1人と1匹   作:takoyaki

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百九十四話です。



ライダーの映画見てきました!熱いですね、夏ですね!
上映中、「怖い」と泣き出す子がいました。
うん、ヒロインが泣いてるだけなんだけどね………



てなわけで、どうぞ


胡蝶の悪夢

「マジか………!」

アルヴィンの言葉にマクスウェルは、頷く。

断殻界(シェル)を解けば、断殻界(シェル)を構成していた膨大なマナで精霊達を守ることができる」

「どれくらいの間だい?」

「数年、いや数十年の猶予は稼げるだろう」

ホームズの質問の回答にジュードは、拳を握る。

「ありがとう、マクスウェル。必ず見つけるよ、リーゼ・マクシアとエレンピオス、両方が生きられる道を」

ジュードの決意に一行は、力強く頷く。

そんな中、ヨルのヒゲがピクリと動く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神に等しいその座から降りようというのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

声のした方を振り返るとガイアスが歩みを進めていた。

「ガイアス……」

ミラが目を険しくする。

ガイアスは、ミラに少しだけ目を向けたあと、一行とマクスウェルの間に入りマクスウェルを睨みつける。

「答えろ、マクスウェル」

問われたマクスウェルは、静かに瞳を閉じる。

「人の心に振り回されるのにいい加減疲れたのだ」

「マクスウェル……」

少しだけ人に歩み寄ったマクスウェルにミラは、表情を柔らかくする。

反対にガイアスの表情は硬いままだ。

「お前がリーゼ・マクシアの神に等しい座から降りるというなら、俺が代わりに座ろう」

静かにだが、力強く語られた信じられない言葉にホームズは、目を丸くする。

「正気……なんです?」

「当然だ」

ガイアスの答えにマクスウェルは、嘲笑を浮かべる。

「お前にそんな資格があると思うのか?」

「資格の有無ではない!覚悟を持った者だけが認められる話だ!」

ガイアスは、目の前で拳を握る。

「お前がやらないのであれば俺がやる」

「その話、私も認めるわけにはいかないな」

ミラは鋭く言い放つ。

何時でも対応できるようミラは、武器を持つ手に力を込める。

「お前達に認めれる筋合いはない!」

ガイアスは、空中を指差す。

その瞬間空間にヒビが入った。

マクスウェルは、眉をひそめる。

「この力は……まさか!」

ヨルの髭がピクリと動く。

「野郎………しつこいな………」

ヒビは、やがて大きく広がり、そこから見覚えのある黒く巨大な物体が現れた。

「クルスニクの槍!!」

あまりに場にそぐわない武器。

そしてクルスニクに槍には、ミュゼが漂っていた。

「……ミュゼが、持ってきたのかい、これ……」

「仕方がなかったのです。だって、マクスウェル(あなた)は導いてくれなかったのですもの」

もうそこには、取り乱した様子はない。

心の支えを取り戻したように静かに語りかける大精霊がいた。

ミュゼは、ゆっくりと辺りを見回しローズを見てからクスリと笑う。

「へぇ。結局、そっちについたの」

「…………?」

ローズは、疲れ切ってぼんやりしつつもミュゼを睨みつける。

「どういうこと?」

「ふふふ。本当に分かってないの?結局、貴方達は、アルクノアとお似合いなのよ」

ローズの顔から血の気が引く。

「ミュゼ!」

ホームズから怒気が飛ぶ。

「その口を閉じたまえ。出来ないんだったら今この場で、おれが縫い付ける」

金色の瞳で睨むホームズに冗談の色は、どこにも無い。

睨まれたミュゼは一瞬たじろぐ。

そんなミュゼにマクスウェルは、言葉を飛ばす。

「ミュゼ、気は確か!?」

マクスウェルの言葉にミュゼは、顔を険しくさせる。

断殻界(シェル)を消すなんて酷い!!」

ミュゼは、そう言うとマクスウェルをクルスニクの槍に向かって突き飛ばす。

突き飛ばされたマクスウェルは、紫色の光にと共にクルスニクの槍に磔にされた。

「私は、断殻界(シェル)を守る使命が大事……大事……大事なの!!」

マクスウェルの拘束は更に増していく。

マクスウェルは、苦しそうに口を開く。

「……離せ!これは命令だ!」

「あなたは、いつも遅すぎる!!」

誰かの命令がなければ不安で仕方ないミュゼにとってマクスウェルなどもう用はない。

ホームズの額を冷や汗が流れ落ちる。

「来い!ミュゼ!」

ガイアスの命令にミュゼは、彼の元に降り立つ。

胸の前で腕を交差させる。

「御心のままに」

交差させていた腕を解くと黒い靄の精霊術がミュゼの胸に現れる。

ガイアスは、迷わずそこに手を入るとそこから長刀を引っ張り出す。

余りにも突然起こった出来事の連続にホームズは、呆気にとられていた。

「ヨル………夢なら覚めて欲しいんだけど」

「悪夢は覚めないのが、お約束だ」

ヨルは、ビリビリと髭を震わせながら、ガイアスとミュゼを睨みつける。

「まさか、次元刀まで引っ張りだしてくるとはな……」

「何だい、それ?」

名前からして嫌な予感しかしない。

「次元を切り裂く事のできる刀だ」

ホームズは、目を見開きその長刀を凝視する。

ガイアスは、その長刀の切っ先をミラ達に向ける。

「ガイアス、お前!」

「そんな……なんで!?」

ミラとジュードの言葉にガイアスは、刀を構える。

「俺は死んでいった者達の為にもエレンピオスに行く!お前達は、リーゼ・マクシアで待っていろ!」

ガイアスは、そう言って次元刀を振る。

振るわれた斬撃は、空間を切り裂き裂け目を作り出す。

「空間を切りやがった!!」

アルヴィンは、その切り裂かれた場所を凝視する。

裂け目は、ジュード達を飲み込もうと引き寄せる。

「うぅー……引っ張られます……」

『頑張れー!エリーゼ!!』

その勢いにエリーゼは、杖で身体を支える。

だが、杖がズレる。

「!!」

その拍子にエリーゼは、態勢を崩し、宙を舞いながら裂け目へと向かっていく。

「エリーゼ!捕まれ!!」

アルヴィンの差し出された腕にエリーゼは、何とかしがみつく。

「戻れ!四大!」

ミラの声に四大は、四色の光の球となって彼女の元に戻った。

「ふぐぐ…………!ローズしっかり捕まっていたまえ」

ホームズに背負われたローズは、何とか力を込める。

そんなローズの目にフードの中に逃げ込んだヨルが入る。

「ヨル、アレは食べれないのかしら?」

「刀で斬った切り株を食えるものか!」

ヨルは、吸い込まれないよう必死にフードにしがみつく。

「まぁ、そのサイズじゃどっちみち無理だよねぇ………」

ホームズの言葉にもうヨルは答えている余裕もない。

ホームズは、ガイアスを睨みつける。

「ガイアス王………あなたは………」

ホームズの言葉に頷きもせず視線で押し返す。

「あぁ。俺はリーゼ・マクシアの王だ。民のためなら何だってやろう」

その瞳に迷いはない。

信念を貫くその強い意志。

だが、それはホームズ達との完全な決別を意味していた。

「ガイアスーーーーー!!」

ホームズは、慟哭と共にガイアスに向かって歩みを進める。

行かせてはならないとホームズの本能が叫んでいる。

だが、裂け目の力が強く進めない。

「このままじゃ!!」

ローズは、辺りを見回すが見渡す限りの空のような世界。

何もない。

時間を止めようにもマナが足りない。

仮に止められたとしても裂け目は、消せないので何の解決にもならない。

するとマクスウェルは、僅かに動き、もう一つ空間の裂け目を作り出した。

その裂け目は、ガイアスが

「マクスウェル!?」

「この者達にマクスウェルの座を渡してはならん!こちらの裂け目をくぐっていけ!」

入りみだれる裂け目の力。ジュード達一行はこらえながら何とかマクスウェルの作った裂け目に近づく。

「みんな!」

「わっーたよ!」

ホームズは、何とか裂け目の元へと歩いていく。

ホームズは、視線を向けず背中にいるローズに話しかける。

「どうするんだい?今ならまだ、ガイアスの所に行けるよ」

ホームズの言葉にローズは、しっかりと首を振る。

「もう、楽な道を選ぶわけにはいかないわ」

ローズの言葉にホームズは、少しだけ笑うとローズを俵担ぎに直す。

「え、あの……」

「よく言った。流石、おれの友人だ」

そう言ってホームズは、マクスウェルの作った裂け目に放り込んだ。

「みんな!早く!」

ホームズの視線の先には、裂け目の引き込む力をくぐり抜けながら迫るミュゼの姿があった。

「わかった!お前も早く来い」

ミラは、そういうと裂け目へと皆を連れ立って飛び込んだ。

「さて、困ったなぁ……」

「『しぼうふらぐ』の説明聞きたいか?」

「聞きたいと思うのかい?」

ホームズは、ヨルの言葉をバッサリ切り捨てると目の前の現状を確認する。

苦しそうなマクスウェルが、裂け目を持続できないと言葉より雄弁に語っていた。

ミュゼの進行を止め、いち早く裂け目に飛び込むしかない。

(現状を確認しよう。

一つ、目的は、裂け目に飛び込むこと。

二つ、その前に迫るミュゼをどうにかしないといけない。

三つ、ただし戦っている余裕はない)

出てきた現状をホームズは、もう一度考えた。

ホームズは、深呼吸をする。

やることは決まった。

「よし!」

そう言ってホームズは、ヨルを投げる構えを取る。

戦闘せずに相手の動きをとめるには、それしかない。

(予想通りね………)

ミュゼは、そうほくそ笑むといつでもヨルをしとめられるよう髪を伸ばす。

(シャドウもどきなら、最悪置いていっても戻ってくる。これ以上の奴なんてないわ)

ホームズが振りかぶった。

(今!)

ミュゼが前に出る。

そんなミュゼの前に橙色に揺らめく炎を灯したジッポーが現れた。

「──────っ!!」

予想外の出来事にミュゼの動きが止まる。

ミュゼの確認をするとヨルは、まだホームズの右手に掴まれたままだ。

ホームズは、ヨルを振りかぶった状態で左手でジッポーを投げたのだ。

炎というおまけ付きで。

誰だってその熱を持つ存在を前にすれば身構える、考えるより先に。

特にヨルが来ると思っていたミュゼは予想外の事にコンマ一秒完全に止まってしまった。

ホームズは、その隙に裂け目に飛び込んだ。

「今のうち!!」

ミュゼは、それに気づくがもうその頃には、裂け目の中にホームズは、飲み込まれていた。

 

 

 

 

 

 

「ペテン師の右手を素直に見るなんてな」

「せめて、手品師にしておくれ」

裂け目にのまれながらもホームズは、考えていた。

ガイアスという支えを手に入れたミュゼ。

今回は、逃げの一択をとったから戦わずに済んだ。

だが、戦ったら?

それを考えるとホームズの背筋は、寒くなる。

 

 

 

 

(きっと、無事では済まない)

 

 

 

長い戦いの果て、彼らは世ノ精途(ウルスカーラ)を後にした。








今回で、この章は終わりです!!
ヨルの正体、ローズの頑張り、膝枕、仲直りと色々盛りだくさんでしたが、書けてよかったです。



次回から新章です!!



ではまた、百九十五話で( ´ ▽ ` )ノ

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