1人と1匹   作:takoyaki

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百七十話です!!



そして、2周年です!!ドンドンパフパフ



これを書いた時はまだ学生でした。
春休みダラダラと過ごしていて、何かやらなくては!!と思い立って書いてから早二年やらなくてはならない事がいっぱいの社会人です………




空中闊歩

「剛招来!!」

赤い闘気がホームズを覆う。

赤い闘気に金色の瞳が爛々と輝く。

「飛燕連脚!!」

ホームズは、身体を捻って飛び上がりミュゼに向かって蹴りを放った。

ミュゼは、薄く笑うと身体を浮かしてホームズの蹴りを躱し、そして、髪で地面に叩きつける。

「ホームズ!!」

エリーゼは、声が響く。

巻き上げる土煙が晴れるとホームズが大の字で倒れていた。

ミュゼは、満足そうに笑っている。

「随分とまあ、大きい口を叩いていた割に他愛ないわね」

ミュゼは、そう笑うとエリーゼの元へと近づいていく。

しかし、途中で動きがガクンと止まる。

「いやいや、叩くのはこれからだよ」

声に振り返るとホームズが立ち上がり拳を握っていた。

「!?」

動こうとするが、先ほどから()()()()()()()()()に動けない。

ミュゼが不思議に思ったその瞬間、黒い紐が表れる。

見覚えのある黒い紐、そう、

「俺の尻尾だ。結構いいとこまで細く出来るだろう?」

そうヨルは、尻尾を限界まで細くして目立たなくし、それをミュゼに巻きつけて拘束していたのだ。

「そんな、聞いてないわよ!!」

「何でお前に言わなきゃならん」

ヨルは、馬鹿にしたように言う。

ホームズは、ニヤリと笑うとその尻尾掴む。

「せーのぉ!!」

ミュゼをそのままエリーゼとは反対側の地面に叩きつけた。

「ついでだ!!」

そして、また反対側に叩きつけ、そしてその勢いを殺さぬまま、足を踏み込む。

そして、

「おおおおおおおおおおっ!!」

そのまま振り回し最後には、民家に向かってハンマー投げさながらに投げ飛ばした。

民家の壁は、壊れガラガラと崩れ落ちる。

ホームズの頭上から紫色の塊が落ちてくる。

ホームズは、ポンと受け取る。

「やっほーティポ」

見事にキャッチしたティポにホームズが話しかけると、ティポはムッとした顔になる。

『ホームズのバホー!!』

「開口一番がそれかい……」

ホームズは、はぁと深いため息を吐くとエリーゼにポンと投げ渡す。

「当然……です」

エリーゼは、拘束されながら不機嫌そうな顔でホームズを睨む。

「ったく………」

ホームズは、そう言ってヨルに目配せをする。

ヨルの術喰らいでエリーゼとローエンにかけられている精霊術を消すつもりだ。

だが、そうは問屋がおろさない。

爆音と共にミュゼが放り込まれた民家が吹き飛んだ。

「やってくれるじゃない…………」

ミュゼは、ゆらりと立ち上がる。

そこには、いつもの人を小馬鹿にした様子はない。

自分を傷付けた矮小な存在を潰すという殺気が感じられた。

「なるほど、これが大精霊の殺気か……」

ホームズは、ふむと感慨深そうに頷く。

「ミラの怒気のほうが怖いね」

「こんなに早死にしたい人間がいるなんて驚きだわ」

ミュゼは、そう言うと地面近くを飛びながらホームズに近づいた。

そして、その勢いと一緒に髪で薙ぎ払う。

「守護方陣!!」

ホームズの踏み込みと同時に青白い光の陣が表れ、ミュゼの髪を弾く。

「チッ……!」

舌打ちをするミュゼに合わせるようにホームズは、回し蹴りを放つ。

だが、ミュゼはホームズの脚が届くより前に空中に逃げる。

そして、髪がホームズを襲う。

ホームズは、迫り来る左手の盾で防いだ。

もうこのパターンは、何度も食らっているのだ。

いい加減防げる。

しかし、あともうひと押しが欲しい。

「おい、受け取れ」

そう思った時、ヨルから黒球が落とされた。

その黒球は、地面に当たり弾けると両脚に黒霞となってまとわりついた。

「……これは?」

「まあ、お前風にいうなら、非常識改って奴だ」

「………?」

「地面の基準は、お前ってことだ」

ホームズは、それを聞くと髪の猛攻に耐えながらニヤリと笑う。

「なるほど」

ホームズは、そう言うと髪の攻撃を潜り抜け軽く飛び上がった。

そして、()()()()()()()

「え……………?」

呆気に取られているミュゼにホームズの蹴りが襲う。

蹴りは、真っ直ぐミュゼの腹に減り込む。

「ぐっ………!!」

ミュゼは、堪らずに後ろに下がる。

だが、ホームズは、それを許さない。

空中を走りミュゼに飛び蹴りを放つ。

「瞬迅脚!!」

真っ直ぐに進んだホームズの蹴りは、そのままミュゼに更なるダメージを与えた。

「─────っ」

ミュゼは、耐えるとホームズに向かって髪を振るう。

ホームズは、それをかわすと踵落としを放つ。

しかし、踵落としは虚しく空を切る。

空中で回り込んでミュゼは、ホームズの後ろに立つと、髪を振るった。

背後からの攻撃にホームズは、天高く吹き飛ばされる。

ミュゼよりも遥か上に吹き飛ばされたホームズの頭は、地面に向かっている。

ホームズは、そのまま足を肩幅に広げ、踏ん張る。

「??!」

上下逆さまにそして、空中に普通に立っているホームズにミュゼは、思わず目を見開く。

ホームズは、膝を曲げ力を込めるとそのまま下にいるミュゼに向かって飛び上がった。

ミュゼが呆気に取られている隙にホームズの右手がミュゼの顔面を捉える。

「ぐっ………!」

「ジャンプの推進力………」

そう言ってホームズは、ミュゼの顔面を掴む右手に力を込め、両脚にある黒霞を一旦引っ込める。

「そして、重力だっ!!」

ホームズは、そのまま地面に向かっていく。

ミュゼは、ありえないスピードで地面に叩きつけられた。

土煙を巻き上げ、響く轟音にエリーゼとローエンは、息を飲む。

地面は、砕けミュゼは地面にぐったりと倒れている。

(ここで決めなきゃ勝ちはない!!)

ホームズは、そのまま踵落としを放とうとする。

だが、ミュゼの髪がそれを阻む。

ミュゼの髪はホームズの踵落としを受け切るとそのままホームズを弾き飛ばした。

「──────っ!!」

ホームズは、地面に手をついて宙返りをして着地する。

それからミュゼに視線を向ける。

ミュゼは、ゆっくりと体を反らしなが立ち上がる。

立ち上がったミュゼの顔は血だらけだ。

ミュゼは、無言で指をかざす。

その瞬間、ホームズは、地面に押し付けられる。

「ぐっ………があっ!!」

「食べられるより前に潰せばいいだけよね」

ギリギリとホームズを押しつぶす精霊術は、威力を増していく。

ポンチョの陰に隠れている猫のような陰を見ると目を細める。

(どうやら生首になれないようね)

ミュゼが精霊術を強めようとマナを込める。

「──────っ!!」

その時、ミュゼの右の横腹に刺すような痛みが走る。

不思議思って見てみると、ナイフがしっかりと刺さっていた。

「な、なによ、これ」

「私ですよ」

そう言うとローエンが不敵な笑みを浮かべて立っていた。

「そんな………」

ミュゼは、信じられないという顔つきだ。

「『ネガティヴゲート!』」

そんな虚をつかれたミュゼにエリーゼが精霊術を食らわせる。

まともに食らったミュゼは、思わず後ろに下がる

「どういうこと……あなた達は、私の精霊術で拘束していたはずよ……」

「お忘れですか?こちらに誰がいるのかを?」

ゆらりと立ち上がるホームズ。

ホームズにかけられた精霊術は、ミュゼの動揺によりすっかり消えていた。

ホームズの顔は確認するまでもなく、ニヤリと笑っていた。

はっきり言えば、彼らだけでどうにかなる相手ではない。

だが、エリーゼとローエンを助けるなら彼ら1人と1匹でどうにかなるのだ。

「そんな、シャドウもどきは、そこに……」

そう言って指を刺されるヨルは、シュルシュルと糸なって、解けていく。

そして、最後は、ホームズの足下にいる真っ黒なヨルの尻尾へと集まっていった。

(尻尾で作った偽物………!!)

「だから言ったろう?1人と1匹だって。おれにばかり気を取られるからこうなるんだよ」

ミュゼは、悔しげに睨む。

(そんな彼らは離れられないはずじゃ………そうか!)

「その伸ばした尻尾で、あなたとヨルの距離をあける事を可能にしたってことね…………」

ホームズは、目を丸くするとくすりと笑う。

「それは君の想像に任せるよ」

その見透かしたような物言いにミュゼは、イラつきを隠そうともせずに睨みつける。

「おいおい、化粧崩れてきたんじゃないのか?」

ヨルはぴょんと飛び乗ると馬鹿にしたように言った。

ホームズは、それと同時に土をえぐり踏み込むとそのままミュゼへとの距離を一歩で詰める。

そして、ナイフの刺さったミュゼの右横腹に蹴りを放つ為、左足を上げる。

ミュゼは、ガードの為、右に髪を全て集める。

だが、ホームズの左足は、直ぐに地面に降りる。

代わりに右足が上がり、ミュゼの左の脇腹に向かって蹴りが放たれた。

「ぐっ………っ!」

ミュゼは、まんまとホームズのフェイントに引っかかった。

態勢が崩れ、右横腹にも隙ができる。

ホームズは、もう一度軸足を入れ替え、そのまま今度は、左足で蹴りを放つ。

勿論、ナイフに向かって。

「がぁっ…………!!」

ナイフを楔にしたホームズの蹴りにミュゼは、よろめく。

ナイフは、深々と刺さりミュゼは、もう立つので精一杯だ。

「まだやるのかい?」

ホームズは、真っ直ぐにその金色の瞳で、ミュゼを見据える。

()()()()()?」

「─────っ!!」

ホームズ1人なら、勝機はあった。

いや、もっと言うなら、負ける可能性の方がなかった。

だが、敵はホームズとヨルだったのだ。

そして、彼らだけではミュゼに勝てないことも分かっていた。

だからこその奇襲。

そして、この傷。

今や形勢は、完全に逆転してしまっている。

これでは、部が悪いにも程がある。

結局、ミュゼは、まんまとホームズの策にハマってしまったのだ。

ミュゼは、ようやくソレを自覚すると悔しそうにホームズ達を睨み、宙へと飛び上がって行った。

ミュゼが消えるとローエンのナイフだけが落ちてきた。

ホームズは、そのまま地面に突っ伏して倒れた。

「ホームズ!!」

エリーゼが慌てて駆け寄り、精霊術をかける。

「身体全身が痛い…………」

「そりゃあ、アレだけ押し潰されれば当然だろ」

ヨルはそう言って尻尾でちょんとつつく。

「い"っ!!」

ホームズの全身に痛みが走る。

「この、クソ猫………」

「エリーゼ、精霊術適当でいいぞ。馬鹿には、もったいない」

「口には、気をつけたまえ」

バチバチと火花を散らす、ヨルとホームズ。

すっかりいつも通りだ。

ただ一点、ホームズの瞳の色が碧色ではなく、金色ということを除けばだが。

「ホームズ、その眼ですけど…………」

「ん?あ、まあ?おかげで見えるようになったよ」

ホームズは、そう言ってにっこりと目を指差す。

それから、ヨルの方を見る。

「こればっかりは、君に感謝だね」

ヨルは、ホームズの顔を忌々しそうに睨む。

「やっぱり、記憶は無いのか?」

「ん?いやいや、あるじゃないか?君はヨルだろ?それにエリーゼ、ティポ、ローエン」

「そうじゃない」

話が通じない。

もうそれが何よりの証拠だ。

ホームズに碧い瞳だった記憶がどこにも無い。

瞳を取り戻したその代償は、確かに発生していた。

ホームズは不思議そうに首をかしげる。

エリーゼは、唇を強く噛む。

きっとホームズは、辛い。

だが、辛いことにホームズは、気付かない。

いや、気づけない。

「ホームズ」

「なんだい?」

エリーゼは、どう言おうか迷う。

だが、どんなに頑張って伝えようとしたところで、ホームズはそれを自覚することはない。

「…………治療終わりました」

エリーゼの言葉にホームズは、立ち上がる。

「ありがとう」

ホームズは、傷を確認する。

確かにどこにも痛みはない。

身体の傷は治った。

「さて、ローエン。これからどうしようか?」

ホームズの言葉にローエンは、少しだけ悲しそうに微笑むと直ぐに口を開く。

「ジュードさん達と合流しましょう」

「は?」

ヨルはさっきまでとは別の意味で嫌そうな顔をする。

「あそこには、あの小ムスメがいるんだぞ。また、襲われたらどうするんだ」

「その時は私たちが止めます」

エリーゼは、間髪入れずに口を開いた。

ローエンは、エリーゼに頷く。

「どちらにせよ、ミュゼさんが動いている以上、ジュードさん達も危険です。

合流するなら、手傷を負っている今がチャンスです」

「おれもそれがいいと思うよ。あの後どうなったか知りたいし、レイア達が無事かも知りたい」

ホームズも同じように頷き、ヨルはため息を吐いた。

「……どいつもこいつも馬鹿ばっかだな」

ヨルはそう言うとホームズの肩に飛び乗る。

ホームズは、左腕の盾を確認する。

「よし、それじゃあ、目的地も決まったところで、とりあえず、ハ・ミルへ行こう!」

「えぇ」

「はい」

ホームズにエリーゼとローエンも続いた。

村の出口へ行く時、ピタリと歩みを止める。

「そうだ。少し寄りたいところがあるんだけどいいかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「ここは、変わらないねぇ………」

ホームズたちは池のほとりでポツリとつぶやいた。

池のほとりにある墓標には、《マープル・ヴォルマーノ》と書かれていた。

墓標に添えられている花はすっかり枯れてしまっていた。

ホームズは、それを捨て、墓標の埃を払う。

墓の掃除をするホームズを見ながら、ローエンは一つだけ確認する。

「ホームズさんが、クルスニクの槍を憎むのはここでの出来事が原因ですか?」

ホームズは、掃除をする手を止めてそれから頷く。

「びっくりしたよ、イル・ファンでマナを吸い取る機械をを見た時は」

そう言いながら掃除を再開する。

「ここの機械と同じ、いや、それ以上の性能だったからねぇ……」

ホームズは再び手を止め、教会の方を向く。

「まあ、だけど全部繋がった」

そう言うとローエンの方に視線を戻す。

「実験場だったんだよね、クルスニクの槍の」

「えぇ。ナハティガルが自ら言っていた事を考えるとそうなのでしょう」

ホームズは、ポケットに手を入れると頭の上に広がる青空を見上げる。

「おれは、ここで理不尽に死んでいった子たちを見てきた。あんなの見たらさ…………」

ホームズは、そう言ってエリーゼに視線を向ける。

「クルスニクの槍なんて好きになれないよ……」

「ホームズ………」

ホームズのその泣きそうな顔にエリーゼは、ギュとスカートを握りしめる。

ホームズもそれに気づいたのだろう。慌てたように目元をこすると、ここに来るまでに拾ったバケツに水を汲む。

そして、水をかける。

最後の仕上げとばかりにかけられた水によって、墓は先ほどとは比べられないほど綺麗なった。

墓はある、しかし、この墓の下には何もない。

マープルの死体は文字通り村の礎となっている。

だが、そうは言ってもホームズにとって大切な家族の墓だ。

例え、何もなくともマープルという人間がここにいた確かな証拠だ。

「久しぶり。姉さん」

ホームズは、マープルの墓を見てポツリと語りかける。

 

 

 

 

 

 

《全くですわ!女の子を待たせるなんて!》

 

 

 

 

 

 

そんな声が今にも聞こえる気がして思わずホームズは、クスリと笑ってしまった。

「ホームズ?」

不思議そうなエリーゼにホームズは、肩をすくめる。

「いや、別に。ちょっとね」

ホームズは、そう言って両手を合わせた。

ローエンとエリーゼもそれならう。

ホームズは、しばらくして目を開ける。

ずっとここに足を踏み入れるの躊躇っていた。

こんなことさえなければ絶対に来なかった。

「ヨル」

「なんだ」

「ありがとね、ここに連れてきてくれて」

珍しく素直な言葉にヨルを含めたエリーゼ達は目を剥く。

そんな彼らに構わずホームズは、言葉を続ける。

「…………なんかさ、少しだけ元気が出た」

「思い出だからな」

ヨルの言葉にホームズは、頷く。

「幸せな思い出は、力にって奴だね」

ヨルはこくりと頷いた。

辛い思いをした場所だ。

だが、辛いだけではない。

ここはホームズにとって宝物のような日々を送った場所なのだ。

ホームズは、ポンチョを翻してエリーゼ達に向き直る。

「さて、先ずはジュード達だ。行こうゼ、エリーゼ、ローエン」

「ええ」

「はい」

エリーゼ達は、頷くとそのまま池を後にした。

失ったものは大きい。

だが、それでもホームズは歩いていく。

彼には譲れないものがあるのだから。

ホームズが踏み出すと一陣の風が吹く。

風は、一瞬だった。

直ぐに風は止み元の静寂が訪れる。

ホームズは、僅かに微笑み、マープルの墓標を見る。

 

 

 

 

 

─────いってらっしゃい──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん。いってきます」

 

 

 

 

 

 

 

それっきりホームズ達は振り返ることなく村を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 









終わりは辛くとも、確かに楽しい思い出もホームズにはあったということです。


それを自覚するかしないかで大分違うものです。



さて、堅っ苦しい話はともかく2周年ですよ!2周年!!
信じられますか!?

2年前の私は信じなかったでしょう。


まあ、そんなわけで、企画を投稿しました。

活動報告にあるので、そちらに返信お願いします!!



では、また百七十一話で( ´ ▽ ` )ノ

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