1人と1匹   作:takoyaki

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百六十八話です



ちょっと短いです。



てなわけでどうぞ


原価交換

「どういうことですか?」

「言葉の通りの意味だ。視力が戻る代わりに瞳の色は、金色になり、瞳の色が碧かったという記憶が消える」

エリーゼの質問にヨルは、淡々と答える。

「少し説明してやる。まず、こいつの父親の瞳が碧かったという記憶は消えない。だが、ホームズの瞳の色が、碧かった、そしてそれが父親との繋がりだという記憶が消える」

ヨルはそう言って尻尾を裂き二つにする。

「更にこいつの小ムスメがホームズをイジメから救ったと言う記憶は残る。だが、小ムスメが瞳の色を褒めたという記憶は消える」

さっきとは別の意味で凍りついた世界にヨルは、更に言葉を続ける。

「それでも視力を戻したいか?」

「それは………………」

ホームズは、答えられない。

ローエンは、相変わらず渋い顔をしている。

「私たちの記憶からホームズさんの瞳の色が碧かったという記憶は消えるのですか?」

「いや。ホームズだけだ」

それからヨルはすっと目を細める。

「だが、お前たちがいくらホームズの瞳の色が碧かったと伝えてもホームズは、それを自覚することはない。

例えるなら、小説の朗読を受けているようにしか感じない。

何せ、自分のこととして感じられないんだからな」

ローエンの疑問を先回りしてヨルは告げる。

エリーゼは、淡々と言葉続けるヨルを睨みつける。

「どうして、そんな意地悪を言うんですか!!」

エリーゼの言葉をヨルはつまらなさそうに聞いている。

「お前は、飯屋で出てくる料理にどうやって値段が付けられているか知っているか?」

ヨルは、尻尾を突きつけて話を進める。

「マーボーカレーなら、豆腐を買った時の金額、スパイスを買った時の金額、白飯を買った時の金額、そしてその他諸々の経費と儲けを出して金額を出す。これを意地悪というのか?」

ヨルは更に続ける。

「寧ろ、俺は優しいくらいだ。原価分の値段しか要求してないからな。ついでに言うなら最初からデメリットを提示しているだけありがたく思え」

そう言って尻尾を元の長さに戻す

「大切なものは、目に映らない、だったか、昔どこかで聞いた」

ヨルはそう言うと言葉を続ける。

「思い出というのは、それだけで価値がある。今を生きる力になる」

ヨルは、そう言ってホームズに目を向ける。

「だからこその代償だ。その意味をよく考えるんだな」

ホームズは、自分の両目を包帯の上から触ると動き止めた。

「少し………考えさせて……二人と、それとヨル。悪いけど席を外しておくれ」

ローエンとエリーゼは、静かに頷く。

「わかりました。ホームズさん、何かありましたら、声をかけて下さいね」

「うん、わかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「……………」

ホームズは、ここに来てからすっかり包帯を触るのがくせになっていた。

ホームズの碧眼は、顔も知らない、記憶にもない父親との繋がりであり、証拠だった。

だが、ローズの手によって潰されその瞳に光はともることはない。

戻してしまえば、父親との繋がりであった碧眼という記憶も消されてしまう。

ローズの事を考えず、クリスティ一家の真実を伝えていたらこんな事には、ならなかったかもしれない。

だが、ホームズの選んだ生き方はそれを許さない。

『捨ててしまったらどうですか?そんな生き方?』

声のした方を振り返るとそこには泥にまみれたアーティーがいた。

「アーティー!!」

『恨んでしまいましょうよ。憎んでしまいましょうよ。恩に報いない、ローズ・クリスティーを』

「黙りたまえ!おれは………」

身体を震わせ否定するホームズを泥にまみれたアーティーは、高笑いをしている。

そして、全身が黒い泥へと変わり消滅してしまった。

「幻覚………」

ホームズは、ギュと布団を握りしめる。

いくらでも機会は、あった。

しかし、ホームズはそれら全てを潰して今の結果を選んだ。

結局誰のせいかと聞かれれば犯人は、ローズ、真犯人は、ホームズ。

結局ここでもホームズのせいなのだ。

当然と言えば当然だ。

ホームズは、こうなるように動いていたのだ。

だったら、思い通りなったと手をあげて喜んでもいい。

ホームズは、熱い両目を静かに撫でる。

「………恩をかえせと言うつもりはないけれど………仇で返せと言った覚えもないんだけどなぁ………」

『やぁやぁ、それはやっぱり勝手というものだよ、バカ息子』

突然暗闇にぼんやりと浮かぶルイーズの姿にホームズは、戸惑う。

「また、幻覚か……目が見えないのに幻覚を見るってのも変な話だなぁ……」

『まあ、幻覚が見えるぐらいには、参っているんだろうねぇ、そこぐらいは認めたまえよ。ローエンさんにエリーゼちゃんだっけ?も心配するゼ』

「そんなことより、勝手ってのはどういうことだい?」

幻覚ルイーズの発言を無視して尋ねるホームズに肩をすくめる。

『やれやれ。君の生き方は、自己犠牲ってのは、文字通り自ら己を犠牲にすると書くんだよ』

肩をすくめる幻覚ルイーズは、更に言葉を続ける。

『君は自分を犠牲にしてローズちゃんを傷付かないようにした。いいかい、その目は犠牲になったんだ。犠牲の先に望むのは結果のみ。結果としてローズちゃんは、傷付かずに済んだ。後の恩だの仇などは、ただの付属品さ』

「厳しい言い方……もしかして………」

『私は止めろと言った生き方を君は選んだんだ。それでこのザマ………そりゃあ怒りたくもなるよ』

「あ、やっぱり怒ってたんだ」

『多分みんな怒ってるゼ。いや、怒るゼと言った方が正しいかな?』

「ん?」

『いやいや、もしかしたらの話』

そう言うとルイーズは、フンと伸びをする。

『まあ、それはともかくだ。ホームズ。君、論点をずらすんじゃあないよ。君が考えるべきは、生き方じゃあない。ヨルに視力の回復を願い碧い瞳の記憶を消すか?それとも記憶を残して視力を戻さないか?ということだ』

ルイーズは、ホームズを指差す。

『要は、君にとって何な大事か選べってことさ』

ホームズは、再び押し黙った。

『さて、私はそろそろ行くよ』

「え?いや、もうちょっと………」

ホームズが慌てて止めようとするとルイーズは、ふふふと笑ってそのまま消えていった。

「母さん!!」

しかし、全く反応はない。

どうやら完全に消えてしまったらしい。

「幻覚、ねぇ…………」

何か答えを、自分望む答えをくれるかと思ったら全くそんなこともない。

ただ現状だけの再確認をさせて去ってしまった。

「どこまでも勝手な話だねぇ……全く」

ホームズは、ため息をつく。

結局どちらを選んでも同じだけのデメリットがあり同じだけのメリットがある。

迷うホームズの脳裏にヨルの言葉が蘇る。

「『大切なものは目に見えない』か………」

なら答えは決まっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

後の問題は覚悟だけだ。

 

 

 

 

 













どこぞ白いマスコットよりは、大分良心的だと思うのですが………



ではまた百六十九話で( ´ ▽ ` )ノ

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