1人と1匹   作:takoyaki

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百八十四話です



GW人によっては、今日までの人もいるんでしょうね……


羨ましいな……


てなわけで、どうぞ


蹴りをつけよう

「瞬迅剣!」

「瞬迅脚!」

真っ直ぐに突き出されたローズの刀とホームズの脚がぶつかり合う。

ギリギリと足と剣が押し合う。

「ちっ!」

ホームズは、舌打ちとともに足を下ろす。

ローズも刀を下げ、もう一刀をホームズに向かって振るう。

ホームズは、足を踏み替え、回し蹴りを迫り来る刀にぶつける。

ホームズは、ぶつけた蹴りの勢いをそのままに身体を捻ってもう一撃蹴りを放つ。

ローズは、迫るホームズの蹴りに刀を振るう。

ぶつかり合う刀と蹴り。

火花が散り、雨粒は刎ね飛ばされる。

無数に繰り返される攻撃の応酬に二人は、息つく暇もない。

ローズの刀がホームズの肩に振り下ろされる。

それと同時にホームズの蹴りがローズの腹に叩き込まれた。

「ぐっ!」

「くっ!」

ローズは後ろに飛ばされ、ホームズも無理な姿勢で蹴ったため仰け反るように転がった。

ホームズは、肩から流れる血を押さえながら立ち上がる。

ローズは、響く腹部を押さえながらなんとか立ち上がる。

「魔神剣………」

刀を振るおうと瞬間、胃の中のものがせり上がってきてローズは、膝をついて吐き出した。

ホームズは、目を険しくさせローズに向かって駆け出し、そして膝をついているローズに向かってトーキックを放つ。

いっぺんの慈悲もなく放たれる蹴り。

しかし、それ届くことはない。

がきんと鉄がぶつかり合う音と共にホームズの蹴りが止まった。

ローズが刀の柄でホームズの蹴りを受けたのだ。

「な………めんなぁ!!」

ローズは、立ち上がると共にホームズの顔面を柄を握りこんだまま殴りつけた。

思わぬ攻撃にホームズは、地面に倒れこむ。

(口切った………)

それでも仰向けになろうと態勢を直した瞬間、ローズが切っ先をホームズに向けながら落ちてきた。

「っ!!」

起き上がる時間はない。

ホームズは、首をひねってかわす。

ホームズを捉えることの出来なかった刀は、ホームズの耳の真横に突き刺さった。

起き上がろうとするとローズは、ホームズにまたがり、動きを封じると共に刺さった刀を引き抜く。

雨に濡れる黒髪がばさりとホームズにかかる。

金色に輝く瞳を見下ろす、暗く濁った黒い瞳。

ホームズは、はっと鼻で笑う。

「地平線の君が、随分と色っぽい真似をするじゃあないか」

「本当、いつでも減らない口ね」

ローズは、ホームズの喉に向かって突き立てる。

だが、刀の切っ先が届くより早くホームズがローズの背中を蹴りつける。

「っ…………!」

態勢を崩したローズの顔面を掴み、立ち上がると同時に地面に叩きつけた。

「ハァ………ハァ………ハァ……ぐっ!」

広がる肩の傷にホームズは、顔をしかめながら立ち上がる。

ローズも泥にまみれながら、何とか立ち上がる。

長く黒い髪は、泥で所々濁った茶色に染まっている。

「……まだやるの?」

「君が言ったんだろう?勝って証明すると」

ホームズは、肩から手を離す。

「そして、おれは言ったはずだ。勝って君を否定すると」

その言葉にローズは、ピクリと身体を動かす。

「認めないのね、ガイアス王のこと」

「そこで直ぐに『私のこと』と言えない君を否定するんだ」

ローズの刀を握る手が強まる。

「誤魔化すんじゃないわよ。貴方の両親の故郷を滅ぼそうとするから、ガイアス王を認められないんでしょう?」

次の瞬間、ローズの刀がホームズに突き出された。

ホームズは、左手の盾で受け止める。

「違うと言っても信じないだろうねぇ………」

ホームズは、そう言って盾で押し返す。

「ま、あながち間違いってわけでもないしね」

押し返されたローズは、態勢を立て直すと両刀をホームズに向かって左右から振るった。

ホームズは、地面に着いた両手を支えにして、両足を広げ、迫り来る両刀を掴むローズの手を止める。

そして、そのままの姿勢でローズの顎を蹴り上げようとホームズの安全靴が襲う。

ローズは、間一髪のところで一歩下がる。

「私は、許さない。家族を殺し、マーロウさんを殺し、ミラを追い詰めた、エレンピオス人を許さない!絶対に!」

そう言うと身体を回しながら、刀を繰り出す。

「その為の力が、強さが、今の私にはある!」

迫り来る白刃をホームズは、盾で受け止める。

「強さだって………?」

ローズのもう一刀が迫る。

ホームズは、その振り下ろされる刀を握りしめて止める。

「馬鹿言え、君は力をつけただけだ」

ホームズは、右脚を下げる。

迫る蹴りをかわそうと握られている刀に力を込めるが、動かない。

諦めて刀から手を離し下がろうとする。

「強くなんかない!!」

だが、下がるより早くホームズの蹴りがローズに届いた。

「ぐっ……!」

ホームズは、握りしめている刀をローズに向かって放り投げる。

「死ぬ間際にマーロウさんに言われた」

ホームズは、そう言ってローズを指差す。

「君は、自分でも気づかない内に成長したフリをするそうだ」

蹴られた腹を押さえながらホームズを見る。

「黙れ………」

「どいういう意味か今やっとわかった。君は、今、成長したフリをしている」

「黙れ……」

「まだ、ついでに気づいていないようだからもう一個」

「黙れ」

「君、マーロウさんが死んだこともう認めてるだろう?」

「黙れと言っている!!」

ローズは、辺りの空気を震わせる程の慟哭と共にホームズに斬りかかった。

「貴方が、私を……マーロウさんを語るな! 」

ローズの刀をホームズは、一歩引いてかわす。

「だったら、成長してみせたまえ!!」

ホームズの蹴りがローズの刀とぶつかり合う。

「マーロウさんの遺言は、これで全部じゃない」

ホームズに弾かれた刀とは、逆の刀をホームズの首に向かって振るう。

「黙れと言っ……」

「『頑張れ』だとさ」

ホームズの首に迫る刀がピタリと止まった。

「今、君は頑張ってるのかい?」

静かに紡がれる言葉にローズの刀は、前に進むことができない。

「逃げることが悪いとは言わない。必要なことだし、おれなんてしょっちゅう逃げてる」

ホームズは、首筋に当てられた刀には、目もくれずその金色の瞳でローズを見つめる。

ローズの歯がガチガチと震える。

刀を振るわなければ、目の前の金色の瞳の男は、言ってはならないことを言う。

そんな絶対とも言える予感があった。

それを止めるには、この刀を振るうしかない。

だが、刀は、前に進まない。

(やめろ!言うな!)

 

 

 

 

 

 

 

「でも逃げることは、頑張ってるとはいえないだろう?」

 

 

 

 

 

 

今まで自分を騙して誤魔化しきたその行いをホームズは、迷いもなく引きずりだした。

その瞬間ローズの視界がぐにゃりと歪んだ。

ホームズに襲いかかった時からのしかかっていたことだ。

ローズは、言った。

ミラのように自分の信念を貫き、使命を果たせる人間になりたいと。

だが、今のローズは、それが出来ているのか?

果たしてミラのようになれているか、それに向かう努力をしているか、

問うまでもない。

ローズは、ホームズからフラフラと離れるとくしゃりと自分の髪を握りしめる。

「ぅあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

ローズは、ありたっけの声で叫ぶ。

今まで見ようとしなかった自分をまざまざと見せられた。

逃げていたローズに耐えられるはずがない。

ローズは、髪をかきむしると、その濁った暗い瞳でホームズを睨みつける。

「おい、君……」

「っ!!もういい!!もう聞きたくない!!」

ローズは、そう言うと刀に伝う水を払い、ホームズに向かって構える。

「これで終わりよ!!」

ローズのリリアル・オーブが輝く。

ここから、繰り出されるのは秘奥儀だ。

 

 

 

 

 

 

 

だか、輝き始めたリリアル・オーブは、最高潮(オーバーリミッツ)にたどり着くことなく、かき消えた。

リリアル・オーブに誰よりもローズが驚いていた。

「そんな………なんで!?」

「リリアル・オーブは、確か成長するものだろう?」

動揺するローズに対し、ホームズは静かに告げる。

「成長しているフリをしている君が、使いこなせるわけないだろう」

ローズは、絶望した顔リリアル・オーブを見る。

技は使えている。

だが、それより上のことは出来そうにない。

「うるさい!!貴方に何がわかる!!」

ローズは、刀を握りしめホームズに駆け出す。

ホームズは、迫り来るローズに向かって走り出す。

近づけば、刀だけの間合いにならない。ホームズの間合いにもなる。

ローズが二刀で繰り出すは乱撃。

無数に襲いかかる白刃にホームズは、蹴りと盾、それら全てを使って捌く。

だが、捌ききれなかった斬撃は、確実にホームズに傷を与えていく。

「つぅ………!」

痛みでホームズが顔を歪めたその瞬間、ローズは、一瞬動きを止める。

攻撃の手を緩めたのではない。

右の刀を刃を外側にし水平に構え、力を込める。

繰り出される右の片手突き。

ホームズは、盾でいなして蹴りを叩き込む。

「ぐっ…………」

腹部から走る衝撃にローズは、思わず呻く。

だが、ローズはぎりっと歯を食いしばって耐えると、そのまま左手の片手突きをホームズの肩に食らわせる。

「がっ……………!」

ローズは、いなされた刀を握りしめ、闘気を纏う。

「獅子戦哮……」

ホームズは、片足に闘気を纏う。

「獅子戦哮……」

ローズは、ホームズをキッと睨みつける。

ホームズのその金色の瞳でローズを睨みつける。

「氷牙!!」

「焔!!」

雨で氷の強さを得た獅子と雨で弱った焔の獅子がぶつかり合う。

二匹の獅子はしばらく喰いあった後、はじけた。

その衝撃で二人は地面に投げ出された。

「っが…………!」

「ッガハ…………!」

二人の身体に衝撃が走る。

口から出る血の量が二人の限界を物語っていた。

「ホームズ………」

戦いの終わったレイアは、そう呟くとホームズに駆け寄ろうとする。

だが、それをヨルが止める。

レイアが問い詰めるより早く、ヨルがホームズの方を顎で示す。

示された方を見るとホームズの指が動いた。

動き始めた指はギュとぬかるんだ泥を握りこむ。

それに呼応するようにローズの手もギュと握られた。

ホームズは、肩に刺さっている刀を引き抜くと地面に突き立てる。

「ハァ………ハァ…………ハァ………」

荒い息遣いと共にホームズは、身体を起こし始める。

ローズは、そんなホームズを見て目を丸くする。

「そんな……どうして………立とうするの…………」

ホームズは、突き立てた刀に力を込めながら立ち上がろうとする。

だが、倒れてしまう。

「どうして!」

「負けないためだ」

ホームズは、再び刀に手を伸ばす。

「見せかけの強さにハリボテの信念、そんなものを後生大事に持ってる君に負けないためだ」

「何ですって………」

ホームズを睨みつけるローズの瞳に再び力が宿る。

「そんな君におれが負けたら、君は、もう戻ってこれない」

曲がった信念を否定されなければそれは、肯定と一緒だ。

肯定された楽な信念をローズは、信じ続ける。

ホームズは、今度は刀を支えにすることなく、刀に伸ばしていた左手の盾で倒すと拳を地面に叩きつける。

「そんなことさせない………おれは……ホームズ・ヴォルマーノは、昔馴染みにそんな道を歩ませない」

ホームズの身体がゆっくりと起き上がる。

途中何回も地面に戻りそうになるが、その度にホームズは、歯を食いしばって身体を上げる。

ローズもゆっくりと起き上がる。

このまま倒れていたら負ける。

その直感がローズを駆り立てる。

だが、それは、ホームズも同じだ。

全身に力を込めて立ち上がる。

目の前の濁った暗い瞳の昔馴染みを見るたびにここで寝ている場合ではないと決意を固め、それは力となる。

目の前の人間をここまで追い詰めた原因のほとんどは、ホームズだ。

友人に傷ついて欲しくないと、ありとあらゆる手を尽くした結果なのだ。

あの時、アオイ村の時とは違う。

全てホームズの善意から出た行動だ。

だが、それでもローズは救われなかった。

追い詰めてしまった。

(だから………救わなきゃいけないんだ!寝ている場合じゃあないんだよ!!)

「ぐっ…………ああ」

立ち上がろうとするたびにホームズの身体から血が、流れる。

呼吸が乱れる。

「ホー………」

レイアがホームズの名を呼ぶ前にヨルが尻尾で口を塞いだ。

「これはやつらの戦いだ。手出しも口出しも声援もあってならない」

ヨルは、そう言うと尻尾を解く。

「やつらだけの力で蹴りをつけなくてはならない。その勝敗に一片の言い訳の余地もないほどに」

ヨルの言葉にレイアは、何も言えずぎゅっと棍を握りしめる。

ローズも立とうとするたびに胃の中のものが逆流して、吐き出す。

「げぇ、かっ………」

(動け………)

ホームズは、雨と泥にまみれながら顔を上げる。

(動け………)

ローズは、刀を突き立て身体を起こす。

(立て……)

二人とも片膝立ちになる。

((立ち上がれ!!))

 

 

 

 

 

「「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"っ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

二人は慟哭と共に雨粒と泥を飛ばして立ち上がった。

二人とも肩で大きく息をしている。

明らかに立つだけで精一杯だ。

「お互い…………限界だね」

「一緒にしないで………まだ素振り一回なら出来るわ」

ホームズは、地面に落ちている刀を蹴る。

蹴られた刀はくるくるとゆっくりと円を描いてローズの足元に辿り着く。

ローズは、それを蹴飛ばし自分の進行方向から外す。

「奇遇だね………おれも回し蹴り一回なら出来そうなんだ」

ホームズは、力なく笑ってそう言った。

ローズは、納刀しようとするが、せり上がる吐き気にそれを諦め、刀を担ぐ。

ホームズは、乱れる呼吸を無理矢理押さえる。

ローズは、せり上がる吐き気を無理矢理押さえこむ。

「これで、」

「うん、これで」

 

 

二人はじりっと前に進む。

 

 

 

 

「「蹴りをつけよう」」

 

 

 

 

二人は、踏み込むと同時に駆け出した。

雨を弾き、足元に纏わりつく泥を振り払い、目の前にいる相手をだけを見つめて。

目の前にいる相手に自分の一撃を喰らわせるために。

 

 

 

 

「ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

「だぁああああああああああああああああああらっ!!」

 

 

 

 

 

 

二人の慟哭は、こだまし霊山中に響き渡る。

ローズの白刃が雨を切り裂き、輝きながらホームズの右脇腹に迫る。

ローズの右足が必殺に一撃を放つため勢い乗せ踏み込まれる。

ホームズは、ローズが間合いに入るのを確認すると右足に走る勢いを乗せ身体を回わし、左脚へと力を乗せていく。

その左脚は、ローズへと迫る。

白刃と黒い安全靴。

その二つは、互いの体に向かって突き進む。

そして、それらは、やがて辿り着く。

「ぐっ……………が、」

ローズの白刃がホームズの身体に届く。

白刃に切りつけられたホームズの右脇腹から、血が噴き出す。

「カハっ……………」

ローズの脇腹にホームズの踵がめり込んでいた。

ローズの口からは血が吐き出される。

二人の攻撃は、同時だった。

二人は、その姿勢のまま微動だにしない。

しばらくして、口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

「…………負けた」

 

 

 

 

 

 

 

 

ホームズの身体がぐらりと傾く。

 

 

 

 

 

 

身体が傾いていく中ホームズは、地面を踏み込み、倒れるのを堪える。

ローズは、そんなホームズを見て、やっと笑った。

「……………強いね、ホームズ」

ローズは、そう言って地面にゆっくりと倒れていった。

泥と雨にまみれながら倒れるローズ。

ホームズは、小袋から煙管を出して咥える。

「君もすぐに強くなるよ」

そう言うとホームズもゆっくりと倒れた。

 

 

 

 










ホームズだけの戦いです。
なんやかんやで、ヨルの力を借りたり、みんなの力を借りたりしてたホームズですが、今回だけは一人だけで戦い切りました。
本当は、戦いの終わった面々が応援するとか、説得するとか色々考えたんですけど、やっぱこれじゃないなと思い、今の形に落ち着きました。
ヨルがレイアに言った通りです。
ホームズは、特に女の子に応援されればそれだけで、元気になりますからね(笑)






ではまた百八十五話で( ´ ▽ ` )ノ

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