1人と1匹   作:takoyaki

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百六十六話です




今回で過去編は終了となります





てなわけで、どうぞ


其の終

「………あいつら、何も学ばないんだな」

ヨルは呆れたようにため息を吐く。

ホームズは、静かに手紙閉じる。

「お前らがどうこうする間もなく、終わってると思うがな」

ヨルは、首をひねる。

「つまり、村の奴らは、懲りもせずアオイハナを作ろうと思い、死体漁りをしていたというのか?」

ヨルの言葉にホームズは、なんの反応も示さない。

「微妙に違う」

ルイーズが代わりに答える。

そして、ヨルに質問する。

「ヨル、さっきの家には死体があったんだろう?」

「あぁ」

「あの家、村長の家だ。私は商売の許可を取りに行ったから覚えてる」

そう言うとルイーズは、ホームズのまえに立つ。

「戻るよ、ホームズ。原点こそ、答えだ」

ホームズは、静かに頷いてルイーズの後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

ホームズ達は再び腐乱死体のある村長の家に入る。

ルイーズは、真っ先に入り死体の顔を確認する。

「前歯の金歯、それに右の奥歯の銀歯……間違いない。村長だ」

確認を済ませるとルイーズは、村長をどかす。

すると後ろに引き出しが出てきた。

片っぱしから引っ張り出すが何もない。

残るは鍵のかかった引き出しのみだ。

「……そんな……鍵がないんじゃ……」

「いや、多分これはブラフだ。何せ、この鍵付きの引き出しだけ村長の背中になかった。隠していないものに用は無い」

ルイーズは、そう言って村長の背中の位置にあった引き出しをもう一度引っ張り出す。

「見たまえ、ホームズ。側面と底面で色が違う」

確かに側面と底面とでは微妙に色が違った。

ルイーズは、すぐに引き出しを逆さまにひっくり返し、軽く叩く。

すると、板が一枚落ち、その後何かのノートのようなものが落ちた。

「二重底!」

「やれやれ、エロ本ってわけじゃあなさそうだ」

ルイーズは、ホームズにノートを投げてよこす。

「外に出るよ。この臭いのところで長居をするつもりはないからね」

そう言うとルイーズは、外に出る。

ホームズも慌てて外に出る。

ホームズは、ノートを開いた。

ところどころ塗り潰されていて読み辛いが何とか読み進めていく。

 

 

 

 

 

『これから語るのは、私たちの罪だ。私たちのやったことは許されることではない。忘れさせてもいいのだが、風化させ同じことの繰り返しでは始末が悪い。

だから、ここに記そうと思う。

ヴォルマーノ一家によって村のからくりは、露呈した。

その事実に多くの者達は絶望し、そして、今度こそ誇れる村にしようと頑張った。

そう決意したその年、アオイハナが突然萎れるいう事態に陥った。

水も十分に与えているのにだ。

村人たちは、追肥を毎年おこなうのだが、ヴォルマーノ一家によって肥料の正体が分かってから使わなかったのだ。

だが、元々土地に栄養のない土地だ。

今まで神父殿、いや、ティーアの用意した肥料でなんとか保っていたのに突然それをなくしてしまえば、こうなるのは当然と言えた。

村人たちは慌てた。なんとかしなくては、と。

だが、あの肥料は、正体が分かった時に全て捨ててしまった。

今更どこにもない。

その時、■■■が行った。

墓地から死体掘り返して肥料にすればいいと。

勿論皆反対した。

それは、死者に対する冒涜だ。第一そんなことはしないようにと誓ったばかりだと。

しかし、■■■は、続ける。

それは、生きている子供達を殺し、肥料にしたからいけなかったのだと。

なら、殺されることなく最初から死んでいたものならいいではないかと。

妙に筋の通った言葉に我々は、言葉も出なかった。

そんな我々に■■■は、さらに言葉を続ける。

死んだものに敬意を払うのも結構だが、生きているものの事を考えるべきだ。今の状態は死者に敬意とか、そんな綺麗事で乗り切れる場合ではないと。

それに、死んだもの達の考えることは生きている我々の幸せだと。

私たちは、目から鱗の落ちる思いだった。

私たちは、直ぐに教会の墓地に赴き死体を掘り返した。

幸いこの村は土葬だ。探せば死体などいくらでも出てくる。

しかし、死体を掘り返してから我々にもう一つ壁に直面した。

死体のままでは、肥料に出来ないのだ。

どうにかして、あの液状化したものにしなくてはならない。

しかし、死体をすり潰す機械はあの火災で使い物にならない。

すると今度は、▲▲▲が口を開いた。

細切れしてそれをすり潰せばいいのではないかと。

こうなるともう村人の総出だ。

男達が掘り返してぶつ切りにする。

女達がそれをすり潰していく。

流石にその間は、子供達を家に閉じ込めておく。こんな様を見せたくない。

そうして三日かけてなんとか肥料を作り上げた。

ところが、若干足りないことが判明した。

しかし、教会の墓地は、もう全て掘り返してしまった。

すると、■■■が再び口を開いた。

池のほとりにもう一つだけお墓がある。

村人たちは夜にそれぞれスコップを携え池のほとりに向かった。

墓標には、マープル・ヴォルマーノと書かれていた。

皆、動きを止めた。

この名前を前に先ほどまでと同じことなど出来ない。

しかし、■■■は、真っ先に掘り返した。

■■■は、いう。

どうせバレない。

それに、彼女は、この村が好きだった。だったら村のためにと喜んでくれるはずだと。

皆は■■■の言葉に頷いて掘り返した。

彼女の死体を取り出すとそのまま肥料に変えた。

何とか肥料は、揃い追肥を行った。

 

 

 

 

だが、アオイハナ達は盛り返すことなく枯れていった。

結局その年の村には、何も収入がなかった。

 

 

 

再び村人達が集まって現状を話し合った。

そう肥料がないというのは、やはり深刻な問題なのだ。

もう教会の墓地に死体はない。

来年以降どうやってもアオイハナを育てる手立てがないのだ。

困った私達が、■■■の方を見る。

打開策を今までなんども出していた■■■なら、必ず答えを出してくれると。

ゆっくりと■■■が口を開く。

誰か、人身御供を立ててはどうかと。

だれか、不治の病に侵された病人や罪人はいないかと。

その瞬間村人たちは再び大反対した。

そんなこと許されないと。

■■■は、それに真っ向から言い返す。

もう一度言うがこの村は綺麗事では乗り切れないと。

すると◆◆◆◆が言い返す。

なら、お前が誰か見つけてこいと。

すると■■■は、ゆっくりと口を開く。

その■■■から紡がれた名前に人々は、息を飲んだ。

その名前は■■■の娘の名前だったからだ。

皆の言葉が出ないなか、■■■は、言葉を続ける。

マープルの死体を掘り返すところを見られた。このことを秘密にするなら、あいつをどうにかしなくてはならないと。

握り締められる拳に村人たちは■■■の覚悟を受け取り、自分もと人の名前を挙げていった。そして、徐々に人身御供の人数も増えていった。

 

 

 

 

 

そして集まった人身御供を肥料にかえ、畑に植え、再びアオイハナの苗をまく。

だが、アオイハナ達は再び枯れ始めた。

肥料の栄養が足りないことが原因だということは、村人達誰もが思っていった。

そして、村人たちは再び選定をした。

そして肥料を作った。

しかし、アオイハナは、回復しない。

また村人たちは集まって肥料を選定する。

そして作り出す。

だが、まだ変わらない。

もう一度選定する。

だが、全く花は咲かない。

もう一度選定しようとした。

だが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう、村人は残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

私一人だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

そこでようやく自分達の過ちに気づいた。

何が間違いだったかなんて今更問うまでもない。

全てだ。

全てが間違っていたのだ。

死者を冒涜したことも。

誰かを犠牲にすることも。

それをできないのは、綺麗事だと切り捨てることも。

 

 

 

 

 

もう食べるものもない。

おそらくこれが読まれているということは私はこの世にいないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから記そうと思う。これは、私たちの罪の告白だ』

 

 

 

 

 

 

 

「そんな……………そんなことって………」

ホームズは、膝から崩れ落ちた。

ルイーズは、腕を組んで考える。

「たぶんアオイハナが育たなかったのは、肥料が足りないからじゃあない」

ルイーズは、そう言って組んでいた腕を解く。

「まあ、花じゃあまり聞かないけど、多分、連作障害だ」

「何だそれは?」

ヨルの言葉に頷くと質問に答える。

「同じ土地で同じ作物を続けて育てると病気に罹りやすくなるんだ」

ルイーズは、そう言って枯れたアオイハナをむしる。

「例えるならキュウリにかかる病気がある。その病原菌が発生したところに翌年もキュウリを植えれば病原菌がまた発生する。

だから、翌年はキュウリはじゃなくて、別の作物を植えたり、土を消毒したりするんだけど…………」

ルイーズは、畑に生えている枯れたアオイハナを一つだけ毟る。

「彼らは、こう言ったね。毎年このアオイハナを育ててるって」

「あぁ、言っていたな」

「おまけに与えてる肥料は、過剰と言ってもいいぐらいの栄養の肥料だ」

そう言うと草を捨てる。

「病気にならないほうがおかしい」

「なるほど」

「まあ、仮に連作障害が起きなくとも花は育たなかったろうけどねぇ」

「どういうことだ?」

「あの肥料は、死体を潰して腐らせたものだ。お墓から掘り起こしたものならまだしも、出来たばかりの死体じゃ無理だよ」

ルイーズの説明が終わると風が一筋吹く。

「結局、滅ぶべくして滅んだということか……」

何かを犠牲に成り立つものなどない。

だが、それを仕方ないと何処までも許容して行ってしまえば取り返しのつかないことになってしまう。

犠牲を認めるのが大人なのではない。

犠牲を出さないよう努めるのが、大人なのだ。

 

 

 

安易に犠牲を生み出すことは仕方ないと諦めてしまうことは、

 

 

 

犠牲という免罪符に逃げてしまうことは、

 

 

 

 

きっと間違いなのだろう。

彼らは結局、犠牲という免罪符に逃げたのだ。

これが、ことの顛末。

いつまでも変わらない人間にヨルは、大きくため息をついた。

しかし、対照的に崩れ落ちたままホームズは、動こうとしない。

ヨルは、不思議そうに首をかしげる。

「どうした?」

「…………彼らに肥料を使うという選択肢を与えたのは誰だ?」

絞り出される言葉にヨルはノートを見る。

「この■■■じゃないのか?」

「違う」

ホームズの声は震えている。

恐れている。

慄いている。

一体何に?

ルイーズは、顔をしかめている。

「そいつだって、肥料が人間だって知らなければ、こんな事しなかった」

ホームズは、震えながら続きを言おうとする。

だが、代わりに出てくるのは吐瀉物だ。

「おい……!」

ヨルの言葉に構わず、ホームズは声を絞り出す。

「おれが、あの時教えてしまったんだ………あの時、池のほとりで責められた時………」

その言葉にルイーズは、顔を押さえる。

ルイーズは、これに気付かない事を祈っていた。

そう直接的な原因は彼らだ。

だが、間接的な原因は目の前にいる崩れ落ちている自分の息子、ホームズだ。

どんなに言い訳しようと、ホームズがこの事実を教えなければこんな事は起きなかった。

少なくとも殺し合いなんて事は絶対に起きなかった。

この虐殺の犯人が村人なら、文字通り真犯人は、間違いなくホームズだ。

「だって、仕方ないだろう!彼らは、人を犠牲にしていたんだ!!知らないなんてそんな事許されるわけない!!だから伝えたんだ!!言葉にしたんだ!!おれは、間違ってない!!正しい行いをした!!」

張り裂けんばかりのホームズは、言葉を吐き出した。

ホームズの言葉は、虚しく山にこだまする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………うよね」

叫び終えたホームズは、ポツリと呟いた。

「は?」

「違うよね………」

ホームズは、もう一度口を開く。

「違うんだよ。おれは、あの時、そんな気持ちで言ったんじゃあない……」

ホームズの両目からは、涙が溢れる。

「おれは、あの時たまらなくやだったんだ。やってもいない自分の罪で責められるのが、濡れ衣を着せられるのそして、それで憎まれるのが………ははは」

ホームズの口から渇いた笑みが漏れる。

「ハッーーーーーハッハッハはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」

「ホームズ!!」

泣きながら狂ったように笑うホームズにヨルは思わず声を上げた。

ホームズは、拳を握り締め、地面を殴る。

「それが……その結果が……自分の事だけ考えた結果がこれだ!!あっていいものか!!自分の保身の為に人の命を犠牲にした!こんな事が許されるものか!!」

噛み締めた口からは、血が流れ、拳から血が流れるほど強く打ち付ける。

両手はも血で真っ赤になっている。

「おいよせ!」

ヨルの言葉で打ちつけられる拳が止まる。

俯かれたさきに、涙と血がシミを作る。

「…………こんな事もう起こさない……」

静かにホームズから、響き渡るような声が紡がれる。

そのあまりに静かなホームズにヨルは、背筋が凍える。

「自分の為に、誰かを犠牲になんてさせない」

ゆっくりとホームズは立ち上がり、それを側でみていたルイーズの顔には影が出来る。

「例えば真実でも誰かが傷つくぐらいならおれが、背負う。罪も、傷も、人生さえも、背負ってやる」

廃墟となった村を睨みつける。

「いくらでも、恨まれてやる!!責められてやる!憎まれてやる!!

それでこの光景を見なくて済むのなら、いくらでもっ!!」

ちょっとずつ狂っていくホームズにヨルは、言葉が出ない。

「おい、ホー………」

呼びかけようとして、隣にいるルイーズを見る。

終始暗い顔をしているルイーズを見て、ヨルは、今までの態度が繋がった。

「お前、これ全部分かってたのか?」

ルイーズは、悲しそうに頷く。

「私は、母親失格だよ」

そう言って凛と立つホームズを見る。

「ねぇ、ヨル。もう一個お願い」

ヨルは答えない。

無言を肯定と捉えると言葉を続ける。

「ホームズが今ここで選んだ生き方は、いつか必ずホームズ自身を深く傷つける」

ヨルは尻尾を振りながらルイーズの言葉を聞く。

「だからね、その時が来たらあの子を支えてやってくれないかい?」

「やだね」

「即答だね。でもさ、」

そう言ってポンと頭を軽く撫でる。

「君たちは一連托生だろう?この先壊れた片割れと一緒に歩みを進めるつもりかい?」

ヨルは、顔を顰める。

「お前、それはお願いではなく、脅迫と言うんだ」

「交渉と呼んでほしいね」

ヨルは、覚悟を決めたホームズの背中を見つめる。

凛として立っていながら何故か今にも崩れそうなほど脆いその立ち姿に、ヨルは舌打ちをする。

封印を解かれた時からずっと思っていたことだ。

とんだハズレくじを引いたと。

だが、その思いは変わった。

ハズレくじではない。

(大凶だ………)

ヨルは静かに頷く。

「分かった。受けてやる。その代わりその時が来ないよう忠告をしてやる」

「いいよ。寧ろ頼みたいぐらいだ。でもきっと、あの子は聞かないよ。そして、あの生き方に傷つけられることがやってくる」

そう言ってゆっくりと立ち上がる。

「頼むよ、ヨル」

いつになく真剣な母親の瞳で射抜かれたヨルは頷く以外の選択肢はなかった。

死の香りが漂うこの村でホームズは、静かに決意を固め、そしてヨルもまた願いを聞き入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホームズの始まりの物語は、ここまでだ。

大切な家族のような人間は殺され、死体も残らず、挙句村人を結果的にとは言え、殺すこととなった。

今でもその傷は癒えることはなく、十字架は消えることなくホームズの生き方を縛り続けるだろう。





これにて長い長い過去編は終了となります。
拾弐話で凄く綺麗に終わったように見えましたが、最後に余計な一文が入ってます。

この章は、ホームズという人間を語る上では外せないものです。
そして、この章を振り返る上で、外せないのが、マープルです。
感想でも好評で嬉しい限りでした。
変な子は、書いてて楽しいんです。
というか、書いてて楽し過ぎたので、別れのシーンは書いてて辛かったです。




次の話から、現在に戻ります。




ではまた百六十七話で( ´ ▽ ` )ノ

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