1人と1匹   作:takoyaki

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百八十八話です。



続きです!


てなわけで、どうぞ


夜明け

「…………どういうこと?」

ローズは、マクスウェルの話を聞き返した。

突然明かされたヨルの正体に一同は、頭がついていかない。

「手違いでヨルが残ったの?」

ジュードの質問にマクスウェルが首を横に振る。

「其奴が世代交代を拒んだのだ」

マクスウェルから紡がれる言葉に一同は、更に首をかしげる。

「拒んで拒めるものなの?」

「無論、そんなものは認められない」

マクスウェルは、そう言うと深いため息を吐く。

何から話すべきか迷っているようだ。

「最初から話して」

ジュードの言葉にマクスウェルは、頷く。

「いいだろう。事の始まりは、冥界への扉が開いてしまったことだ」

「冥界って………死後の世界?」

ローズの言葉にマクスウェルは、頷いてホームズが持っている黒猫を指差す。

「そやつは、扉が開いた時にこちらの世界にやってきた冥界のものだ」

「………そんな……」

レイアは、息を飲む。

「ちょうどその時、シャドウの世代交代の時期だった。だから、冥界から来たということで実力も十分なそやつをシャドウにした」

ローズは、混乱しそうな頭を必死に回す。

その時、ちらりとホームズを見るがとても涼しげな顔をしている。

どうやらここまでは知っているようだ。

「だが、其奴には我々が知らない力を持っていた」

「………精霊術喰らいか……」

アルヴィンの言葉にマクスウェルは、頷く。

前にアルヴィンは、ヨルに何故シャドウもどきと呼ばれているのか聞いたことがあった。

 

 

 

 

─────「シャドウと同等の力を持ってたからだ」

「本当か?」

「どういう意味だ?」

「だって、シャドウは精霊術を食べないだろ……つーか、精霊術を食う奴なんてお前くらいなもんだ……それって、同等っていうのか?」

「いいところに気がついたな、ま、気が向いたら話してやるよ」─────

 

 

 

何故シャドウにない力をヨルだけが持っていたか。

答えは単純。

この力は、シャドウに引き継がれる力ではない。

冥界から来た、ヨルだけが持つ力なのだ。

「それだけではない」

マクスウェルは、言葉を続ける。

「精霊術は、霊力野(ゲート)から創り出されるマナを精霊に与えることで、発動する」

「へぇ、それは知らなかった」

ホームズは、初めて聞く話に驚いている。

「だが、其奴は、人間がマナを創り出すのを待たず、強制的に霊力野(ゲート)からマナを奪い取ることか出来た」

「あぁ、それは知ってる」

ホームズの余計な合いの手に構わず、マクスウェルは続ける。

「人と精霊の関係を根本から崩しかねないその存在は、あってはならないのだ」

まるでヨルのことを認めないマクスウェルの発言にレイアが眉をひそめる。

「でも、ヨルがその力を使わなければ関係ないでしょ。そりゃあ、人間に襲われれば使うだろうけどさ」

「甘いな」

レイアの言葉をマクスウェルは、即座に切り捨てる。

「精霊信仰なんてものが、なぜ人間達に存在するか分かるか?」

マクスウェルの問いかけにティポが口を開く。

『精霊に良くしてもらったからー、とか?』

ティポの言葉にマクスウェルではなくローエンが、首を横に振る。

「恩恵だけでは、足りません。もう一つ必要なものがあります」

「それって?」

「恐怖です」

ローエンの答えにジュードが目を丸くする。

「恐らく、あなた方が我々人間に恩恵を、ヨルさんが恐怖を与えたのでしょう」

ローエンの推理にローズの視線は、ホームズが掴んでいるヨルに向けられる。

「待って………恐怖を与えたってことは……」

「そう、其奴は人間達からマナを食らっていた。何の罪もない人間達から」

ジュード達は、マクスウェルから語られる言葉を黙って聞くしかない。

「完全に我々は、してはいけないものをシャドウにしてしまった。そのせいで人間達に多大な被害を与えてしまった」

マクスウェルは、そう言いながら椅子の肘掛を指で軽く叩く。

「だから、我々は其奴を廃し新たなシャドウを生み出そうとした。だが、此奴は、首を縦に振らなかった」

「そりゃそうでしょ。死ねと言われて死ぬ程殊勝なヤツじゃないだろう」

まあ、仮に殊勝なやつでもお前には、もう代わりがいるから死んでくれと言われて納得できるやつなどまずいない。

「そこから此奴との戦いが始まった」

「戦い………」

その重々しい言い方にジュードは、唾を飲む。

「そう戦いだ。人間も精霊も関係なく、この世界の全てで、其奴に挑んだ」

「結果は?」

アルヴィンの問いかけにマクスウェルは、忌々しそうに口を開く。

「倒せなかった………誰も」

「まあ、マナを喰らうような奴が相手じゃあねぇ……」

ホームズは、肩をすくめる。

精霊術が消されるというだけではない。

改めてヨルという存在が如何に規格外なのかということを一同は、思い知った。

マクスウェルは、ホームズの言葉に静かに頷く。

「この世全てを持ってしても封印することが精一杯だった」

「条件付きの封印だっけ?確か………」

ホームズは、そう言いながら指を四つ出す。

「一つ、術喰らいは、封じない。

二つ、ヨルが要石に触れた人間の願いを叶えれば、封印が解ける。

三つ、取り付いた人間が殺害以外の方法で死んだ場合、完全に晴れて自由の身になる。

四つ、取り付いた人間の霊力野(ゲート)から好き放題マナを絞り取ることができる」

ホームズの上げた封印されたヨルに与えられた利点にマクスウェルは、頷く。

「その代わり、ヨルは願いを叶えられないとその場に縛られたままだし、仮に願いを叶えても、叶えた人間が殺されない限り、その人間に縛られ続ける。

もう一つ付け加えるなら、ヨルの封印されていた場所は人間の霊力野(ゲート)に作用して幻を見せる。

そもそも願いを叶える人間が来ない。

そして、無差別に霊力野(ゲート)からマナを搾り取ることは封じられた。

更に、本来の姿に戻るには、大量のマナが必要となった…………」

そこまで言ってホームズは、考え込む。

「あれ?そう言えば、シャドウの力は?仮にも闇の大精霊だったなら、それなりの力があると思うんだけど」

「それは、奪って本来のシャドウに引き継がせたから今の奴にはない」

ホームズは、眉をひそめる。

「…………本来のシャドウ?ちょっと待っておくれ、世代交代をするならヨルは死んでなけりゃおかしいだろう?」

ホームズの言葉にマクスウェルは、頷く。

「いかにも。だから、其奴を空間ごとこの世界から切り離したのだ」

「空間ごと………切り離した?」

「そう。お前が訪れたあの場所は一種の異空間だったのだ」

マクスウェルは、そう言って説明を続ける。

「よって、この世界(丶丶)からシャドウは消えた。おかげで新たなシャドウを生み出し力を授けることが可能となった」

「そうか、だから………」

ジュードは、ぎゅっと拳を握る。

「そうだ。シャドウの力を失った、かつてシャドウだったもの(丶丶)。だから、シャドウもどきなのだ」

あまりにも淡々と語られる言葉にジュード達は言葉が出ない。

「ホームズは、これ知ってたの?」

レイアの質問にホームズは、頷く。

「ある程度は。ここまで詳しくは知らなかったけど」

ジュード達に複雑な思いが渦巻く。

そんな思いなどマクスウェルは、気にせず更に言葉を続ける。

「…………その化け物を封じることでようやく、平穏が訪れた。犠牲は、多かったが、それでも確かに皆が待ち望んだ平穏が訪れた」

マクスウェルは、話を続ける。

「だが、それから五百年……人間達は黒匣《ジン》を創り出した」

「…………黒匣(ジン)

ジュードは、息を飲む。

「精霊が死に自然が絶え、人間も消えゆく運命(さだめ)の道へと進み始めたのだ」

静かに語るマクスウェルの言葉に一同は、耳を傾ける。

「そこで、黒匣(ジン)から逃れるため、救えるだけの精霊、動物………そして、マナを創り出せる人間を集めて、私はリーゼ・マクシアを創り篭った」

「その時にヨルもリーゼ・マクシアから弾けば良かったんじゃないの?」

ローズの言葉にホームズが、首を横に振る。

「ヨルは、洞窟という場所に封じられていた。精霊信仰の厚いシャン・ドゥ近くのね」

「それは……外すわけにはいきませんね」

ホームズの言葉にローエンが頷く。

シャン・ドゥまで外すことになってしまう。

「この世界は、エレンピオスが滅びるまで降りることの許されない箱舟だ」

アルヴィンは、しらっとした目で腕を組む。

「で、エレンピオスが滅びるのを待てと?」

エリーゼは、俯く。

「それが人と精霊さんにとって一番いいんですか?」

「そういうことだ」

エリーゼの戸惑いながら紡がれた言葉にマクスウェルは、考える間も無く頷く。

「でもそれじゃあ、エレンピオスの人が……」

「私はやがて黒匣(ジン)が滅亡をもたらすと同胞であった人間に伝えた。

だが、彼らは黒匣(ジン)を捨てなかった」

マクスウェルは、呆れたように言葉を続ける。

「結局、奴らの自業自得というやつだ」

マクスウェルの言葉を聞いたアルヴィンの拳が強く握られる。

そんなアルヴィンに構わずマクスウェルは、更に話を続ける。

「ここに篭りようやく訪れた平和。それを自覚するたびに思い出すのは、シャドウもどきの存在だ」

マクスウェルは、忌々しそうに唇を噛む。

「封印はした、完璧に。だが、不安になるのだ。果たして本当に完璧だったか?ミスはなかったか?」

当然と言えば当然だ。

リーゼ・マクシアを地獄に叩き落とした存在を決して消してはいないのだ。

閉じ込めただけで、箱舟に乗せてしまっている。

ヨルが、死んでいれば何も心配はない。

だが、生きている。

霊力野(ゲート)に作用して幻を見せる仕掛けがある。

だが、何かの手違いでそれを突破してしまう人間がいたら?

そして、その人間がヨルを完全復活させてしまったら?

それはマクスウェルを不安にさせるには十分な考えだった。

「…………そこで、私は考えた。一つ、封印を解く条件を消そうと………」

「それが、デメリットを話さなくては、封印が解けないというやつだろう?」

ホームズの言葉にローズは、首を傾げる。

「それに何の意味があるの?そんな事になってしまえば、何の不都合もなく願いを叶えてもらえるんだったら、封印を解こうとする人がふえるじゃない?」

「それがいいんだよ」

ホームズは、そう言ってローズを見る。

「おれもレイアに言われて気づいたんだけど、ヨルが取り憑いた人間の霊力野(ゲート)から死ぬまでマナを搾り取ったら、ヨルが殺した事になる」

「なるわね。それが………」

ローズは、途中で言葉を飲み込む。

「そうか。ヨルが殺したから、結局ヨルも死んじゃうんだ」

「そういうこと。ヨルに絶対的な死を位置付けることができるんだよ」

ホームズと同じようにマクスウェルも頷く。

「そう言うことだ。私は万が一、幻を見せる仕掛けを突破されても必ずシャドウもどきが死ぬよう手筈を整えた」

マクスウェルは、そう言って空を見上げる。

「ここを離れれば断殻界(シェル)が維持できない。

だが、それでも短期間なら弱まるだろうが消えはしない」

マクスウェルは、そう言ってヨルを睨む。

「私は、急いでシャドウもどきの元へと言った。そして、シャドウもどきに封印を解くための要件を外したと伝えた」

マクスウェルは、肘掛を握る。

「だが、その時、奴らが断殻界(シェル)を打ち破り、リーゼ・マクシアに侵入した」

「二十年前の…………」

ローズの言葉にマクスウェルは、頷く。

断殻界(シェル)が弱くなった一瞬を突かれた。霊力野(ゲート)のない奴らに分かるはずもない。恐らく偶然じゃろ……」

マクスウェルは、悔しさをかみ殺すように震えていた。

「私は、余計な心配をしてリーゼ・マクシアを危機に晒してしまった。

もうこれ以上、侵入されないよう私はここから離れず、断殻界(シェル)を張り続けた。

そして、入り込んだ奴らを殺すためミュゼを作った」

マクスウェルは、忌々しそうにアルヴィンとホームズを見る。

「だが、奴らは巧みに私の追跡をかわし、潜伏した。

私は、この世界で黒匣(ジン)が使われることを危惧した。

しかし、それ以上に危惧していたのは……」

「この子だろう?」

ホームズは、そう言って掴んでいるヨルを見せる。

「私は恐れた。あの封印の場にエレンピオス人どもが訪れてしまえば、それだけで、奴らに強力な武器を与えてしまう」

エレンピオス人に霊力野(ゲート)はない。

よって、ヨルが取り憑いた人間を殺すことは出来ない。

そして、精霊術を打ち消す力をリーゼ・マクシア人に使うことができる。

精霊術を扱えるリーゼ・マクシア人にこれ以上に厄介な存在は、ない。

「何としてでも始末しておきたかった。シャドウもどきと手を組み、黒匣(ジン)を使いリーゼ・マクシアに牙をむく前に」

「それのどこがミラに繋がるっていうのよ?」

ローズの言葉にマクスウェルは、頷く。

「奴らは、私が死ねば断殻界(シェル)が消えることを知っていた。

そこで、命をエサに奴らと立ち回らせる役目を作り出した」

「命をエサ……ですと?」

ローエンは、思わず息を飲む。

「それで………まさか!」

エリーゼの言葉にマクスウェルは、頷く。

「…………ミラ」

「左様」

「おい、待てよ!それじゃあミラはそれを知らなかったのか!?」

アルヴィンの震える声にマクスウェルは、静かに答える。

「抜かりはない。ミラには、生まれた時からマクスウェルとしての使命を植え付けてきた」

「おいおい、マジかい………」

ホームズは、目の前にいるマクスウェルを信じられなかった。

「ミラがマクスウェルとして立ち回れば、それだけで、アルクノアを呼び寄せる。シャドウもどきを連れていても問題はない」

「………なんで?」

不思議そうなレイアにマクスウェルが告げる。

「シャドウもどきの術喰らいには、僅かな隙がある。主に詠唱中に変化してそれから、喰らい尽くす。だが………」

ホームズは、目を細める。

「『魔技』かい?」

ホームズの質問にマクスウェルが静かに頷く。

「そうだ。詠唱なしで発動する精霊術、魔技は、シャドウもどきにとって大敵」

策のためとはいえ、アグリアの詠唱を飛ばした精霊術でもヨルは、追い詰められていた。

更に言えば、ミラの魔技では、死にかけた。

「ミラは、アルクノアとシャドウもどきを釣り上げるために生み出されたのだ」

マクスウェルから語られる言葉にジュードは、呆然とする。

「つまるところ、おれとミラが出会うのは……」

ホームズは、忌々しそうに口を開く。

「必然、いや運命だったというわけだ」

ホームズ自身予想はついていた。

だが、それでも当の本人から悪びれもせずに語られ、はらわたが煮えくり返っていた。

「それじゃあ………ミラはあなたにとって何だったの!?」

「我が使命のための歯車、そしてシャドウもどきの封印を解いた者も同様だ」

ジュードの心からの叫びにマクスウェルは、淡々と答える。

あまりにも淡々語るマクスウェルにホームズ達はマクスウェルを睨みつけた。

その瞬間、ホームズの身体に切り傷が袈裟懸けに走った。

「ホームズ!!」

ローズの叫びと共にホームズは、マクスウェルの追撃の盾を喰らい宙をまって地面に落ちた。

「取り憑かれている人間さえ、消えてしまえばこちらのものだ」

マクスウェルの盾がゆっくりと戻っていく。

地面に落ちたホームズは、動かないそして手に持っていたヨルは、ふっと息を吹くかのように消えた。

ヨルが消えた。

「アルクノアも一人減り、シャドウもどきも倒せる。まさに一石二鳥というわけだ」

ローズは、その目の前で起こった出来事に息を飲む。

「そんな………ホームズ………」

ローズは、思わず膝をついて動かないホームズを見る。

「ふざけるなぁ!!!」

ジュードは、そのまま走っていきマクスウェルに拳を振るう。

だが、拳は届かない。

マクスウェルは、がむしゃらに拳を振るうジュードを見て忌々しそうに顔を歪める。

「ふん、知ったところでやはりお前たちは変わらない」

マクスウェルは、そう言って自由に動き回る盾で、ジュードを弾き飛ばす。

 

 

 

 

 

「気に入らないものがあれば、感情に身を任せて消し去ろうとするのだ!!」

 

 

 

 

マクスウェルの盾が真っ直ぐにジュード達に襲いかかった。








ヨルの正体です。
説明回なので、何回も見直して、書き直してを繰り返していました。
冥界は、サブイベントで出てくる奴です。




では、また百八十九話で( ´ ▽ ` )ノ

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