1人と1匹   作:takoyaki

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十七話です



連日投稿をしてみました。


旅は猫連れ、世は情け

「……話してくれてありがとう、ホームズ」

レイアは素直にそう言った。恐らく、この話をするのを渋ったのは、不幸自慢をしたくない、と言うのもあったのかもしれないが、それ以上に父親の事を知らないという事を口にしたくなかったのではないか、しかし、それでもホームズは自分達に話してくれてたのだ。多少強引な手を使ったにしても……

そんな事を考えたら自然とレイアは感謝の言葉を述べていた。

ホームズはレイアの言葉に目を丸くすると口を開いた。

「驚いたね……まさか、お礼を言われるとは思わなかったよ」

「何を言われると思ったの?」

「てっきり、同情されるかと思ったよ」

「されたかった?」

「同情するなら、金をくれ」

レイアの返しにホームズはおどけて言った。それを聞いていたミラは口を開いた。

 

「ふむ、借金のある奴(おまえ)が言うと説得力が違うな、ホームズ」

「…………」

「ごめんね、ホームズ。悪気は無いんだよ」

ミラの言葉に傷付いたホームズにジュードが代わりに謝っている。

ヨルはそんな彼らに構わず口を開いた。

「おい、そんな事より、女。お前の質問には答えただろう。そろそろ、報酬を払う時間だ」

「答えたのおれだけどね……」

ホームズは少し不服そうだ。

「まあでも、そろそろ答えてもらうかね。取り敢えずジュードとレイアは席を外してもらえるかい?」

「本当に手荒な事はしない?」

心配そう、疑う様にジュードはホームズに尋ねる。すると、ホームズは笑顔で返す。

「しないよ、今までおれが嘘を言った事があったかい?」

「……出会ってからまだ、1日も経ってないんだど」

「でも、嘘はついてないだろ、ね、レイア」

「うん、本当の事も言わないけどね」

レイアのフォローにジュードはさらに疑惑の目を向ける。

そんな様子を見兼ねてミラはジュードに言った。

「安心しろ、ジュード。いざとなったら私の方が強い」

「……分かったよ。じゃあ、僕とレイアは先に帰ってるから、ホームズが責任持ってミラを送ってきてね」

ジュードは渋々納得したようにそう言うとレイアを連れて港を後にした。

そんなジュード達に手を振って返事をする。彼らが見えなくなると、ホームズは、ぽつりと呟いた。

「どんだけ信用無いのおれ?」

「そんだけ信用無いんだろうな」

ホームズの言葉にヨルは無慈悲に返す。

「それで、私に聞きたい事と言うのはなんだ?まあ、ある程度予想はつくが……」

「なら、話は早いね。じゃあ、教えておくれ、エレンピオスへの行き方を、ね」

ミラの質問にホームズは答える。ミラは少し、顔を険しくする。そんなミラの様子に構わずホームズはミラに顔をづいと近づけて続ける。

「ただし!君を殺さないで済む方法に限るよ」

ミラはさらに顔を険しくする。

「お前、それを何処で聞いた?……まさか、」

ミラの頭によぎるのは鉱山での会話だ。

 

 

そう言えば、ル・ロンドに来た本来の目的も父さんに故郷の話を聞く事(・・・・・・・・・・・・)だったね。どう聞けた?

 

 

聞けたけど(・・・・・)、充分ではないね。だから、その補完の為にもミラに話を聞きたいんだ。

 

 

 

「ディラックか…!」

ホームズはミラから、顔を離すと肩を竦める。

「まあ、一応言っておくけど、あの人はもう、アルクノアを抜けてるよ。ついでに言うなら黒匣(ジン)も、もう使っていない」

誤魔化しても無駄だと判断したホームズはミラにそう言った。ミラはホッとしたように肩を落とした。

「そうか、そういう奴もいるのだな」

「そゆこと。さて、話を戻すけど…」

「私を殺さずにエレンピオスに行く方法か……」

ミラは考えて、ふとある考えが浮かんだ。

「ヨルは精霊術を食えるのだろう?」

突然話を振られてヨルは片眉をあげる様にミラは見る。

断界殻(シェル)も一種の精霊術だ、それを食べてしまえばいいのではないか?恐らく全ては無理だろうが、少なくともお前達が通れるだけの穴は作り出せるだろう」

断界殻(シェル)て何処にあるだい?」

ミラはホームズの質問に指を上に向かって指す。

「上空、そして、海の向こう」

最後に海の方を指差す。

「どうやってそんなとこまで行けばいいのさ?おれもヨルも空は自由に飛べないんだよ……飛べないよね?」

少し、不安になって尋ねるホームズ。

「まあ、シルフ程は無理だな。精霊術を食う時の生首状態なら空中移動も出来るが、それでも限度がある。流石にそんな天高くまでは無理だ。それに何よりこの姿だからな……」

ヨルは忌々しそうに黒猫の自分の姿を見る。

それを聞くとミラは少し気の毒そうな顔をする。

「そうか、空は無理か……すまないが、正直海の方はあまり勧められないんだ」

「いや、だから、そこまで行く事が無理だって。普通の船じゃそこまで行かないからね」

ホームズは呆れている。しかし、そんなホームズに構わず、ミラは続ける。

「昔、海の方にある断界殻(シェル)を破られた事があるのだが、その時大津波が起こったんだ。恐らく、また破れれば津波が起こる。お前らはそのまま死ぬだろう」

「……ご忠告どうも」

ホームズは頬を引きつらせながら言う。

対するミラは顎に指を当てながら色々と思い返すのだが、どうしても他の方法が見つからない。

「…すまないが、私にはこれ以上は無理だ」

「ふむ、だったらすぐにでも、殺した方が良さそうだ。取り敢えずホームズ、こいつを車椅子ごと海に落としてしまえ……て、あれ、おい、どうして俺を掴んでいるんだ……ち、ちょっと、待て、何で海の方に歩いて行くんだ、そっちに行く理由ないだろ!おい!聞いてるのか!おい、待てまてマテ待てまてマテ……おわぁぁぁぁ!?!?」

ドボンとヨルを夜の冷たい海に放り投げると、ホームズはミラの方に戻ってきた。

「ちょ、思ったより冷たい!」

ヨルは何とか溺れないように必死に泳いでいる。いや、もがいている。

「何か心当たりとかない?」

「おい!早く助けろ」

ホームズは真剣にミラに聞く。ホームズとしてはどうしても知りたい情報なのだ。

ミラは顎に手を当てて考えると、何か思いついた様に顔を上げた。

「もしかしたら…四大なら何か知っているかもしれない」

「四大って、四大精霊の事?」

「その話、俺にも聞かせろ!」

「今は、君の近くにはいない様だけど……」

「それを見抜いたの俺!何自分の手柄みたいに話してんだ!」

「今は、捕まってイル・ファンにいる」

そんな事があり得るのか、とホームズは考えた。四大精霊とは、その名の通り地水火風をそれぞれ司る精霊達四体の総称だ。そんな連中を捉えるなんてはっきり言ってあり得ない。しかし、そこまで考えてふと、母の言葉が、頭をよぎる。

『不可能を消去して、残ったものが如何に奇妙な物であっても、それが真実となりえる』

 

「あり得るって事か……それにしても四大精霊なんてどうやったら捕まえられるんだい?」

ホームズの質問にミラは顔色を変えず言う。

「『クルスニクの槍』と言う巨大な黒匣(ジン)の兵器によって捕まえられてしまった」

しかし、声色からは悔しさが滲み出ていた。

「巨大な、黒匣(ジン)兵器(・・)……」

ミラの話を聞いてホームズは戦慄していた。精霊を殺す様な道具が兵器として開発されている。そんな事を思っていると海の方から声が聞こえた。

「しかも、名前がクルスニク、か……」

「ヨル、もう帰ってきたのかい?」

海の水でびちゃびちゃになったヨルが殺気のこもった目でホームズを睨む。

「お前、本当に覚えてろよ……」

そう言うと、体を黒く光らせ体表の水を全て飛ばし、ホームズの肩に飛び乗った。

「ところでヨル、なんだい?『クルスニク』て?」

「『クルスニク』と言うのは創世の賢者の名前だ」

「君……答える気あるの?理解出来ない単語を理解出来ない単語で説明しないでおくれよ」

額に青筋が浮かぶのを感じながらヨルは続ける。

「ようは、マクスウェルと盟約を交わした人間だ」

ホームズはヨルの説明を聞いてようやく納得がいった様だった。

「そんな人間の名前のついた物がまさか、精霊達にとっての脅威になるなんてね」

「ま、これが所謂皮肉ってやつだな」

ニヤリと、牙を見せながらヨルは笑った。

そんな身の毛もよだつ笑みを見ながら、ミラは別の事を思案していた。

そして、ミラにある考えが浮かんだ。

「お前はリーゼマクシアがどうなってもいいと思うか?」

「どうしたんだい?突然?」

「答えろ」

真剣なミラの物いいに

「どうなってもいいとは思わないよ。おれの両親は確かにエレンピオス人だけど、おれの故郷はリーゼマクシアだもの」

「…そのリーゼマクシアが、今危機に瀕している。先程話した『クルスニクの槍』によって」

ホームズは目を細くすると、ミラを観察するように眺めた。そんなホームズに構わず、ミラは続ける。

「私達は、それを破壊する為に旅をしていた、いや、旅をしている」

「何が言いたいんだい?」

ホームズは夜の海の様に静かに問う。

そんなホームズにミラは凛として言う。

 

 

「私達と共に来ないかホームズ、『クルスニクの槍』を破壊する為に」

 

 

「……そうすれば四大精霊達を解放できると、話を聞けると言うんだね」

「そうだ、それがそのままお前への報酬となる」

「どうする?今ここでその女を殺した方がリスクは小さいぞ。」

ヨルは意地悪くホームズに言う。そんなヨルにホームズはニヤリと笑う。

「『全ての事柄に、全ての行動にリスクは付きものだ。そこに大きいも小さいも関係ない。あるのは、その欲望を満たしたいか、満たしたくないか、だ』だっけ?おれが満たしたい欲望は取り敢えず、ミラを犠牲にせずエレンピオスに行く事だよ」

ヨルにそう言うとホームズはミラの方に向き直り、折れていない左手を胸に当てて言う。

 

 

「いいゼ、ミラ。そのお誘い、受けてあげるよ」

 

 

「恩に着る」

ミラは安堵した様にホームズに感謝の旨を伝えた。そんなミラに笑顔で返すと今度は肩にいるヨルに言う。

「ヨル、君もそれでいいだろう?」

「俺に拒否権なんて、あって無いようなものだろう?」

どんなに嫌だと言っても、一定の距離以上離れられないヨルはついて行くしかないのだ。

「……ハァ、やってやるよ、付き合ってやるよ」

ヨルはため息をつきながら了承した。

ホームズは満足そうにニヤリとすると今度はミラの方を向いた。

「取り敢えず、君はリハビリをしてから、って事でいいのかい?」

「そうだ。それまでには、お前の借金も払い終わるだろう」

「……気を遣ってくれて嬉しいよ」

借金の原因(ミラ)に言われてホームズは満足そうな笑みを引っ込め、力無く笑いながらそう言った。

「とにかく、マティス治療院まで送ってかないとね」

ホームズは気を取り直してそう言うと、ミラの車椅子に手をかけた。

「ああ、よろしく頼む」

「任せておくれ」

彼らはそう言うと、夜の港を後にした。

 

 

不安がないと言えば嘘になる。しかし、それは……

 

 

 

 

 

「いつもの事だしね。頑張るとしますか」

 






ゼステリアpv第2弾が出ましたね。


もう、楽しみで仕方ないです。

それでは、また、十八話で( ´ ▽ ` )ノ

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