1人と1匹   作:takoyaki

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百六十五話です

そして、過去編カウントでは、其の拾参。

不吉ですね




てなわけで、どうぞ


其の拾参

「おい、ルイーズ」

月日は流れ早二年。

ホームズ達はイル・ファンにいた。

元々夜域のイル・ファンは、常に夜。

星を眺めるヨルの日課は充実していた。

まあ、毎度側にはルイーズがいるのだが。

しかし、今日に限ってルイーズが現れない。

不思議に思ってルイーズの部屋に行くが部屋はもぬけの殻だった。

「…………?珍しいな」

ヨルは、そう言いながら部屋の奥へと進む。

すると机の上に紙が一枚あった。

「なんだこれ?『診断書』?」

ヨルは、診断書を読む。

「『病名…………により、』」

つらつらと、書かれている文章を読むヨルの頭が少しずつ冷えていく。

「これって………」

「ごちゃごちゃと難しく書いてあるけど、要約すると………」

いつの間にやらヨルの背後にいたルイーズが診断書を取り上げる。

 

 

 

 

 

 

 

「もうすぐ、死ぬってことらしいゼ、私」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霊力野(ゲート)のないルイーズの気配は辿れない。

背後に突然現れたルイーズをヨルは、しらっとした目で見る。

「お前、これ、いつからだ」

「割と前から言われてたんだよねぇ……」

ルイーズは、少し笑って椅子に座る。

「ホームズは?」

「とっくに知ってるよ」

「は?」

「何せ、この診断書最初に受け取ったのは、あの子だゼ。いい機会だから無理矢理吐かせた」

「お前、信じられないぐらい元気だな」

ヨルは、呆れたようにため息を吐く。

思い出せば何やら不自然に追い出された記憶がある。

その力ない吐息にルイーズは、首を傾げる。

「おや?その反応は、君ももしかして、私が死ぬの悲しいとか思ってるのかい?」

ニヤリといたずらっぽく尋ねるルイーズにヨルは、少し考え込む。

「前に、マープルが死んだ時の事覚えてるか?」

ヨルの口からマープルという言葉が出た時ルイーズは、大きく頷く。

「マープルがいるのが当たり前になっていたからな………それが突然消えたとなった時、なんだかこう違和感というのか、ある筈のものがない奇妙な感覚と言うものがあった」

ヨル自身その気持ちが何なのかよく分かっていない。

ヨルは、そのまま言葉を続ける。

「きっと、また同じことを思うのだろうな」

ヨルの言葉を聞くとルイーズは、少しの間目を丸くするとそれから少しだけ優しく微笑む。

「君さ、自分のこと何だと思ってる?」

「化け物」

「だとしたら、君は少し優しいね。いや、人間臭いと言った方が正しいかな」

ルイーズは、不服そうな顔をするヨルの頭を軽く撫でる。

「よく分からんが、馬鹿にしてるのか?」

「いや、少しだけ嬉しくなったのさ」

ヨルは、よく分からず首を傾げる。

けれどもこれ以上これの答えはくれないと分かっている。

なので、別の事を尋ねる。

「まぁ、それはともかく、お前大丈夫なのか?」

「何がだい?」

「何がって………」

ヨルは、呆れながらもう一度言い直す。

「マープルの墓参りの事だ。今年こそ行くんだろ」

ルイーズは、ヨルの言葉にポンと手を叩く。

「そうだったねぇ、去年の一回忌は都合で行けなかったもんね」

ルイーズの言葉を聞きながらヨルは、眉をひそめる。

「行()なかった、ねぇ……」

「何だい?」

「行()なかったの間違いだろ?」

ヨルは、更に言葉を続ける。

「お前、何かに気付いてるな」

ルイーズは、ふぅと背もたれに背中を預ける。

「……まあ推論だけどね。私としては外れてほしい推理なんだけど…………」

ルイーズは、それだけ言うと自分の布団に戻る。

「明日には立つから準備しておいた方がいいんじゃないのかい?」

「待て、最後に一つ」

「何だい?」

「お前の余命あとどれくらいだ?」

「後、三ヶ月だってさ」

ヨルは、それを聞くと真剣な顔になる。

「直ぐだな」

「まあね」

ルイーズは、寝返り打つとヨルのほうを向く。

「なぁ、ヨル。お願い事をしていいかい?」

「…………俺がやだと言ってお前が聞くのか?」

「よくわかってるじゃあないか」

ルイーズは、ふふと微笑んでそれから口を開く。

「いつかでいいからさ、私と夫の出会いの話をしておくれよ」

「自分でしろ。それぐらい」

「無理なこと分かってるくせに……意地悪だねぇ」

「当然だ。俺は優しくなんかないんだよ」

ヨルは、確かに断った。

しかし、目の前のルイーズは、にこにことしながらヨルを見ている。

ヨルは、ほほをひきつらせため息を吐く。

「……………わかった。気が向いたらな」

「なら安心だ。ほら、今日のところは早くお休み」

ヨルは、不機嫌そうに舌打ちをして部屋から出て行く。

「ヨル」

出て行こうとするヨルをルイーズが呼び止める。

「なんだ?」

「ありがとうね」

「当然だ。もっと感謝しろ」

ヨルは、そう言ってから今度こそ部屋から出て行った。

(不愉快だ………)

目の前の人間が近いうちに消えることも、それに心が揺れる自分も何もかもが気にいらない。

ヨルは、不機嫌さを隠すことなくそのまま部屋に戻ると星を見る気分にもなれずそのまま瞳を閉じた。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「ふぁあ〜…………」

「珍しいね。君が眠そうにするなんて」

「やかましい。いろいろあって大して眠れなかったんだよ」

アオイ村へと続く道すがら、欠伸を繰り返すヨルにホームズは、首を傾げる。

「おやおや、どうしたんだい?いつにも増して不機嫌そうじゃないか」

ルイーズがニヤニヤと笑いながら尋ねてくる。

原因のくせにこの顔。

というより、余命幾ばくと言われたくせにこの能天気。

ヨルのこめかみに青筋が浮かぶのを感じていた。

しかし、どうせルイーズに怒りをぶつけても所詮暖簾に腕押し糠に釘、疲れるだけだ。

「………寝不足なだけだ。んなことより、見えたぞ」

そう言ってヨルは、尻尾で指し示す。

「お、本当だ。ユーフォちゃん、ちゃんと掃除してあるかねぇ……」

ホームズは、少しだけ楽しみのようだ。

辛いこともあったが、それでもこの村はホームズにとって幸せでもあった。

それを思い出せると言うだけでホームズの心は軽くなるのだ。

ホームズの歩みが少しだけ早くなったその瞬間ヨルの鼻にある臭いが流れる。

顔をしかめるヨル。

そんなヨルに構わずホームズは、アオイ村に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

広がっていたのは、ボロボロの小屋。

アオイハナの残骸とおぼしき枯れ草の広がった畑。

 

 

 

 

 

 

廃墟となったアオイ村だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういうことだい?これ…………」

ホームズは、想像もしていなかった景色に頭がついていかない。

「どういうことも何も、奴ら村を捨てたんだろ」

ヨルの言葉にホームズは、首を振る。

「ヨル、だったら、この臭いはなんだい?」

ホームズの顔は険しい。

「おれは、この臭いのもっと酷いものを嗅いだことがある」

そうホームズはこれより酷い匂いをあの地下で嗅いでいる。

「これは…………死臭だ」

ホームズは、そう言って手近な家の扉を開ける。

そこには、腐敗しきり、手足の形も分からなくなった死体があった。

「ヨル」

「餓死だろうな。元々貧しい村だったんだろ」

そう元々は、貧しく農作物など何も生えない村だったのだ。

それを神父の小細工によって見かけだけ豊かになっていたのだ。

ホームズは、手を合わせると部屋からでいった。

家から出るとそこには、畔に腰掛け枯れた花を見ているルイーズがいた。

その険しい顔をヨルは見逃さなかった。

だが、ホームズが家から出てきたのに気づくと直ぐにいつもの表情を戻し後ろについた土をパンパンと払って立ち上がる。

家の中にあるものが何かわからないルイーズではない。

「……………とりあえずマープルちゃんのお墓に行くかい?」

「………うん、そうする」

ルイーズの言葉に頷いてホームズは、マープルの墓へと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

二人の思い出の場所である池のほとりにマープルの墓は、あった。

枯れた花や腐ったお供え物がないところを見るとどうやらちゃんと掃除をしていてくれたらしい。

「ユーフォちゃん、しっかりやってくれたんだねぇ………」

ホームズは、そう言って買ってきた花を置こうとしてピタリと動きを止める。

「どうした?」

「……………土の色が違う。だれかが、この墓を掘り返したんだ」

「なんのために?」

「そんなのおれが知りたいよ」

ホームズの言葉にルイーズがスコップを投げてよこす。

「なら、掘ってみたまえ。それで多分答えが分かるはずだ」

ホームズは、渡されたスコップとルイーズを見る。

まるでこうなることが分かっていたかのように渡してきたスコップにホームズは、一つの考えがよぎる。

「母さん…………何かに気付いてる?」

「正直にいうなら、外れてほしいと思っている」

ルイーズの答えを聞くとホームズは、一心不乱に墓を掘り返す。

しばらく掘り進めるとカツンと埋める時に使った棺桶代わりの木箱の感触に辿り着いた。

ホームズは、土を払い棺桶の蓋に手をかける。

そうホームズにもある考えがよぎっているのだ。

だからこそ、この考えだけは否定したい。

そういう思いを込めて棺桶に手をかける。

「…………開けるよ」

誰の返事も聞かずホームズは、棺桶の蓋を開いた。

そして、棺桶の中身を見てホームズは、唇をぎゅっと嚙みしめる。

「最悪だ………予想通りだ」

棺桶の中身は空っぽだった。

いや、正確にいうなら、封筒に入った手紙が一つだけ。

『ホームズさんへ』

ホームズは、震えた字でそう書かれた手紙を拾い裏返す。

『ユーフォより』

ホームズは、深呼吸をして手紙を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『まず最初にごめんなさい。私は、マープルちゃんのお墓を守れませんでした。マープルちゃんは、村の人達の手によって掘り返され持ち去られてしまいました。発見したのはたまたまでした。

お墓に忘れ物をした私が夜にこっそり行ったら彼らが一心不乱にマープルちゃんのお墓を掘り返していました。

仕方ない、これは、村のためだと言って掘り返すあの人たちを見てしまいました。

ホームズさんの言葉を聞いた私は、すぐに分かりました。

あの人たちは、マープルちゃんの死体を肥料に使うつもりです。

いや、使ったと言った方が正しいでしょう。

その村の人たちには、私のお父さんもいました。

その夜は眠れませんでした。

翌朝、教会の跡地の墓地にいくと、そこにはいくつも掘り返された跡がありました。

怖いです。とても。普段生活の裏に何か取り返しのつかないことが起こっている気がしてなりません。

あの朝の優しい笑顔の裏で夜に一体どんなことをやっているのか……

おはようと挨拶する村の人たちは、一体いつから、起きているのか?

頑張れ、わたしも頑張るからという村の人たちは一体何を頑張っているのか?

普段いってきますと言って出て行くお父さんは、一体どこに行っているのか?

食事まえに手を洗うお母さんの手は一体何で汚れているのか?

 

 

 

もう怖くて恐くて怖くて恐くて、誰も信じられません。

 

 

 

 

 

ホームズさん、ルイーズさん、あなたたち二人にお願いします。

 

 

 

 

 

どうかこの村の狂気を終わらせてください』









では、また百六十六話で
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