1人と1匹   作:takoyaki

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百六十七話です



今回から現在に戻ります。



てなわけで、どうぞ




※章タイトル間違えたので直しました


ホームズとヨル
愚者の耳に念仏


「………ホームズのその腰にある小袋は、マープルから貰ったものだったんですね………」

ヨルから語られた長い話を全てを聞いたエリーゼは、ポツリと言った。

ホームズが大事に使っているその小袋は、大切な家族から譲り受けた大切なものなのだ。

エリーゼは、その後俯きながら聞き辛そうに口を開く。

「それで………ホームズのお母さんは………」

「死んだ。二年も前の話だ」

ヨルの言葉にエリーゼは、思わず息を飲む。

ローエンは、髭を触る。

「アオイハナの村の出来事は、何年前でしたっけ?」

「二年前だ」

「…………タイミングが悪いですね……」

母親の死とアオイ村の壊滅の真実。

その両方は、十六の子供が背負うには重過ぎた。

そして、壊れるには十分過ぎた。

エリーゼは、ぎゅっとスカートを握り締める。

「…………アオイハナを作らないという選択肢は、なかったのでしょうか………」

そう、そこで諦めればよかったのだ。

ホームズ達に誓ったように約束したように胸を張れるような村を作るためには、まずアオイハナから切り捨てなければならなかったのだ。

だが、彼らはそれをやらなかった。

約束を破り、今で通りの生活を行おうとした。

エリーゼの言葉にヨルは頷かない。

「無いだろ。それが人間だろ?」

それどころかヨルは意地の悪い笑みを浮かべる。

ヨルの言葉にローエンは、静かに頷く。

「一度豊かな生活に慣れてしまえば、そこから元の貧しい生活に戻ることは困難です」

エリーゼは、ローエンの言葉に俯くしか無い。

そして、もう一つエリーゼが思ったことを口にする。

「………ホームズが言っている事間違ってないと思います」

ヨルの耳がピクリと動いた。

「だって、悪い事をしたのに、酷い事をしていたのに、それを知らないなんて良くないです」

ヨルはこくりと頷く。

「その通りだが、問題はその言葉がそういう………そうだなお前らの言葉を借りるなら、『良心』から出た言葉じゃない、という事だ。ホームズは、それを建前だと気付き自分を騙す事なく、受け入れた」

ヨルは、ベッドに横たわるホームズを見る。

「元々、本当の事を言わない奴だったが、この出来事以降更に悪化した。何度も止めろと言ったが結局このザマだ」

鼻を鳴らしてヨルは、牙を見せる。

「こういう自己犠牲ってのは、人間達の間では、美しいのか?好ましいのか?正しいのか?」

ヨルの言葉にエリーゼは、答えることができない。

「………エリーゼさんに言っても仕方ありませんよ。それは、ホームズさんに言うべきです」

「それもそうか」

ローエンに静かに諌められヨルは、尻尾をくるりと丸める。

自己犠牲、払われる代価にこれ以上はないだろう。

それをやって報われればいい。

だが、報われるばかりではない。

恩を仇で返すなんて言葉が存在するのが、その証拠だ。

その犠牲の果てについてくるのが感謝だとは限らない。

「………ホームズ……」

ここまで頑張っていたホームズを待っていたのは、この結果だ。

エリーゼは、堪えきれなくなり思わず俯いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、ホームズが僅かに動いた。

『「ホームズ!!」』

「ホームズさん!」

二人は思わず立ち上がりホームズに呼びかける。

「………エリーゼ?ローエン?」

ホームズは、ゆっくりと起き上がる。

起き上がったホームズは、すぐに自分の顔に巻かれた包帯を触る。

「………そっか……夢じゃ無いのか……」

ホームズの瞳には、エリーゼの顔もローエンの顔ももう映らない。

先ほどからホームズに届くのは二人の声と、そして、

「………起きたな」

「………ヨルだね、この声は」

ヨルだけだ。

ホームズは、包帯の上から自分の目を触る。

「あの後、みんなどうなったんだい?エリーゼ達の声しか聞こえないけど。合流したんじゃないのかい?」

「違う。合流してない。そもそも、ここは、ハ・ミルじゃない」

「ハ・ミルじゃない?じゃあ、ここは何処だい?」

「マープル・ヴォルマーノのいたあの廃村だ」

ホームズは、そこで動きを止める。

目の見えないホームズ相手なら幾らでも隠しようがある。

だが、ヨルはホームズにそれをしない。

ホームズの為に優しい嘘なんてつかない。

何も隠すことなく言ったヨルにエリーゼとローエンは、思わず息を飲む。

ホームズは、それを聞き逃さない。

辿り着いた可能性にホームズは、顔から血の気が引く。

ぎゅっと握り締められている布団は、シワになる。

「ヨル、君、まさか………」

「あぁ、話した。この村のことも母親のこともマープル・ヴォルマーノのことも…………お前の罪のことも」

「何でだい……止めろと言ったはずだよ、おれは」

震える声には、今のホームズの全てが詰まっていた。

「いつか話すからと!!そう言っ」

「だったら、いつ話すんだ」

声を荒げるホームズの言葉をヨルが間髪入れず遮る。

「答えてみろ、ホームズ。お前はそれをいつ話すつもりなんだ」

ヨルの言葉にホームズは、答えられない。

その返答など最初から分かっていたようだ。

「本気に本気で返せないくせに何を偉そうに………」

「─────っ!!」

一番触れて欲しくないことを現場にいたヨルに触れ回れてしまった。

しかもよりにもよってこのタイミングで。

ホームズは、ヨルに向かって手を伸ばそうとする。

だが、視界というものが存在していないホームズは、そのままベットから落ちてしまった。

「ホームズ!!」

慌ててエリーゼとローエンが駆け寄る。

「いつものようには、いかないみたいだな」

床に這いつくばるホームズをヨルは机の上から見下ろす。

「お前が選んだ生き方の結果だ。せいぜい噛み締めてろ」

「好き勝手言いやがって………」

「人の忠告無視して好き勝手生きてきた結果がこれだと言っているんだ」

ホームズとヨルの間に険悪な空気が流れる。

きっと瞳があればかつて無いほどの怒りを込めた目で睨まれていただろう。

そんな彼らをローエンとエリーゼは、おろおろとしながら見ている。

ホームズは、何とかベットにもどる。

分かっているのだ。

ヨルは、何回も忠告していたのだ。

ミラだって、

レイアだって、

マーロウだって、

だが、それでもホームズは、この生き方を選んだ。

人々の忠告を無視して今の状態になっているのだ。

「…………分かってるよ、それぐらい」

ホームズは、弱々しく今にも掻き消えそうな声でそう告げる。

「…………じゃあ、おれは間違っていたのかい?」

「………知るか。だが、少なくとも正解じゃないだろ」

ヨルはその金色の瞳で見下ろしながらそういった。

その言葉に先ほどまで険しくさせていたのとは、打って変わってホームズは、沈んだ表情で俯く。

「ホームズ………」

エリーゼの心配そうな声にホームズは、慌てて顔を上げる。

「そ、それよりこれからどうしようか?」

無理矢理出されたホームズの、明るい声に二人は渋い顔をする。

だが、ホームズには見えない。

「とりあえず、ジュード達と合流しようか?レイア達がどうなったかもわからないし知りたいしそれにローズのことも心配だしアルヴィンも心配だし……うん。とりあえず調べたいことがあるんだけどこの目じゃ無理だし君たち頼むことになるかな?

まあローズと出会うと戦いになっちゃうだろうけど探さないわけにはいかないよね。

どうだい?先ずは彼らと合流しないかい?そうすればきっと……………」

「ホームズさん」

端から見ていれば無理しているのが丸わかりの喋りにローエンが我慢できなくなり、遮った。

「難しいことは、明日にしましょう」

「うん………」

「ヨルさんもそれでよろしいですか?」

「問題ない」

彼らは、そう返事をすると部屋から出て行った。

「あ、ホームズさん。何かあったら言ってくださいね」

部屋を出るまえにローエンが言うとホームズは、少し微笑んで頷いた。

とても寂しそうな笑顔で。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ここが、今の村?」

ホームズは、村の中心にいた。

村には、人がいて皆意気揚々と働いている。

「あれ?何でみんな働いているんだろう…………」

そして、ホームズは更に自分の顔の変化に気づく。

「あれ?包帯がない…………目が見えてる」

驚いて自分の手のひらを見る。

確かに見えている。

「何で?」

手から村へと視線を移す。

すると先ほどまで元気に働いていた息絶えていた。

身体は黒い泥へと変化していく。

「そんな!!なんで!!」

「全部貴方のせいよ、ホームズ・ヴォルマーノ」

後ろを振り返るとそこには血だらけで二刀をだらりとぶら下げたローズがいた。

「ローズ………!」

「この不幸の連鎖を断ち切る」

ローズの刀が真っ直ぐホームズに向かって振り抜かれた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────っ!!」

ホームズは、跳ね起きた。

慌てて身体を触るが血は出ていない。

汗で身体に張り付く衣服が気持ち悪い。

息は荒く、心臓は早鐘を打っている。

「夢か………」

ここのところ見続けた悪夢とは、また別の展開にホームズは、ぎゅっと手を握る。

もうずっと見続けていたが、それでもこればっかりはいくら数をこなしてもなれない。

寝てるはずなのにホームズの身体から疲れが抜けない。

フラッシュバックする悪夢の景色にホームズは、くしゃくしゃと頭を抱える。

こうでもしていないと本当におかしくなってしまう。

「ホームズ」

突然声をかけられホームズは、肩をびくと動かす。

「えーっと、エリーゼの声だよね?どうしたんだい?こんな夜中に」

「阿呆。とっくに朝だ」

「え、だって………」

そこまで言って目元に巻かれた包帯を感じる。

ホームズの瞳に光がささなかった為、全くわからないのだ。

「そうか………そうだったねぇ……」

顔も知らない、記憶もない父親との唯一の繋がりが完全に消えてしまった。

しかも、それを消したのは瞳の色を褒めてくれたローズだ。

夢で見た景色も文字通り夢幻だ。

「ホームズさん、大丈夫ですか?だいぶうなされていたように見えましたが……」

「え?あぁ、だい………」

返事をしようとするホームズの脳裏に先ほどの夢がフラッシュバックする。

「………じょう……」

次は、マープルとの別れ、そしてローズとの戦闘だ。

ないはずの両目が熱い。

「…………ぶ」

『全然大丈夫に見えないぞー!!』

ティポの言葉にホームズは、困ったように弱々しく微笑む。

明らかにいつものホームズではない。

父親との唯一の繋がりである瞳が閉ざされ、視界が消えているくというのにいつものように振舞おうとしている。

一生懸命普通ないつも通りのフリをしている。

それが見ていて痛々しい。

見ている方が辛い。

「ヨル………」

エリーゼは、思わずギュっとスカートを握り締める。

「私じゃ治せませんでした。ヨルなら出来ますか?」

エリーゼの精霊術を持ってしてもホームズの目は元にもどらなかった。

心の傷は、治せない。

だが、身体の傷は治せるかもしれない。

実際、ローズに貫かれホームズで切り裂いた腹部の傷は治したのだ。

後、治すべきはホームズの目だ。

しかし、エリーゼでは治せなかった。

だから、ヨルに聞いたのだ。

ヨルが規格外の存在は皆知っているし、封印を解く時に願いを叶えるという事を行っている。

そんなことありえないことぐらいわかっている。

しかし、期待を込めて尋ねるエリーゼにヨルは、返答する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「出来るぞ。視力を戻すぐらい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『「「…………え?」」』

場の空気が凍りついた。

ヨルの言葉をゆっくりと反芻する。

真っ先に反応したのは、エリーゼだった。

「どうしてそれを先に言わないんですか!?」

「先にアオイ村の話をしろと言ったのはエリーゼだろ」

ヨルは、欠伸をしながら言う。

「なら何で今まで黙っていたんですか!!」

「今まで聞かれなかったからだ」

ヨルは、詫びれもせず続ける。

エリーゼは、思わず目眩起こして倒れそうになった。

何が化け物だ。

何がシャドウもどきだ。

ホームズのそっくりさんではないか。

まあ、がくっと疲れたがこれで一件落着だ。

後はヨルに任せよう。

「大丈夫かい?エリーゼ?」

『自分の心配をしろー!!』

疲れ切ったエリーゼに代わりティポがホームズに注意する。

「まあ、戻すに当たっていっておくが、まず一つ、瞳の色までは戻らない」

ヨルは、そう言いながら自分の瞳を尻尾でさす。

「戻し方としては、俺の視力の分身を移すようなものだ。だから、瞳の色は俺と同じ金色だ」

つまり、視力は回復すれど、自分と父親の繋がりである瞳の色は、戻らないのだ。

ホームズは、僅かに顔を俯ける。

「でも………」

「そして、もう一つ」

ホームズの決意を断ってヨルは言葉を続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の記憶から瞳が碧かった(丶丶丶丶)という記憶が消える」















信念を貫くのは、大切なことです。
問題は、無傷では済まないことを彼が自覚しているかどうかです。



では、また百六十八話で( ´ ▽ ` )ノ

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