1人と1匹   作:takoyaki

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二話です。
やっぱり大変です。


二度ある事は三度ある(仮)

「グミは持った、ライフボトルもある。ついでに、さっき気まずいおもいをして、手に入れた商品もある」

ホームズは、口に出しながらカバンの中身を確認し、腰にある袋の中身をみた。

「船の金もある」

荷物の確認を終えると、安全靴の靴紐を左手首についている、円盤状のもの物ともせずに結んでいく。結び終えると、カバンを背負い、気合いを入れるように言った。

「よし、準備万端!いくぞ、イル・ファンへ」

「あいよ」

それを合図にヨルはぴょんと、ホームズの肩に飛び乗った。最後にホームズは、カラハ・シャールを向き、挨拶をした。

「いってきます」

 

こうして、彼らはカラハ・シャールを後にした。いつものように、逃げるようにではなく、前に進むように。

 

 

♢♢♢♢♢

 

 

ただいま、サマンガン街道。カラハ・シャールを出た一人と一匹はてくてくと歩いていた。まあ、一匹の方は歩くというより、乗るという感じだが。

空は透き通るように青く、太陽は真っ白に輝く。そんな爽やかな街道を…

「はぁ…船旅なんて嫌だなぁ、テンション上がんないなぁ、下がるなぁ」

うっとおしい文句を言いながらホームズは、歩いていた。

「何で海なんてあるんだろう、何で船なんてあるんだろう、何でイル・ファンなんてあるんだろう」

もう、本当にうっとおしい文句を垂れながら歩いていた。それを肩でずっと聞いているヨルは、たまったもんじゃない。

「オイ…いい加減にしろよ。何の為に気合いを入れたんだよ」

「母さんの教えの一つ旅立ち編、『いってきますと気合いをいれることを忘れるな。』だからね」

「だったら、その気合を最後までキープしろよ。ものの3分でテンション下がりやがって、ずっと聞いてるこっちはいい迷惑だ」

「船酔いすることが分かってるのに、テンション上がるわけないだろう!君は船酔いしないから知らないだろうね、あの気持ち悪さ、そして、自分が苦しんでいるというのに周りの連中は『きゃあ、海だ!』とか言ってテンション上がっている時のあの腹立たしさ。何が『きゃあ、海だ』だよ。こっちとら膿みたいな気持ちの悪いもん口から出して苦しんでいるんだよ」

「後半ただの僻みじゃねーか」

「まあ、腹立たしいから、そういうテンションの奴らの前で吐いてるんだけど」

「最悪だな。毎度毎度どうして人前で吐いてるか不思議だったが、そういうことだったのか。気い使って離れたところでやれよ」

「俺と同じ苦しみを味わうがいい。具体的に言うともらいゲ○すればいい」

「ほんと最悪だな。たちの悪いことこの上ないぞ」

「君にだけは言われたくない!」

まあ、ホームズが船酔いで苦しんでいる時ヨルはというと、わざわざホームズの肩の上で飯を食べているのだからこいつも相当たちが悪い。

「はぁー、ヤダなー、船でイル・ファンなんて、行きたくないなぁ」

「だったら、道でばったりジュード・マティスに出会うのを祈ることだな」

「そう世の中上手くいったら、苦労しないよ」

ホームズは肩を竦めながらいった。

ヨルは、ピクリと耳を動かして止まった。

「どうしたのさ、突然黙って。金の落ちる音でも聞こえたかい?」

「黙って聞いてろ」

すると向かい側から話声が聞こえて来た。

 

「しっかし、まあ、よくあのタイミングでケムリダケを使おうと思ったね。たいしたもんだよ、優等生」

大柄な男がそういうと、優等生と呼ばれた少年は少し照れたように返した。

「僕も、ここまで上手くいくとは思わなかったよ」

そして、少し表情を引き締めて、でも、と続けた。

「とりあえず、街に着くまでは油断出来ないね。まあ、街に着いても、安心出来るかといと、微妙だけど…」

この言葉を聞くと、うむ、とうなずき金髪の女性は言った。

「確かにその通りだ、ジュード。我々は追われる身、というやつだからな」

「ああ、うん。まあね……」

少し辛そうにジュードは返した。

 

 

 

ホームズは心底驚いた。なにせ、手掛かりの手掛かりが目の前にいるのだ。

そんなホームズの様子をたのしそうに眺めながら、ヨルは言った。

「なあ、どうやら苦労せずにすみそうだぞ」

「本当に今回は君が喋るたびになにか起こるな」

その言葉に、ニヤリと顔を歪ませながら言った。

「だから言ってるだろう。『猫も喋れば』というやつだ。ついでに言えば、『二度あることは三度ある』というやつもある。今度もお前に幸福を届けてやろう」

「きゃあ、かっこいい。せいぜい、期待せずにまってるよ」

「ほらどうする?奴らが何処かへ行くの指くわえてみてるつもりか?」

「馬鹿言え。すぐに話を聞きに行くよ」

そう言って、ホームズは隠れていたところからヨルを連れて出て行った。少し、昔のことを思い出しながら。

 

ホームズの母は、あっちこっちふらふらしている、行商人の割には成功していた。昔、その理由をホームズはきいたことがあった。ちょうど、その様な大人の事情というのを理解し始め、そして、それに得意になっている頃だ。簡単に言えば、背伸びしている生意気なガキ、というやつだ。ホームズとしては、努力とかそんな答えを予想していたのだが、返って来た答えは少し違うものだった。

「上手く進み過ぎていないか、いい事ばかりおき過ぎていないか、そういことに気を付けることだね」

その時ホームズは何でと聞いた。いい事ばかり続くならそれに越したことはないだろうと。そんなホームズに母は諭すように言った。

「いいかい、よ〜くお聞き。努力しても上手くいくことのほうが少ないんだ。それなのに、いい事ばかり続くというのは不自然なんだ。……まあ、そうは言っても、努力して上手くいっている場合はいい。もっとたちの悪いのは、努力してないのに上手く行きすぎること、いい事ばかり続くことだよ」

その頃のホームズは疑問に思った。努力という苦しいことをしないで上手くいって、いい事ばかり続くのはどう考えても得じゃないか、何故それを悪いことのようにいうのだろう?と。母は、当然の疑問だね、と言って続けた。

「努力したって上手く行くことのほうが少ない。なのに、努力せずともいいことばかりが続く、上手くいく、これはとっても不自然なことなんだ。そして、不自然なことというのはいつか自然なことに負けてしまうんだよ」

そう言って最後はホームズの頭を撫でた。

 

 

「上手く行きすぎる、ね……」

回想から戻ったホームズは呟いた。

「どうした?」

「ああ、そうか、この時は君腹壊していなかったね」

「どうでもいいことばかり覚えやがって、まったく。」

「まあ、まずは話しかけないと…、ちょっとそこのご一行」

突然話しかけられたジュード達はびっくりして止まった。黒髪でつり目の少年にホームズは言った。

「ジュード・マティスだよね」

全員に緊張が走る。皆各々の武器に手をかけた。

「おっと、待ってね。何も憲兵に突き出そうというわけじゃない。落ち着いて、冷静に」

「なら、何が目的だ」

金髪の女性は警戒しながら言った。

「いくつか、そこの少年に聞きたいことがあるんだ」

ホームズは、ジュードを指でさした。

すると、大柄な男は少し面白そうに笑って言った。

「おたくも、人の事『少年』なんていえないだろう?」

ホームズは少しムッとして、

「おれは、これでも18だよ。大人に見えないだろうけど、少なくとも、少年って歳でもない」

と言った。

ジュードはアルヴィン、とたしなめてから言葉を続けた。

「それで僕に聞きたいことって?」

ホームズは、ジュードに向き直ると言った。

「『ディラック・ギタ・マティス』と言うのは、君の父親かい?」

「そうだよ」

ビンゴだ。ホームズは内心大喜びだった。しかし、必要な情報はそれだけではない。今どこにいるか、それも、いや、それを聞かなくてはならない。ジュードに尋ねた。

「僕の実家のル・ロンドにいるよ」

「サンキュー」

そう言ってホームズは、右手をジュードに差し出した。ジュードは、一瞬分からなかったが、握手を求めていると気付くとそれに、こたえるように右手を出し、握手をした。

「今度は、僕の方から聞いていい?」

断わる理由もないので、ホームズはどうぞ言った。

「どうして、父さんのことを聞くの?」

「おれの両親の故郷について知っていそうだからね」

「ふぅーん。なんだか分からないけど頑張って」

「おう、またね」

そう言ってホームズは港に向かおうした。しかし、アルヴィンと呼ばれていた男に止められてしまう。

「おたくが憲兵に言わないなんて保障がどこにある?」

「信用してくれないかい?」

「ちょっと難しいな」

なら、とさらさらと紙に何か書いて渡した。

「シャール家への紹介状だよ。おれの名前が書いてある。君達が、何をやらかして追われているかは知らないが、シャール家なら話を聞いてくれると思うよ」

「なぜ?」

「今の王様に余り、いい感情を持ってないからね。見たこと全部話してみたら?」

それを隣で聞いたジュードは目を丸くさせて言った。

「知ってるの?!」

「いや、カマかけただけなんだど…。どうやら当たりみたいだね」

「優等生、少しは気を付けようぜ」

「う、ごめん」

今度はアルヴィンにジュードがたしなめられてしまった。

「さて、これで満足かい?ならそろそろ行きたいんだけど……」

そう言って行こうとした時、ぬいぐるみをもった髪の毛の長い女の子が話しかけてきた。

「あの………ねこ、さわっても、いい………ですか?」

「猫?ああ、こいつの事ね。いいよ。はい、どうぞ」

ホームズはヨルを女の子の前に降ろして言った。ヨルは少し不機嫌そうだったが。もともと、ヨルは可愛がられるのが好きではないのだ。

「あの………名前は?」

「ヨルだよ」

それを聞くと嬉しそうにヨルに話しかけた。

「えっ…と始めまして。エリーゼって言います」

微笑ましいな、なんて思いながら、ヨルに対しては、ざまみろと思いながら眺めていた。

 

『僕はティポだよー。ヨロシクねー、ヨル君ー』

 

ぬいぐるみまで話しかけ始めた。

 

さすがにこれには驚いた。

滅多なことでは驚かないヨルでさえ驚いたようだ。驚くだけなら良かったのだが、

「うお、ぬいぐるみが喋った!!」

『ぎゃあ、猫が喋った!!』

喋っちゃいました。しっかりと。他の連中も驚いたようだった。

一番最初に口を開いたのは、ジュードだった。

「えっ…と、それ魔物?」

すると心外だとばかりに、ヨルは答えた。

「失礼な奴だな。どちらかというと、俺は精霊に近い」

「…精霊……なん…ですか」

「あくまで、近いってだけだ。精霊ではない。まあ、そうは言ってもお前ら人間よりはずっと有能だ、敬意を払えよ。」

『なんか、偉そう〜。可愛くな〜い』

「お前にだけは言われたくない」

そんな会話をしていた時だった、

 

金髪の女性が、

ヨルに対して、剣を振るったのは。

一瞬のことだったので周りの連中は誰も対応できなかった。

唯一ヨルだけは反応し、すぐさま、ホームズの肩に避難し、そして、金髪の女性に言った。

「オイオイ、俺は敬意を払えと言ったんだ。剣を振るえと言った覚えはないぞ」

「ふざけた事を言うな、シャドウもどき」

その言葉にヨルは怒りをあらわにした。

「オイ、その名で呼ぶな女、切り裂かれたいのか」

ようやく我に返ったジュードは尋ねた。

「ミラ、どうしたの?!」

「武器を取れジュード、アルヴィンとエリーゼもだ」

そう言って剣を向けて言った。

「こいつは昔、闇の大精霊シャドウと同等の力を持って生まれ、そして、リーゼマクシア人の霊力野からマナを搾り取っていった、化物と言われる奴だ」

ジュードは目を見開きながらヨルを見た。信じられないのだ。目の前にいる、どこにでもいる様な黒猫がそんなことしていたなんて。

「たくさんの人間達が衰弱し、そして、死んでいった」

「何で、そんなことを……」

ミラの話を聞いていた、ジュードはヨルに尋ねた。

ヨルは当然の様に、馬鹿にする様に言った

 

 

「エサを食うのに遠慮するやつがどこにいる?」

 

 

息を飲んだ。この、人を人として見ていない、しかもそれが、さも当たり前の様に答えるところに皆が寒気を覚えた。まあ、ホームズはそんな事、とっくに知っているので驚かないが。

「だから、封印したんだマクスウェル率いる大精霊達で。もうそんなことが起きない様に。なのに、なのに、何故ここにいる!」

「封印を解いたからだよ。そこのたれ目の男がな」

そう言ってヨルは、尻尾でホームズを指し示した。

皆の注目が集まってしまい、バツが悪そうに頭をかきながらいった。

「えっ…と、まあそいつの言う通りです」

「私達は制約をつけてまで封印をしたのだが、それがアダとなったようだな」

「どういうことだ」

今度はアルヴィンが口を挟んだ。

「制限をつけてある一定条件下で最強と言える封印を施したのだ」

「どんな条件だったの?」

「簡単なことだ、ジュード。要石というものがあったのだが、そこに触れた人間の願いを叶え、そして、その代価として、その人間の霊力野からマナを奪い続けるというものだ。もし、願いを叶えられなければ、封印は解けないし、そもそも人が来ないと解けない。そして、人が近づかないように細工を色々したのだ」

嘲るように、ヨルは

「全部、徒労に終わったってことだ。ざまあみろ」

とミラ達に言った。

ジュードはこめかみに、指を当てながらヨルに言った。

「一体、いつから取り憑いていたの?そして、どれだけマナを奪いとったの?」

「こいつがガキの頃から。マナは、いまいましい事にこいつに騙されたせいで、手に入れられてない」

「騙すなんて人聞きの悪い…。おれは嘘は言ってないだろう?」

ホームズに霊力野(ゲート)はない。厳密に言えば、マナが作り出せないだけなのだが…。

マクスウェル達が掛けた制限のせいで、ヨルは取り憑いた人間に対しては霊力野(ゲート)からしか、マナは、奪い取れない。けれども、ホームズはその霊力野は退化している。だから、ホームズは無事だったのだ。

「どうやって、騙したの?」

ジュードは聞いた。

「だから、騙したんじゃないって。ただ、本当の事を言わなかったら、こいつが勝手に勘違いしただけだって」

「本当の事って何?」

「それは、内緒。」

ホームズは人差し指を口元に持って来て言った。

「男は、秘密があった方が魅力的だからね」

 

ジュードからも女性陣からも冷たい目でみられた。

 

 

そんな中ホームズは涙を我慢して考える。おかしな所はない。ヨルから聞いていた事とまったく同じだった。

だからこそ、疑問に思った。何故知っているんだ?

ヨルは言っていた。自分は秘密の存在だと。

ホームズの疑問にミラは、答えた。

「私がマクスウェル、ミラ・マクスウェルだからだ」

そして、と続ける、いや、宣言する。

「人と精霊にあだなすものを破壊する。シャドウもどき!貴様は私が破壊する」

その凛とした様を見ていたジュード達は、武器を構えてミラの隣に並び立った。

「僕も手伝うよ。その為についてきたんだ」

「ま、俺は雇われの身だからな。雇い主の意向には従うさ」

「人を……エサとしか見てないあなたを許しません」

『くたばれーー!コノヤロウ!』

 

その様子をホームズは眺めていた。

「自分で蒔いた種だ、自分でどうにかしなよ」

「随分と釣れない事をいうじゃないか。そんなお前にいい事を教えてやろう」

「何を?」

「お前が殺されると俺は死ぬ。だから、戦いの時は手を貸してきた」

「そうだね、そう言ってたね」

ヨルは、ニヤリと笑い、続けた。

 

「逆もあると思わないか?」

 

一瞬、ホームズの思考が止まった。本当にそうだとしたら、ヨルが殺されるとホームズも死ぬことになる。しかし、仮に嘘だったとしても、それを確かめる術がホームズにはないのである。とはいえ、先程ミラの言っていたことを考えると、あながち嘘ではなさそうだ。制限をつけたと言った。それがあるということは、どちらかにだけ都合のいい話というものがあるということはあり得ないのだ。つまり、ヨルに施された封印はギブアンドテイクが必要なものと考えれば納得がいく。

「…あり得るね」

ホームズの参戦も決まった。

邪魔にならない様カバンを地面におき、彼らの方に向き直った。

「やはり、来るか…」

ミラは言った。

「そりゃ…ね。おれだって死にたくないし」

はあ、とため息をついてヨルの方を向いた。

「何が、二度あることは三度あるだよ…三度目がこれじゃ世話ないわ、まったく」

 

こうして、不本意ながらヨルだけでなく、ホームズの戦いの火蓋も切って落とされたのだ。

 

 

 

 

 

不自然なことが自然なことに負けるとどうなるの?

 

「不自然に続いてきたいい事や、うまい事が終わっちゃうんだよ」

 

それだけ?

 

「いいや、手痛いしっぺ返しがくるんだよ。だから君も、気を付けな」

 

 

 

(しっぺ程度で、済めばいいけどなぁ……)

 

 

 

 

 




合流じゃなくて対決!
どうなる事やら……


オリキャラ紹介は書き上げた時にでも

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