが出来るんだい!!」

子供達のあり得たはずの未来を問答無用に奪い取ったティーアにありたっけの感情を込めてホームズは、睨みつける。

「村を救うためですよ」

ティーアは、更に言葉を続ける。

「いいですか。この村には何もありません。ですが商品がなくてはなりません。しかし、この村にはそんなものがない」

とても残念そうに呟きながらティーアは、コンと足元の石を蹴る。

「だとしたら、犠牲が必要です。ひ弱な老人?病人?いえいえ、そんな事をするわけにはいきません。なら、若者を?いえいえ、それも論外です。誰かを助けるために誰かを犠牲にするなんて、そんなことあってはなりません!」

力説をするティーア。

言ってることは正しい。犠牲を良しとしないその言葉は、聞くに値する。

だが、それを言っている本人が正しくない。

そして、その異様な光景にホームズは、なんとか言葉を絞り出す。

「…………だから、この子達に目をつけた。この子達を犠牲にした?」

「お前、言っていることが矛盾してるぞ」

ヨルとホームズの言葉にティーアは、ハァ、と呆れたようにため息を吐く。

「元々、いらないと言われた子供達です。そんなもの犠牲なんて言いませんよ」

なんてことないように当たり前のように言うティーア。

その言葉には、罪悪感なんて感情はどこにもない。

ホームズは、言葉が出ない。

そんなホームズに構わずティーアは、誇らしげに胸を張る。

「弱い人も強い人も老いた人も若い人もボクは、全ての村人を救ったァッ!!

賞賛こそされ糾弾されるいわれはない!!」

高らかにティーアは、そう言い切った。

ホームズは、ティーアの言葉を聞き考える。

 

 

──────どうして、こんな酷いことが出来るんだい!!──────

 

 

 

(あぁ………簡単な話だ)

「君の質問には答えました。さあ、マープルを返してもらいましょう」

ホームズは、ティーアを睨みつける。

(こいつは、自分が酷いことをしてるなんて毛ほども思ってない………… 後ろにある泥よりこいつの心は真っ黒だ……)

歪んでいる。

狂っている。

だが、本人にそのつもりはない。

真っ直ぐで、

まともだと思っている。

真っ当におかしく、

真っ直ぐに狂っている。

「………そんな奴に姉さんを渡すわけないだろう」

ホームズは、そう言って足元にある石を蹴り飛ばす。

予想外のことにティーアに隙が出来た。

ホームズは、その隙に出口へと走り出す。

しかし、出口まで後一歩というところで出入り口が崩れ去った。

「その子は、この村で一番の霊力野(ゲート)の持ち主です。返してください」

ティーアは、乾いた音響かせホームズとの距離を詰めていく。

「返してくれたら、貴方達は帰してあげますよ」

そんなティーアの言葉にもホームズは、首を縦に振らない。

「冗談にしては、笑えないな」

ヨルは肩でそう返す。

「おや?それは、残念ですね」

ティーアは、そう言うとマナの欠片を指で弾く。

「光よ!ディバインストリーク!!」

光が砲撃となってホームズ達に襲いかかった。

ホームズは、そのまま壁に叩きつけられた。

背中に走る激痛を堪えながらホームズは、ありったけの憎悪を込めてティーアを睨みつける。

「ティーア………お前という奴は………」

「残念ながら、それは偽名です。ちょっと並び替えて、文字を足してください」

ティーアは、一歩ずつ近づき、そしてホームズの胸ぐらを掴みあげる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、本名は、アーティーです。この村というのがアレなら、()()()()()()()とでも呼んでください」

 

 

 

 

 

 

アーティーは、拳を強く握りこんでホームズに照準をあわせた。

 

 

 

 

 





R-15のタグがちゃんと発動しました。



アーティーの村をどの程度の方に覚えていてもらえるかビクビクしてます。



では、また百六十三話で( ´ ▽ ` )ノ

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